オメガ&ルビー~マグマ団カガリ隊に配属された件~   作:れべるあっぷ

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旅の始まり

 ここはミシロタウン。

 

 ゲームでは主人公が住まう始まりの町にして、どんな色にも染まらない町……もとい何も無い町。

 

 ベットタウン?というのもアレだが、一応オダマキ博士の研究所があるけども。

 

 そんな始まりの町にて1人のポケモントレーナーの旅が今始まりかけていた。

 

 オダマキ・ハルカ――――――。

 

 それがトレーナーの名前であり、乙女ではあるがあまりの興奮に鼻の穴を膨らまさんとするぐらいに旅支度をしているのであった。

 

「ポケモンの体力満タン!道具もポケモン図鑑もこれでよしっ!!」

 

(いや、半年も遅い気がしますが…………)

 

 本来なら10歳になった半年前に旅に出かける予定だった少女。

 

 ワケあって旅の許可をもらえなかった運の悪い女の子。

 

 知り合いの男の子が誘拐されたから、ウチの娘を危険な旅に出させるわけにいかないなどと親バカを炸裂させ娘をニートにさせた黒歴史があるのだが今は置いといて。

 

 トレーナーである少女・ハルカは相棒のアチャモ達をモンスターボールに戻し、鼻歌なんか歌いながら必要な道具をバックに詰めるだけ詰めていく。

 

 その大半がお菓子なのが気がかりだ。

 

「ふんふんふ~ん♪」

 

(ハルカ、ピクニックに行くのではありませんよ?ちゃんとわかっていますか??)

 

「わ、わかっているわよ。わかってる、かも……ッ!!」

 

 傍らに佇むポケモンがテレパシーで少女をたしなめた。

 

「でもでも歩いたらお腹すくじゃん!そんな時にお手軽に空腹を満たすアイテムがコレ!そう、おやつかも!!」

 

(ハルカの場合、めんどくさいからと言ってソレで食事も済ませるつもりでしょうに)

 

「ギ、ギクッ……」

 

(ちゃんとした栄養のある食事を毎日3食とらなくては駄目ですよ。いいですか?絶対ですからね)

 

「えー……」

 

 などと、旅に持って行くおやつは500円までの量に制限されて少女は涙目だ。

 

 完全にオカンだ、このポケモンと心の中で悪態をついてやる。

 

(うふっ、花嫁修業をしている身としてはサイコーの褒め言葉ですよ)

 

 こやつ、人の心まで読んできた!?と少女は冷や汗を流すのがいつものやり取りだ。

 

「サナちゃんさー、将来結婚して良いお嫁さんになっても子育て苦労するかも」

 

(そんなことありません。こうしてハルカで予行練習しているのです。対策はバッチリですよ) 

 

 あたしで予行練習すなっ!と言いたいところだが今は時間が惜しい。

 

 一刻も早く旅に出たいのだ。

 

 少女だってわかっている。ピクニック気分な旅が本来の目的ではないことを……

 

 一週間前の話し。

 

 偶然にも少女はとあるニュースを見てしまった。

 

 世間を賑わせている話題であるからにして親バカがその事実をどれだけ隠そうが少女の耳に噂は入ってくるがな。

 

 少女は見てしまった。知ってしまった。

 

 生中継のテレビ越し、少女と同じ年齢ぐらいの男の子がマグマ団でアクア団をぶっ飛ばす事件を目の辺りにした。

 

『またルチアちゃんを利用するってんなら地獄をみるぜ――――――リザードン、ブラストバーンだ』

 

 人々はどう思ったのか知らない。

 

 マグマ団とアクア団はどちらもいい迷惑だと思う者。

 

 アクア団からアイドルを助けたのがあの男の子だと勘違いする者。

 

 たくさん人がいる中、遠慮も躊躇いもなく人にポケモン技を放ったあの男の子に恐怖する者。

 

 人それぞれいろんな意見があるだろう、思うことがあるはずだ。

 

 あんな衝撃な映像を見せられて少女も黙ってはいられなかった。

 

「サナちゃん、もう行くね。ユウキ君を早く止めに行かなきゃ!」

 

(………)

 

 少女はあの事件を見てすぐに理解した。

 

 あの男の子はアクア団に誘拐された子で、友達になるはずだったユウキくんであることを……センリのおじさんに写真を貸して貰っている。借りパクを決め込むつもりだが、親子3人で撮った最後の写真で笑顔を見せる男の子とテレビに映る血も涙もない鬼のような白い男の子は同一人物だと悟った。

 

 女の勘ってやつだ。しかし、それは確信でもある。

 

 間違いなんてない、隣にいる青髪と珍しいサーナイトもその証拠の1つだ。花嫁修業だとか言っているがおじさん、おばさんを守るために送り込まれたはずだ。実際に不審者をサナちゃんと少女で迎撃したことさえある。

 

 だから、少女は旅に出ようと決意した。

 

 ポケモンチャンピオンなんかにならなくてもいい。ただ旅で鍛えて必ずユウキ君を家に連れ戻すと誓ったのだ。

 

(ハルカ、心の声が駄々漏れですよ)

 

「だったらもう行くね!止めても無駄だかも!」

 

(わかってます。ですが……)

 

 サナちゃんは目を伏せる。

 

(その男の子は……自らの意志でマグマ団になりました。ハルカ、アナタがどれだけ声を張って叫んでも彼の心を動かすことはできないかもしれません)

 

「………」

 

 サナちゃんにはそれができなかった。

 

 少年の痛みを共有したから。受け入れたから。

 

(彼のことを本当に思っているなら彼の邪魔をするのは野暮です。それでもアナタは彼を連れて戻るつもりですか?)

 

「それでも絶対にミシロタウンに連れて帰る!!」

 

(そうですか……)

 

 母と娘の関係というよりかは姉と妹の関係に近かった。

 

 花嫁修業にきて数ヶ月、お隣さんの子供が元気をなくしてしまった理由は明白だった。

 

 だから、気にかけてそこから共に過ごした時間は少々長い。

 

(ハルカ、一つだけ約束してください)

 

 いつか、こんな日が来るとは予想していた。

 

(この世界はハルカが思っている以上に残酷な世界です。ワタシは少しだけアナタよりこの世界の闇を知っているつもりです。だから、本当はアナタを旅に出させたくない)

 

 だけど、サナちゃんはハルカの意見を尊重することに決めた。

 

 マスターの味方じゃなくハルカの味方になると今決めた。

 

(だから、強くなりなさい。ワタシやアナタのご両親達が安心できるほどに、現チャンピオンを倒すくらいポケモンと共に強くなりなさい。これは約束できますね?)

 

「うん、わかったかも!!」

 

 サナちゃんの独断と偏見で何度かはポケモンバトルのレクチャーは施した。

 

 あとは少女次第だ。

 

 少女はこの先、巨大な敵と戦うことになる。

 

 それは決して避けることができない戦いだ。

 

 時には挫折もするかもしれない。

 

 気がかりの不安要素も多々ある。

 

 あの子と出会うということがどれほど危険なことかも……

 

 でも、少女ならその巨大な敵をも倒すポテンシャルは秘めているはずだ。

 

(これはせん別です、いざという時に、彼と2人っきりになった時に使いなさい。勝ち組になれますよ)

 

「何これ??」

 

 4センチほどの袋で封された薄いナニか……子供のハルカにはまだ見たこともないアイテムだ。

 

(まだ!開けては駄目です。それは彼の目の前で開けるのです。上目遣いも忘れてはいけませんよ)

 

「だから何なのよ!?気になるかも!!」

 

(うふっ、それは開けてみてからのお楽しみです♪)

 

「む~……」

 

 どこか腑に落ちないが……

 

 こうして少女は家を飛び出した。

 

 両親にはこっそり黙って……あとのフォローはサナちゃんがしてくれるそうだ。

 

 だから心置きなく少女はミシロタウンを後にミシロタウンを出て101番道路を駆け抜ける。途中、やはりコトキタウンは通過するだけでスルーして、トウカシティを目指し102番道路を疾走した。

 

「やいっ!目があったら勝負だ!!いけっ、ポチエナ!!」

 

「あたしの邪魔をしないでほしいかもっ!! アチャモ、ダンバルいって!!」

 

「ちょ、2匹いっぺんにはズルいぞーー!!?」

 

 サナちゃん流ポケモンバトル術その1―――とりあえず2匹いっぺんに戦うこと。

 

 ゲームでは主人公のライバルの立ち位置であった少女。

 

 しかし、サナちゃんに少し鍛えられたから一味も二味も違う。

 

 加速アチャモと色違いダンバルのタッグの前に短パン小僧のポケモンはまったく歯がたたなかった。

 

 原作の主人公から降格した少年の席は空いていた。それを補うかのように主人公ポジションになった少女の旅はこれからだ。

 

 さあ、世界の裏では闇が蠢く中、表舞台もようやく動き始めた。


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