オメガ&ルビー~マグマ団カガリ隊に配属された件~ 作:れべるあっぷ
さて、話は少し飛んで変わり、ここはポケモンリーグ。
滝昇りでサイユウシティ―――シティとは名ばかりの花と海とポケモンの楽園―――まで行き、隣接するチャンピョンロードを進みデイゴのハナが咲き誇る道を抜ければ琉球風の建物が見えてくる。
沖縄をモチーフにしたそこはトレーナーにとって一度は憧れる場所であり、バッジ8つを集めたトレーナーだけが許された聖地であるワケだが、例外もある。
たとえば、ポケモン協会の関係者は勿論のこと、協会からジムを任されたジムリーダなんかも特別招待されることも暫しある。
ポケモンリーグのとある一室。
そこで異例の緊急集会が開かれていた。
「この件から手を引けとはどういうことですか!? 協会は一体何を考えているんですか!!」
抗議の声を上げるのはトウカジムのジムリーダーであるセンリであった。
ポケモン協会からの声明をチャンピオンであるダイゴからジムリーダー達に伝えられ、その中でもセンリがイの一番に抗議した。
ダイゴとて、息子であるユウキが行方不明である今、オメガという少年の存在を知った父親の心中が如何なるものなか察しできないわけでもない。
だが、これが協会の決定である。
「すみません、センリさん。僕に力が無いばかりにこんな結果になってしまって……」
「あ、頭を上げてください、ダイゴさん。貴方が謝られては私も困ります」
ホウエン地方のチャンピオンでありデボンコーポレーションの御曹司である青年に頭を下げられたセンリは慌てた。
「ですが、ダイゴさん。協会の意向に私は納得できません。ちゃんと理由を説明していただけますか?」
「……もちろんです」
ダイゴの口から聞かされたポケモン協会の意向は誰が聞いても明らかに逃げ腰であった。
それは、もうこれ以上被害の拡大を防ぐためという言い分にしては理解に苦しむものだった。
「マグマ団然り、アクア団然り、奴らの暴走を止めようとすればさらに被害が広がるからワシらは指を咥えて黙って見ていろ、か……ふざけておるのぉ」
キンセツシティのジムリーダー、テッセンが吐き捨てた。
「どうかしてるとしか思えない。俺達がなんのためにジムリーダーをしているかわからなくなるじゃないか、そんなもの……」
ジムリーダーとはジム戦をしにくるトレーナーの相手をするだけじゃない。
ジムのある町の代表として、治安の向上に努める役割を負うこともあり、ホウエンのジムリーダーはその意識が高いワケだが。
ムロジムのトウキも当然ポケモン協会の意向に腹を立てた。
ジムのない町で事件が起きたとしても出しゃばるな。もしくはムロの町で事件が起きても出しゃばるな、と最悪だ。
「だけど、それが事実。我々は彼らの暗躍を見過ごしたのは数知れず、ましてや彼に敗北した者もいる……いや、すまない。別に君達を責めているわけじゃないんだ。かくいう私だってルネでのほほんとして何もできなかったことが悔しいよ」
「「「「「………」」」」」
それはフォローになってはいない。
ルネのジムリーダー・ミクリの言葉にグサっと心に刺さった女性陣ジムリーダーと双子ちゃん。
なぜか、あの少年は女性ジムリーダー+双子ちゃん限定で道場破りもといジム戦をしていた過去があるワケだが。
「あわわわっ、負けてゴメンなさい!!」
「はわわわっ、マグマ団の人にジムバッチ渡してゴメンなさい!!」
そう慌てて頭を下げるのはトクサネジムリーダーの双子ちゃん・フウとランである。
「い、いや、君達は悪くないんだよ。ミクリ、君もちゃんとフォローするんだ!」
ダイゴが慌ててフォローし、ミクリはバツが悪そうに頭をかいた。
「オメガ、あいつ絶対に許さねーよ……ブツブツ……ア、アタシ、男の子に胸を触られたことなんてなかったし……ブツブツ」
「ミクリ、アスナさんが何かブツブツ言い出したよ!」
「オメガさん……はぁ……………」
「ミクリっ、もっと重症な患者がいたよ! ツツジさん、ため息なんか吐いて彼と一体何があったんだい!??」
「…………」
「ミクリィッ、ナギさんが白目向いて放心状態だ!!しっかりするんだナギさん!!」
「そいつは困ったね………」
本当に困った。
協会の連中にも困ったがマグマ団の少年にも困ったものだ。
否……困った、なんて可愛らしい言葉じゃ片付けていいはずがない。
全国放送で流れたあの映像は彼らも見ていた。
メガリザードンYの放ったブラストバーンの威力を見せ付けられてはジムリーダー然り、チャンピオンだって脅威でしかない。
そんなポケモンを育てたオメガこそが脅威なワケだけども。
彼を説得したり止めようとすれば確かに無駄な被害を出すだけだ。
また公衆の前で暴れられるのも問題外だ。
それに厄介なのはなにもオメガだけじゃない。
「先に皆さんに言っておけばよかった。僕が協会に意向に従おうと思ったのは彼だけが不安要素じゃないんです」
当初、ポケモン協会もマグマ団とアクア団を叩く作戦を考えていた。
それは半年以上も前から実行していたとダイゴは云う。
「協会から刺客は何度か送っていました。四天王の1人、カゲツも送ったことがあります。しかし結果は……」
結果は惨敗。
何者かにカゲツは敗北し、こちらの作戦は阻止されたともいう。
「カゲツが実行しようとした任務はセンリさん、貴方の息子さんが関わる事件でした。行方不明になった少年がマグマ団に入り暴れているという情報が本当かどうか、その真実を確かめるために幾度と刺客を送らせていた重要任務でした」
「そう、ですか……」
そのことを今までセンリに伝えなかったのは勿論協会の意向だけではない。ダイゴもまた考えてのことだった。
「ちょうど、オメガという少年が部下1人を連れる任務が多くなった頃合を見計り、本命のカゲツを送り込みました。ですが、彼らに辿り着くことさえできませんでした」
マグマ団に邪魔されるのは予想していた。
幾度となくそうであったために、だから四天王を送った。
勿論、四天王カゲツ1人が単体で乗り込むなんて馬鹿なことはさせない。
カゲツが信頼できる仲間と共にだ。
しかし、敵のレベルはカゲツや仲間、そして、ダイゴ、協会が思っていたよりも予想を遥かに超えていた。
カゲツ隊はたった一人のマグマ団に敗北した。
その者はドラゴン使いだとカゲツから病室のベットで話を聞いた。
「その者は本物の牙を隠していました……」
「マグマ団にドラゴン使いじゃと……!??」
「それは凄く厄介ですわね……」
「「「………」」」
四天王さえ凌ぐドラゴン使い。
もうそれは四天王のドラゴン使いであるゲンジと同等か、それ以上と判断せざるを得ない。
そのドラゴン使いは少年と違って四天王や一般トレーナーでさえ牙を向く。
少年を守るためにか、それとも少年を取り返されると何か都合が悪いのか……
そして、アクア団に手を出しても駄目であった。
「アクア団を叩こうとしてもその者が計画の邪魔をしてきたという報告も上がっています。アクア団の姿をしてね……」
アクア団の情報を盗み出すのに潜り込んでいたのかもしれない。
「そいつは何が目的なんだよ……??」
アスナが恐る恐る訊ねた。
当然の質問だった。両者対立する構図なはずなのに、マグマ団のその者はアクア団をさえ守ったとも言える。
いい得ぬ恐怖があった。
「今はまだわかりません。だから、今はまだ協会の意向に従うと思っています」
「それはいつもの君の勘かい?」
「そうだ……」
ダイゴは改めて云った。
「1人でも欠けるのは得策じゃない、近くで事件が起きたからといって今はまだバラバラに行動するべきじゃないんです。それよりも最悪の時が来るまで皆さん、力を付けてください。それまで、この僕に全てを任せてもらえませんか?」
「また君は1人で無茶をするのかい?」
「無理はしないさ……」
ミクリの心配もわかるが、ダイゴとはそういう男だ。
「ダイゴさん……」
センリは席を立ち頭を下げた。
今のままでは力不足だから、息子と会うことさえできない。
だから頭を下げた。
「息子のことも重ね重ねよろしくおねがいします」
「はい」
ダイゴはこの地方でポケモンチャンピオンだから任せられる。
こうして、異例の集会は幕を閉じた。
集会は終わりセンリはアスナやツツジ、テッセンといったオメガと接触した者たちと共に夜の町へと帰ったりする中……
「………」
ダイゴは1人、チャンピオンの間で長考していた。
センリ達にはまだ話していないことがあった。
(少年が復讐のためにアクア団を駆逐する構図……そうなれば否が応でもその少年を迎い撃つためにも必死にカイオーガ復活を企むアクア団の構図……もし、偶然じゃなく必然的に誘拐の手引きをした者がいるとすれば……)
それはとても恐ろしい想像だった。
悪意しかないシナリオを誰かが作りあげた。
予想でしかないが、もしも例のドラゴン使いが企んだとしたら一体何のために……
(いや、考えすぎなのかもしれない)
だが、可能性はある。
それに不安要素はまだまだある。
少年オメガ、例のドラゴン使い、そしてウサギちゃんと呼ばれる得体の知れない目つきの悪いヤンキー少女。
ダイゴの勘はよくあたる。
あの子も大概ヤバイ。たぶん、自分が想像しているよりも遥かに……
そして、マグマ団ではしたっぱである3人だけでも戦争覚悟なのに、普通に幹部とかリーダーと対峙するのも厄介だ。
アクア団も然り、万が一カイオーガを復活させられたら凄くめんどくさい。
唯一の気休めはマグマ団がグラードンをロストしたことであろうか……そういう情報は手にしている。
さらには、1ヵ月程前だろうか、北の地方のショタコンチャンピオンから珍しく連絡が入った。
ショタコンによる自慢話といえば聞こえはいいが、内容は最悪だった。
『ねーねーどうしてオメガきゅんがあなた達ホウエン地方の人間に助けを求めなくて遠路遥々シンオウ地方のこの私を頼ってきたかわかるぅ~??』
ジョウト地方にいた時にコンタクトしていただけに繋がりがあり、このどうしようもないショタコンは勝ち誇ったかのように言ってきたのだった。
6Vヨーギラスを彼に与えたのもこの私よ、と暴露されたり……
さらには、
『お姉さん、ギンガ団の相手するだけで大変なのに神ポケに会って悔い改めてこいとか、カロス地方にもいって伝説のポケモン捕まえてこいとか、ホント良い根性してるわよねー。まっ、全てが終わったら報酬として彼をおいしくいt―――――――――――――』
とか、少年を魔の手から救い出さなきゃと思ったりもするダイゴ。
というか、ホウエン地方に伝わる伝説のポケモンでもなくカロス??などと奇妙にも思った。
あぁ、カロスのことも調べなければならない。
ダイゴの睡眠時間がドンドン削られていく……
そして、1通のメールが届いた。
『少し真面目な話しをしようよ。チャンピオンさんの家で待ってるね―――by宇宙に想いを馳せるドラゴン使いより』
「ははっ、今夜は徹夜覚悟だな……」
まさか、このタイミングで向こう側からアプローチをかけてくるとは思わなかった。
監視されているようで背中に冷や汗が流れた。
ダイゴはこの後、すぐさまトクサネシティにある自宅へ帰宅した。
既に家の中にはマグマ団のフードをした例のドラゴン使いがお茶を啜って待っていた。足元にはシガナと呼ばれるゴニョニョがいた。
話しは身構えていたよりも残酷で、ダイゴは自問自答の迷走パートに入るのには時間は掛からなかった。
「あと半年までに僕にできることは何だ……考えるんだ、ダイゴ」
ダイゴは夜の空を見上げた。
半年後に隕石がやってくる予言を信じる者もまた夜空を見上げた。
明日のホウエン地方の天気予報は嵐である。
おまけ
サブタイ:壁ドン
オメガは忘れていた。
己の愚かさに後悔もした。
そして絶望した。
まさかポケモンに壁ドンされるとは思わなかった。
「ロップ♪」
「な、何だよ、ニンジンならおわずけだぞ……なんちゃって」
アジト消灯30分前のことだった。
暢気にも鼻歌を歌い用も足し自室に戻ろうと迷子になりながらも廊下を歩いていた時のことだった。
まさか二足歩行のウサギとエンカウントするとか思いもしない。というか放し飼いにされているとは夢にも思わなかった。
壁ドンなどどこで覚えた……
「なるほどなるほどギャルゲーで覚えたんだな、えらいえらい!!」
「ロ~ップ!!」
頭撫でて話を誤魔化すな、とミミロップは言った。
ご褒美はコレじゃないと言っている。
お姫様抱っこ……少年オメガの脳に過ぎって絶望した。
何が嬉しくてミミロップをお姫様抱っこしなくちゃならないんだと心で吐き捨てた。
しかし、ご褒美は絶対である。
というか、ミミロップが強行してきた。
「ロップ♪」
「いやん!?」
ミミロップが少年を持ち上げた。
あまりの出来事に変な声が出た。
「お前がお姫様抱っこすんのかい!?」
「ロップ♪ロップロップロ~♪」
「いやー降ろしてーーー!?」
消灯30分前のアジト内に、少年の悲鳴が木霊した。
そして、世にも奇妙にも、男の子をお姫様抱っこをしてスキップするミミロップを見たと証言する者はあとを絶たないという。