オメガ&ルビー~マグマ団カガリ隊に配属された件~ 作:れべるあっぷ
今日のホウエン地方は嵐――――――。
何か不吉な前触れかのように不安を駆り立てる暗雲がホウエンの空を覆い尽くし、豪雨はヒトもポケモンもホウエンの大地も全て拒絶するかのように激しく打ち付ける。
旅するトレーナー達も今日は休業、ポケセンで待機だろうか。こんな日に旅する馬鹿はいない。
逆にレンジャーは大忙しだ。川の洪水で流されたポケモンの大救出劇を繰り広げているにちがいない。
マグマ団の大半も例外なくアジト内に待機する者がほとんどだ。
マグマ団リーダー・マツブサも同じく部屋で待機していた。
「残り半年か……」
外の嵐を見て呟いた。
カイオーガが復活すればこれ以上の、それこそ人類が予想しても想像がつかない嵐になるだろうか、という言葉は雷の轟音に搔き消された。
残り半年……それはカイオーガ復活の期限ではない。
マツブサはもっと別のことを考えていた。
今のマツブサにとって世界が崩壊するよりも重要なことだった。
かつてのマツブサなら毛の先ほども気にかけていなかっただろう。ただグラードンを復活させて大地を増やし人類の発展、極めては人類の平和だけを望んだ愚か者であったから。
しかし、今は違う。
全てはのきっかけはオメガ少年である。
彼の存在がマツブサを改心したといってもいいのかもしれない。
我々大人の都合に巻き込んでしまった。
アクア団は我々より戦力を強化しようとジムリーダーの息子を誘拐した。人質に取られるならまだしも猛毒を盛られてしまった。
偶然にもカガリが救い出し特効薬で一命を取り留めることができたが、彼をこのまま親の元へ帰すこともできなかった。
誤算だった。
マツブサ自身何もできなかった。
彼のご両親に謝っても謝りきれない。償っても償いきれない。
何が人類の幸せだ。人類の発展とは今の子供たちに未来を託すということだ。託すどころか子供の未来を奪ってしまったのではないか。
愚かなりマツブサ。
だからマツブサは考えを改めた。
かといって、アクア団は放っておくこともできない。ロストしたグラードンは捕獲したいところ。カイオーガに対抗できる数少ない切り札である。そして、その切り札はオメガかルビーのどちらかに託すことになるだろう。
彼らならグラードンをコントロールできるだろう。
しかし、一旦古代のポケモンのことは置いといて……
それよりもだ。
「すまない、少年達よ。無力な我々を許してくれ……」
デスクには数日前に少年達から採取した血液検査の結果とカガリからの報告書が置かれていた。
今はカガリの特効薬でなんとか身体はごまかしてあるが、体内に潜む猛毒を消化できていない……
寧ろ、今のままではカガリ然り、今の人類の科学技術を全て結集したとしても…………
―――半年後、オメガ、ルビーの生存確率0%―――
本物の奇跡が起きない限り彼らは助からない。
だからマツブサは考え改める。
世界が崩壊するよりも彼らの命を救う術を模索していた……
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さて、またカガリたんに呼び出しされたので喜んで行こう。
G-1ブロック。
ここはカガリたんの研究ラボでないことは確か。
何も設備がないバトルフィールドぐらいはありそうな部屋にて、
「2人とも……これ着て…………」
カガリたんから渡されたソレはダイバー達が着てそうなウエットスーツだ。カラーリングはマグマな赤。
「何スか、コレ?」
「カガリたん、もしかしてマグマスーツ??」
「そう…………オメガは何でも知ってるね…………エライ、エライ……………」
ひゃっほーい、頭撫でられたぜ。
「ぺっ」
おいこらウサギちゃん、ジェラシーだとしてもツバ吐くなよ。
「ぺっ、ウチらにこれ着させてどうするつもりっスか?」
「グラードン相手するのは2人だと思う………だからテストする………」
凄い説明不足気味な気もするんだが。
マグマスーツとはマグマ団の科学技術を結集して作られたスーツだ。どんな衝撃にも耐えられ、ゲームではめざめのほこらの最深部に行くのに必要なアイテムなのだー。なのだー、なのだー………
「衝撃に耐えるだけじゃない………深海でも水圧に耐え、流動するマグマの上も歩けて、宇宙空間でも活動可能…………な、はず」
はず、なのだー。
「グラードンだけじゃない………カイオーガの攻撃もへっちゃら………の、はず」
へっちゃらのはずなのだー。
「まだ検証段階………だからテストする…………」
「わかったかウサギちゃん!」
「まーなんとなくッス……」
なに、そのジト目。
「でも、なんでこんなクリアガラスで隔てられた場所に閉じ込められたのかがイマイチわかんないッス」
「おいおい理解力が足りねーなウサギちゃん!」
「だったら説明してみろッス。テストするならこうなんかいろんな装置がおいてあるラボでこのスーツにケーブルに繋がられたり、バイオ液いっぱいの水槽中に入れられたりするもんじゃねーんスか??お??」
「言われてみればそーだなー」
「そうッス!それなのに何でここは何もないんスか!?」
「さーなんでだろうなー」
「タコ先輩、テメー何でも知ってるんじゃないスか?」
「何でもは知らない。知ってることだけ…………なんちゃって」
「コロス」
ウサギちゃんのグーパンが炸裂した。
しかし、スーツのおかげで無傷だ。
これで証明された、凶暴生物にグーパンされても無傷で最強なマグマスーツだってことを……などと遊んでいる場合じゃなかった。
ウサギちゃんとじゃれている場合じゃなかった。
カガリたんがジト目でちょっとジェラシーだ。
「じゃあ………バクーダ、ヘルガー。出ておいで…………」
「「へ??」」
カガリたんがポケモン2匹繰り出してきた。
ホワイ?
「これはテスト………だから2人はポケモン出したら駄目だから………今からポケモン技の耐久テストに入ります…………」
「「そ、そんなバカな~……!??」」
「バクーダ、噴火……ヘルガー、煉獄……」
「「ノーーーーッ!???」」
やっぱりジェラシーなんだなカガリたん!??
このあと、酷い目にあったのは皆までは言わない。
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いや、本当に酷い目にあった。
カガリたんのジェラシーにも困ったものだ。
あんなテストの仕方があってはたまったもんじゃない。
カガリたん自身もオレ達に休めって言ってたのにアレじゃ休養にならないじゃないかとか愚痴っても仕方がないがな。
「メーシ、メーシ、メーシの時間ッス~♪」
「「ウザ……」」
ここにきて、ウサギちゃんのウザさMAX。
さて夕飯時、アジト内にある食堂にてオレ、ウサギちゃん、そしてヒガナたんが隅っこに席を取った。
カガリたんはまだやることがあるんだってさ……
しかし、昼間テストがあったというのにウサギちゃんは元気いっぱいだな。まーいつも夕飯時になるとこうもウザい。
先輩の皆様方の非難がましい視線なんて気にもしない。
それに反してオレはグロッキーで情けないが、ヒガナたんはもっとグロッキーであった。
「ホントこの時間帯になるとウサギちゃんは相変わらず元気が良くてウザいよね……私は過労死ししそうなくらい君達が暴れまくった後処理に追われて睡眠時間もゴリゴリ削って労働時間に似合わない安月給で頑張ってるのは全ては可愛い後輩のためなんだからオメガくんヨチヨチして~」
「にょにょー」
「はいはい」
ヒガナたんも大概ウザいんだけど……
まーヨチヨチしてやってもやぶさかでもない。
これで大人しくしてくれたら御の字、しかしヒガナたんの愚痴は続く。
「あーもーなんだよどいつもこいつもよー私の苦労がわかってないんだよ裏でどれだけ手を尽くしているか想像も付かないでしょヒガナ先輩は頑張ってんだよーオメガくん~」
「にょにょ~」
「はいはい……」
大人になってヒガナたんに酒をすすめるのだけは絶対にしないでおこうと決めているんだ、オレは。
こんなご主人様をもったシガナはいつも大変だな…・・・
「というかオメガくんにクレームなんだけどさー君んとこのダークライの放し飼いをいい加減ヤメテもらえないかなーマジ迷惑してるんだよねーこの前なんかもアクア団の情報収集時にアクア団の衣装着てたもんだからさー裏切り者として攻撃されたことあるんだよねーここだけの話しマジ危なかったんだからねーでもなんとか納得してもらって攻撃やめてもらったんだけどもそのせいでルチアちゃんの情報が偽情報だってことわかんなくて君達もピンチにまで陥ったんだしなんとかしてよねーオメガくん~」
「にょ~……」
「あーはいはい……」
話し長いッ、くどいッ。
夕飯ぐらい楽しい話ししよーぜ、ヒガナたん。
愚痴なら後でいくらでも聞いてやる。なーシガナ。
この日、就寝までヒガナたんの愚痴に付き合う先輩想いの良いオメガ後輩ことオレであった。
それにしてもダークライのやつ、どこで油売ってるんだよ。まったく……