人気SS作家さん、尊敬します。
《朝ホーム前・2ーF教室》
「八幡君ってさ、昔好きだったものとかってある?」
「好きだったもの?なんだ急に」
「いや、八幡君って何事にも情熱とかなさそうじゃあない?何かに必死になってるところが想像できないっていうか〜」
「確かにあんた、思いっきり笑ったり怒ったりしてるの見た事ないんだよね。昔からそうだったの?」
「どうだろ?あんまり覚えてないからな……でも、少年団のサマーキャンプは毎年行ってたよ」
「うっそマジ?想像できないわぁ」
「何もそんな反応しなくても……」
別に私が行きたいから言っていたわけじゃあない。母親が行けというもんだから嫌々行ってただけさ。それに昔から目つきが悪かったので、基本人から避けられ気味だったもんだから本当は絶対に行きたくなかったしな。
三浦の件から一週間ほど過ぎた。
あの日は結局三浦の機嫌が戻らないまま放課後になったが、次の日には機嫌が治っていた。どうやら葉山が機嫌をとってくれたらしい。
そして由比ヶ浜とも和解したようで、時々昼休みに教室を出る由比ヶ浜を見かけるようになった。三浦は割と普通に過ごしているが、由比ヶ浜がいない日は心なしか葉山の喋る声が多くなっているような気がするので、これも葉山の努力の結果かと思うと感謝してもしきれないほどだ。
結局私たちには影響は無かったが、やはりこういうことに巻き込まれない為にも目立つ行為は控えなくちゃあな。雪ノ下のように論破するのは簡単だが、その後の対応にストレスが溜まる。
「好きな事か……小学校低学年の頃は仮面ライダーやウルトラマンを見ていたのは覚えてるけど、確か『変身グッズ』とかは買ってもらった事無かった筈だし、やっぱわからないな」
「へぇ。大志は小学校の頃、よく怪獣の人形を欲しがってたけどね」
「やっぱり関心が薄い子だったのねェ〜」
「そうだな……」
小説や漫画は親父が集めている分を暇つぶしに読んだりはするが、自分で買った事は一度もない。興味がないわけではないが、進んでみるようなものでもないからな。
『スクライド』を親父が集めていたので内容を知っていたら、平塚先生のネタに少し答えてしまい、それが原因で目をつけられてしまったので若干恨んですらいる。
「それにしても戸塚は遅いな。そろそろホームが始まるのに」
「あれ、LINE見てないの?さいちゃん今日熱が出たんだって」
「休みなのか?」
「そうそう。さいちゃん曰くキツくはないらしいんだけど、親が過保護らしくて」
過保護ねぇ……母さんから聞いた話によると、小町が生まれるまでは親父が私を猫可愛がりしていたらしい。想像するとかなり不気味な絵だな……
それにしても戸塚が休みか……戸塚に対して過保護になる気持ちはとてもよくわかるが、今日は体育があるからあまり休まないで欲しかったな。基本こいつらとしか喋らないし……ま、余った奴で話した事があればそいつと組み、そんな奴がいなければ壁打ちで良いか。
《体育の授業》
「お前らー2人組作れー」
体育の厚木の声で皆がペアを組み始める。私はというと、ペアになる奴が見つけられずに今日は壁打ちをする事を決めたところだ。正直あまり壁打ちはしたくは無いが、覚悟は決めていたのでそこまでショックではない。
「先生。体調が悪いので、壁打ちをしていて良いですか?ペアに迷惑をかけてもいけませんし」
「ん?……ま、ええじゃろ」
体育の厚木は少し考えて許可を出した。この先生は結構周りをよく見る事ができる先生だ、おそらくいつも組んでいる戸塚がいないからペアがいないという事に気づいたんだろう。
少し申し訳なさげに言ったのも効いたのかはわからないが、とにかく許可が出たので壁打ちをしておこう。少し目立つかも知れんが、この際しょうがない。
「なぁ、そこのキミ。ペアが居ないのか?」
1人決心していると、無駄に良い声で話しかけられた。振り返ると、太っていてメガネをかけ、更に頭にバランのような何かを乗せた男がいた。
「ペアが居ないなら僕と組まないか?何時も一緒に組んでる奴が休んでいてね」
この瞬間、この男が善意で話しかけていない事がわかった。優越感に浸っているという感じでもなく、何か自分勝手な感じがする。かと言って断るのもメリットはないし、今日はこいつと適当にラリーをしておこう。
「あぁ、良いよ。すいません厚木先生、ペアが見つかったので壁打ちはやめておきます」
「……おう、そうか」
先程体調が悪いと言った手前、厚木も言葉に詰まるが、どうせ嘘だとわかっていたようだし、問題は無い。
「なあ、少し休憩をしないか」
「ああ、いいよ」
先程の男とラリーをして25分程、休憩をしようと言ってきた。太っているのでもう少し早くスタミナが切れると予想していたのだが、思ったより動けるらしい。中々ボールコントロールも良かった。
……ま、そんな事はどうでもいい。おそらくこの休憩がこいつの目的だ。練習をしている時より、とても楽しそうな目をしている。と言うか、疲れている様子が見えないので何かを聞いてくるのだろう。
あまり話したくは無いが、休憩しようと言われて初対面の男に『だが断る』と言うのも不自然だし、場合によってはこの男を『始末』しなくちゃあならない。……何も殺すわけじゃあない、ただの比喩だ。
「そう言えば自己紹介がまだだったね。僕の名は材木座義輝。C組だ」
「俺はF組の比企谷八幡。それにしても助かったよ、いつも組んでる友達が今日風邪で休んでてさ……」
「能書きはいい。早速聞きたいんだが……」
やはりか。特に隠そうともせずストレートに聞いてくると言うのは私からしたら愚かしいにも程があるが、話が早いのはありがたい。
さて何を聞いてくる?私の正体に気づいたというのであれば……
「君を、取材させて欲しい」
……何?
取材だと?
何やら思っていたのとは随分違う要件だったようだ。取材ってなんだ?どうにもこの男、喋り方や立ち振る舞いが『厨二臭い』とは思っていたが、マスコミ気取りか?
「何もそんなに警戒しなくてもいい。僕は小説家を目指していてね、まだ仮だが、名前の義輝からとってペンネーム『剣豪将軍』で持ち込みもしている。作品のリアリティを高める為に、話を聞きたいんだ」
「へぇ……でもなんで俺に?自分で言うのもなんだが、俺小説に出てくるようなタイプじゃあ無いと思うんだけど」
「いや、それは違う。僕が書きたいのは所謂『ライトノベル小説』と言うやつでね、君のような平凡な奴が『成長』していく物語と言うのが読者にウケるんだ」
どうやら私の正体に気づいたわけではなさそうだ。取材ねぇ……
「一応言っておくが、君のプライバシーは絶対に守ると誓おう。何もあのはた迷惑な『マスコミ』の真似事をしたいんじゃあ無い……君に似たキャラを僕の小説に出すかも知れないが、足がつくような事は書かないさ」
「うーん……それなら良いか。受けるよ、取材」
「感謝する。それじゃあ早速なんだが……
雪ノ下雪乃って、どんな奴だと思う?」
‼︎
……こいつ……何故私が雪ノ下と関わりを持っている事を知っている?
「えっと……なんで俺に雪ノ下さんの事を聞くんだ?」
「由比ヶ浜とかいう頭の悪そうな茶髪に聞いた。君と雪ノ下が『クッキー作り』を手伝ったってね……」
……あの頭の悪いクソビッチが……プライバシーという言葉を知らんのか?
「元々、『雪ノ下vs三浦』の対決があったと聞いてね。その2人だと主観が入りそうだからF組の知り合いと、当事者の由比ヶ浜に話を聞いたわけだ……」
「僕は感動したよ‼︎こんなに身近にこんな非日常が転がっていたなんて‼︎『雪ノ下』と言う存在には前から興味はあったが、『奉仕部』‼︎僕は小説家として、最高のネタを掴んだんだ‼︎」
「ちょっぴり熱くなってしまったが、君から見た雪ノ下像を知りたいんだ。もしこのネタで小説を書くとしたら、『奉仕部に入った平凡な少年』が主人公になるだろう……つまり、一度手伝っただけとはいえ、君がその主人公に1番近い存在という訳さ……フフフ……」
うるさい上に熱い熱い。テンションが上がっているのはわかったから、少し黙ってくれ。周りの視線を集めているじゃあないか……
正直に言えば、これは『詰み』だ。興味を持たれてしまって、正体もバレていない。そしてこういう奴は、確実にしつこいタイプだ。ここで逃げても、待ち伏せとかをされる可能性がある。
平塚先生だけでもうざったいのに、こんな奴が追加されでもしたら、心労で私の胃に穴が開いてしまう……
つまり、私がやらなくちゃあいけないのは、『出来るだけ早く取材とやらを終わらせる』『それでいて私に興味を持たせない』この2つだ。
「わかったから、ちょっと抑えて。見られてる見られてる」
「ム!すまないな。それで、雪ノ下との初対面でどう思った?」
「そうだな……ありきたりだけど、『綺麗な人だな』ってやつかな?それでいて『ローマの彫刻』のような触れちゃあいけないようなイメージがあったね」
「ふむ……」
そう言ってどこに持っていたのか、メモ帳を取り出してメモを取り始める。
「それから、どんな会話をしたんだ?」
「……そうだな、自己紹介をして、この部活は何部だと思う?とかクイズみたいに聞かれたよ。あまり歓迎、って感じじゃあなかったかな」
「ほう……それから?」
「どうにも喋りたがりみたいで、昔の話とかを語られたよ。女子から嫉妬で嫌がらせをされたとかね」
「良いね、リアリティがあるよ、その話」
「そんな感じかな」
「それで、君は何故奉仕部に?」
「顧問の平塚先生と仲が良くてね……何やら思いつきで連れて行かれたらしい」
「ほう、思いつきか……リアルではあるが、いまいちインパクトに欠けるな……それで、クッキー作りはどんな感じだったんだ?」
……本当に根掘り葉掘り聞かれるな……ま、それで終わるなら良いか。どうもこの体育の時間内に終わりそうだし、洗いざらい話してやろう。
「それはね……
……って感じかな。どう?使えそう?」
「素晴らしい!最高だよ雪ノ下‼︎『クールな美少女ヒロインの心の闇』‼︎キャラも濃さそうだし、明るいヒロインと一緒に出すことでどちらも引き立てることができるポテンシャルも秘めている‼︎良いキャラしてるぜ」
「それは良かったよ。あ、そうだ」
「どうした?もしかしてまだエピソードがあるのか⁉︎」
「い、いやそうじゃあ無くてさ。彼女、どうも根に持つタイプに見えるから、奉仕部に直接取材に行くなら俺の名前を出さないで欲しいんだ。どうも彼女は苦手でね……」
「ああ、わかった。君は大事な『提供者』だ。無碍にはしないさ」
「おーい!そろそろコート整備をしろ!」
「おっと、どうやらもう終わりらしいな。ありがとう、参考になったよ」
「こちらこそ。小説頑張ってね」
ふう……やっと終わりか。本当にめんどくさい奴だった。
小説家ねぇ……彼の態度や性格を見る限り、目立ちたがりの馬鹿じゃあなく、まさに『天職』って感じだったな。あそこまで自分の作品に情熱を持っているのなら、小説を書くのが楽しくて仕方がないのだろう。
また変な奴と関わり合いになってしまったが、上手い具合に雪ノ下に興味を誘導できた。これで私への興味は全て雪ノ下に向いただろう。フフッ、また『試練』を『乗り越えた』ぞ……
将来彼が売れるかどうかなんてどうでも良いが、私の事をさっさと忘れて執筆を頑張ってくれ。そして早く興味を無くし、別の作品に取り組むことになるのを祈ってるよ、材木座。
《次の日》
昨日は休んでいた戸塚も、今日はピンピンしている。戸塚曰く、『昨日も学校に行けたのに、大袈裟で困る』らしい。戸塚にも反抗期って奴があるんだなぁ、と言ったら、ムクれていた。かわいい。
今日もこれから体育がある。そう言えば材木座はあの後奉仕部に取材に行ったのだろうか。どうでも良いがね。
「そうそう、昨日は戸塚が休んでいたから、材木座とかいう奴と組んでいたんだ。小説家を目指しているらしいぜ」
「へえ!カッコ良いね。そーいう『夢』を持っている人って良いなぁ」
戸塚は目をキラキラさせている。こんな風に何にでも嬉しそうにしている戸塚を見ていると、何故かこちらまで幸せになれる。
コートに行くと、材木座が背の低い奴と一緒に喋っていた。こちらに気づくと、横の奴を置いて向かってくる。
「やぁ比企谷。昨日はどうもありがとう……ム!その女の子、いや、男か!面白い、君、ちょっと取材をさせてくれないか!」
「え?ぼ、僕に?」
「ああ!君はとても良いキャラを持っている!『男の娘』キャラを描くときにこれ程のモデルは居ない!僕の書く小説に君をモデルにしたキャラを出したいんだが、構わないか?」
「本当に⁉︎」
「ああ!早速質問なんだが……」
……どうやらもう興味が私(と言うよりは雪ノ下)から戸塚に移ったらしい。これなら私に付きまとうって事も無いな……だが戸塚に興味を持たれるのは困るが……
「はぁ、義輝君はいつもこうなんだ……昨日も僕と組む予定だったのに良いネタがあるからとか言って僕が休んだ事にしてさ……」
さっき材木座の横にいた奴が話しかけてくる。こんな変人と関わっていられるのは同じ変人か戸塚のような聖人かどちらかだと思うが、おそらくこいつは後者だろう。そんな感じがする。
「君も大変だな……」
「慣れて仕舞えばそうでもないよ。僕は広瀬康一。君は?」
「俺は比企谷八幡。材木座から聞いていないのか?」
「プライバシーは大切なんだって。そこら辺は良い奴だと思うんだけど……」
思った通りそこら辺はキッチリしているらしい。安心すると、こんな事があっても良いかなとか思えてくるな。……いや、やっぱり傍迷惑か。
その後、戸塚が材木座に捕まってしまったので広瀬と組んだ。最近厄介事が多い気がするが、上手く切り抜けられている。やはり私は『運命』に味方されているな、と思い神に感謝したが、厄介事を起こすのも神かと思うと、やはり神は要らないと思い直した。
どうやって奉仕部に連れて行こうか4日間悩んだ結果、奉仕部に連れて行かない事にしました。
材木座魔改造しすぎて小説家と外見しか残ってない……
追記:康一君はストーリーには関わりません