オメガ&ルビー~マグマ団カガリ隊に配属された件~ 作:れべるあっぷ
こんなはずじゃなかった。
そんなことを言えばウサギちゃんにウザがられるんだがな。ウサギちゃんにとってオレの悩みなんてちっぽけなもんなのだが。
だがしかしだ、こんなはずじゃなかった。
世界は素晴らしい夢と希望に満ち溢れているはずだった。
ユウキであったオレは主人公としてホウエン地方を旅するはずだった。
初めてのポケモンを貰いヒロイン達とキャッキャウフフッ、テキトーに悪の組織を蹴散らしがてらポケモンチャンピオンになって人生を謳歌するはずだった。
それは10年前から約束されていたはずだった。
でも、それを面白くないと思うヤツがいた。
まーそれが神様なのか世界そのものなのか何者かは知らないがな。少しチート性能を兼ね備えたオレを神様は許さなかったと云えばまだ少しは納得できなくもないがな。
チート性能といっても、ポケモンの三値等ゲームの知識がある程度だ。
たったそれだけでオレは主人公の座から蹴落とされた。
全てはあの日で人生が狂った。
『ギャハハッ、例のガキをゲットだぜ~』
『キャハハッ、これでジムリーダーを脅迫して身代金がっぽり貰えるわね~』
マヌケにもオレはアクア団に捕まった。
ジョウト地方からの長旅もあともう少し、引越し先のミシロタウンを目指し最後の休憩をしていた所を狙われた。
母さんから、休憩所から1人離れてしまったのが運の尽き、ちょっと珍しい野生のポケモンに夢中になって追いかけ林の中へ入っていったのが悪かった。
『ギャハハッ、身代金も魅力的だがジムリーダーって肩書きを使わないのは勿体ないぜ。アクア団の傘下に加えれば、今までにできなかったこともたくさんできるぜ。ジムの経費も搾れるだけ搾り取っちまえば良い。もっと上手くやるならジムリーダーの人柄を利用し、トウカシティの住人共を騙せばいい。てめぇ達は知らない間にアクア団の計画の片棒を担いでしまっていた。たとえば知らない間にアクア団の拠点が建てられていた。罪の意識が芽生えれば儲けもの、そいつらと直接交渉してもっと大胆な作戦だって立てられるだろ~』
『キャハハッ、イカレ野郎のわりにはまとなこと考えてるのね~』
『阿呆か、この拉致計画を考えたのは俺様じゃねーよ。それよりもこのガキを拉致したんならさっさと次の行動に移すぞ。トウカシティにいるジムリーダーとさっそく交渉だぜ~』
『え~、もう~?ちょっと私達も休憩しようよ~。私、この子で遊ぶんだ~』
『うるせーよこのショタコンが。そんなもん任務が成功したらいくらでもできるだろうが。いいか、これは時間との勝負でもあるんだ。計画は迅速かつ秘密裏に行わなければならない。世間に知れ渡ればこれはただの誘拐事件だぜ。そうなれば身代金しかブン取れなくなる。そうならないために、とっととセンリを脅して金玉でも握って傘下に置かなきゃならないんだよ。わかったか??』
『あっ、それもそっか~。じゃあボクぅ?お母さんとはここでバイバイしてお姉さん達と一緒に行こうね~』
そういって、男の方がオレを担ぎ上げようとした。
だからオレはイカレ野郎の顔面にツバを吐きつけてやった。
ホント、オレは愚かだった。
『ギャハハッ、良い度胸してるじゃねーかガキ………ぶっ殺すぞクソガキ!!』
『キャハハッ、笑うのかキレるのかどっちかにしなさいよ~』
持ち上げられた身体を思いっきり地面に叩きつけられた。
オレは勘違いしていた。拘束されているのに大人2人ならなんとか倒せるなどと、どっからそんな発想が沸いて出たんだ。
無理だろ。ちょっと考えればわかるだろ。こいつらまだポケモンさえ出していないだろうが。
イカレ野郎は地面に叩きつけたオレを何度も踏みつけた。
女の方はイカレ野郎を止めることもなくオレを庇おうともしない。逆に頭を踏みにじってきた。こいつの遊ぶっていう意味も分かった気がする。
『ギャハハッ、よーし決~めた!』
『キャハハッ、何を決~めた?』
『ギャハハッ、この生意気なクソガキを半殺しにして交渉材料にしてやるぜ~!』
『キャハハッ、そんなことしたら親はなりふり構わず何しでかすかわからないんじゃないの~?』
『ギャハハッ、なりふり構うこともできないほど絶望的状況を作ればいいじゃねーか!毒を盛って交渉が成立したら解毒剤を投薬してやる~的な~~~!』
『キャハハッ、もし交渉が失敗した場合どうするの~~~?』
『ギャハハッ、そん時はただコイツが死んで交渉決裂ってだけだぜ。まっ、たぶんそれはないと思うがな!!』
『キャハハッ、男の子が毒で悶える姿も萌えるよね~!!』
こうしてオレは抵抗することも虚しく猛毒を盛られた。
都合がよく準備がいいと思ったが、このイカレ野郎は初めからオレに毒を盛るつもりだったんじゃないのか。
なるほどな……初めは普通に交渉して、しかし父さんが渋って焦らしていたらオレに毒を盛って煽る作戦に出るっていう手も考えられる。
熱を帯び、次第に激しい頭痛と目眩と吐気が襲ってきた。
体内に何かが這いずり回ってるかのように蝕まれていき、嘔吐し胃の中が空っぽになった。体中のいたるところから嫌な汗が流れ身体の筋肉は徐々にその機能を低下させていく。
吐血を何度も繰り返し、ただ叫ぶことだけが許された。
否、それは断末魔に近かった。
脳裏に浮かんだのは死。
このままでは最早交渉に持っていくまでに力尽きてしまう。
『あっ……』
『キャハハッ、どうしたの~深刻な顔してさ~?』
『ギャハハッ、使う毒を間違っちまった!!ソレは使っちゃ駄目なヤツだ…………こんなはずじゃなかった!!』
『キャハッ、キャハハッ……………マ、マジ?』
意識が朦朧とする中、コイツらのやり取りは最後まで見届けていない。
だからこの後どうなったのかわからない。
ただ、覚えているのは一旦意識が吹っ飛んで次に意識を取り戻した時に、薄目で見た視界の中に必死にオレを呼びかけるカガリたんの姿があったこと。
後から聞いた話し、アクア団と一戦交えたらしいがな。
こうしてオレはカガリたんに命を拾われた。
カガリたんお手製の特効薬は苦かった。
首皮一枚で繋がっているこの命。
ホント、素晴らしくも残酷な世界だぜクソッタレが。
まーカガリたん達とイチャコラできるだけでも良しとするか。
さぁ、1週間が経った。
アクア団、覚悟しろよ。
あ、でも次の任務の前に温泉行こう。
気分的に温泉入りたい。
オレはカガリたんとウサギちゃんを誘ってフエンの街へ出かけるのであった。
任務は昼からでいいだろ。
「オメガきゅ~ん、私も温泉行きたいな~」
「えー……」
きゅん付けしてくる奴は誘いたくないんだけどなー。
オマケでヒガナたんが付いて来た。
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「って、うぉおおおおおおいっ!?勝手に人ん家の温泉入るなよマグマ団!!」
赤髪の少女が雄たけびにも似た大声を上げた。
「久しぶりだな、アスナ。お邪魔してるぜ」
「勝手にお邪魔すんなよオメガ!?誰も許可してないだろ!!」
しかも年上の私に対して呼び捨てだし。
「許可ならお前んとこのじいさんからちゃんと取ったぜ。『ふぉふぉふぉ、アスナのお友達ならマグマ団でもオ~ケ~』ってな」
「あんのボケ老人ッ!!?」
誰がいつコイツと友達になった!!と、赤髪少女は悪態を吐いた。
彼女は今猛烈に頭にキている。理由は至極簡単で説明しなくても一目瞭然で、非常識にも朝から敵でしかない少年少女ご一行が他人の家の露天風呂を占領していたからだ。
こんなはずじゃなかった。
ジム兼自宅なジムリーダーん家だ、アスナもまた朝からこのご自慢の露天風呂を堪能する予定だったのだ。
しかし先客がいた。忌々しい少年がいた。
女の子3人連れて混浴しているのにも腹が立つ。というか若干場の空気が修羅場化しているのは気のせいか。
それと遠慮なくポケモン達も放し飼いで、ヤミカラスはのぼせていたり、リザードンは無理して温泉浸かる必要ないんじゃないか!?ってツッコミを入れたいところだが。
他にも。オメガ少年が何者なのか父親が誰なのかも分かってしまった今、少年には聞きたいこと言いたいことは山ほどあるのだが。
「何か物言いたそうなだなアスナ、話だけなら聞いてやるから背中を洗ってくれ」
「なっ、ななっ、なんでそうなるんだよ!!?」
もちろんアスナをイジるためなのはマグマ団少女3人組にもわかった。
「っつーか前隠せよ、前ッ!!ち、違うー!?男だろ上じゃなく下のを隠せつってんだよーー!!」
「アホーッ!!」
「「「………」」」
ここにきてヤミカラスの合いの手は絶妙だった。
この後もオメガ少年の悪戯により言いたい事の殆どは言えなかった。
ジム戦で負けたあの日からアスナの苦悩は続いている。