オメガ&ルビー~マグマ団カガリ隊に配属された件~   作:れべるあっぷ

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「先輩のバンギの真価は『破壊』にあるッス」

「ポケモンに秘められたもう一つの進化、メガシンカ。そして、三値に加えOパワーを全て利用し圧倒的なパワーでアクア団の施設や建造物、大型の船やトラック等乗り物を破壊することが第一の目的ッス。だからポケモンバトルは二の次で、まーしかしバンギは強いッスからバトルしても大概は勝ってしまうッス」

「でもまーウチのポケモンの方が強いッスけどね」

by ルビー


オコなの

 さて。

 

 マグマ団とアクア団の抗争は終盤を迎えた。

 

 少年・オメガがアイドルのルチアちゃんと対峙する中、少女・ルビーは早々に戦場になったステージから退散し、通路や楽屋、エントランスホール等隅から隅まで散らばった雑魚共の掃除に取り掛かっていた。

 

「ゲンガー、シャドーボールっす」

 

「ケケッ」

 

 いつもと同じ作業。欠伸の出るほどにつまらないものだった。

 

「チルタリス、りゅうのはどうッス」

 

「チルーッ!!」

 

 拍子抜けもいいところだった。

 

「ホルビー、必殺前歯ッス!!」

 

「ビーッ!!」

 

 アイドルなんて肩書きを持ち合わせた久しぶりの強敵ではあったものの、ルチアちゃん個人の能力が高いだけで雑魚はどこまでいっても雑魚だった。

 

 確かに、アイドルなルチア様のためにー!!と歯向かってくる輩もいたが結局は最後に命乞いをしていた。

 

 所詮こんなものかアクア団……愚かにもほどがあった。

 

 もちろん、彼らと少女のポケモン達の間には確たるレベルの差があった。少女のポケモン達が強すぎただけなのかもしれない。

 

 しかし、それ以前にこれは公式ルールに則ったポケモンバトルじゃないのだ。

 

 いちいち相手がポケモンを出すまで待つ必要なくね?と、少女もドン引きするオメガ少年のアクア団限定駆逐の心得を伝授されているわけだが。

 

 まーぶっちゃけ、ただの卑怯なお下劣戦法なわけなんだけども。

 

 たとえ1番手はもう出していて臨戦態勢だった場合でもトレーナーを狙え。もしくわ、2番手を出される前にトレーナーにダイレクトアタックしてケリつけろよ、と味方であるマグマ団にさえドン引きされたわけだけども。

 

『アクア団を駆逐するのにプライドもへったくれもねー、そんなもんはドブに捨てちまえ。そんなんだからお前はアクア団に負けたんだ……なあ、ウサギちゃん』

 

 常識に捉われたら負けだ。

 

 何を偉そうに、てめーも敗北して絶望の淵に叩き込まれたんじゃねーのかと吐き捨てたりもするが、少女は少年のお下劣で且つ外道な戦法の教えを請い学んだ。

 

 ゲンガーなら影から背後からの奇襲攻撃が常套手段になった。

 

 もちろん、お下劣戦法だけが芸じゃない。

 

 少年がバンギに使ったOパワーだって使う。

 

 チルタリスならとりあえず特攻パワーをあげて竜の波動や破壊光線、流星群ぶっぱな脳死プレーで大体OK。個室とか部屋の入り口付近からぶち込んでやればいい。

 

 そこから散り散りに逃げ惑う連中をホルビーや残りのポケモンで叩いていく。

 

「ザングース、辻斬りっす!」

 

「ラジャーッ!!」

 

 耐久はあまり無いがアクア団程度なら少女のザングースでも立派な脅威だ。

 

 狭い個室や廊下ならお任せあれ。

 

「次はシザークロス!!」

 

 彼には走り続けろと指示してある。そういう風に特訓させた。

 

 敵に捕まったら最後だと…捕まらないように、敵と敵の隙間をすり抜ける術を特訓させた。

 

 時には壁を利用し跳躍したり反転したり、スライディングなんて術も少年がお手本として見せたこともある。

 

 理想とするなら無双ゲーのようにじゃんじゃん敵を斬りつけていく感じ、と時たま少女でも理解できないこともしばしあるが。

 

「ラストっ、インファイトっす!」

 

 こうやって普通じゃないポケモンバトルの動きも身に付けさせ、もちろんそれがバトルにも活かすことができるわけだが、基本はアクア団を1人でも多く駆逐するための術を教えさせていった。

 

 そして、トリを飾るのはゲンガーと肩を並べる絶対的エース。

 

「ミミロップ……そっちはもう終わってたッスか。えらい、えらい♪」

 

「ロ~プッ♪」

 

 最早少女の指示が無くても1匹で100人狩りなんて朝飯前だろうか。

 

 今回は59人だけだが、ミミロップ一匹に手も足も出なかった会場内にいた残りのアクア団がライブ会場エントランスホールに山積みにされていた。

 

 これは少年オメガも誤算だった。ここまで強くなれるとは思ってもみなかったから。

 

 少女・ルビーがどうしてもザングースを使いたいと駄々をこねるから、あまりのしつこさに少年は仕方が無く、ろくに自分のパーティの強化もせずいろいろ育成論を考えた。

 

 ミミロップは当時放置していた。ミミロップはメガ進化したら普通に強いから別に特訓しなくてもいいんじゃね?とドライだった。少年オメガはザングースの育成論を考えるのでいっぱいいっぱいだった。

 

 これがいけなかった。ミミロップは自分だけのけ者にされたと思い込み嫉妬したのだ。

 

 駄々をこねだしたウサギはともかく、構ってちゃんになってしまったウサギにウンザリした少年はゲーム機を渡してみた。ジャンルはアクションバトルもの、コレをクリアしたら強くなれるしご褒美もあげよう、などと調子に乗ったのもいけなかった。

 

 ミミロップはやる気を出しゲーム操作を覚えて、1ヶ月後には見事クリアしてみせた。

 

 もちろんご褒美はあげた。頭を撫で労いの言葉を掛けた。「おめでとう、ユーアーNO1」結構雑に扱ってしまった。

 

 しかしミミロップはクリアした時に得る達成感、そして主人と少年が頭を撫でて褒めてくれることが嬉しくてさらなる高みを目指した。

 

 気付けば勝手に少年の持っているゲームソフトをやり込み、RPGや戦略シュミレーション、ギャルゲー等多彩なジャンルを網羅した。

 

 本当に後悔した日は無い。ギャルゲーとかやらせた覚えはなかった。しかし、少女は喜んだ。先輩の身1つを捧げるだけでミミロップが最強になれるんスからと……いや、この話は置いといて。

 

 まあ何にしても、ミミロップはあらゆるジャンルのゲームを理解し自分で考え勝利に導く術を獲得したのだ。

 

 どうすれば効率がいいか、どのように動けば王手にかけられるのか、今回も何手も先を読み見事アクア団のしたっぱ共を撃破してみせたのだ。

 

 実質、少年のメガバンギより強い。

 

「仕方ないッスね~、ミミロップ。今度のご褒美は『お姫様抱っこ』だったッスね」

 

「ロップ♪」

 

 気が付けばご褒美のランクも勝手にグレードアップしていく始末。

 

 ご褒美は絶対である。

 

 

 

 

 

 

 閑話休題。

 

 

 

 

 

 さてさて、ウサギちゃんと呼ばれる少女は今現在エントランスホールの片隅に設けてある売店にてルチア&チルルキーホルダーを物色していた。

 

 暢気にも鼻歌を口ずさんでいた。

 

 避難勧告の警報が鳴っているけどもスルーして。

 

 無論、会場内にいる全てのアクア団のしたっぱ共は駆逐した。何にしろ手際がいい。

 

 アクア団に無関係なスタッフ等一般人は既に避難している。

 

 少女は鼻がいい。一般人に扮したアクア団も駆逐した。駆除した。殲滅した。

 

 ここに残るのは少女と敗者で築き上げられた山。

 

 その敗者の山は点々と奇妙なアートのようにそこかしこに何箇所にも積まれており、まーいつも通り少女の手にかかったアクア団の末路は無様である。

 

「ウチずっと思ってたんスけど、先輩がテメーらアクア団に誘拐されることなくユウキのままなら強くなれなかったと思うんスよねー」

 

「………」

 

「ユウキも、ウチも弱者のままだったッス」

 

「………」

 

「オメガだからこそ今があるんス。オメガ先輩だからこそ貪欲にも強さを求めたッス。あの顔でやることなすことクレイジーっす。そんな先輩だからこそウチは後輩という立場に甘んじてるッス。正直に云えば複雑な気持ちッス」

 

「………」

 

「だからウチとしては皮肉にもテメーらにお礼の一つでも言いたいところなんスよ」

 

「………」

 

 少女はもう碌に返事もできない虫の息なアクア団に話しかける。

 

 いや、ただの独り言なのだろうけども。

 

 少女は無人と化したレジにてキーホルダーの代金を払う。

 

 小銭受け取り皿に780円を乗せた。

 

 とても律儀だ。

 

「まー何にしても先輩とバトったルッチーは無事じゃ済まないッス。夢も希望もへったくれもありやしない。絶望しかさせてやることしかできねー先輩やっぱりマジ許せねーよ、あのタコ」

 

 少女はアレ?となった。

 

 おかしい。自分は味方にキレてどうする。

 

 いや、激オコなのは仕方が無い。情緒不安定だから喜怒哀楽が激しいのだ。

 

「だがしかしッス。一番許せねーのはてめーらアクア団ッス。おいわかってんのか、おっ?」

 

 少女は敗者の山を蹴った。

 

 山に埋もれ足だけ覗かせたその脛を集中的に蹴った。

 

 もちろん、返事はない。

 

「ルッチーが傷つくのも泣くのも全てテメーらのせいッス。テメーらがルッチーを利用しなければ、仲間に引き込まなければこんな不幸にならなかったッス」

 

 もちろん言いがかりだ。

 

 自分達のことは棚に置いては全てのアクア団のせいにする。

 

 少女の蹴りは止まることなかれ。

 

 しつように脛を蹴る。

 

「クソがっ、テメーらがカイオーガの復活を企もうとしなかったらルッチーも、先輩もウチも皆傷つかずに済んだのに……海に住むポケモンのために活動していますだって?マグマ団の悪事を止めようと協力しろだって?はん、笑わせるな!テメーらのそれを信じたがためにまんまと騙されて裏切られた奴がいるんだよ!大切な者を奪われた奴の気持ち考えたことあるのかよ!アンタ達にはわからないでしょ、だからムカつくんだよ!だからウチが、このアタシが教えてあげるの!アンタも貴女もお前もテメーらアクア団は全員1回死ね!死んで悪夢見て反省しろ!」

 

 情緒不安定な少女はついにぶちギレてしまった。

 

 忌々しい記憶が蘇り、忘れてはならない過去に憤りを覚える。

 

 自分というキャラさえ安定することもできず、少女は蹴りをエスカレートさせる。

 

 もう脛だけじゃ止まらない。積まれた山の至るところを、脚、股、腹、腕、顔全て無造作に蹴りをいれていくが……

 

「ソコマデ ダ ヤメロ」

 

「良いところで邪魔を……」

 

 影から手が伸び、少女の足を掴んだ。

 

 途中から一緒に雑魚掃除をしていたダークライが姿を見せた。

 

「コロシテハ ダメ オメガ ノゾンデ イナイ」

 

「ちっ、分かってるつーの……」

 

「………」

 

 少年の協力者・ダークライが止めなければ少女は止まらなかったわけだが……

 

「ごほっ、ごほっ……」

 

「ダイジョウブカ!?」

 

「血が出てたぐらいで五月蝿いっての……………ぺっ」

 

 興奮しすぎたせいか。

 

 少女は吐血した。

 

 ただ、それは少女だけに限った話しではない。


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