オメガ&ルビー~マグマ団カガリ隊に配属された件~   作:れべるあっぷ

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悪夢の体現者

 ホウエンの大地は嵐が過ぎ去り静寂を取り戻した。

 

 しかし、それは次の大嵐への準備段階。嵐の前の静けさといったところか。

 

 少年達の外出禁止も今日で終わる。明日からまた戦争が始まる。

 

 しかし協力者でありながら不満を持つ者がいる。

 

 私情ではあるがな……まだまだ休みがほしいと思った者はいる。

 

 その者の名はダークライ。

 

「ごめんね、今日あの子体調崩していて部屋で寝込んでいるの」

 

「………」コク

 

 コトキタウンの一角、人知れずひっそりと佇む図書館に今日も今日とてダークライは訪れていたワケだが、あいにく目当ての少女とは会えそうになかった。

 

 受付にて女性がそう教えてくれた。

 

「少しだけ会っていく?」

 

「………」フルフル

 

 ダークライは首を横に振り遠慮した。

 

 お見舞いしたいのは山々なのだが、寝込んでいる時に自分が傍にいると彼女を苦しめることになる。

 

 悪夢の体現者であるがために、それだけは避けたい。

 

「そう……じゃあ、また明日来なさいな。あの子もきっと喜ぶわよ」

 

「………」フルフル

 

 ………。

 

 明日からまた戦争だ。

 

 当分の間、ここには来れない。

 

 だから……

 

「ハナ ツンデクル」

 

「ふふっ、それがいいわ」

 

 かつてシンオウの大地で1人の女の子に絵本を読んでくれた美しい思い出があった。

 

 そして明日が約束されなかった残酷な世界であった。

 

 美しい思い出は一瞬にして奪い取られたのだ。

 

 だから、お見舞いの花だけでもあの少女に渡したいと、心変わりしたのかもしれない。

 

 花は摘んで受付の女性に渡した。

 

「ふふっ、不器用なポケモンさんね。自分で渡せばいいのに」

 

 ダークライはマグマ団に戻った。

 

 外出禁止の最後の日は少年に鍛えてもらおうと思った。

 

 相手するのはメガ進化したメガリザードンYだ。

 

 復活したカイオーガを倒せなければ明日はないと知っている。そうオメガから聞かされた。

 

 だからどれだけ不利であっても圧倒的な力の差があってもダークライは臆することなく挑んだ。

 

 明日を約束するために。

 

 図書館の中庭で少女とまた一緒に本を読むために。

 

 

 

 

 

 

 

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 さて、一週間最後の夜。

 

 就寝時間はもうとっくに過ぎている。

 

「べんじょっす……」

 

 ふと目が覚めたルビーという少女は隣で寝ていたオメガ少年の顔面を踏んでトイレに向かった。

 

「むっ、むむっ…………??」

 

 暗がりの通路を歩けど歩けど一向に目的地にたどり着かない。

 

 少女がアジト内で迷子になるのも時間の問題であった。

 

 

 

 

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 カツン、カツン……

 

 通路に響く足音は深夜を過ぎた静寂の中で遠慮というものをしらない。

 

 己を主張するかの如く、存在を知らしめるために敢えて足音を響かせているのである。

 

 ここの通路に繋がる一室で就寝する人物を起すために、自分が来たと知らしめるために。

 

「俺様の睡眠を邪魔するのはどこのどいつだ……??」

 

「どこのどいつだって聞かれたら答えてやるのが世の情けってね。宇宙に想いを馳せる後輩想いなドラゴン使いが参上っと……」

 

「やっぱりお前か……何か用か先生??」

 

「用しかないから参上つかまつったんだけどねー」

 

「けっ」

 

 ここはかつてミナモシティ海岸付近にあったアクア団アジト。の、地下通路から繋がる牢獄。

 

 今は旧アジトとして人の気配はほぼ無い。門番とモニターで監視する監守ぐらいしかいない中、地下に囚われた男に訪れる人物は決まっている。

 

 アクア団のリーダーであるアオギリか、このふざけた物言いを言う先生と呼ばれる少女しかいない。

 

 今はアクア団の衣装を着て、相棒であるゴニョニョはモンスターボールの中へ閉まっている。

 

「いや、それにしても私の働きはもっと評価されてもいいんだと思うだよねー。あのオメガくんがアクア団アジトにいつ乗り込んでくるかもわからない状況の中、私の機転でこことは別のところに大胆にもアジト丸ごと引越しさせる計画、中々思いつかないと思うよ」

 

「あーはいはい……」

 

 でた、私は頑張ってますアピール。

 

 めんどくさい。

 

「これで当分の間、彼がアジトを躍起になって探すための時間稼ぎができたワケだけども」

 

「………」

 

「グラードンがロストして手間取っている今、そろそろ本格的にカイオーガ復活のシナリオを攻略したいと思っているんだ。他にもめんどくさい子もいることだしね」

 

「だから協力しろ、と……??」

 

 じゃないとこんな所まで態々足を運ばないだろうこの先生は。

 

 もはや囚人である男を使ってまでガチで古代ポケモンを復活させるつもりなのだ。

 

「まーそんなとこ。私の可愛い後輩に毒を持った罪深き君にしかできない役割ってもんがあるんだよ。引き受けてくれるかな?」

 

「………」

 

 半年前、男はユウキという少年を拉致して毒を盛った。

 

 そんな自分をまだ駒として利用というのだ。

 

 何を企んでいるのか分かるはずがない。知りたくもない。

 

 癪ではあるが、しかし外に出る機会はこれ以上に見あたらなかった。

 

 テキトーに任務引き受けてトンズラするのが一番だと男は考えた。

 

「いいぜ、引き受けてやるよ」

 

「よかったー。もし断られていたら君をどうしようかと考えていたところだった。マジで」

 

「………」

 

 笑顔で恐ろしいことを言ってくれる。

 

「で、俺様は何をすればいいんだ?」

 

「まー簡単に言えば、後輩想いな先輩が君達に決着の場を設けてあげる、って言ったらわかるかな?」

 

「くっくっく、ホントお前が何考えているのかわからねーな。次はあのガキを殺してしまうかもしれないぜ??」

 

「もう君のせいで死に掛けだっつーの」

 

 まっ、後輩想いな先輩は罪滅ぼしとして彼らを救う術は探してはいるけどね、と付け足すけど男の耳まで届かなかった。

 

「まっ、なんでもいいんだけど殺す気でやっちゃってよ!そうでなきゃ盛り上がらないよね!オーディエンスはオメガくんが涙と鼻水で顔面をぐしゃぐしゃになるところを見たいんだからさ!!」

 

「お、おう………」

 

「ちゃんと泣き顔の写真撮って私に送ってね!絶対に絶対だよ!はぁはぁ……」

 

「うわー……」

 

「やっぱり可愛い後輩をいじめるのが生き甲斐だよねー」

 

「あ、それ俺様もわかるぜー」

 

「シャラップ!君の意見なんて聞いてないんだよ!!君は私の駒として言うとおりに動けばいいんだよ!!」

 

 滅茶苦茶だ。

 

 こんな恐ろしい変態を持った後輩に同情したいところだが………

 

「なー先生、1つだけ聞いていいか? お前、一体何者なんだよ……??」

 

 マグマ団に所属していてマグマ団に在らずカイオーガ復活を企む少女。

 

 男は云い得ぬ恐怖を抱いていた。

 

 頭のネジが1本ぶっ飛んだ宇宙に想いを馳せる後輩想いなドラゴン使いなのだと……

 

「んー?私が何者かって?それは私が決めるんじゃない。君自身で決めるんだ」

 

 そう言って少女は悪魔的な笑みを作り、男を解放するのであった。

 

 

 

 

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 そして、闇が動く。この世界の闇だ。

 

 長い夜が続き、世界の裏舞台では闇が蠢く中、ダークライは異変を察知して怪しい人物を見つた。

 

 マグマ団でありながらマグマ団らしからぬ行動をしていた少女に問いかけた。

 

「トマレ ココデ ナニヲシテイル??」

 

「何って墓参り……??」

 

 ここはおくりび山。

 

 ホウエンの大地で死んでいったポケモン達の魂が眠っているお墓がある場所だ。

 

 山頂の祭壇には『べにいろのたま』と『あいいろのたま』が祭られている。

 

 そんなマグマ団アジトから遠く離れたココに、こんな時間に訪れる非常識さもみせる少女。

 

 どう見ても異常だ。

 

「ミンナ ネテル ジカン」

 

「何よ、何時にここにきて手を合わせようと勝手じゃん」

 

「デモ ココハ チガウ オマエ ソレ ヌスモウト シタ」

 

「………」

 

「ソレガナニカ ワカラナイ デモ トテモ フキツ ヤメロ」

 

「あーもーうるさいなー!!」

 

 少女はうっとおしそうに頭をかいた。

 

 怒気はヒトが発するようなものじゃなかった。

 

 プレッシャーの特性を持つポケモンのような圧力を肌で感じた。

 

「ずっと思ってたんだけどさー、アンタ目障りなんだよねー。わかってる?アンタ、団内で特に浮いてるよ。ナイトメアって特性も迷惑なんだよ。誰もアンタを快く思っちゃいないさマジで。だからさ……」

 

 いつものことだ。

 

 悪夢を見せる自分はシンオウでもホウエンでも忌み嫌われる存在なのだから。

 

 ずっと言われ続けていたことだった。

 

 でも、ダークライは自分のことを忌み嫌わないヒトがいることも知っている。

 

 だから、耐えられる。

 

 しかし、今回はそれが命取りとなった。

 

 ダークライの批判を今した少女の心境を察しれなかったのがいけなかった。

 

 一緒にいた時間が少し長すぎた。

 

「ちょうどいいや、ここで消えてよ。アタシのためにも」

 

「ッ!?」

 

 背後からの強襲。効果抜群のポケモン技だ。

 

 予想はできそうなものだったが、ダークライもまた甘い。

 

 HPは1でなんとか耐えた。

 

 少年から渡された気合いのタスキのおかげではあるが……

 

「あははっ、伝説を打ち破った今日が新たな伝説のアニバーサリーかも♪」

 

「グッ!?」

 

 2撃目は真正面からだった。

 

 1撃目とはまた別のポケモンが攻撃をしかけてきたのだ。

 

 効果抜群だ。

 

 しかし、

 

「マダ……ダ……………ッ!!」

 

 ダークライは明日を約束したかった。少女と図書館の中庭でもう一度本を読みたかった。その想いが奇跡的にも耐えてみせた。

 

 うそっ、ありえない。

 

 少女はわざとらしく驚いてみせるが……

 

「だったら皆でフルボッコするまでかも」

 

 5対1。

 

 ダークライは成す術もなかった。

 

 暴虐の嵐は瀕死になっても続いた。

 

 この世界は素晴らしくも残酷である。

 

「さようなら……」

 

「……………ユキ」

 

 最後に呟いたどこにでもいそうな名前は、ダークライが守りたいと思った少女のものだった。

 

 この日以来、マグマ団内でダークライの姿を見た者はいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 深夜3時が過ぎ――――――

「むっ、むむっ……………!??」

 ウサギちゃんの迷子は続く。

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