オメガ&ルビー~マグマ団カガリ隊に配属された件~   作:れべるあっぷ

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負けたくない

 ザングース。

 

 ネコイタチポケモン。

 

 宿敵ハブネークとの闘いの記憶が身体中の細胞に刻みこまれている。敏捷な身のこなしで攻撃を躰す。

 

 また普段は4本脚で行動しているが、戦闘時は後ろ脚で立ち上がり前足の鋭いツメで攻撃する。

 

 さて、そんなザングースはマイナーポケモンでありながらが一部のトレーナーには人気がある。

 

 女子ウケが良く、旅パなら十分戦力として通用するだろう。エスパーとドラゴンタイプ以外のタイプ技を覚える優秀さを見せる。

 

 手持ちにいないタイプのポケモン技を覚えさせ弱点を補わせたり、相手の意表も突けるだろうか。

 

 プロアマ問わず、ホウエンではザングースを使用するトレーナーは多いという。

 

 しかし、ザングースにも欠点がある。マイナーポケモンと云われる故なのだろうか。

 

 ザングースの短所はHPの低さ、防御力の無さ、特防も貧相さであること。

 

 耐久性がないので、だったら無理してザングース使わなくていいんじゃね?メジャーなガルーラとかでいいんじゃね?となってくるワケだが割愛して。

 

 その上、あの隠れ特性との相性も微妙、もっとHPの基礎値高くして欲しかったとオメガ少年は嘆くけども。

 

 アクア団との抗戦は1対1よりも集団戦のケースが多くなってくれば、敵に掴まらないように攻撃を『見切って躰して回避して』を徹底的に訓練させてきたわけだけども。

 

 それでも攻撃を喰らうものだ。

 

 相手の方が素早かった。読み違えた。運が悪かったとか。

 

 相手がハブネークの場合よく毒を貰った。ザングースの宿敵であり先祖から続く因縁の対戦カード。

 

 しかし。

 

 その戦場で少女ルビーのポケモンで1番暴れていたのはザングースであった。

 

 エースのミミロップもゲンガーの出番もないほどに圧倒的なポテンシャルで相手をねじ伏せるのである。

 

「アタシのザングースに勝てたら今回は見逃してやってもいいわよ!死ぬ気でかかってきなさいハ~ルカちゃん!!」

 

「願ってもないチャンスかも……ワカシャモ、ダンバル、キノガッサ!ザングースを取り囲んで先制攻撃!!距離を詰めて動きも封じ込めて!!」

 

 右手方向からワカシャモのでんこうせっか。

 

 左手方向からダンバルのバレッドパンチ。

 

 後方からキノガッサのマッハパンチ。

 

 紙耐久なザングースにとって侮ってはいけない攻撃だ。しかも、少女ハルカの狙いは次にある。

 

 しかし……

 

「ザングース、まもるッス」

 

 ザングースは全ての攻撃をみきるのではなく防いだ。特殊な球体がザングースを包み込み攻撃を守った。

 

 少女ハルカの狙い通り距離を詰めザングースの動きを制限することはできただろう。動きを封じ込みつつ第二撃目が本命、ワカシャモの二度蹴り、キノガッサのマッハパンチで体力をごっそり削り取るのが目的だ。

 

 しかしそれがどうした。

 

「ググ………ッ!?」

 

「なっ、あのザングース様子が変かも!?皆一旦離れて!!」

 

 距離を置こうとした三匹は吹き飛んだ。

 

 毒に侵されたザングースのただの回転運動から放たれたブレイククローによって吹き跳んだのだ。

 

―――毒暴走―――

 

 これがザングースの隠れ特性であり真価。

 

 ジェノサイドが吹き荒れ少女達に襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「そもそもレベルが違うのよ」

 

 ………。

 

「確かに格上を相手にする場合、足りないレベルを数で補うっていう戦略も1つの手だわ。でもそれだけじゃポケモンバトルはつまらないでしょ。アタシが言いたいのはレベルというより経験の差よ。アンタはどれだけのトレーナーとバトった?ジム戦はどうだった?バッチはいくつ?ここら辺だと2つぐらいでしょ?ちなみにアタシは7つ。ジムリーダーから何を教わったかしら?どんだけアクア団・マグマ団の雑魚共を蹴散らした?死線はくぐり抜けてきたの?全然よね?これからよね?こっから旅を続けて強くなりますってノリよねぇ?ハッ、笑わせんじゃないわよ!それじゃ今アンタがアタシに勝てる要素何一つないじゃない!話しにならないじゃない!アンタが死ぬ気で挑めるようにワンチャンありの提案を出したのも意味ないじゃない!この時期にこの時点で弱すぎるのよ!物語に出遅れたのよアンタは!絶望的にポケモンとの絆も全然足りないわよね!オメガを想う気持ちもアタシの方が遥かに上よね!何一つ勝らないアンタはアタシに勝てるの?そんな想像をどう思い描いてもムリムリ!万が一に勝てたとしてもその弱さのままなら次のステージでアンタは死ぬわよ?アクア団との戦争に巻き込まれて間違いなく命を落とすわ!足を滑らせて地獄に落ちかけたりポケモン技の余波で火山の中へ突っ込んでしまったり!うっかりアタシが攻撃してしまったりっ!だったらさー……ここでゲームオーバーになっておいた方がアンタのためよ。ハ~ルカちゃん」

 

 ワカシャモたちのHPは限界だ。

 

 たった一撃のブレイククローで……あたしを守るために気力で踏ん張ってくれた。

 

 だけど次で勝敗は決まる。

 

 勝機があるとすれば奇跡が起こることを願うだけだ。

 

 ザングースは猛毒状態。逃走して時間稼ぎをするのは悪手で、あの子なら傷薬を使ってでも延命処置を施すだろう。

 

 それに下手に動けば1匹ずつ狩られる。それだけは避けたい。

 

 だったら3人同時に一斉攻撃をしかけるしかない。でもそれはさっき挑んで失敗した。

 

 じゃあどうすれば奇跡が起きるのか……

 

「作戦を立てる猶予をアタシがあげると思った?ザングース、ブレイククロー+砂かけ!!」

 

 距離はあった。

 

 でも、あたしのミスだ。ザングースが近距離戦だけしかないという固定観念が反応を鈍らせた。

 

 ブレイククロー+砂かけ=アスファルトの砕け散った瓦礫がキノガッサを強襲した。

 

「キノガッサッ!?」

 

 キノガッサは自らの意志で種マシンガンで迎え撃ったが散弾の中に紛れ込んでいた本命であろうマンホールの蓋がモロに喰らって、胴体がくの字なって吹っ飛んでいった。

 

 ゾッとした。最悪の事態を想像した。でも、不幸中の幸いだった。なんとか瀕死状態で済んだ。

 

「ほらっ、余所見してる暇はないはずよ!ザングース、そこの廃車が使えるわ。ブレイクロー+電光石火+からげんき!!」

 

 車を武器として使うのはいくらなんでも反則でしょ!?

 

 ザングースは両爪で車体を貫き固定しては、空元気で車体を持ち上げ突進してきた!!

 

「アレだけの大きな物を持って動きが鈍くならないはずがないかも!メタング、バレットパンチ!ワカシャモは横から突いて!」

 

 バレッドパンチで動きを一瞬でも止めて横からワカシャモで蹴る!

 

「なんてね!ザングース、ワカシャモにソレを投げつけろ!」

 

「それは読んでいたかも!ワカシャモ、ニトロチャージ!!」

 

 ザングースがワカシャモに反応して車を横殴りに振り回した。

 

 それは読めた。だからニトロチャージで距離を詰めてやる。

 

 激しい衝突は車を爆発するまでに至った。

 

 しかし、これぐらいしないと勝てない相手だ。

 

 ワカシャモは派手に吹き飛んで建物内に窓ガラスから割って突っ込んだ。

 

 すぐさま追いかけ最後の傷薬を使った。ごめん……

 

 でもザングースにもダメージは入った。さらに猛毒でダメージを負っている。

 

 さらに爆風で転がるザングースを狙ってメタングのバレットパンチが強襲する。

 

「ザングース、守るからのシザークロス!」

 

「くっ……」

 

 そんな……。

 

 どれだけあの子冷静なのよ。

 

 爆発に巻き込まれたら普通はポケモンを心配するでしょ。

 

 否、ウサギちゃんはポケモンを信頼しているんだ。あれくらいの猛撃も耐えれると信頼していたんだ。

 

 それは数々のバトルから経験しているから。死線を共に潜り抜けてきたかこそ絶対的な絆がある。

 

 だからすぐさま反応した。次の攻撃に打って出た。

 

 やっぱりあたしとは違う。

 

 実力の差があまりにも大き過ぎる。

 

 悔しいかな……

 

 勝てる気がしない。

 

 打つ手が無い。何も思いつかない。勝利へのビジョンが思い浮かばないのだ。

 

 バトルの最中にこんな顔をワカシャモに見せてごめんね、ワカシャモ。

 

 あたし、ポケモントレーナー失格だよね。

 

「あーあ、バトル最中に泣かないでよハ~ルカちゃん。笑えない冗談だわ」

 

「………」

 

「もういいや。ここで終わりにしよ、マジで。それが1番だからさ……」

 

 ザングースのブレイククローがあたしとワカシャモを襲う。

 

「さよなら、もう1人のアタシ……」

 

 正確にはザングースのブレイククローで柱を狙った。支柱が折れ、建物は崩壊した。

 

 あたしとワカシャモは瓦礫の下敷きになった。

 

 ワカシャモが最後の力を振り絞ってあたしを庇ったけど結局は生き埋め。

 

 ごめんね、ワカシャモ。謝ってばっかりだよね。

 

 でももうお終い。

 

 あたしの物語もここまでなんだ……

 

 この暗くて冷たい地獄の世界で死を迎えるだけ……

 

 でも、なんでかな……

 

「負けたくないかも……あの子に負けたくない…………!!」

 

「シャモ……!!」

 

 瓦礫で動けないのに。

 

 死にたくないという言葉よりも先に、あの子に勝ちたいと思ってしまった。

 

 握るワカシャモの手が反応した。

 

 あたしの想いがワカシャモに届いた。

 

 滲む視界から見えるワカシャモの体が光輝きだした。

 

 気付けば背中にある瓦礫の重みが感じない。

 

 光り輝くワカシャモがどかしたのだ。そして、あたしを担いで外に出たのだ。

 

「あはぁっ!レベル20代後半のはずだったワカシャモのレベルは36に到達していたっていうの!?この土壇場でバシャーモに進化したってこんなことがあっていいのぉっ!!?」

 

 あの子の歓喜の声が上がった。

 

 あたしはそこまでテンションが上がらない。

 

 ただ、ドキドキしてるだけ。

 

 すっごいイケメンなんだもの、あたしのポケモン。

 

「あはぁっ、今のアタシはビンビンにキてるわっ!アンタだってそうでしょう?あー久しく忘れていたわこの胸の高鳴りっ!!ポケモンバトルはこうでなくっちゃ!!そうよ!!命を燃やしてお互いの想いを激しくぶつけるのよ!!」

 

 消えかけた闘いの炎が再び燃え上がる。

 

「昔のアタシはアンタだった!!アンタみたいな駆け出しのルーキーでいくつもの試練と立ち向かってきた!!目の前にある窮地を幾度となく乗り越えてきた!!だったらアンタにもできるはずよ!!ほら、ザングースのHPは猛毒でもうすぐ力尽きるわ、アンタにもチャンスがあるのよ!!さあ越えてみせなさい!!奇跡を起してみせなさいよ!!アタシはアンタの起す奇跡を捻り潰してやる!!」

 

 これが正真正銘ラストチャンス。

 

 勝てば旅を続けれる。これからどんどん強くなって、ユウキ君をミシロへ連れて帰るチャンスだってある。

 

 だから絶対に負けたくない。

 

 勝とう、この子に……

 

 ウサギちゃんに……

 

 バシャーモ、いくよ!


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