オメガ&ルビー~マグマ団カガリ隊に配属された件~   作:れべるあっぷ

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この先は地獄

―――AM10:11―――

 

 OMEGAチャンネルはきっとホウエン地方に激震を与える。

 

 カイナシティに到着したハギ老人の船の上で動画を早送り再生して見ていた。

 

『勝者、ウサギちゃん!!つーことで敗者のチャンピオンにはここで退場してもらいまっしょう!!』

 

『くっ、無念………ッ!!』

 

『ウサギちゃん、ヤれ……』

 

『アイアイサーっす!!ゲンガー!!』

 

『ケケケッ』

 

 この世界は素晴らしくも残酷でしかない……

 

 真っ白いゲンガーがダイゴさんを襲った。

 

 悲鳴はあっという間、ダイゴさんは影の中へ引きずり込まれたのだ。

 

 これが彼らのやり方。残虐無比の処刑方法。

 

 影の中、闇の中の状況は不明。ダイゴさんの姿も声も聞こえない。

 

 ただ、後にダイゴさんは意識不明な重体でカナズミ総合病院に運び込まれるのを知ることになるのだけど……

 

「ごめんなさい」

 

 あたしは無力だ。

 

 膝から崩れ落ちた。

 

 手で顔を覆った。

 

 ごめんなさい。

 

 嗚咽より悲鳴が漏れた。

 

 見殺しにしてごめんなさい。

 

 体が震える。

 

 足に力が入ってこない。

 

 ユウキ君が怖い。あの子が恐い。今になって初めてソレが実感した。

 

 紛れもない悪だ。真っ白い悪魔たち。

 

 あたしと彼らの住む世界が違う。

 

 そんな敵を相手にしているのだ。

 

 そして、次はあたしの番だ。

 

 だから恐い。

 

「ハルカさんや……本来コレはチャンピオンに任せる案件じゃった。じゃが、チャンピオンが脱落した今、信頼してすぐに頼れるのはハルカさんだけじゃ」

 

 そう、ダイゴさんはあたしに荷物を託した。

 

 あたしがこの手紙を読みクスノキ館長へ届ける使命がある。

 

 しかしじゃ、とハギさんは言う。

 

「ワシの勘から言うとこの先はどんな展開になろうとも地獄じゃ。ワシやハルカさんが思っている以上にじゃ……じゃから、この任務から降りても誰も責めん」

 

「………ッ!?」

 

 言葉が詰まった。

 

「ワシはツワブキ社長とクスノキ館長と旧友の仲じゃ。最悪の事態を想定した苦肉の策は取ってある。じゃから、ハルカさんは今すぐカイナから離れてしばらく身を潜めてくだされ。事が済んだら旅を再開し力を付けなされ。各地を回りいつの日にかの決戦に備えるのじゃ」

 

「決戦って……それにハギさん達はここで終わりみたいな言い方しないでよ!」

 

「苦肉の策を使えばワシらの命の保障が無いの明白じゃ……じゃがハルカさんはまだ若い。そして才能がある。旅に出てまだ3日でここまで成長できたのじゃ。きっと彼らにも打ち勝つ強さを身につけれるはずじゃ。ワシが保障する」

 

 息が詰まりそうな思いになる。

 

 もともと海底調査のために造られた∞エナジーの動力源。アクア団、マグマ団が暗躍するのを見過ごさないために造られたものだった。

 

 しかし、いつしか古代ポケモンを復活のため逆に利用しようとしている。

 

 だったらいっそのこと彼らの目の前で破壊して一泡吹かしてやろうとハギさん達は考えた。

 

 もしそれを実行すれば彼らの命に保障はない……

 

 ヒトとしての一線をまた越えてしまったユウキくんとあの子がどうするか予想できる。ハギさんもクスノキ館長もツワブキ社長も皆、無事じゃ済まない。ゲンガーの影に飲み込まれてしまうのだろう。

 

 また涙がこみ上げてくる。

 

 あたしはまた彼らを犠牲にして生かされるのか……

 

 否……

 

「そ、それだけはできないかも!コレはあたしが届けなくちゃ駄目なんです!!」

 

「チャンピオンの二の舞になってしまってもええんかのう……」

 

「そ、それは……」

 

 恐くて嫌かも。

 

 でも、あたしに任された使命だから。

 

 ダイゴさんの無念も晴らさなくてはならないから。

 

 絶対に仇も討ちたい。もう一泡ほど吹かせないけないのかも。

 

 それに……

 

「それでユウキ君が止まってくれるのなら地獄でも何でも甘んじて受け入れます!ハギさん達の苦肉の策にさらに名案があります!!だから引き続きあたしにやらさせてくださいっ!!」

 

 いつも温厚そうなハギさんの目が真剣な眼差しであたしの瞳を射抜く。

 

 あたしなら覚悟できている。

 

 そもそもこの妙案、あたしが実行すれば命の保障はされたも同然だ。

 

 だから……

 

「あい、わかった…ハルカさんの意志を尊重しよう。気を引き締めていくんじゃぞ!」

 

「ありがとうございますかも!!ハギさんもお気をつけて!!」

 

 こうしてあたしは船を降りカイナ造船所にいるであろうクスノキ館長の元へ向かった。

 

 任務続行かも。

 

―――AM10:30―――

 

 ふくらはぎはパンパン。

 

 アドレナリンが出まくりだ。

 

 震撼するホウエン地方だけども、駆け抜けるカイナのビーチは客で賑わっていた。

 

 ビーチで遊ぶカップルを押しのけて、チビっ子達が作った砂のお城を半壊にして、海の家にも見向きもせずに、しかし、ビーチパラソルのした優雅にくつろぐ柄の悪いマリルとクチートに顔を引きつらせてしまう。

 

 丸いサングラスで葉巻を吹かし顔に傷をつけたヤンキーマリルと、尖ったサングラスをかけトロピカルジュース飲んでいるビッチなクチートにドン引きした。下半身を砂浜に埋め込まれたイケメンを頭の口でガブガブしているのだ。

 

 上半身しかないイケメンは「おーい、そこのお嬢ちゃん助けてくれ~」と助けを求めてくるけども、「ゴメンなさい、時間がないの!それじゃ!」とキッパリ断った。

 

 今はそれどころじゃない。

 

 街に出た。

 

 市場がある方面ではなく工業地帯。造船所を訪れた。

 

 しかし、クスノキ館長は留守らしい。博物館に行く約束があるそうな。

 

 だったら……博物館に行くしかない。

 

 街が広いかも。

 

 どんなに駆け足でもあたしも空飛ぶポケモンをゲットしておけばよかった……逃走手段も変わっていただろう。

 

 見えた。アレがカイナ博物館かも。あと、もう少し……

 

「きみきみ、そこの君。落し物だよ」

 

「にょにょにょー」

 

 あたしは大事な物を落としてしまった。

 

 それを親切に拾ってくれたポケモントレーナーさん。黒い服を着たどことなく雰囲気のある女の子。

 

「あっ、ありがとうかも……!?」

 

 ユウキくん、センリさん、おば様の写った家族写真だった。

 

 あたしの、その、本当に大切な宝物だ。

 

「ふむふむ……なかなかどうして可愛い男の子だね。もの凄く私のタイプだよ。君の彼氏かにゃ~ん?」

 

「にょにょ~?」

 

「え、タイプ!?そ、そそそれにちちちちちち違うから!!ただの幼馴染かも!!」

 

「まーまーそんな噛み付きなさんなって。それより急いでいたみたいだよね?止めて悪かったねぇ」

 

「そうだったかも!あのっ、写真拾ってくれて本当にありがとう!」

 

「どーいたまして。ねぇ、シガナ~?」

 

「にょ~」

 

 手を振る彼女らに応えてあたしはカイナ博物館の中に入っていく。

 

―――AM10:58―――

 

 50円の入場料を受付のお姉さんに渡した。

 

 人気のない博物館……

 

 受付のお姉さんは顔を引きつらせて言う。

 

「ハ、ハルカ様ですよね?オメガきゅん様がクスノキ館長と共に2階でお待ちしております?ご案内します??」

 

 だからか。

 

 だから、館内にはあたし以外の客はいないのだ。

 

 異常だった。

 

 この状況がこの空間がこのお姉さんが全て異常だった。

 

 受付のお姉さんはまるでユウキくんに洗脳されたかのようにきゅん付けで様付けしている。本人の意志で言ったわけではない、だから顔を引きつらせているのだ。

 

 それにお化けが出る時のような寒気がこの館内に充満していた。

 

 あたし、オバケとか苦手なのに……

 

 あの真っ白いゲンガーのせいかな……

 

 人生で最高の鳥肌が立った。

 

 冷や汗は止まる事はない。緊張で心臓が飛び出そうだ。

 

 受付のお姉さんに案内されて2階へ上がった。

 

 うっ……

 

 悪魔が怒っている。

 

 瘴気みたにな黒いオーラも心なしかモヤモヤ出ているんですが……

 

 受付のお姉さんが逃げ出した。

 

 まさにここが地獄に相応しかった。

 

「おー……遅かったなハ~ルカちゃん。待ちくたびれたぜ」

 

 すでに激オコのユウキくんが声をかけてくる。

 

 なるべくあたしを恐がらせないように勤めてニコニコしているが、血管が浮いている。青筋たてて頬も痙攣している。

 

「例のブツは持ってきているんだろ?そう脅えるな、もっと近こう寄ってソレをよこせ」

 

「で、でも……」

 

 ユウキ君の隣にいるあの子がもっと恐い。

 

 相変わらずフード被って顔が見れないのだけど、あの子から怒りのオーラみたいなのが体から滲み出ていて足が竦む。

 

 クスノキ館長は……どうやらあまりの恐怖に失禁してしまっている。

 

 仕方が無い。あたしだってこの空間に何分も耐えそうにないのだから。

 

 この中で苦肉の作戦をあたしは本当にできるのか……

 

 ごくっ……

 

「あー、そんなに恐がるな。例のブツを大人しく渡せば身の安全は確保してやってもいいぜ。それにウサギちゃんはぶちキレてる理由はこっちの話しさ。なに、あの動画でアクア団を誘き寄せようとしたんだがな。アテが外れてオレもウサギちゃんも激オコなだけさ」

 

「アオギリこねーじゃねーッスか……お?」

 

「まーアレだ……本来ならアクア団団長もやってくる予想だったんだが読みが外れたか……どうやらオレ達がココに訪れてしまった以上マグマ団パートになってしまったらしい……いや、まだハルカちゃんとのバトル後にイベでアオギリ単身で乗り込んで来るかもしれねーぜ?望み薄だけどな」

 

「可能性があるならするまでッス。小娘をコテンパにぶちのめて確かめるッスよ……」

 

 話が違うじゃない。結局こうなるのね……

 

 でも、ここからだ。

 

 ここからが正念場だ。

 

 あたしはワカシャモ、メタング、キノガッサを戦闘配備した。

 

 そして、例の荷物。アタッシュケースを彼らの目の前に突き出した。

 

「あ、あまりおいたはできないと思うかも……ちょっとでもあたし達に攻撃してきたらこのケース、中身ごとぶっ壊すよ?だから今日は帰って!!」

 

「「………」」

 

 お願い、帰って……!!

 

 今日は諦めて次の機会を窺えばいい。その間にあたしも力を付けて次こそは正面から勝つ!!

 

 もちろん、そんな都合の良い話はなかった。

 

「ふはっ、ふはははははっ!!」

 

「ぷぷっ、あはははははっ!!」

 

「あ、あたしそんなに変なこと言ったかしら?」

 

「いやー悪いな、あまりにおかしかったもんでつい……なーウサギちゃん」

 

「あーあ、今の今までブチギレだった自分がバカらしくなってきたッス。昔のウチもこんなマヌケな発言をしていたんだろうなと思うと笑うしかねーっス」

 

 ゲンガー、とあの子は真っ白なゲンガーを影から繰り出した。

 

 しまった!?

 

「そのブツはもらったッス!!」

 

「ケケッ」

 

「ッ!?」

 

 やられた、まさか足元から現れるとは思わなかった。

 

 あっさりとケースを奪われてしまった。

 

 そして……

 

「こんなモノはこうしてやるッス!!」

 

「あなた、正気なの!??」

 

 バギャンというケースが壊れる音が館内に響いた。

 

 あの子が床に置いたケースを踏みつけた音だ。

 

 砕け散ったケースの破片が床に四方八方に転がっていく。

 

 砕け飛び散り天井に届く破片もあった。

 

 女の子が踏んで壊れるほどやわなケースじゃないはずだけども。

 

 まさかあたしが自らの手(キノガッサのマッハパンチとか)で破壊する予定だった例のブツをマグマ団のしたっぱの女の子が壊してみせた。

 

 予想外だけども結果的にこちらの苦肉の策が実行された形というか、しかし、正気の沙汰とは思えない。

 

「ふー少しスッキリしたッス~」

 

「やれやれだぜ……」

 

 なんなよ、この2人……

 

 マグマ団はソレが欲しくてここまでやってきたんじゃなかったの……!?

 

 そして、本当に地獄を見るのはこっからかも……

 

 ゲンガーが襲い掛かり視界が真っ黒になった。


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