オメガ&ルビー~マグマ団カガリ隊に配属された件~   作:れべるあっぷ

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最強の切り札

 旅に出て3日目の朝―――――

 

 素晴らしく目覚めの悪い朝が来た。

 

 あたし、オダマキ・ハルカはハギ老人の小屋に泊めていただいた。

 

 汗はびっしょり。悪夢にうなされ、心配したハギ老人とキャモメのピーコちゃんがあたしの顔を覗いていた。

 

「おはようございます……ハギさん、ピーコちゃん」

 

「おはようなのじゃ、ハルカさんや。大丈夫かの?ずいぶんうなされていたぞい」

 

「ピー」

 

「だ、大丈夫です……それよりも、昨日話したとおり直ぐに仕度しなくちゃかも」

 

「うむ。しかし、まずは腹ごしらえは大事じゃ。ピーコちゃんや、朝食の用意ができるまで見張りの方頼んだじょ」

 

「ピー」

 

 敬礼したピーコちゃんは小屋を出て怪しい人物がやってこないか見張りを買って出てくれた。

 

―――AM6:00―――

 

 あたしは悪夢を見た。

 

『ねぇ、アナタ誰?』

 

 あれはホラーだ。

 

 もう1人のあたしを見ただけで背筋がゾッとするほどに。

 

 あの悪夢がこれから起こる未来なのか、なんなのかは正直な所わからない。

 

 でも、1つだけ分かることがある。それは、あの夢が正夢にならないために全力で頭をフル回転させること。

 

 まずはユウキくんへの対策をしなくちゃならない。

 

 もうあんな奇襲作戦が通用するとは思えない。

 

 真正面からは尚更、今のあたしじゃユウキくんには敵わない。

 

 レベルが違いすぎるのだ。

 

 でも、作戦が無いわけじゃない。

 

 ちゃんと考えてある。

 

「ハルカさんや、ハギ特製の朝食サンドじゃ」

 

「いただきますかも!」

 

「ピー!!」

 

 これを食べたらムロへ直ぐ向かおう。

 

 ハギ特製サンドはなんだか勇気を貰えた気がする。

 

 このあと、ハギ老人の船であたしはムロへ向かった。

 

―――AM6:20―――

 

 東から昇る太陽を背にしピーコちゃんを先頭にぐいぐい進んでいく。

 

 風が気持ちい。

 

 手を広げ全体で風を感じる。

 

 空も飛べたらこんな気分を味わえるのだろうか。

 

 憂鬱な気持ちも吹っ飛んでいきそうだ。

 

「それで、どうやってマグマ団を迎え討つんじゃ?策はちゃんと考えてあるのかのう?」

 

「心配ご無用ですかも!!」

 

 ハギ老人が訊いてきた。

 

 ハギ老人は本当に良いヒトだ。

 

 こんなあたしを心配してくれている。孫のように身を案じてくれている。

 

 でも大丈夫だよ。心配しないで。

 

 あたしにはとっておきの切り札がある。

 

 これからその最強の切り札に会いに行くんだ。

 

「ホウエン最強のポケモントレーナーがムロにいるんです。大丈夫です!なんとかなります!!」

 

 我ながら意気込んで旅に出たものの……なんというか、もう既にチャンピオン頼みなのだ。

 

 いつもテレビで拝見させてますかも。

 

―――AM7:12―――

 

 ムロに到着したあたしは真っ先に向かったのはポケモンセンター。

 

 情報収集ならそこに行けというのがハギ老人の教え。

 

「ダイゴさんですか?確かにこの島へ訪問しているという話は窺っていますが、それは昨日のことですよ」

 

 今日も滞在しているとは限らない。

 

 あぁ、昨日ユウキくんを待ち伏せしてしまったから。

 

 あたしのミスかも。

 

「あの、一度ムロジムへ行ってみてはどうでしょうか?彼と交流のあるジムリーダーのトウキさんなら、彼の居場所を知っているかもしれません」

 

 それだっ!

 

「どうもありがとうかもジョーイさん!!」

 

 あたしはジョーイさんにお礼を言って回れ右してポケモンセンターを後にした。

 

―――AM7:27―――

 

 ジムの方角目指して駆け足だ。

 

 塗装されていない土の上を走る。石ころ蹴飛ばして走り続ける。

 

 ムロって何もないんだね。まーミシロタウンも似たようなとこだけど。

 

 民家は少なく家から家までかなり距離があったり、お隣さんの家まで徒歩5分とか10分とか珍しくないのかも。

 

 でも、畑や田んぼがこんなに広がっているだなんて、ミシロでは見られないかも。

 

 こうやってちゃんと辺りをみればいろんなことが発見できる。

 

 ミシロとは違う自然が広がっていて野生のポケモンたちも違う。

 

 新たな出会い、新たな発見、本当に凄い。

 

 あぁ、素敵かも。

 

 もちろん感傷に浸ってる場合じゃない。

 

 でも、あたしの旅は駆け足過ぎた。

 

 もっとゆっくりと旅をしてみたい。

 

 もっといろんな人たちと出会い沢山のポケモン達と触れあい様々な場所へ足を運んでみたい。

 

 だからまずはダイゴさんだ。

 

「おわっ!?」

 

 ぬかるんだ土の上……

 

 スベった、転んだ、もの凄く痛いかもっ!?

 

 田んぼで作業していたおじさんの視線も痛いかも。

 

 ムロにやってきたランニング少女が朝から田んぼに突っ込んだ、とでも噂されるのかも。

 

 あたしは顔に泥をくっつけたままその場から退散し、やっとのことでムロジムへ到着した。

 

「はっはっはっ!こんな朝から泥だらけのジム戦へ挑戦とはイイ心掛けだ!準備は万端だなキュートなチャレンジャー!」

 

「ち、ちがっ、ジム戦しに……」

 

 挑戦しに来たわけじゃないと言いたかった。

 

 この泥も田んぼに突っ込んで、と既にバテ気味なあたしは声を詰まらせた。

 

 そのせいで……

 

「オッケー、皆まで言わなくていい。伝えたい事はポケモンバトルで、そしてお互いの筋肉で熱く語り合おう!!」

 

「………」

 

 時間が無いのですが!そして暑苦しい!!

 

 ジムリーダーのトウキさんは苦手なタイプかも。

 

 せっかくのイケメンが筋肉で台無しかも。

 

 思わぬ強制バトルにあたしは涙目かも。

 

―――AM8:01―――

 

「ダ、ダイゴなら、彼ならさっき石の洞窟へ出かけたよ。俺との朝練よりも石探しさ」

 

「どうもかも……」

 

 ジム戦には勝った。

 

 ツツジさんが言っていた。ジム戦はトレーナーの持ってるバッチの数に合わせて、それ相応のポケモンを出してくる。

 

 だから誰にもチャンスがあり、しかし誰もがバッジを勝ち得るわけではない。

 

 ポケモンのレベル。トレーナーのセンス。技術、知識、愛情、絆などそういったものを試す場であり、バッジを与えるのに相応しいかどうかをジムリーダーは試してくる。

 

 残酷なのは何年かけて努力してもバッジを手に入れられないトレーナーもいるらしいけども。

 

 アチャモから進化したワカシャモは強者へ立ち向かう勇気を評価された。

 

 ダンバルから進化したメタングは主人への忠義を評価された。

 

 キノココから進化したキノガッサは攻撃もできサポートもできる万能性を評価された。

 

 そして、あたしとポケモン達との間には確かな絆があり実力もあったので、ナックルバッジを手にするだけのトレーナーに値する認められた。

 

 確かにジムバッジは実力を計るためにいい腕試しになった。

 

 ユウキくんとの最終決戦は避けて通れない運命、課題もたくさん見つけた。

 

 だから、あたしはトウキさんへ感謝しなくちゃならない。

 

 筋肉は苦手だけどもジム戦ありがとうございました!

 

 でもやっぱり今は時間が惜しいかも!!

 

 あたしはムロジムを後にした。

 

―――AM8:17―――

 

 あともう少し。

 

 一度ポケモンセンターへ戻りポケモン達を回復させてから石の洞窟を目指した。

 

 準備は万端。

 

 また鼓動は高まっていく。

 

 不安とそれ以上の希望を胸に抱いて。

 

 それにしても石の洞窟はちょっと遠いかも。しかも何もない場所にある。

 

 最後の民家を見かけてからだいぶ時間は経った。

 

 あ、ヒトだ。

 

 バックパッカーのお兄さんがいた。

 

 もちろんポケモンバトルはスルーするけども。

 

 こんな辺ぴなところに彼みたいなトレーナーがいるってことは石の洞窟も近くにあるはず。

 

 ビンゴ。

 

 少し離れたところに洞窟の入り口らしき場所を発見した。

 

 乱れた呼吸は整えない。

 

 このまま突入する。

 

 思っていたよりも時間はロスした。

 

 ハギ老人は早くこの島から脱出して次の町へ行った方がいいとも言っていた。

 

 今日中なら島の端で待っててくれている。

 

 ダイゴさんに会ってこの例の荷物を預けて、そっから今後の作戦を立てよう。

 

―――AM8:26―――

 

 石の洞窟の奥に進めば特別な空間に行き当たった。

 

 遺跡のような場所、大きなの空洞のその突き当たりには巨大な壁画が岩に描かれてあった。

 

 あれは……夢で見た伝説のポケモンが災厄をもたらす絵だ。

 

 絶対に訪れてはいけない未来。

 

 鳥肌がたった。背筋がゾッとした。

 

 そして、何より怖気付いたのは……ダイゴさんがいて、ユウキくん達もいたこと。

 

 すでにダイゴさんはマグマ団のフードを被った女の子と戦っていた。

 

「くっ……プテラ、距離を取って岩落としっ!!」

 

「ミミロップ、跳躍して冷凍パンチッす!!」

 

 ありえない程に跳躍したミミロップの冷凍パンチがプテラを捉え叩き落した。

 

 ありえない……ダイゴさんが苦戦していた。

 

「よぉーしっ!!5体目撃破っ!チェックメイトっす!!」

 

「くっ……」

 

 このホウエンで最強のトレーナーが、チャンピオンが苦戦していた。

 

 そんな……

 

 悪い夢なら覚めてほしいかも………


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