オメガ&ルビー~マグマ団カガリ隊に配属された件~   作:れべるあっぷ

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復讐の炎

 次で勝敗が決まる。

 

 勝てば未来があり、負ければ未来はない。

 

 だから勝ってこの地獄から脱出する。

 

「バシャーモ、いくよ……ブレイズキック!!」

 

「ザングース、回避不要!からげんき!!」

 

 スピードはバシャーモが勝った。

 

 加速はマックスだった。

 

 ブレイズキックがザングースを捕えた。急所に入った。

 

 レベルの差があってもこれにはザングースもたまらない。

 

 ゴリゴリHPを削った。

 

 でも、あのザングースが簡単に倒れてはくれるはずもなかった。

 

 あたしの想いに答えてくれたバシャーモのように、ザングースがウサギちゃんの想いに答えたのだ。

 

 強烈なブレイズキックを両腕で受け止めていた。

 

 格上としてのプライドがそうさせたのか、からげんきがそうさせたのか……

 

「バシャーモ、まだよ!!」

 

 あたしは瞬時に次の攻撃をバシャーモに指示した。

 

 バシャーモも悟ったであろう、ザングースはもう既に次の攻撃のモーションに入っていたことを……

 

 だから両者はずつきをした。

 

 最後の一撃。

 

 泥臭いワザだった。

 

 しかし、これで終わり。

 

 お互いのポケモンは力尽きて倒れこみ目を回すのであった。

 

「あ、相打ち……」

 

「あーあ、残念。引き分けでよかったわね。アンタを殺し損ねたわ。でもねぇ……」

 

 あたしは膝から崩れ落ちた。

 

 否、崩れ落ちる態勢にさせられたのだ。

 

 強力な力で上から押さえつけられた。

 

 ゲンガーがあたしの上に乗っかったのだ。

 

「な、どうして……ザングースは倒したはずかも…………!!」

 

「でも、バシャーモも倒れた。引き分けは敗北するよりも愚かよハ~ルカちゃん!!」

 

 ゲンガーがあたしのモンスターボールを横取りした。

 

「いやっ!!お願い返してッ!!」

 

「あはっ、命は助けてあげるわ!その代わりにポケモン達は没収ね!生き地獄を味わいなさい!」

 

 あと、トレーナーズカードも没収された。

 

 手を伸ばすも届かない。

 

 声が届くはずもなく闇は晴れる。

 

 世界はどこまでいっても残酷だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 もし、オレがウサギちゃんだったらハルカちゃんの心をへし折るだろう。

 

 影の中へゲンガーに引きずられた時点でハルカちゃんの負けだろうけどウサギちゃんのことだ、ナメぷでザングースあたりと戦わせて勝てたら今回は見逃すとかそんなこと言ってそうで草が生えそうだが。

 

 ザングースが負けることなんてないだろ。

 

 いや、ナメぷで毒暴走使っていたらハルカちゃんにもワンチャンあるがな。

 

 まー良くて相打ちってところか……

 

 ハルカちゃんが勝利すれば見逃し、敗北すれば一生あの中に閉じ込めるのだったろう。そして、引き分けだった場合は………

 

「ユウキくん……お願いだからポケモン返してよ…………」

 

 やれやれだぜ……

 

 影から放り出されたハルカちゃんは酷く弱っていた。

 

 ウサギちゃんにポケモンを没収され酷く泣いていた。

 

 しかし、ハルカちゃんの願いを叶える力はオレにはない。

 

 というか、助けるつもりもない。

 

 つーか、ウサギちゃんはどこだ。どこへ行ったか……

 

 あぁ、もうめんどくさいから後処理はオレに任せるつもりらしい。影に引きこもってらっしゃる。

 

「阿呆……オレは君の味方じゃなくウサギちゃんの味方だ。だからポケモンは返さないぜ、ハルカちゃん」

 

「でもっ、でもぉ……」

 

「デモもストライキもへったくれもねーんだよ。弱い奴は死に様を選べないと誰かさん達は言うけども、敗者がぐちぐち言うのは間違ってるぜハルカちゃん。もう諦めてミシロに帰りな。君の物語は終わったんだ」

 

「あ、あの子達を見捨てて帰れるはずがない……」

 

「じゃあ、なんでそんなに弱いんだよお前……」

 

「………」

 

 弱いからウサギちゃんに負けた。

 

 強かったらポケモン達を手放すハメにならなかったはずだ。

 

「半年間、お前は何をしていた?なんで家に引きこもってたんだ!!オレがアクア団に誘拐されたから?外が怖かったから?親が反対したから?そんな言い訳がこの世の中で通じると思うなよ!!」

 

 言い訳してセーブ地点からやり直せる世界ならオレはマグマ団をやってない。

 

「お前が半年間を棒に振って家でだらだらしている間にオレは死ぬ気で強さを求めた!何度も死に掛けた!ハンパな覚悟じゃねーんだよ!ウサギちゃんだってそうさ!お前だってあの地獄を見ただろ!想像ぐらいできるだろ!ウサギちゃんはこの世界の誰よりも地獄を味わってんだよ!誰よりも強く生きてきたんだよ!」

 

「………」

 

 だからハルカちゃんが勝てるはずがない。

 

 旅に出て数日しか経ってない駆け出しのルーキーが勝てる相手じゃない。

 

 ヒトはそれを理不尽と言うのだろうけど、世の中そんなもんだろ?

 

 泣いて許されるはずがない。

 

 敵が極悪非道な冷徹人間には通用しない。

 

 ロリコンなら性的暴力も振るわれたはずだ。

 

 弱いってのは罪だ。

 

 自分を守れない。仲間も大切な家族も……理不尽な暴力に押しつぶされるだけ。

 

 言い訳しても、後悔しても、やり直しができない限りこの残酷な世界において無意味なのだ。無慈悲で無情にただ無駄でしかない。

 

 次は無いのだから。

 

 それと……

 

「ハルカちゃん、前にも言ったよな?オレはユウキじゃない、オメガだ!」

 

「………」

 

 そう。

 

 オレはオメガだ。

 

「お前が追いかけているユウキは当の昔に死んだ。オレが殺した。オレは生まれ変わったのだ」

 

「………」

 

 だからオレはハルカちゃんの目の前で家族写真を破り捨てた。

 

 半分に、四分の一に、さらに細かく修復が不可能なぐらいに破り捨てた。

 

「これでさようならだ、ハルカちゃん。もう2度とオレ達の目の前に現れてくれるな」

 

 泣きじゃくる女の子を放置してオレは博物館から立ち去った。

 

 失神している館長も放置でいいや。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 少女は泣いていた。

 

 ずっと泣いていた。

 

 カイナ博物館を出てからも永遠に涙が枯れることは無い。

 

 大切な仲間を失ったから。

 

 大切な友を取り戻せなかったから。

 

 心の傷は一生癒されることはない。

 

 悲しみで心を埋め尽くす。

 

 少女は自問自答した。

 

 何がいけなかったのか?

 

 少年の言うとおり出遅れたから?

 

 弱いから?

 

 いや、センスはあった。

 

 でも、運が悪かった。

 

 運が無かった。

 

 そんな言葉で片付けたくないけど世界は残酷だから。

 

 偽物さえ現れなければこんなことにはならなかったはずだ。

 

 少女の心に充満していた悲しみは憎しみに変わっていく。

 

 許さない。

 

 絶対に許さない。

 

 大切なポケモンを助け出すための強さが必要だ。

 

 少年を取り戻すために力が欲しい。

 

 そのためならなんだってする。

 

 最早ポケモンもトレーナーズカードを失った何者でもない少女だけども……

 

 まだ1つ少女は隠し玉を持っている。

 

 それは∞エナジー。

 

 正真正銘の本物。

 

 偽物と摩り替えた。

 

 偽者が壊したのは皮肉にも偽物だったわけだ。

 

 ハギ老人達の苦肉の策に少女自信の案を組み込んだ最後の切り札。

 

 少女がカイナ博物館でマグマ団と激突している間、ハギ老人に頼んで本物は浜辺のビーチに隠してもらった。

 

 場所は知っている。

 

 打ち合わせどおり。

 

 夕方のビーチで遊ぶ客は少ない。

 

 すぐに掘り起こせる。

 

 近くにはまだ上半身だけのイケメンが埋っているけど気にしない。

 

 ∞エナジーを持ってポケモンたちを助け出す。

 

 もちろん、愚かにも∞エナジーそのものを取引材料に使うバカではない。

 

 それでは取引が成立してもまた影に飲み込まれて終わりだ。

 

 だから影に飲み込まれても返り討ちにできるだけの強さを身に付けてからだ。

 

 少女は愚かにも∞エナジーをアクア団に渡すことにした。

 

 決して隣にいる彼女に唆されたとかじゃない。

 

「本当に∞エナジー貰っていいのかい?ハルカちゃん」

 

「にょにょ~?」

 

「………」

 

 カイナ博物館を後にしたところを付け狙われたとかじゃない。

 

「強くなるために何でもすると言ったのは君だからね……?そこの上半身だけのロリコン野郎に身を差し出すぐらいの覚悟じゃ足りないよ?そこんとこわかってる?」

 

「にょにょにょ~??」

 

「………」

 

 少女はそれで強くなれるならロリコンでも悪魔にでも身を捧げる覚悟だ。

 

 復讐の炎は点いた。

 

「うんうん。良い目をしているね……よ~し、それじゃあ一緒にウサギちゃんをぶっ殺そう!もちろん、トドメは君が差してよね!ハルカちゃん!!」

 

「にょにょにょ~い!!」

 

 やがて夜が来る。

 

 最悪の夜が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な~んてね!君を一から強くするなんて面倒くさいことする私じゃないんだよ!まーせいぜい都合の良い駒として利用させてもらうよ!!カスはカスなりに私を楽しませてよね、ハルカちゃん!!」

 

「にょにょ~い!!」


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