オメガ&ルビー~マグマ団カガリ隊に配属された件~   作:れべるあっぷ

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三人称視点

 あたしは夢を見た。

 

 ポケモンチャンピオンを目指し、オダマキ博士から初めてのポケモンを貰って旅に出る夢を見た。

 

 ユウキくんとは103番道路の池の近くで初めてポケモンバトルをした。

 

 トウカシティではパパに挨拶して、ミツルくんにはポケモンを捕まえる手伝いをした。

 

 トウカの森でマグマ団からデボンの研究員を守り、盗まれた大事な荷物をマグマ団から取り戻した。

 

 ジムリーダーのツツジさんはとても親切でポケモンスクールでは先生もしている尊敬できるお姉さん。バトルの後も少しレクチャーしてくれた。

 

 ツワブキ社長からお使いを頼まれてトウカの森を抜けハギ老人の元へ行き、明日にはムロへ向う予定だ。

 

 この2日間だけで物語はあたしを大きく成長させてくれた。

 

 明日はどんな出会いが待っているのかな。

 

 とても楽しみかも……。

 

 でも、違う。こんなの違う。

 

 あたしの世界はこんなにも美しくない。

 

 素晴らしくもあたしが思っている以上に残酷な世界だ。

 

 人々は笑顔だけど、時々何かに脅え生きている。

 

 アクア団に、マグマ団に……そして、ユウキくんに。

 

 彼らと話すと時折耳にするのはあの生放送。次に事件が起きるのは、悪魔の子が次に暴れるのは自分たちの町かもしれない不安と恐怖。

 

 だから、あたしは旅に出た。

 

 ユウキくんを止めるために、ミシロタウンに連れて帰るために。

 

 だから……この夢はあたしが望んだ美しい世界なのかもしれない。

 

 旅に出てライバルのユウキくんと競争して、ポケモンリーグを目指すとても素晴らしいだけの夢物語なのかもしれない。

 

 旅の第1歩を踏み出そうとするあたしの背中を、ミシロから吹く風がそっと押してくれるのが妙にリアルだった。

 

 でも、この夢はどこか変だ。

 

 とても変だ。

 

 あたしはパパのことをオダマキ博士と呼ばないし、センリおじさんのことをパパと間違えるはずがない。

 

 夢に出てきた病弱の子……ミツルくんと名乗った男の子とは会ったことすらない。

 

 トウカの森で初めに出会ったのはアクア団で、その後も悪さをして荷物を強奪したのはアクア団。

 

 ジムリーダーのツツジさんは先生ではなく生徒。

 

 マグマ団が現れたのはトウカの森へ折り返した時で、ここで初めてユウキくんと出会った。

 

 とても違和感を感じるのだけど妙にリアルで気味が悪い。

 

 あたしの旅はここで中断してしまっている。

 

 明日が楽しみだけど、明日はまだ訪れていない。

 

 だから、この旅の続きは見れそうにない。

 

 夢物語を見れないどころか、誰かに背中を押された。

 

 背後から突き飛ばされた。

 

(………ッ!?)

 

 驚きのあまり声が出ない。

 

 気が付けばあたしは荒れ狂う海に突き落とされていた。

 

 場面は急変する。

 

 暗雲立ち込める大嵐の中、あたしを突き落とした犯人はユウキくんだった。

 

 悪魔の子の方だった。

 

 ユウキくんは今日あたしに見せたあの冷徹な目であたしを見下ろしていた。

 

(………っ!!)

 

 なにか言い返したかったがやはり声が出ない。

 

 当然だ、口を開けば海水が入りこんでくる。

 

 鼻にも侵入してきた。

 

 息ができなくて、必死に呼吸をしようと醜くもがく。

 

 ユウキくんの姿を探そうとも既に彼は消え去っていて、代わりにいたのは見たことのない巨大なポケモンと1人のアクア団の男だった。

 

 どちらも名前は知らない。

 

 でも、そのポケモンが伝説と呼ばれる存在で、この辺り一帯を嵐にした元凶だということはあたしにでも分かった。

 

 なんて存在感なんだろうか、なんて禍々しい力を放っているんだろうか。

 

 災厄そのものだ。

 

 こんなポケモンを野放しにしてホウエン地方に平和が訪れるわけない。

 

 恐怖で体が萎縮するけども、あたしはとっさにモンスターボールに手を伸ばす。

 

 しかし、空振りに終わり荒れ狂う波に飲み込まれた。

 

 視界の端にはアクア団の男の顔を捉えた。

 

 荒れ狂う海の上に立っていた人物はウエットスーツを身に着た男だった。碇を鎖で飾ったネックレスを身に付けていた。

 

 したっぱじゃない、もっと上の……ボス的存在。

 

 絶望し全てを諦めていた男の顔をしていた。

 

 そして、あたしは完全に海にのみ込まれた。

 

(たす……けて…………)

 

 もう波に抗うだけの力は残っていない。

 

 手持ちのポケモン達もどうやら流されてしまっているらしい。

 

 涙も救いを求める声もユウキくんへの想いも、全て海水と混ざりあって消えていく。

 

 水温はあたしの体から熱を奪い取り、下へ下へ沈んで行けば行くほど押し潰されていく。なにより、光が届かない海の底は孤独だ。

 

(くらい……つめたい……さむい……くるしい……さびしい……たすけて……………………)

 

 なにが夢物語。

 

 悪夢でしかない。

 

 これが未来への暗示なのだろうか。

 

 あたしが思っているより遥かに世界は残酷そうだ。

 

 だから強く生きていく術を身に付けなきゃならない。

 

 アクア団にもマグマ団にもユウキくんにも勝てるだけの策を用意しなくちゃならない。

 

 感じろ。考えろ。己を信じろ。

 

 ツワブキ社長から頼まれたこの荷物を届ける意味がどれだけ重要なのか、この悪夢と直結することは簡単に想像できた。

 

 だけども……

 

(たすけて……たすけて…………………ひとりぼっちは、いやだ……………)

 

 否、違う……

 

 そうじゃない。

 

 さっきからずっとあった違和感はこのせいか……

 

 あたしの夢が三人称視点だってこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ねぇ……あなた、だれ?)

 

 ……っ!??

 

 まさか、夢の中のあたしと目が合うとは思わなかったかも。


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