オメガ&ルビー~マグマ団カガリ隊に配属された件~ 作:れべるあっぷ
吐血した。
少年オメガは真夜中のチャンピオンロードにて吐血した。
「ゴホッ、ゴホッ……くそっ」
「ギャウ!?」
「あぁ、大丈夫だ。いつものことだから気にすんな」
「アホーッ!!」
「ギャ、ギャウ……」
「………」
遭遇した野生ポケモンに心配されるほど盛大に血反吐を吐いた。アホカラスは野生の彼を見習いなさいと言いたい所ではあるがな。
バッジ8つを所持しているトレーナーならチャンピオンロードにごろごろいるだろうという目論みは外れ、予想外の珍客と今まさに野生のガバイトと死闘を繰り広げている。
というか、オメガが一方的に吐血して苦しんでいるだけだ。
薬の効果が予想よりも早く切れたのが原因である。
安静にしていればいいのに、彼にはそれができない理由があった。
「ぐっ、ゴホッゴホッ、な、なんでトレーナーが1人もいねーんだよ!この世界は軟弱者ばっかりか!!修行している奴さえいねー!?もう二時間ぐらい徘徊しているというのに誰もいないとか絶望した!!」
「アホーッ!!」
「………」
1つ言っておくが……
こんな時間に洞窟内を徘徊する者など、よほどの変態のみだけだ。
―――――PM11:30――――――
ゲームの知識に頼った少年オメガの大誤算である。
「クソッタレが!!もうヤケだ!!誰かと遭遇するまでオレはここから出るつもりは毛頭さらさらねーからな!!ガバイト!!お前をゲットしてレベラゲにして最強にしてやるからな!!ヤミカラス、気絶する程度にやっちまいなさい!!」
「アホー!!アホー!!」
「ギャ………ッ!?」
少年オメガは荒れていた。
哀れ狂気に満ちた彼に戦慄するガバイトである。
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2時間ほど前に遡り――――――
場面は変わってキンセツシティのキンセツマンション屋上。
ジムリーダーのテッセンはマグマ団の少女・ヒガナの足止めをくらっていた。
シガナと呼ばれるゴニョニョはレントラーと互角の戦いを繰り広げていた。
否、レントラーの方がやや劣勢か。敵さんは余裕があるように思われる。
電気タイプのエキスパートと自負していたが、こうもプライドに触るとはあの小娘、なかなか喰えない奴よのぉとテッセンは渋い顔を見せていた。
「くっくっくっくっくっ……」
「何がおかしいのじゃ……?」
否、喰えない小娘なんて生易しいものじゃない。
不気味な小娘でしかなかった。
あのウサギと呼ばれる小娘も大概心の闇を抱えてそうじゃったが、ヒガナという小娘も危険度MAXじゃとテッセンは心の中で悪態をつく。
「くっくっく、おかしいも何も敵が提示してきたルールはバッジ8つが必要だったよね。それでオメガくんが考えた作戦はまさかジム戦じゃなく一般人トレーナーから強奪する方法だって、これを笑われずに何を笑うっていうんだい?彼、見ていて飽きないよねぇ。ジムリーダーさん、あなたもそう思うでしょ?」
「見ていてハラハラするし、今回は笑い事じゃ済まないわい!!そもそもおぬしらマグマ団が煽るようなことするから、小童は簡単にヒトの道を踏み外していったんじゃろが!!」
「うわー、それはないわー。だったら、あなた方がちゃんと彼の暴走をくい止めれば何も問題なかったはずだよね?でも、止めれなかった。無力だったから。無能だったから。何も対処できなかったから。だから、こんな足止めもくらっている。それで、私たちに当たるんですか?そういうことなんですかー?まー、でも、なかなか的を得ている事言ってるよ!よかったね、テッセンさん!!」
「………」
「じゃあ、少しだけネタバレってことで!じゃあ、なに?オメガきゅんがヒトの道を外したっていうのは偶然じゃなく必然的で、逆に言えばオメガきゅんが悪の道へ踏み込ませた悪い奴がいるってことだね!!本物の悪者がいるってことだよね!!この世界は素晴らしくも残酷この上ないけど、ここまで私がべらべら喋っているのに、本当にクズキリαみたなカスが悪の根源だと思ってるの?だったらちゃんちゃらおかしい話しだよね!!だからオメガくんは余計に荒れている。薄々は勘付いてるんじゃない?彼、妙に勘がいいから。だから認めたくなくて荒れているフリをしているかもね。そう想像したらまた傑作だよね!!」
「何が言いたいのじゃ………ッ!?いや、まさかッ!!」
テッセンは小娘の言葉で全て悟った。
ジムリーダー+チャンピオンが集まった緊急集会でのやり取りを思い出した。
四天王カゲツの部隊は1人のドラゴン使いのマグマ団にコテンパにされたという。任務内容はマグマ団オメガの調査だった。それを阻止するために立ちふさがった者が目の前にいたとすれば……
少年オメガを表の連中と切り離し、どんどん裏社会の泥沼に引きずりこんでいった黒幕がいるとすれば……
この一連の計画も全てが―――――――ッ!?
「あっはっはっは!タイムリミーット!!残りの謎解きはバトルの後でお願いしまーっす!!ジムリーダーのテッセンさん!!」
「にょにょ~い!!」
しかし、シガナはフェイクだ。
「いやん、本命はこっちだよ!!メガボーマンダ!!捨て身タックル!!」
「グォォォオオオオオオオオオオ!!」
「「ッ!?」」
天からの一撃。
伏兵を配置しておくのは戦の基本だよね、と小娘は笑う。
いくら電気タイプのエキスパートだとしても小娘とは年期が違う。
彼らは抗うことすら愚かであった。
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日付は変わった。
午前9時のキンセツ病院。
テッセンはココの病室に運び込まれた。
世間では大きなニュースとして取り上げられた。
犯人は大きな竜を使役していたこともあってマグマ団のオメガが名を挙げられた。
もちろんオメガにしては不名誉この上ないがな。ただ、チャンピオンロードでまだ徘徊しているオメガが知る由もない。
それにすぐに真犯人は別にいると訂正されるだろう。
テッセンの口から訂正されるだろう。
マグマ団の構成員とだけを告げるだろう。
テッセンもまた甘い。
しかしテッセンは無事だった。
怪我は打撲と以外と軽症。ただご老体には応えただろう。
昨晩のマグマ団との抗戦、メガボーマンダの一撃で余波でご老体が派手に転がり樹木に背中をぶつけて気絶する不運に見舞われたのだ。
同じマンションに住んでいた者がいち早く駆けつけてくれたから大事にはいたらなかったのかもしれない。
マグマ団の構成員はそれ以上の追撃をせず立ち去ったという証言である。
ただ、メガボーマンダの一撃をでレントラーは重症、今もポケモンセンターで治療にあたっている。
「わしゃしゃっ、ワシもレントラーもなんとか生きておったわい!」
「じーさん、笑い事じゃねーよ。こっちの寿命が縮んだじゃん!!」
「そうですわよ。わたくしの涙を返してください!!無事で何よりですが!!」
そう窘めるのはアスナとツツジ。
彼女らジムリーダーは彼に緊急招集されてやってきたわけだが……
召集されずとも早々お見舞いにやってきていただろう。
昨日はチャンピオン・ダイゴのお見舞いと今日で立て続けだからか馴れたものである。
昨日と似たようなやり取りが繰り広げられる。
「1……2……テッセンさん……3……4……無事でよかった……でも……5……老体だからって……6……ジムリーダーなんだから……7……もう少し筋肉つけ……8……運動するべきだ……9……いざという時……10……俊敏に動けなくては駄目だぜ……ふぅ……今回みたいな出来事があればなおさらだ」
「あのう、隣の人が昨日と同じく暑苦しいのですが……」
病室だというのにスクワットをしている筋肉、筋肉言っている彼もそうだ。
その隣に立つナギはアスナと場所をチェンジしろと目で合図しているがスルーされた。
「またあの子絡みですね。センリの心中をお察しいたします………」
「って、こわっ!?ナギさんがまた白目剝いてるぞ!?」
「お前が暑苦しいからだよ……」ぼそっ
「うっせ、聞こえてんぞ温泉女!」
「もう2人共……ここは病室ですわよ。それにしてもオメガさんも心配ですけど、センリさんも心配ですわね。奥様には内緒で来られると仰ってられましたが……」
「じゃが、目をそむけ続けるワケにはもういかん。腹をくくるしかないんじゃ。事は一刻も争う事態かじゃからのう」
まだここに到着していないのは、ルネのミクリ、トクサネのフウとラン、そしてトウカのセンリであった。
「ミクリさん、早く早く!!」
「ミクリさん、もう皆着てますよ!!走ってください!!」
「やれやれ、病室は走ってはいけないんだよ?君達。ねぇ、私の話し聞いてるかい??」
ガララと扉が開いた。
あーやっぱり皆着てる!と叫ぶランちゃん。
ミクリさんがとろいから~と容赦ないフウちゃんのため息がミクリのハートをグサっと……
「わっしゃしゃっしゃ、子供に引率されたようじゃのミクリ殿!」
「本来、この子達の引率はダイゴの勤めみたいなもんだったんですがね。まぁ、彼もいないし仕方がないでしょ。それにしても、ご無事で何よりです」
「「テッセンさん、おはようございます。お体は大丈夫ですか??」」
「わっしゃっしゃ、2人共もよう来てくれた。この通り元気じゃて!」
「「よかった~」」とハモル双子の安堵する姿は微笑ましかった。
「ふむ、心中はお察しするがまだセンリさんは来てないようですね」
「そろそろ、本題に入らないといけないんじゃがのう。最悪は、センリ殿抜きで話し合いをするかのう」
彼には悪い知らせばかりだから。
席を外した方がいいのかもしれない。
「その前に、1つだけ確認したいことがあります。緊急集会からそれほど経ってないので、皆さんも覚えておいでだと思われますが、協会からはマグマ団及びアクア団の騒動には一切手を出さない、静観のみと決定が下されましたが、それでも今日我々を招集したということは彼らとぶつかる気なんですね?」
「うむ。それがワシらの本職じゃて。市民を守るために、ことによってはきゃつらと全面衝突する覚悟じゃ。たとえ、センリ殿の息子だとしても……」
テッセンの召集内容は至極簡単な内容だった。
これから起こるマグマ団とアクア団の抗争についてだった。
「じゃが、役者はやはり皆揃ってからじゃな」
テッセンの視線が扉に投げかけられる。
ガララと開いてトウカシティのジムリーダー・センリが姿を現した。
「ワシャシャシャ、覚悟は決まったようじゃのセンリ殿」
「すみません。こちらがご心配しないといけないのに、逆にご心配をかけてしまって」
「そんな小さいこと気にするんじゃない。それよか、本題に入ろうかのう」
これから話すのは昨日の出来事。
チャンピオンを撃破した極悪動画を世に流したセンリの息子との一連のやりとり。
少年を誘拐して毒を盛ったアクア団の暴走。
少年を絶望させるためだけのゲーム。
その影で動いているアクア団団長の本来の計画。
そして、テッセンを襲ったドラゴン使いの小娘の存在……
これらを全て話そう。
しかし―――――
Prrrrrrrrrrrrr♪
テッセンの声を遮るように、ミクリの携帯端末機が鳴った。
病室に鳴り響いた。
「ミクリさん!!」「病院では電源切っておくもんでしょ!!」と双子に咎められ笑えないミクリ。
しかし、知人からのメールの内容にはこう綴られてあった。
『件の少年が一般人からジムバッジを強奪。
1人のトレーナーを助けようとしたエリートトレーナーの2人組の内、1人が病院へ搬送――――――――』
ごくり。
一同がミクリの持つ手の中の画面に注目した。
誰かは少年の名を呟き、誰かは身震いし、誰かは悲鳴を漏らし、誰かは白目を剝いて、誰かは生唾を飲み込んだ。
「小童め、ついにやりおったか……」
テッセンが唸るよう声を出す。
絶望のゲームはいよいよ本格的に動き出す。