オメガ&ルビー~マグマ団カガリ隊に配属された件~ 作:れべるあっぷ
オレ達が石の洞窟へ訪れたのはハルカちゃんより30分前ぐらいか。
本当は朝5時には乗り込んで野生のクチートたん狩りでもしたかったんだけど、それを察してかウサギちゃんが寝坊しやがったけども。
洞窟の奥、このカイオーガの壁画が描かれた場所にて奴と鉢合わせた。
予想通りというかなんというか……
「キレイな石だ……こっちはザラザラしていて人工的に加工されたような面白い形をしている……おっ、あっちにあるのは見たことない石だ。ふふっ………」
「「………」」
ケツをこっちに向けて石拾いに夢中になっているアレがホウエンのチャンピオンだ。
世も末だ。
オレはこんな世界に絶望して、懐からポケナビを取り出しカメラ機能を使っては写真を撮った。
カシャぁ~とマヌケなシャッター音が静寂な洞窟内に鳴り響く。
ウサギちゃんがたまらず噴出す。
「な、なんだっ!?」
「なに、そう構えるな。朝から趣味に没頭しているチャンピオンの絵を撮ってこれを週刊誌やテレビ局に売ろうとしてるだけだ。それともファンに売りさばいた方が儲けはあるか?」
う~ん、これは後でネットで売り払おうか。ヒガナたんにはまた手伝ってもらおう……タダ働きでな!
「き、君たちはいったい……?」
「君達は一体?と訊かれて素直に応える馬鹿ではないがな……はじめまして、と挨拶ぐらいはしてやろうか。チャンピオン・ダイゴ」
「そうか、君たちが例のマグマ団2人組みだね……??」
「大正解。オレがオメガ。で、こっちがルビー。まー親しみを込めてウサギちゃんとでも呼んでやってくれよ」
「ふわぁ……おはよーっす」
なに、この可愛い生き物。
眠たそうだな、ウサギちゃん。
「さて、挨拶も自己紹介も終わったし単刀直入に言おうか」
さー作戦開始だウサギちゃん。
オレはマルチナビのカメラ機能で動画の撮影を開始した。
「オレ達のシナリオにお前が邪魔だ。だからこの物語から退場をしてもらおうかチャンピオン!!」
「一番手はチルタリスっす!さーさー、テメーのポケモンを出しやがれッス!チャンピオン!!」
「ッ!?」
こうして、稀に見る限りなく公式でフェアなポケモンバトルが勃発した。
ウサギちゃんVSダイゴ。
実況と審判と撮影担当はわたくしマグマ団カガリ隊したっぱ見習いエリートことオメガが勤めさせていただきやす。
以下省略。
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それは昨晩の作戦会議のこと。
いつものようにトランプをしながらウサギちゃんとワイワイしながら今後の作戦を立てたワケだけども。
「なーウサギちゃん。そろそろホウエンのチャンピオンにはここいらで退場してもらおうか」
「あーいいっスねー。これでウチの恨みが全部晴れるワケじゃねーっスが……」
「まーアレだ。バッジ8つも持っていないトレーナーがチャンピオンとバトれるなんて滅多にないぜ。この機会を逃すのも勿体ないってもんだ」
「じゃあウチが1人でヤっていいんスか?」
「おう頑張れよ。オレはウサギちゃんが勝ってくれるって信じてるぜ」
「モチのロンっす!」
などと、バイオレンスな話でキャッキャウフフのババ抜きをしているオレたち。
今回の任務、オレはちと先走ってしまったがウサギちゃんのおかげ(腹痛はおかげ様で治りました)上手いこと状況をコントロールすれば飯うま展開に持っていけそうだ。
この任務自体は原作通りなシナリオなのだが……例の荷物を持ってオレ達から逃げ回るハルカちゃんがチャンピオンと合流するって構図がめんどくさいことになるじゃん?
チャンピオンに例の荷物を預けられたり、カイナの博物館まで一緒に動向されると邪魔で邪魔で仕方がないじゃん?
オレの思い描くシナリオにチャンピオンはいらない。
だから、ハルカちゃんとチャンピオンの合流を阻止するためにムロの石の洞窟で待ち伏せして叩く。
さてさて、飯うまなのはここからだ。
チャンピオンをボコる際、オレはこの手にあるマルチナビの録画機能を活用してマグマ団VSチャンピオンのポケモンバトルを動画に収め、ネット上に配信してやる予定だ。ホウエンテレビ局にも投稿してやろう。
タダで提供してやってもいい。
それそどまでにチャンピオンの敗北には価値がある。
チャンピオンの敗北が与える影響ってのは計り知れないからな、ポケモン協会は騒然とするだろう。世間は震撼せざるを得ないだろう。
この動画のメッセージを読み取った者たちはどう動くか。オレ達は今までアクア団以外の一般人にはなるべく攻撃してこなかったが今度からはそうはいかない。
マグマ団ヤベェ、あの2人組みまじパネェ。チャンピオンがあのザマだ、もう邪魔しない方がいい!と世間への牽制になるだろう。
マグマ団も例の荷物を狙ってやがる、我々が先に手に入れるんだ!とアクア団を煽れるか……
チャンピオンとのバトルを終えたらトドメを差し、すぐさま動画配信をする。
ダークライはいないがウサギちゃんのゲンガーでこと足りる。
ハルカちゃんはチャンピオンに頼れなくなり、いつでもオレの好きなように美味しく料理してやるんだけども、少し泳がしてカイナの博物館へ向かわせよう。
原作通りに進めてもらい、その動画で煽られたアクア団たちも確実に博物館に集合させて、そこをオレ達が美味しくいただくのだ。
オレ達というイレギュラーが原作に加わり不確定要素が多々あったが、ここまですれば大丈夫だろうか。
「まさにゲス先輩の極みッスね!」
「………」
ウサギちゃんの渾身のボケはスルーして。
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ポケモンバトルの内容は割愛せてもらうが。
チャンピオンの手持ち6体の内、5体まで撃破したウサギちゃん。
ミミロップはあまり褒めたくないが、チルタリス、ホルビー、ザングースは格上相手によく頑張ったていたぜ。
さあ、残りは1体。
相手はレベル80のメタグロス。
こっちはゲンガーが打倒だろう。
だがしかし、ちょっと待て。
「やっと来たか、ハルカちゃん。運が良いのか悪いのか……少し待ってな、お仕置きなら後でたっぷりしてやるから」
「そ、そんな、あのダイゴさんが……それにユウキ君はどうしてココがわかったの!?このストーカー!!」
「ストーカーを先にしたのはお前だよハ~ルカちゃん!!?」
「ぺっ……」
やれやれだぜ。
バトルに水を差されて不機嫌になるウサギちゃん。
ハルカちゃんを睨むよりオレを睨んできた。
はいはい、ハルカちゃんはさっさと追い払いますよ~……ってな。
「あの子は一体……?」
「おーチャンピオンもハルカちゃんが気になるか……アレだよアレ、ツワブキ社長から連絡ぐらいいってるだろう、新人トレーナーがムロへお前に届け物があるぐらいな」
「そうか、君が……」
「ダ、ダイゴさん、あたし……」
ハルカちゃんとチャンピオンが見つめ合う。
おいこら、そこ、何見つめ合ってんだよ。
どうしてウサギちゃんはまたオレを睨むんだよ。
「ダイゴさん、あたしも一緒に戦います!」
「それは駄目だ!君は今すぐココから立ち去るんだ!!」
「どうしてですか?あたしだって戦えます!サポートぐらいできます!!ダイゴさんの力になれるかも!!」
なんとも面白くないジェラシーな展開だ。
「ありがたい申し出だが、やはり駄目だ……」
「どうして……!?」
「そりゃこれが曲りなりにも公式戦だし、ハルカちゃんが参戦したところで足で纏いにしかならないから」
「ユウキくんはちょっと黙ってて!!」
「………」
この動画、ネットに流すの止めようかな~。
でも作戦に支障出るし、編集してる時間あるかなー……ここの部分だけでもカットしたい。
「ハルカちゃん。君を邪険にしてるわけじゃないんだ。僕の話を聞いてほしい」
「は、はい……」
………。
「見ての通り僕は今苦戦している。どう見たって不利な状況だ。彼女は手持ちはまだ2体、どちらも強敵に違いない。勝つか負けるかは五分五分……しかし、もし仮に僕が勝てたとしてもまだ彼がいる。ここで僕だけ1人犠牲になるか、君と一緒に戦って心中するかを天秤で推し量ったら……僕の言いたいことわかるよね?」
「で、でも……」
「よーく考えて。親父が……もとい、ツワブキ社長が言っていた荷物の中身は手紙でしか内容がわからないけども、彼らがここで僕を潰そうとするからにソレはよほどの重要なモノらしい。だから、君が手紙の内容を読んで君が僕の代わりに使命を受け継ぐんだ!!」
チャンピオンはメタグロスをメガ進化させた。
こっちはウサギちゃんがゲンガーをメガ進化させた。
「さあ行ってくれ!僕が時間稼ぎをしている間にっ!!」
「くっ、ごめんなさい……っ!!」
ハルカちゃんは回れ右して去っていった。
ジェラシーは募るばかりだがシナリオ通りの展開運びに笑みさえこぼれてくる。
ニヤリとオレは不気味に笑っているだろうか。
「チャンピオンの自分を捨て駒にして少女を守った!男をみせたな!!その名誉ある行動に憧れる痺れるぅってな!!だがしかしだ、チャンピオンが時間稼ぎしかできないとか笑止千万。そんなじゃこの残酷な世界は救えないんだよ……だから、もうチャンピオンの座から降板しろよお前」
というかハルカちゃんに熱い眼差しを向けた罪は重たいぜ。
「バトルを中断させて悪かったなウサギちゃん!バトル再開だ!!」
「ぺっ、ラストバトルっす」
「くっ……」
さあ、チャンピオン。お前にとってのラストバトルだ。
後に世界に激震が走ること間違い無しの、期待通りの展開になったのは言うまでもないがな。