オメガ&ルビー~マグマ団カガリ隊に配属された件~ 作:れべるあっぷ
アジト内に警報が鳴り響く。
マグマ団とアクア団の抗争は佳境に入った。
と言ってもマグマ団が劣勢なのが現状。マグマ団トップ3が既にリタイアという事実、敗走をする者も早々にいた。
ただし逃げ場はなかった。
ワープパネルが裏切り者たちの手によって操作されているのだ。
逃げ場などあるはずもなかった。
もちろん、まだ闘志を燃やして迎撃を試みる者もいた。
しかし、いかせん敵の数が多い。
質より量だ。
ゴリ押しされ何もできずにやられていく者が大半だった。
ポケモンは倒され敗北しても尚、嬲られていく。
彼らアクア団の届かない怒りがそうさせたのだ。
「例のガキはどこだ!さがせ、どこかにいるはずだ!!」
しかし少年を捜したどり着けなければ怒りをぶつけられない。
なら、必然的に行き場を失った怒り、憎しみの矢先はマグマ団に向かった。
そして、アジトに乗り込んだジムリーダーのアスナとツツジペアは狂気に戦慄した。
「おいそこのお前、もうやめろ!そいつは負けただろ!!もう十分だろ!!」
「あなた方の怒りをぶつけるべき本当の相手は他にいるのでは?」
「だからその例のクソガキが見つからないから他の奴で我慢してんだろうが!!」
「「………」」
アクア団の男は吼えた。
「例のガキを誘拐して酷い目にあわせたのは俺の恋人じゃなかった!でも例のガキは連帯責任アクア団は皆平等に駆逐していった!当然だ!本来ならアクア団は許されないことをしたんだ!土下座しても許されないことをしでかしたんだ!皆平等に制裁されたって仕方がねーんだ!誘拐した張本人はもっと重い罰を受けるべきなんだ!!でも、そうじゃねーだろ!そんなことはわかってるんだよ!!ヒトの感情ってのはそんな単純なもんじゃねーだろう!こっちは恋人がやられたんだぜ?本当に海のポケモンたちを守るためにアイツはアクア団に入ったんだ…なのに、初任務の行き先は戦場だった!!例のガキに嬲られて悪夢を見せられたそうだな!!体も心もボロボロになって病院送りにされて、目を覚ましたアイツは発狂して泣いて謝ってきた!!何がごめんなさいだ!!何にも悪い事をしていないアイツがなんで謝らなければいけないんだよ!!何で自殺寸前まで追い込まれなければならないんだよ!!アイツが例のガキに何をしたってんだよ!!」
「ツツジ、こいつは……」
「えぇ、わかってます……」
彼女達は気づいただろうか。
アクア団の中に一般人も混ざっていることも。
アクア団の恋人を持つ男。
アクア団の友人を持つ女。
アクア団に家族がいる父親。
アクア団に親がいる息子。
そして、アイドル兼アクア団幹部であったルチアのファン。
今日というXデーに募集をかけられ新たに団員となった者達。
「だから、俺達も例のガキと同じ事をしてやるよ!!それともあんた達ジムリーダーが俺達の目の前に連れてきてくれるのか!!俺達の手で制裁下してくれるって約束できるのか!!約束できるのなら俺達はマグマ団への攻撃をやめてココで待ってやるよ!!」
「あの方の居場所は我々も……」
どこにワープしようとも戦場に少年はいない。
否、彼が通った痕跡はいくつかあった。
それはアクア団のみが全滅した数少ないエリアだ。そこでは、一時休戦していたマグマ団の対処をしていたジムリーダー達ではあったが……
「だから期待できねーんだよ!あぁ、知ってるぜあんた達の事……例のガキにジム戦で負けた負け犬だってことな!ははっ、そりゃ期待できねーぜ!!そもそもジムリーダー……いや、ポケモン協会の連中には何も期待していねーんだよ!!あんた達が本当に有能だったら俺達の大切な人たちが犠牲になる前に例の少年を止めてくれたはずだ!!でも、今日までできなかった!!何も対処できなかった!!昨日のあの動画も先日のアイドルのニュースも全て、あんた達が早々に止めていたら起きなかった事件だ!!でも、できなかった!!あのチャンピオンでさえ駄目だった!!もう誰に頼っていいのかわからねぇ!!だったら最後は俺達自身でテメーの手でやるしかないんだよ!!いや、初めから俺達で動けばよかったんだ!!でも例のガキが見つけれない俺達の怒りはどこにぶつければいいんだよ!!」
少年が仕出かしたことが仲間達を窮地に追いやる。
これがアクア団の真の目的かもしれない。
少年は強い。
今回の戦争も生き延びるだろう。
もしかしたら形勢逆転してたった1人でアクア団を返り討ちにするのかもしれない。
しかし他のマグマ団はどうだ?
満身創痍に必要以上に痛めつけられ生死の境を彷徨うかもしれない。
もしかしたら今回の戦争で本物の死者が出てもおかしくない。
おそらく、マグマ団が勝っても負けても生き残っても……堪忍袋の緒が切れても何もおかしくない。
咎められ非難され見限られてもおかしくない。
それほどまでに、少年はやり過ぎたのだ。
たとえカガリ隊の者たちでさえ。
少年の命を拾って弟のように可愛がっていた幹部・カガリ本人はどうだろうか……
「だからジムリーダーさん達よぉ、今更でしゃばってくんじゃねーよぉ……俺達の邪魔をしてくれるんじゃねーよぉおおお!!」
もう……どこにも、少しでも痛みを和らげる方法など無いのかもしれない。
「あなた方の言い分も痛いほど分かります。ですが、それはできません!!」
「悪いけどこっちにも引き下がれない理由があるんだわ。いけっ、コータス!!しろいきり!!」
しかし彼らを止めなければ。
少年を早く見つけ出さなければ……
早くこの戦争を終わらせることが答えなのかもしれない。
ツツジとアスナはなるべく彼らを傷付けないように鎮圧に取り掛かった。
彼らの怒りが、憎しみが、悲しみを全て受け止める。
彼らを鎮圧し拘束はしておく。怪我人の手当てはできないが、なるべく安静に心掛けて……
「ちくしょう……ちくしょう………」
男が泣いていた。
ジムリーダーを実質無能呼ばわりしてきた男だ。
見かねたツツジは彼の前でしゃがみ込み……
「あなた方の気持ちはもっともです。わたくしもあの方のやったことは許せませんし、怒りさえ覚えます」
「おい。ツツジ、何言って……」
「ですから、ここで約束させてください。必ず、あなた方の前にオメガさんを連れてきます。今は時間が惜しいので、ですから続きのお話しはそこでしましょう」
「え……」
「おいホント何言い出すんだツツジ!?」
ツツジは皆まで言わなかった。
彼らの前に連れて謝罪させるとも言わなかった。犠牲になった恋人たちに謝罪させるとも言わなかった。気が済むまで殴っていいとも言わなかった。少年を社会に貢献できる立派な人間に更正させるとも言わなかった。
何が正解なのかわかない。どれだけ償っても怒りが収まらない人もいるだろう。
ただ、ちゃんとその怒りは少年にぶつけるべきだと思った。
今はこれでいい。早くこの悪趣味なゲームを終わらせることが優先なのだから。
ツツジはアスナと共に次のフロアへワープした。
現在位置は隅に自動販売機を設けた休憩場があるフロアだ。
「アスナさん、少し急いだ方がいいそうですわね……」
「アクア団の奴等、本気でオメガを殺る気かよ!!?」
2人は休憩場に設けられたモニターを見上げ息を飲んだ。
本当に急いだ方がよさそうだ。
いくら少年がチートであろうと人は皆平等に死は訪れる。
そして、それは誰もが望んでいた光景なのかもしれない。
復讐の連鎖が止まらないアクア団も、問題児に手を焼いたマグマ団達でさえ望んだ展開なのかもしれない。
これは少年をぶっ殺すゲームだ。
早くゲームを終わらせたいのなら少年をぶっ殺せばいいだけの話しだった。
「オメガ、アタシらが駆けつけるまで絶対くたばるなよ…………ッ!!」
「オメガさん、どんなことがあっても絶対に負けないください!!行きますわよ、アスナさん!!」
「あぁっ!!」
モニター越しには少年が映像に映し出されていた。
ただし水槽の中、頬に傷がるサングラスかけたヤンキーマリルがニヒルに笑い少年を底へと引き摺りこんでいる絶望の映像だった。
『水殺』
それはアクア団らしい作戦だった。
それが誰もが待ちに望んだ少年への制裁なのかもしれない。
ただ、絶賛LIVE中継中の動画配信だということは彼らは知らない。
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バッジは8つ集めた。
あの黒い装置にハメ込みゲートが開く。
さて……
あのイカレ糞野郎は毒殺ではオレを殺せなかった。
撲殺でもオレは生きていた。
今回はどうだ?
アクア団のモブたちが出迎えてくれる中、ワープパネルがどこに飛ばされるかわかない迷宮と化したアジトにて刺殺、絞殺、噛殺、圧殺、爆殺のオンパレード。
幾度となく殺されかけた。
ドガース、マタドガスの自爆は流石にダメージをもらった。
血を流しすぎた。
しかし、まだ生きている。
次のエリアは細長い通路だった。
仕方なく前進するしかなかった。
ヤミカラスとガバイトを進路先に睨みを利かせ唸っていた。
こんな狭い通路が戦場になるのかとうんざりしたが、すぐに回れ右して撤退した。
「うわー!!津波がくるぞーーー!!撤退だお前らーーーー!!」
「アホー!?アホー!!」
「ギャバン!?」
敵がこんな狭い通路でなみのりしてきやがった。
振り返れば柄の悪そうなマリルがサーフィンしながら迫ってくる。
さすがに分が悪い。
オレたちはワープパネルに踏み入れ来たフロアへ引き返した。
「「「ごぼぼっ……!?」」」
否、引き返したつもりだった。
水……!?
別フロアは水槽の中だった。
あの実験室だ。
今の一瞬でワープパネルを切り替えたようだ。
ガラス張りの向うには制御室がある。やはりアクア団の奴らがいた。
天井までの高さにして10mmほどだったか……ここなら天井まで水位を上げることも可能だ。
アクア団に相応しい作戦だ。これは本命なのかもしれない。
ガバイトは泳げないのか……もがき苦しんでいたのでモンターボールに戻してやった。
ヤミカラスは天井を目指して浮上した。海鳥のように水中を泳いでいく。どうやらギリギリ顔を出すくらいのスペースがあるみたいだ。
オレもヤミカラスの後に続く。
ゲラゲラ笑うアクア団共の顔を覚えながら……
『やっほーオメガきゅーん!おねーさんのこと覚えているかな~?きゃはは』
「………」
イカレ糞野郎の隣にいつもいる女だ。
オレを誘拐して頭を踏みにじって笑っていた女だ。
名前はあるる。
確か、こいつも元マグマ団の女だ……!??
『きゃははっ、余所見は駄目よオメガきゅーん。やっちゃえ~マリルちゃん。アクアジェット~~~』
「りるっ」
「ごばぁ!??」
柄の悪いサングラスをかけたヤンキーマリルの一撃でオレの肺から空気が洩れる。
『きゃははっ、やっぱり水中で溺れもがき苦しむ男の子って萌えるよね~』
オレの右脚が掴まれた。
そして、水槽と化した底に引き摺りこまれた。
水面からどんどん遠ざかっていく。
コイツをどうにかしないと息ができない。
水中では呼吸ができない。
人間なのだから。
そこがポケモンと人間の違いなのだから。
それが人間の限界なのだから。
しかしだ……
呼吸ができなかったとしてアクア団の料理方法など幾らでもある。
「生意気だなお前」
「りるっ」
ニヒルに笑うマリルをオレもニヒルに笑い返してやった。
さぁ、反撃といこうか。