オメガ&ルビー~マグマ団カガリ隊に配属された件~ 作:れべるあっぷ
アチャモはとび蹴りを覚えない。
ダンバルはロケット頭突きを覚えない。
これ、大事……いや、大事件か。
やっとハルカちゃんと出会えたと思った矢先がこれだ。
運命的な出会いなどでは無く、必然的に出会うことは10年前から約束されていた。
感動は無く、しかし彼女との出会いは劇的だった。
「はじめましてかもユウキ君!あたし、オダマキ・ハルカ!よろしくね!!」
「うぅ……」
こんな素晴らしい世界で君と出会えたというのに……
こんなとびきりな笑顔を向けてくれているというのに……
こんな、こんな………なんで、くそっ。
なんで、この世界はどこまでいっても残酷なんだッ!!
「あっ、いきなり卑怯な真似してごめんなさい」
「うぅ……」
………。
「でも、仕方が無いよね!あなたが悪党なんだから!だからあたしは悪くないかも!」
「うぅ……」
………。
さらっと笑顔で恐ろしいこと言ってくれな。
誰だ、ハルカちゃんをこんな子に育てた奴は!!
オレはショックを隠せずにいた。
自分は悪くないと言い切るハルカちゃんの将来が心配だぜ。
いや、少しは申し訳なくは思っているんだろうけど、笑顔だから恐ろしい。社会に出たらマイナス面でしかない言動だ。
とんでもないことだが、このじゃじゃ馬はオレが想像していた人物像とはちょっと違うようだぜ。どこかの誰かさんと同じ属性にだけはならないで貰いたいもんだな。
なーウサギちゃん。
「でも、ユウキ君よりそっちの子の方があたし的に心配かも」
「うぅ……うぐぐ…………」
「………」
さっきから呻き声を出しているのはオレじゃなく絶賛腹痛のウサギちゃんだ。
やれやれだぜ、ウサギちゃん。
「はーやれやれ。あと5分待て。5分で終わらしてやるからな、ウサギちゃん」
「うぅ………」
5分も待てねーッス、と両膝付いてお腹を抱え蹲るウサギちゃんに萌えるオレ。
オレは顔面やフード、衣装に付いた土や泥をはたいて何事もなかったかのように起き上がった。
「普通に立ち上がっちゃった……アレくらってノーダメなの??」
「阿呆か、普通にイテーよ。人に向かってポケモン技撃つなって教わらなかったのかいハルカちゃんは?」
「サナちゃん……じゃなかった。あたしの師匠はあなた限定なら殺すぐらいにヤらないと倒せないから躊躇わずにヤって良しと許可が降りてるかも」
「うぉい!?」
サナちゃんってあのサナちゃんか!?
オレが実家に自宅警備員として左遷した悪女(へんたい)なサナちゃんか!?
おいおいおい!サナちゃん、なに勝手にハルカちゃんの師匠になってんだよ!?
今の会話で確信した!!
このじゃじゃ馬のハルカちゃんの将来が本当に心配になってきた!!
つーか、完全にオレの失態じゃねーかよ……
「というか、ユウキ君は他人のこと言えるの?」
「………ユウキじゃねーし」
「あたし、あなたの非道をテレビで見たもの。アレは人でなしがすることかも。とても見ていられなかったかも……」
「………アイツらがオレ達にやったことに比べれればカワイイもんだぜ、ハルカちゃん。それに、君もたった今同じことをしたんだ。君も人でなしだ」
「そう、かもね……」
さて、戦闘態勢に入ろうか。
かと言ってポケモンを出したいがハルカちゃんが黙って見ているはずもないがな。
「でも、あたし決めたんだ。どんな手を使ってでも、あなたをセンリさんとおば様の元へ連れて帰るって!2度と家出しないよう師匠と一緒にキツいお仕置きをするって!!あたしの想いをぶつけるって!!ジムリーダーのツツジさんもユウキ君の事を本気で心配してくれているんだから!!」
「ちょっと待て、なんかとてつもなく不穏なワード混ぜなかったか今!?帰るに帰れなくなったぞ!!?」
「大丈夫。安心して、あたしの師匠だけどもサナちゃんは花嫁修業いっぱい頑張って、ユウキ君の帰りを待ってるだけの話しだよ!だから……だから、あたしと一緒に帰ろうっ!」
「よしっ、もうそれ聞いて帰ると答える奴はいない!絶対に帰らない!絶対ぜ~ったいにだ!!」
「あーもう、わかったかも!だったら力尽くで連れて帰るだけかも!アチャモ、もう1回とび蹴り!ダンバルはロケット頭突き!」
「ちっ、だからアチャモはとび蹴りを覚えないつって………!??」
つっても確実にオレにダイレクトアタックがとんでくるがな。
さっきは後ろを向いていてわからなかったが、そういうことだったのか。
先より速さを増した加速アチャモのとび蹴り……もとい電光石火。ダンバルはアイアンヘッド。ハルカちゃんの言い間違いではないな、ワザとポケモン技を間違った名称でコイツらに教えたんだ。
トレーナーを惑わすためだけに……オレが考えそうな、否、サナちゃんが考え教えた、いやらしい小細工だ。
だがしかし、この程度ならオレなら捌ける。
躰してヤミカラス出して終いだ。
「あ、忠告してあげるけども、あたしのポケモンはいつ2匹だけと言ったかな?」
「なにッ!?」
ヒュ~、やるねー……
指が動かなかった。足が動かなかった。
原因は頭上から降り注ぐ「しびれ粉」だ。
「トウカの森はキノココの庭だもの!木登り名人な子だっているかも!!」
「キノッ」
頭上から振り注ぐしびれ粉を吸い込んで痺れてしまった。
身体の自由が一瞬奪われ回避が間に合わなかった。
伏兵とはやるじゃないか、ハルカちゃん。
オレの鳩尾にアチャモのとび蹴り(電光石火)が炸裂する。
ホゲーッ!?とヒトが発してはいけない悲鳴がオレの口から飛び出した。
そしてワンテンポ遅れて、ダンバルのロケット頭突き(アイアンヘッド)がオレの顔面を強襲する。
「「―――――――ッ!??」」
ゴンッと、とても鈍い嫌な音が鳴った。
オレはもれなく地べたに転がった。
だが、
「うそっ、なんて石頭なの!?デタラメ過ぎるかも……ッ!!」
「バ、バル………ッ!?」
ダンバルも地べたに転がった。
ふははっ、伊達に荒くれ者のリザードンや甘えん坊のバンギの相手してねー。
顔面直撃コースだったが無理やり体を捩じらせて頭突きで勝負してやったぜ。
よほど痛かったのか、ダンバルは涙目だ。
オレも涙目にながら額から血を垂れ流しているがな。頭も腹もイテーよ。
「ア、アチャモ、今の内にトドメの電光石火……もとい跳び蹴りかも!!」
「チャ、チャモッ!!」
焦ったハルカちゃんはオレにトドメを差そうとアチャモに命令した。
トドメとか言わないで欲しいけど、欲張ったなハルカちゃん。
アチャモの電光石火はもうオレに届かない。
「あ、あともう少しだったのに……」
「おしかったなー、駆け出しのルーキーにしては上出来だったぜハルカちゃん」
アチャモのかぎ爪で捕えたのは漆黒の翼。
言い換えれば、かぎ爪を受け止めたのドヤ顔のヤミカラスだ。性格はずぶとい。
「アホーッ!!」
「アホーじゃねーよヤミカラス。Oパワー発動、特攻パワーを3段階上げるぜ!」
ヤミカラスの特攻がぐぐぐーんと上がった。
「なに、それズルいかも!?」
さて、その台詞はスルーして。
「うぅ……うぐぐっ……ゲンガー、シャドーボールであそこの木の枝を狙えッス」
「ケケッ……」
ウサギちゃん、やっぱりお前ってサイコーだぜ。
最後の力を振り絞っては影からゲンガーを出して、木の枝にいたキノココを枝ごと打ち落としてみせた。
いや、初めからウサギちゃんのゲンガーで3匹相手していたらよかったんじゃね?とオレも思ったりするんだけど、レベルの差が圧倒的過ぎて可哀相とか思ったりしなかったり。
「ちょっと!そこのあなた!!あたしとユウキくんの初めてのバトルに水差さないで欲しいかも!!」
ハルカちゃんから初めて笑顔以外の表情を見たかも。
ブーたれている。
「まーアレだ。なにを勘違いしてるんだか知らないが、公式戦でもなく、ましてや3匹でオレを本気で狩りにきた君が言えるこっちゃねーんだがな。そもそもオレ達はハナから2人で君を狩るつもりだったんだが」
「むー……」
やだ、なにこのカワイイ生き物。
「っていうか、その世にも珍妙な白いゲンガーはお腹を壊してるぐらいだったら邪魔してほしくなかったかも」
「まーそう言ってやるなよハルカちゃん……」
「ケケッ……オロゲェッ…………」
「「………」」
ウサギちゃんのゲンガーはちと特殊だ。
白いウサギちゃんのように白いゲンガーはお腹が痛いウサギちゃんと同じくお腹を壊していた。
つーか、今吐いたよな?
これは一大事だ。
「まー、なんにしてもそろそろ5分だ。遊びも終わりにしようぜ、ハルカちゃん」
「あ、あははー、流石に今のあたしじゃユウキ君のポケモンには勝てないかも……」
と、まだ笑顔を忘れないハルカちゃんに100点。
しかしポケモンのレベルの差は歴然。
「ヤミカラス、バークアウトッ!!」
「アホーッ!!」
五つ子ちゃんから貰った技マシンも有効に使わないとな。
バークアウトは威力50だが全体攻撃なだけに優秀だ。
アチャモとダンバルと木の枝から落ちたキノココもまとめてぶっとばした。
すでにレベル40オーバーでさらにOパワーを施したヤミカラスの攻撃に、レベル17前後のアチャモたちが耐えることはなかった。
オレ達の勝ちだ。
しかし……
「うぅ……先輩……もうウチ駄目かもしんないッス」
あともう少しの辛抱だウサギちゃん!
ファイトだウサギちゃん!!