オメガ&ルビー~マグマ団カガリ隊に配属された件~ 作:れべるあっぷ
4時間前のこと……
オダマキ・ハルカがマグマ団2人組みと出会うちょっと前の話し。
デボンコーポレーションの社長から重要な依頼を受けたハルカはカナズミシティを後にトウカの森に入る前、ある人物から電話があった。
『もしもし、ハルカさんっ。ツツジです、昨日のジム戦ぶりですわねっ』
「はい、昨日はお世話になりました。かも!!」
ハルカに電話をかけた相手はカナズミシティのジムリーダーであるツツジであった。
ただ普段のツツジからしてみれば少々早口だ。
「ツツジさんから貰ったこの技マシン「岩石封じ」は必ず悪党に天誅キメて有効活用してみますかも!!」
『いや、天誅キメてって……ハルカさん、あなた一体どこでそんな物騒な言葉覚えたのですか!?』
「どこでって……師匠から、かも?」
『何故に疑問系ですの!?それとその師匠の方とは1度会ってちゃんとお話ししないといけませんわね!!って、この話は今は置いといてくださいな……』
少々ヒステリックになってしまったと自覚するツツジ。
その原因が誰にあるのかは明らかだが……電話越しから『お会計7500円でーす』という声も聞こえてきたがハルカの知る由もないが、モンスターパフェ1500円のを4杯分には絶望していた。
「ツツジさん、何か良いことでもあったんですか?声が活き活きしてるかも」
『そ、そんなことありませんわ!!といったら嘘になりそうですが……』
「それで何があったんですか?あたし、そろそろトウカの森に入っちゃうかもで、電波の心配があるかもです」
ハルカの旅は駆け足だ。
一旦立ち止まって話を聞くという考えには至らなかったほどに。
『そうですわね。では単刀直入に云いますと……今、あなたはマグマ団から狙われてますの』
「………」
『ハルカさん、あなたデボンコーポレーションのツワブキ氏もとい社長さんから何か大事な荷物を預かっていませんか?』
「はい、確かに預かりましたかも」
『その荷物を狙ってマグマ団2人組みがトウカの森で待ち伏せをしようとしてますの』
「そうですか……じゃあ、気を引き締めて行かないと、なのかも」
ツツジがハルカにマグマ団2人組みだけしか伝えなかったのは彼女なりの気遣いだ。
ハルカの旅の目的は聞かされている。だからこそ、ユウキという名前は出したくなかった。
否、この会話の流れでは結局バレる。
もう少し考えて口にすればよかった。
ハルカはとても勘が鋭い。
それはジム戦でわかっていたことだったが……
だから、ちゃんと伝えようとツツジは告げる。
『ハルカさん、待ち伏せをするマグマ団2人組みの内1人はあなたが探していた人物ですわ』
「ほ、本当にですか!?本当の本当にユウキくんがっ!?」
ほら、活き活きしてる。目がキラキラ輝き出すほどに。
『えぇ、彼らは先ほどまでカナズミシティのカフェで一服していたようですわね。と言いますかハルカさんがメインストリートを通り過ぎるのを待ち伏せていたと云えばいいでしょうか。その時にこっそりお話しを聞かさせていただきました』
こっそりというか盗聴だが。
『マグマ団然りアクア団然り、例の荷物が喉から手が出るほどに欲しいそうですわね。争奪戦と云えば不謹慎でしょうか……しかし、今の現状になったがためにマグマ団は早急に対応して切り札を出してきたと云えばわかりますね?』
「ニュース番組や特番で否が応でも思い知りましたからね。今のユウキ君に勝てる人っているんですか?」
『私が知る中で可能性があるとしたら、正直なところホウエン地方の中でも指折り数える人もごく僅かですわね。悔しいですけど、我々が正面から向かっていくだけ黒コゲになってしまいますわ』
「………」
旅に出かけるきっかけになったあの生中継映像が鮮明に脳裏に浮かび上がってくる。
彼の黒いリザードンがもしトウカの森に放たれたらと思うとゾッとする。
あのレベルに到達するには何年かけてもできないトレーナーが殆どだというのに。
あのレベルに到達できるのは一握りだというのに。
そんな敵に駆け出しのルーキーが相手にならないのは一目瞭然だ。
『ですから、今回は彼らと対峙しては絶対にいけません。気持ちを抑えてトウカの森を抜けることだけを専念してください』
「………」
今からカナズミシティへ引き返すことも許されない状況下だ。
『しかし正規ルートを使うのも「いあいぎり」で抜けれる道を使うのも今はオススメできませんの。ですから、多少は危険ですが獣道を行きなさい。キノココの抜け道というのがあるらしいのです。レンジャーさんと森で落ち合って道を案内してもらった方が安全でしょうけど、そんな時間もないと思います。とにかく、獣道を探してそこを辿れば104番道路に抜けれるはずですわ』
「わかった……かも」
『ハルカさん、今は辛いと思いますがチャンスは必ずあるというものです。反撃の準備を整えたら、一緒にオメガさんを……いえ、ユウキさんを迎えに行きましょう』
「ありがとう、ツツジさん」
そこで通話は終了した。
ハルカは先ほどよりも駆け足に森の中を踏み込んだ。
もうすでに方向感覚はマルチナビでしか確認できないが、これも絶対にアテにならない。もう直、電波は圏外だ。
空を覆う樹木の枝と葉の間から僅かに見える青の空には、もう既に黒き竜と白いモフモフした竜が飛んでいるのがほんの少し見えた。
アレがマグマ団の切り札だ。ユウキくんだ。直感でわかる。ビビッとくるのだ。
ハルカはすぐさま道を逸れ道なき道に立ち止まり、少し樹木を背に呼吸を整えた。
心臓が、ドキドキが止まらない。
気分が高ぶっていく。
半年だ。
ようやく会えるのだ。
この気持ちはもう抑えられない。
誰もこの気持ちを止められない。
「ごめんなさい、ツツジさん」
ユウキ君に私の存在を脳裏に刻み付けたいかも……
ハルカからしてみれば納得できないことばかりだった。
自分がユウキ君のお隣さんで幼馴染になって一番の友達になって、それからそれから……いろんな妄想が膨らむがユウキ君がマグマ団になってそれができない。しかも、彼の周りには女のニオイがするかもっ!?
要は嫉妬をしているのだ。
もちろん、少年はハルカの存在を知っているがハルカはその事実を知らない。
故に存在を知らしめるための挨拶をするかもなのだ。
待ち伏せ上等。
目には目を、歯に歯を、待ち伏せには待ち伏せを。
じっくり待とう。
日が暮れたって構わない。
マグマ団2人組みが集中力を乱したその瞬間が最大のチャンスかも。
ハルカは4時間も待った。身を潜め待ち続けた。
いつやってくるかもわからないターゲットを永遠と待つマグマ団の2人より、大体の時間を決めここぞという時に集中できるハルカに軍配は上がる。
あちらの集中力なんて森に入ってからものの30分しか続かないどころか、若干迷子になっては少女の方はお腹を痛めだす特典付き、さらには少年の方はキノココ狩りに興味を示す始末。
もちろん、どこにいるのかもわからない2人組みの様子など知ることもできないが、4時間という待ち時間があれば大方の予想は付きそうなものである。
ハルカにとっては彼らも結局は自分と同じ子供なのだ。自分なら絶対に集中力は続かない自信がある。そう想像を膨らました。
仮に待ち伏せに飽きた2人が諦めて帰るのなら、それはとても残念だけど納得するだけだ。
しかし、彼らはまだココにいるだろう。そんな確証もあったがな。
ハルカは時間を見計らいポケモン達を出して行動に移した。道無き道から正規ルートへ戻り「いあいぎり」で通れるルートを迂回しては彼らを探し出したのだ。
女の勘とポケモン達の直感を頼りに辿り着いた。
やはり彼らはいた。
呆れるほどに隙だらけだった。
少女の方はマグマ団のフードを被っていて顔がわからなかったが、蹲ってお腹を押さえていた。
少年の方はテレビで見た悪魔の子に変貌したユウキ君だった。キノココ狩りに夢中だった。
だから、ハルカは、
「勇気は凛々~元気はもりもり♪興味が津々~生きヨーヨー♪」
歌が下手くそなのは昔からだ。
だがしかし、彼は動揺した。そんな効果もあった。
いや、そんなために歌を歌ったんじゃない。
最後の一歩を踏み出す勇気。いや覚悟か……自分自身を奮い立たすためのハート・ソングだ!
「先手必勝~油断大敵♪やる気満々……アチャモは飛び蹴り、ダンバルはロケット頭突きかも!!」
「チャモチャモーッ!!」
「バル……ッ!!」
「ゴバババァァァアアアアアア!??」
ッ!!」
少しやり過ぎ感は否めないが、見事少年の背後を捉えた。
少年はポケモン技をもろくらって顔面からヘッドスライディングし地面を削っていった。
奇襲作戦のあまりのデキの良さについ口が滑ってしまう。
「よくやったわ!アチャモ、ダンバル!マグマ団を1人倒したかも!!」
このまま、ユウキ君を倒してミシロタウンに連れて帰れるかも!!などとハルカはマジ本気だ。