オメガ&ルビー~マグマ団カガリ隊に配属された件~   作:れべるあっぷ

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ハルカVSルビー

 カイナの博物館。

 

 正確には海の科学博物館だが。

 

「な、なんと愚かな……」

 

 それはウサギちゃんが荷物を破壊したことを言っているのか。

 

「そ、それに、あの子達はどこへ……」

 

 ウサギちゃんとハルカちゃんはどこへ消えたのか、クスノキ館長は言いたいのだろう。

 

 しかし、恐怖で声が出ない。

 

 それほどまでに恐ろしい光景を目の当たりにしたのだから。

 

 ウサギちゃんのゲンガーがハルカちゃんを、彼女のポケモン達諸共影に引きずり込んだのだ。

 

 そして、ウサギちゃん自身も影に消えていった。

 

 現在、カイナ博物館2階にはオレとクスノキ館長しかいない。

 

「こ、こんなことをして許されると思ってるのか……」

 

「館長、心配ならアンタが助けに行ってやれよ。影の入り口ならずっと開いているぜ、帰り道は保障できないがな」

 

「む、無理だ、私にはあの子を救う力なんて持っていない……」

 

「そいつは悲しいな……あの影の中に引きずり込まれて無事で済まされない。アンタはハルカちゃんを見殺しにするんだ」

 

「そ、そんな……」

 

 あそこがまさしく地獄に相応しい……

 

 チャンピオン・ダイゴも赤子同然ただ処刑されるだけの場所だった。

 

 だから、ハルカちゃんの旅はここで終わる。

 

 オレは落し物の写真を拾った。

 

 あ、オレが写ってる……家族写真だ。

 

 ハルカちゃんが写真を持っているのかは大方理解できなくもないけど、これは返してもらおうか。

 

 そう、もうこれも彼女にとって必要の無いモノだ。

 

「き、君たちは一体何なのだ……いや、違う。そうじゃない。わ、私が訊きたいのはそこじゃない。わわわわ私が訊きたいのは……」

 

「あん?」

 

「ああああああの子は何者なんだ……わっ、わわっ私は今恐ろしい想像をしているっ。きょ恐怖で頭がおかしくなったからだろうか…………………しょしょっ、ポポポッ、ポケモントレーナーの少女とあの子が同じぃ……………………どどどどどっぺるぅっ!!?」

 

「おいおいおっさん、口から泡拭きながら糞漏らして何言ってんだ……」

 

 寝言は寝てから言って欲しいもんだが。

 

 恐怖のせいでクスノキ館長のキャパは限界をゆうに越えているぜ。

 

 正常な判断ができないだろ。だから説明しても理解できないと思うがな。

 

 しかし、だ。

 

 ウサギちゃんと初めて出会った時、やはりオレも鳥肌が立った。

 

 ありえないなんてことはありえない、と誰かさんは云っていたけども。

 

 オレみたいに原作主人公の座からマグマ団したっぱに降格したイレギュラーな存在がいる残酷な世界だけども。

 

 もっとぶっとんだ設定のデタラメ少女が存在しても何もおかしくはない。

 

 それを運命とか宿命とか言っちゃうんだけどさ。

 

 直感で何者なのか悟った。ゾッとさえした。

 

 あの日、檻の中で出会ったルビーという名の少女はこの世界を怨めしそうな目で見ていたんだから……

 

「阿呆か、そんなもん見たら分かるだろうが。偽者が本物を殺して入れ替わりを企むという話はよくあるものだろうが、クソッタレめ……」

 

 本当にこの世界は素晴らしいぐらいに残酷だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ここがどこなのかあたしは直ぐに悟った。

 

 本物の地獄といわずなんと言えばいいのだろうか。

 

 ゲンガーに影の中に引きずられ、気が付けばこのわけのわからない地獄へ誘われていた。

 

 あたしの中の地獄とは灼熱の炎で大地を燃やし堕ちたヒト魂を焼き焦がすような、そんなイメージだった。

 

 でもココは違う。

 

 暗くて冷たいイメージ。

 

 空は暗雲の変わりに夜の海が漂っていた。

 

 廃墟の街が建ち並び当然人気は無い。

 

 デカい船が街中でひっくり返っている。

 

 廃れてはいるが最近まで人々が住んでいた痕がある。

 

 見たことのある造船所が見えた。

 

 どこかカイナの街に似ているけど似ているだけだった。

 

 あたしはそこを駆け抜けていく。

 

 走りざる得なかった。

 

 足を止めたらお終いだ。

 

「ヤバイ、きたっ!?」

 

 ゲンガーがあたしを襲い掛かる。

 

 シャドーボールをなんの躊躇いもなく放ってきた。しかも背後から!?

 

「ほらほらー、もっと頑張って逃げないと死んじゃうッスよ~」

 

「ケケッ」

 

 第一撃目を勘だけでしゃがんで避けたあたしを褒めてほしい。

 

 なんて余裕を言っている暇もない。

 

「あ、あの子、本気であたしを殺すつもりかも!?」

 

 警戒の鐘が最大限に鳴り響いている。

 

 でもどこへ逃げていいのかもわからない。

 

 だったら作戦を練って待ち伏せて一発逆転を狙いたいけども、あいにく今あたしの手持ちのポケモンは0体。

 

 影へ引きずりこまれたのはワカシャモ達もだった。

 

 3匹戦闘態勢にしていたもんだから、地獄へ誘われた時にはぐれてしまったのだろう。

 

 だから、あたしは丸腰であの子とゲンガーを……倒せるわけがない。

 

 打つ手はなし……

 

 いや、まだだ。

 

 はぐれたワカシャモ達と合流できたらまだ何かあると信じたい。

 

 だから、あたしは走り続ける。

 

 後ろを振り返り彼女らの姿を確認したのがいけなかった。

 

「っ!?」

 

 何かに躓いた。

 

 転んだ。

 

 起き上がり、その倒れていた何かを確認して……あたしは吐いた。

 

「ユ、ユウキくん……たすけてよ…………死にたくないよ」

 

 死体が転がっていた。

 

 本物の死体だ。

 

 目を開けて横たわる死体と目が合った。

 

 だから吐いた。悲鳴も上げた。

 

 あの子が殺したの……??

 

「あー、その男は見覚えがあるッスね。ロリコンだったッス。だからか、いろいろ親切にコトキの街を案内してもらった覚えがあるっスね。頼んでもいないのに……」

 

 コトキタウンのフレンドリーショップの店員さんだった……

 

「あー、ちなみにあっちに転がっている死体は傷薬をあげたガキに、サントウカでホエルコじょうろをくれたミニスカートのJK、反対側にはウチが助けたはずのデボンの研究員……おっさんはキノココが好きだったッスね…………」

 

 よく見渡せば、そこかしこにいた。

 

「皆イイ人だっただけにホント悲しいッスねー……」

 

 あたしが見ていなかっただけで、たくさんの死体が転がっていた。

 

 やばい、ここから離れなきゃ。

 

 生のあるあたしを死者たちが怨めしそうに見ている。

 

「あはは、どうせテメーもその内の一体になるんスよ」

 

 やばい、怖くても恐ろしくても足が震えていても立ってここから去らなくては……

 

「もうテメーならウチの正体ぐらい分かってるッスよね?」

 

 やばいヤバイやばいっ!!

 

「同じキャラは2人もいらねー。だから本物を殺して偽者のウチはテメーに成り代わる……ここが地獄だから暴露してやるわ!そうよ、当初の予定はアンタを殺して本物に成り代わる予定だった!!」

 

 あの子のキャラが崩壊した。素に戻った!?

 

 マズいから動けっ!!血が出るまで唇を噛んででも動けっ!!死体を跨いでも動けっ!!

 

 あたしは這いずる形から態勢を立て直し走り出した!!

 

「でもっ、アクア団のバカがアタシに猛毒を食らわせ真っ白なこんな姿に成り果ててしまった!アタシはアタシじゃなくなった!!だから、アンタを殺しても無意味だと思ったんだけどもぉっ!!やっぱりオメガがアンタに夢中になった時点でブッコロは確定してんのよ!!」

 

 曲がり角を曲がって細い路地を抜けた。

 

「もちろん、オメガはそれを許さない!でも、殺したもんはしょうがないから、だったら偽者なアタシで我慢してくれるよね!ってポジティブに考えることにしてみたの!!」

 

「ケケケッ」

 

 第二撃目が来た!?

 

 また背後からっ!!いや、さっきよりも性質が悪い!?

 

 今度は5連続シャドーボールの猛襲だ!!?

 

 しかし、この攻撃は外れた。

 

 間一髪であたしが階段を降りたから。

 

 というか、後ろに気を取られて足を滑らせて1番下まで転がったから。

 

 頭だけはなんとか守った。

 

 でも身体中が痛い。もの凄く痛い。

 

「ひゅ~!本当に運がイイわね、そう簡単に死んでしまったら面白くないわ!あのへなちょこチャンピオンは10分ともたなかった。だからアンタは頑張ってもっとアタシを楽しませなさい!」

 

「くっ……」

 

 死にそうなぐらいに痛いけど起き上がらなくちゃ。

 

 本気でヤバい……

 

 あ、足に力が入らない……

 

「あはっ、立てないの?足首くねった?痛いの?イイ気味ね!踏んであげようか?足舐めて命乞いしてみる?身包み剥がしていたぶってあげてもいいのよ?自分に犯されてどんな気持ちになるのかしら?興奮してくれるの?アタシはどんな気分になるの?想像しただけで興奮してきたわ!どうしよう?本当にここに閉じ込めて飼い殺ししてあげよっか?首輪とリードを繋いで地獄を散歩しましょう!もうこれじゃヒトじゃないわね!本格的に調教してあげよっか?洗脳もゲンガーで大体はできるよ?これで醜いペットの完成ね!こんなんじゃユウキ君もドン引きでしょうね!クサいし!臭うし!絶対にフラれるわね!!でもね、アタシもこんなゲスなこと本当はしたくないの!心苦しいもの!だってアンタはアタシなんですもの!だからね!提案をしてあげる!今すぐ死ぬか、それとも命乞いをしてさらなる地獄を味わってみるか!2択もできてよかったわね!さあどっちか選びなさいよ!」

 

「あたしは……」

 

 長ったらしい名演説をありがとう……

 

 あたしは今ので理解した。悟った。

 

 この子、なんてかわいそうな子なんだろうって。

 

 あたしが想像する以上にこの子は地獄を見てきたのだ。

 

 そして、今も彼女は地獄を見続けているのだ。

 

 あたしとしては理不尽この上ないけど、この子にとってこの世界が怨めしくてしかたがないのだろう。

 

 あたしが死んだら、少しは救われるのかな。

 

 でも、だからといってやすやす殺されるあたしじゃない……

 

「ワカシャモ、ニトロチャージ!!」

 

「ちっ、もう追いついたの?邪魔が入ったわ……」

 

 ワカシャモだけじゃない。

 

 メタング、キノガッサとも合流した。

 

 皆、息を切らしてる。

 

 ホントに助かったわ。助けに来てくれてありがとう。

 

 こっから反撃するわよ、皆!

 

 ゲンガーはニトロチャージを回避して地面に潜りこんだ。

 

 昨日、彼女はお腹を壊してそれがゲンガーにも影響していた。さきの攻撃を回避したからも見るにどっちかが傷つけば相方もダメージが入るのだろう。

 

 レベルがバカ高いゲンガーを回避させたのもそういう理由だ。

 

 受け止めるのも、カウンターをするのもどうしてもリスクが大きくなる。

 

 あたしの勘は良く当たる。

 

 彼女とポケモンはリンクされているとするならば、ポケモン技が当たるだけでひとたまりもないはず。

 

「だから3匹で総攻撃をすればアタシにダメージを与える可能性が出てくる。まだ逆転のチャンスはあるはず……だから?」

 

「………っ!?」

 

 思考を読まれた!?

 

「だったら、こっちはゲンガーじゃなく他のポケモンで相手すればいいだけの話しじゃない」

 

 もう1人のあたしはザングースを繰り出した。

 

「あはっ、アンタをブッコロする前にちょっとザングースのレベル上げに付き合ってよ!ハ~ルカちゃん!!」

 

「じょ、冗談じゃないかも。ウサギちゃん……」

 

 あたし的に、いい加減あなたの本当の名前を教えて欲しいかも。


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