オメガ&ルビー~マグマ団カガリ隊に配属された件~ 作:れべるあっぷ
もしも、もう1人の自分が愚かにも目の前に現れたのなら……
オレならどうしただろうか……
驚いただろうか……
興奮しただろうか……
友達になっていただろうか……
メアドを交換していたのだろうか……
自分にアドバイスを与えただろうか……
やっぱり好きな女の子は同じなのだろうか……
共に笑い合い時には好きな女の子を巡ってポケモンバトルするのだろうか……
阿呆か!!バカバカしい!!
こんな素晴らしくも残酷な世界でそんな青春送れるわけねーだろうが!!
「…………クソッタレが」
「………」
なんて妄想している場合じゃなかった。
今のウサギちゃんの心中は計り知れないぜ。
きっと本当にハルカちゃんを排除したかったんだ。
裏切られて、絶望して、1人ぼっちになって、もう一度やり直せると思った矢先の苦渋の選択だったに違いないさ……
自分を排除するも田舎に帰すだけに止めた彼女も進歩したもんだと頭を撫でてやりたいところだがな。
ハルカちゃんを殺したらオレが激オコぷんぷんになるのは知っているのだろうけども。
なんて声をかけてやればいいのかわかない。
だから、舌打ちもツバも吐かないかなり弱った下を俯くウサギちゃんの手を黙って握って、ここキンセツシティを歩いていたわけだけども。
『ニンショウデーター…ニ…トウロク…サレテオリマセン…ヒラケマセン…マグマダン…トオシマセン………オイ…クソガキ…オトトイ…イキヤガレ』
「どういうことだってばよ……ッ!?」
マンションから締め出された。
とあるキンセツマンションの一室はマグマ団のアジトへ繋がるワープパネルが設置されているわけだけども。
何回も何回もやっているのに……
このポンコツ、オレ達をマンションの中に通さないつもりだ。
「ウサギちゃん、ちょっと顔認証してみ」
「………いやっ」
イヤイヤしやがるウサギちゃんの顔面を両手で鷲掴み、認証カメラの前まで持っていかす。
通行人の怪しいものを見る視線もスルーして。
『ニンショウデーター…ニ…トウロク…サレテオリマセン…マグマダン…ウサギチャン…ザマァ………』
「ふぇ……」
「………」
このポンコツ、ぶっ壊してやろうか。
泣いちゃったよウサギちゃんが。
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さて、状況整理をするのにも腹ごしらえは必要だ。
もう夜だ。なので、キンセツキッチンにてオレとウサギちゃんは不戦勝で飯にありつけたのは、一重にあの動画のおかげだな。
大誤算様様ですわ。
四人掛けテーブルに座っていた理解あるトレーナー達には好感をもてた。
なんと、席を譲ってくれたのだ。
「わしゃしゃしゃっ、ルール無用とは恐れいったわいマグマ団の小童よ。戦わずして勝つとはこのことよのぉ」
「じじい……」
このキンセツキッチン、ジムリーダー・テッセンのじじいとはよく会うな。
空いている向かいの席に問答無用で座ってきた。
「そんな怖い顔しなさんな。追い出したいところじゃが暴れられてもかなわんしのぉ」
「わかってんじゃねーか。だからこその見張りか?」
「まーそんなもんじゃ。今日また悪さをしたマグマ団のこわっぱ共が、キンセツマンションから締め出されたという情報を掴んでのぉ。もしやと思いココを覗きにきたらどうじゃ……面白いもんが見れたわい」
「ふん。愉快がってる所悪いが事態はもっと深刻だぜ。今朝に無能な現チャンピオンを排除し、昼にも悪事を働いたオレ達の因果応報がコレだ。オートロックに引っ掛かり中に入れないどころの騒ぎじゃねー。オレとウサギちゃんはマグマ団のアジトに帰れない、と思う。いや、追い出されたというべきなのか……??」
「わしゃしゃしゃっ。おいたをし過ぎたようじゃのぉ」
「ガキの躾じゃねーんだ、笑い事じゃねーよ。オートロックに引っ掛かったことが、どれだけの意味を持つか教えてやるよ。そもそも、オレ達はカイナから帰る予定だったんだ」
しかし、カイナからはアジトへ帰れなかった。
「カイナにも何箇所かマグマ団のアジトへ繋がるワープパネルが設置されていた。誰もが足を踏み入れるだけでアジトへワープしてしまう素人には驚きのトラップだ。しかし、そんな代物が見事なまでに機能を果たしていなかった。カイナにあるもの全部だ」
「………」
「オマケにマグマ団の誰とも通信がつかない」
「ふむ………」
ヒガナたんも、カガリたんもホムホムもリーダーも五つ子ちゃんもその他も……
「だから、キンセツシティまで歩いて向かった。メンタルが豆腐になったコイツのためにも手を繋いで歩いてここまできた。しかし、どうだ。オートロックまでオレ達を拒みやがった。データーが認証されませんだと?マグマ団として登録の抹消でもされたってか?笑えない冗談だ」
「機械の故障ってだけの可能性もあるのぉ」
「本気で言ってるのか?だったらじじぃがオレ達を中に入れろ。それで中のワープパネルが正常かどうかを確かめる」
「わっしゃっしゃっしゃ、ワシに命令するか小童よ」
「じじいが同じマンションに住んでのは知ってるんだ。じじいで中に入れるのであれば故意にオレ達のデーターを削除されたってことだ。誰だかは知らねーが悪意を持ってやったに違いない。そして、部屋にあるワープパネルが機能していなければカイナだけで起きた珍事件じゃなくなる。ここまでいったらもう非常事態だぜ。早急に他の地域に設置してある分も確かめないとな」
「おぬしんところは身内でもゴタゴタしてるようじゃのぉ」
「………」
ありえない話しじゃない。
きっとこうなったのはオレ達のせいだ。
問題ばかり起すオレ達のことを良く思っていない連中共の我慢の限界がきたんだろうか……
仲間を疑うのはさほど躊躇いはない。
もしかしたらアクア団が関与しているかもしれない。
最悪なのは裏切りものとアクア団が手を組むってケースか……
それよりもカガリたんと連絡が取れないってのが1番心配だ。
まさか、カガリたんがオレを裏切るなんてありえねーよ……
絶対にだ。
うん、たぶん……
フラグは建ててない。
「じゃとしたら、おぬしらは随分と暢気じゃの。マグマ団の一大事じゃろ?」
「気持ちばかり焦ってもしかたねーよ。それに腹が減っては戦はできねーからな。薬も今日は飲んでいない……」
「薬……じゃと?」
「いや、こっちの話し……」
オレは今日の分を水で流しこむ。
沈黙して暗すぎるウサギちゃんの口にも無理やり薬をねじ込む。嫌がるが水もコップ一杯に流しこんで、口元からこぼれた分は拭いてやった。
「こう見てると何故か兄妹みたいに見えるのが不思議じゃの。おぬしは1人っ子じゃと聞いてるんじゃんがな」
「さて、何のことやら………」
つーか、オレとウサギちゃんが兄妹とか本人の目の前で言うな。
ほら、耳赤くして絶対に怒ってるよ。
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『データーニンショウ エラー エラー オメガ トカ マジ ウケル』
「「「………」」」
『データー エラー ウサギチャン アワレ アワビ ザマァ』
「ふぇ……」
「「………」」
『データーニンショウ カクニン デキマシタ テッセン サマ コンバンワ』
「このポンコツやっぱりぶっ壊してやろうか!!」
「待つんじゃ小童っ」
「ぐすっ……」
さて、テッセンのじじいのおかげでマンションに入れた。
テッセンのじじいをこのまま連れても問題はない。
ワープパネルが機能していない可能性の方が高い。それにもし機能していたとしても、そこに飛び込むバカじゃねーだろ。後日、仲間数名引き連れやがっても迎撃するまでだ。
オレは深呼吸した。
ウサギちゃんの手を強く握る。
504号室。
カードキーは使う必要は無かった。
オートロックがまたも機能していなかったから。しかし、今度は扉が開いた。
カギが掛かっていなかった。
扉を開けてドカーンと爆発することもなかった。
玄関に異常無し。
靴は履いたままだ。
リビングも異常無し。
キッチンも。
寝室も……
しかし、ワープパネルが設置されている部屋は異常であった。
やはりワープパネルは機能していなかった。
悪態をついても仕方が無い。
すぐに他所も調べるのが得策か……
もう一度ポケナビを起動してヒガナたんに連絡を取ってみようか。
しかし……
「おいおい、圏外ってなんだよじじい」
「いんや、電波なら届いておる……たぶん、おぬしのだけじゃ」
「どんな嫌がらせだよ……ッ!?」
「この短時間で解約されたかのぉ……」
「あれか?悪さし過ぎたオレのIDをデボンの奴等が調べて解約しやがったってか?」
「なんら不思議じゃないわい。おぬしはそれほどまでにデボンに恨みは買ったはずじゃからのぉ」
「………」
いや、それはポケナビにだけに通用する話だ。
ワープパネル然り、マンションのオートロック然り、それはデボンとは関係ない話だ。
「それともマグマ団の上層部が本格的におぬしを見限ったか、あるいわ見えない敵の策略か……」
「………」
何にしろ一度アジトへ戻ろうか。
バンギに穴を掘るを覚えさせて強行突破してみるか。
行き先はエントツ山に決まったな。
「テッセンのじじい、同行ご苦労。お前はもう帰れ」
「………」
オレって怖いもん知らずだもん。
つーか、じじいはテレビを見ていた。
勝手に人ん家のソファでくつろぐなよ、おい。
「おいおい、いくら自分ん家に置いていない大型液晶型テレビだからって勝手にテレビ点けてんじゃねーぞ、じじい」
「わしじゃないわい。それとテレビをよぉく見てみんかい!!」
「あ?」
………。
……………。
…………………。
一瞬、思考が停止した。
テレビの中でおきている出来事に理解が遅れた。
あまりにも非現実だったから。
ありえないなんてことはありえない。
しかし、これが現実だ。
「くそったれが……」
「………………ハルカ」
ウサギちゃんが画面越しにいる女の子の名を呟いた。
これが因果応報だというのならあまりにも残酷だ。オレとウサギちゃんはハルカちゃんを強引にも引っ張ってミシロまで送り届けなければならなかったんだ。
サナちゃんに守ってもらう必要があったんだ。
だというのに、オレはそれを怠った。ただ、極悪非道なヒール役に徹してつっぱねただけじゃ甘かった。
それがこの結果だ。
そこには昼間ウサギちゃんにボコボコにされた傷跡よりも酷い傷を負った少女が鎖で張り付けられ、グツグツ煮えたぎっているマグマの上で吊るされていた。
そして、電話が鳴った。
オレが持つポケナビじゃない。じじいのでもない。
このリビングに置いてある古い固定電話だ。
もちろん、相手はこのふざけた映像を流した奴。オレのポケナビを解約させた奴。ワープパネルもマンションのオートロックもイジった奴だろうがよ。
受話器を取った。
『もしもーし?ゲームをしようぜクソガキぃ!!』
「ブッコロしてやる……」
忌々しい声を久しぶりに聞いた。
どこまでオレの神経を逆撫ですれば気が済むんだ、アクア団のクソ野郎。
コイツだけは絶対に許さない。