オメガ&ルビー~マグマ団カガリ隊に配属された件~   作:れべるあっぷ

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マグマ団を追放された男

 絶望の悪夢。

 

 その夜、ポチエナのワンちゃんは言いえぬ不安を抱いて昔の夢を見た。

 

 ワンちゃんはあの男のポケモンだった。

 

 その男の名はクズキリαと云う。

 

 元マグマ団カガリ隊の戦闘員。

 

 歳は25。

 

 オメガと同じシシコ座の7月生まれ。

 

 何を隠そうオメガ少年を誘拐及び猛毒を盛った張本人だ。

 

 オメガと同じく強さこそがこの世の全てと謳い、勝つためなら手段を選ばない超危険度MAXな男との出会いがワンちゃんを絶望させた。

 

 ワンちゃんは戦闘ができないビビリだ。

 

 しかし男はワンちゃんが戦闘不能になるまで決してモンスターボールに戻したりしなかった。

 

 経験値が入らないのを知っていてもやめることはない。どころか、教育と称して恐怖を植えつけた。ワンちゃんには絶望しかなかった。震えることすらも許されなかった。

 

 弱いからこそ、強くなろうとしないなら徹底的に暴虐の限りをつくした。

 

 結果、完成したのは最弱レベル5のポチエナだった。

 

 見かねたマグマ団は彼を追放した。

 

 奴はマグマ団に追放されてからアクア団に入った。マグマ団に復讐するためなのか、定かじゃないが……

 

 次に、ワンちゃんの担当になったのはオメガだった。

 

 二番目の男。

 

 ワンちゃんはまたも絶望した。

 

 オレ達の復讐のためにと言って自分を鍛えようとするから……お前は悔しくないのか?と問われたが、悔しいとかそんな気持ちが湧き上がらないほど、もうほっといて欲しいというのが本音だった。

 

 しかし、奴も戦闘狂だった。

 

「気合いで頑張れ!!」

 

 そんなのは無理だ。

 

「お前ならできる!!」

 

 無責任だ……

 

「腹から声を出せっ!!」

 

 ガ、ガゥ………

 

「よーし、今日はケムッソを50体狩るまでアジトに帰らないからな!!」

 

 そして夜になり迷子になったのはどこの誰だか……

 

 ワンちゃんは絶望した。

 

 ポケモンバトルが苦手なのに、下手なのに、嫌いなのに、あの男のように無理やりバトルさせようとする。最悪だった。

 

 でも、あの男とは違った。

 

 少年はあの男と違って自分に暴力を振るわない。負けても「ドンマイ、ドンマイ、次いってみよー」とさらにケムッソとバトルさせられるけども。50戦0勝だとしても、経験値が手に入らなくてもレベルが上がらなくても少年は一度も怒らなかった。怒鳴らなかった……いや、大袈裟に騒いで五月蝿かったけども。アジトに帰れば労いの言葉を掛けてくれる。「明日も頑張ろうぜ」とあの笑顔に絶望するには十分だったけども。

 

 ワンちゃんは絶望して困惑した。

 

 バトルが嫌いなはずなのに、この少年と一緒にいたいと思う自分がいることに酷く困惑した。

 

 ポケモンはトレーナーと一度暮らすと野生に戻れなくなると云われるが、ワンちゃんも同じである。怖いのも痛いのも我慢はしてきたが寂しいのだけは耐えれる自信がなかった。

 

 ワンちゃんは少年といることを選んでしまった。

 

 だから、応えたかった。

 

 捨てないで……

 

 バトルは相変わらず連敗だけど、いつか必ずケムッソを倒すから。

 

 だから、お願い一緒にいて!

 

 だからオメガ少年と初任務へ行った。

 

 それが大きな間違いだと知った時はもう既に遅かった。

 

 最弱レベル5でよくもまぁ、先輩方にノコノコ着いて行ったもんだと呆れてしまうほどに。

 

 先輩達の傍に、金魚の糞よろしく戦闘にちょこっと参加すれば経験値のおこぼれを貰えないだろうかという算段だったのだろう。

 

 しかし、目論みは失敗。

 

 先に進めと促されたり、敵から身を守ってくれたり庇われたりしている間に集団から逸れてしまった。迷子になった。

 

 そして、出会ってはいけない敵と出会ってしまったのだ。

 

「ギャーッハッハ!おいおい何だよ俺様の相手はまさかこの雑魚2人かぁ!?」

 

 この糞野郎と戦うのはまだ早すぎた。

 

 勿論、敵は待ってくれない。

 

「ギャーッハッハッハ!!まだ俺様に歯向かう気か、この身の程知らずの雑魚共がっ!!ブッコロしてやる!!」

 

「「………ッ!?」」

 

 1人と1匹は後にボロ雑巾になったところをマグマ団の先輩方に発見された。

 

 オメガ少年は重症だったが驚異的な治癒力でほぼ1週間で完治した。

 

 しかし、ワンちゃんは意識不明の重体で生死を彷徨っていた。

 

 オメガは強さの定義を改めて考えた。

 

「オレの進む道にワンちゃんは連れていけない。弱い奴は生き残れないんだから……」

 

 ――――だからさよならだ。

 

 ワンちゃんは夢を見た。

 

 絶望の悪夢を見ていた。

 

 待って!!

 

 置いていかないで!!

 

 一緒にいたい!!

 

 1人にしないで!!

 

 気がつけば涙を零していた。

 

 気がつけば自分は泣いていた。

 

 気がつけば見慣れたママンの心配そうな顔がそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 聞き覚えのある不快な声。

 

 オレを誘拐し毒盛り、あまつさえワンちゃん共々半殺しにした張本人。

 

 忘れたくても忘れることはできない忌々しい過去。

 

 オレはスピーカーオンにして受話器をそっと置いた。ウサギちゃんとじじいにも聞こえるように配慮した。

 

『よぉ、久しぶりだなクソガキィ』

 

「………」

 

『ギャーッハッハ!だんまりかよ!ブルってんじゃねーぞゴラァ!!』

 

 違う、堪えているんだ。

 

 怒りで電話機を破壊しないように自分を抑えているんだ。

 

『まーそれはそうと、ニュース見たぜー。動画も見た。ルチアやウシオ、それに雑魚チャンピオンを倒したぐらいでいい気になってんじゃねーよ、雑魚の癖によー!!』

 

「………」

 

『よえーくせにリザードンとか使うなよ。あぁ、いや、よえーからこそリザードン使わなきゃ勝てないのかー!あー悪かった悪かった!!痛いところついてホントすまん!!俺様と違ってリザードン使わないと勝てない雑魚だんもなー!!』

 

「………」

 

『何にしても俺様はテメーが気にいらねぇ。見てるだけでムカツクんだよー。テメーがアクア団を見るだけで破壊衝動に駆られるように、俺様もテメーみたいな雑魚を見るだけで破壊衝動に駆られるんだわー。まーテメーを見るだけでマジぶっ殺したくなるんだから仕方がねー。だから毒を盛った。だから半殺しにもしてやった。人生を滅茶苦茶にしてやった。それでもテメーはまだ調子に乗るっつってんだから、そろそろマジでぶっ殺してやろうと思ってなー』

 

「………」

 

『アレを見ろよ。テレビ越しで火山頂上で磔にされた小娘は悪に身を売った罪深き者の末路といったところか。ハ~ルカちゃん自身こんな目にあうだなんて思ってもみなかっただろうなー。おいクソガキィ!ハ~ルカちゃんがこうなったのもテメーらが追い詰めたせいだぜ!ハ~ルカちゃんはなー、そこのこそ泥からポケモンを取り返すために、テメーをミシロに連れて帰るために悪に心も体も売ったんだぜ!テメーらが破壊した気でいる∞エナジーは偽物でしたー!本物はハ~ルカちゃんが摩り替えて隠していましたー!最後の切り札としてぇっ!アクア団に∞エナジーを引き渡す代わりに強さを望みましたーーー!!だがしかし、彼女の思惑とは裏腹に俺様のうっぷんを晴らすために犠牲になりましたーーーーーーーー!!嬲られユウキくんユウキくんと連呼して泣き叫ぶハ~ルカちゃんマジ最高に良い女だったぜ!!ギャーッハッハッハッハッハッハ!!』

 

「………」

 

『ともあれ、これからそんな売女の命も風前の灯ってやつだ!テメー次第でなぁ!!だからゲームをしようぜ!!テメーもやる気が出るようにチャンスを与えてやる!!あぁ、勿論これから俺様が提示するルールを無視してエントツ山に来てみろ。その瞬間、ハルカは俺様の手に持っているリモコンのスイッチを押してマグマの中に落としてやる!!だからよ~くルールは聞け!!そこにいるジムリーダーも勝手なことはするなよ!!』

 

「こやつ、やはりどこからワシらを見ておるのか……」

 

「………」

 

『なに、ルールはいたってシンプルだ!このゲームの最大の目的は俺様がクソガキをぶっ殺すっだ!!だから殺し合いのステージは必須!!そのステージまでクソガキが自力でたどり着かなくちゃならねー!!ステージはテメーらも薄々気付いてるだろーがよー、マグマ団アジトだぜ!!今はワープパネルが作動してねーからマグマ団アジト内に入ることもできねー。勿論、ポケモン技の穴を掘るとかすんじゃねーぞ!!クソガキならやりかねねー!!ちゃんと正攻法でこい!!バッジだ!!ジムバッジ!!ホウエンのジムバッジ8つ集めるだけだ!!つってもテメーバッジちょくちょく集めてるらしーからな。残り4つ分なら簡単だろ?集めてその部屋にある装置にはめ込むだけでいい!!あるだろ?棚に、黒いボックスみたいな置物がよー!!そこに全部ハメ込んだらゲートが開くってな!!まずはそこにいるテッセンのじーさんからバッジを奪い取れよ。そーいやテメーの親父ともバトらないとなー!誘拐事件から約半年だ!涙ちょちょ切れる感動の再開か~??まーどうでもいいが、そうやって8つ集めたらあとは殺し合いだ!!アジト内にいる俺様を見つけ出し殺し合いだ!!早く見つけろよ?もたもたしてっとマグマ団の連中を片っ端からぶっ潰していくぜ?テメーの命の恩人のカガリ様を傷モノにしてやろうか?あーそういえば俺様にとっても元隊長だった。エロい身体してたなー。しかし、アイツは俺様のことなどアウトオブ眼中だった!!あーくそっ、嫌なこと思い出した!!絶対に傷モノにしてやる!!なんならテメーの目の前で嬲って犯してやろうか!!それもいいな!!ハ~ルカちゃんとは違ってNTRがどんなに屈辱か目の前で思い知らせてやるよ!!しかし、カガリ様ばっかり気にしてたら駄目だぜ?このゲームには制限時間がある!!明日の午後5時までに俺様に勝たなければハ~ルカちゃんをマグマの中に落とす!!勿論、テメーが敗北しても落とす!!さぁ現在時刻は午後9時を回った!!ゲームスタートだ!!』

 

「………」

 

『おいおい、さっさと動かねーとしらねーぞ?ジムリーダー共もこのクソガキを追ってアジトへ進軍するなら大歓迎だぜ!返り討ちにしてやっからよー!!まー男連中はクソガキに今からボコられるんだけどもー!!だけどだけど、しかし!!だんまりもよくねーぜ!!俺様は本気だぜ?ありとあらゆる手段を用いて利用できるものは全て利用してテメーを絶望のどん底に落としてやる!!だからさぁ、最後に何か一言!!』

 

「………………………………絶対にぶっ殺す」

 

『ギャーッハッハッハ!!声震えてんじゃねーかよ!!せいぜいジムリーダー共にやられんなよクソガキィ!!それとこそ泥に伝言だ!!アオギリの団長ならソライシ博士っつう天文学者に会いに行ってるぜー!!隕石がなんとかって先生がそう言ってた!!それでウサギは理解するってな!!俺様は確かに伝えたぜー!!』

 

「………アオギリ」

 

「………」

 

『じゃあ、本当にゲームスタートな!!アジトで待ってるぜ、あばよー!!』

 

「………」

 

 あばよ。

 

 こうしてアイツとの通話は切れた、クソッタレが。


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