比企谷八幡は平穏な生活に憧れる   作:圏外

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当初はさっさと材木座に行く予定だったんですが、予想以上に三浦のくだりが長くなってしまったので投稿します。
明日には材木座編を投稿しますので……

※なんか八幡がただの嫌な奴っぽくなってますが、ご了承ください。


紅の女王(クイーン・クリムゾン)

「ねぇ八幡、あの後由比ヶ浜さんとは何かあった?」

 

「いや、特に何も無いけど」

 

「そうなんだ。でもクッキー作り手伝ったんでしょ?珍しいよね、八幡がそんな事するなんて。」

 

「人を冷血漢みたいに言うんじゃあない。ま、自分から進んでやる事でもないけどな」

 

「でもあんた確か犬助けるために轢かれたらしいじゃない?なら思ったよりお人好しの面もあるのかもね」

 

「やめろ……」

 

「あれ?もしかして照れてる?そーゆーちょっぴりカワイイとこもステキよねェ〜」

 

「あはは」

 

「茶化すな、鬱陶しい……」

 

 

教室の窓側、川崎の席に集まり4人で弁当を食べる。これが私たちのグループの昼休みの風景だ。

 

 

晴れているときはこの後、私が戸塚の練習に付き合うのだが(その為にラケットも買った。戸塚のラケットケースに入れてある)、今日は生憎の雨なので練習はしないのだそうだ。この後は適当に駄弁って昼休みを過ごすつもりだ。

 

 

ちなみに奉仕部にはクッキー作りの日からは行っていない。

 

 

もちろん平塚先生は私を意地でも奉仕部に連れて行こうとするので、いろいろと対策を練ってこれを回避している。

 

 

まずは待ち伏せ。論破するくらいは容易いが、恨みを持たれても困るので、帰るときは校門まで川尻たちと一緒に行く事にした。

 

 

川崎も川尻も何か勘繰るような目線を向けてきたが、平塚先生を見ると納得したようで、逃げ切るのに協力してくれたりした。何も言わなくても付いてきてくれる彼女ら2人はいい嫁になると思う。

 

 

呼び出しは何度かあったが、殆どは無視した。現国の授業のあとに呼ばれたりもしたが、休み時間の10分ぽっち凌げない私ではない。変に怒らせない限り手を出してくることもないし、周りに生徒もいるので躱すのはわけない。

 

 

ついでに生物の課題で出された動物の生態レポートとか言う平塚先生と全く関係ない事で呼び出された時には、生物教師に「平塚先生からレポートに不備があると聞いたのですが」と言って嫌がらせをしておいた。その後、職員会議で注意を受けたらしい。ざまぁみろ。

 

 

最後のはいらなかった気もするが、何もしないのも私の気が収まらないので後悔はしていない。

 

 

そんなこんなで私は平穏を取り戻していた。職員会議があった今週の水曜以降は待ち伏せも呼び出しもない。諦めてはいないだろうが、今はじっとしておくべきだと思ったんだろう。

 

 

私が束の間の幸せに浸っていると、後ろの方で不愉快な声が聞こえた。

 

 

「ねぇ隼人ぉ〜?」

 

「今日は駄目だよ、部活あるし」

 

「1日くらいよくない?今日さ、フォーティーワンのアイス、ダブルが安いんだよ。あーしチョコとショコラが食べたい」

 

「どっちもチョコじゃん」

 

「あはは、本当だ」

 

「え〜全然違うし。てかちょーお腹減ったし」

 

 

チッ、気分が悪い。どうでもいい事を大声を出して喚くなド低脳共が。

 

 

クラスどころか学年でもスクールカースト最上位の葉山と三浦を中心としたグループ。私はこいつらの事を嫌ってはいるが、別に全てを見下しているわけではない。

 

 

品性が下劣で配慮に欠け、自分らが世界の中心にいるかのごとく振る舞っている所は鬱陶しい事この上ないが、最上位には最上位なりの努力があるし、能力がある。

 

 

こいつらは顔が良い(葉山は成績も良いらしい)が、それだけではない。その顔に見合ったファッションセンスや運動能力、話題などと言った外面的な面にも気を使っている。私もファッションにはちとうるさいが、それは社会に出てからと決めているので、今はこいつらを少し参考にしているまでである。

 

 

それに、取り巻きレベルはまだしも葉山と三浦には『カリスマ』がある。ここが顔が良くて能力があるだけの雪ノ下との差だな。とても大きく埋めようが無い差だ。

 

 

人を導く才能は別としてだが、人を惹きつけ操る才能。2人にはそれがある。そういう奴がいない学校にはここまでのカーストは無いだろうが、他を圧倒するその『カリスマ性』によって人を惹きつけるそれは、他のグループにすら謎の統制を与えて、『絶対王政』のような身分制度を自然に作り上げている。

 

 

私はそんな事をやろうとは思わないし、やって出来ないとも思わないが、この2人ほど容易く行えるかと聞かれれば答えは否である。顔と能力とカリスマのバランスが良い奴らだからこそ、こんなに簡単に身分制度を作れるのだ。

 

 

ま、人を導く才能はあまり無いように見えるがね。三浦は自分勝手な女王サマ気取りなだけだし、葉山もただ周りが付いてくるので仕方なくそれを率いてる節がある。そんな才能まであったら政治家になる事を勧めるレベルなので、高校生活にはこのままで充分すぎるが。

 

 

でもやっぱり小うるさく騒ぐ奴らは癪にさわるし、これっぽっちも負けているとは思わないので、心の中でバカにしておく。勝手に重責背負って潰れるか、先輩や上司に嫌われて肩身が狭い思いでもしていろ。

 

 

そうしていると、何やら気まずそうにしている由比ヶ浜に目が止まる。後ろには弁当箱を持っているが、腹が減っているだけってわけでもなさそうだ。

 

 

「悪いけど今日はパスな。それに優美子、あんまり食い過ぎると後悔するぞ?」

 

「あーしいくら食べても太んないし」

 

「やー本当優美子、マージ神スタイルだよねー。足とか超キレー。……でさ、あたしちょっと……」

 

「そーかなぁ〜?でも雪ノ下さんとかいう娘の方がやばくない?」

 

「あーたしかにゆきのんはやばい……」

 

「ゆきのん?」

 

「あ、えっと、で、でも優美子の方が華やかっていうか……」

 

 

自分が出した話題で不機嫌になるなよ、他のグループまで気まずい雰囲気になるじゃあないか。自分らの影響力を正しく理解しているのか?まったく……

 

 

それにしても『ゆきのん』ね。

 

 

つまり由比ヶ浜は雪ノ下と一緒に弁当を食うなりなんなりの約束をしていると思われる。それに早く行かなくてはならないが、行くタイミングが難しいというわけか。

 

 

「仕方ないな、俺も部活が終わった後なら付き合うよ」

 

「本当に⁉︎」

 

 

葉山も察したようだ。流石はリア充の王、空気を読むなどのリア充スキルが格段に高い。

 

 

それにしても大変そうだな由比ヶ浜。ある意味雪ノ下システムの被害者である彼女は、どうやら本当に『雪ノ下の周りの世界』に入ったらしい。

 

 

あの『雪ノ下システム』、効率は良いがどうも雪ノ下本人が仲間を引き入れる気がないようなので、ほっといても崩壊して失敗すると思っていたが、由比ヶ浜は引っかかったようだ。私にはもはや何の関係も無いがね。

 

 

そんな事を考えていると、由比ヶ浜と目があった。私はとっさに目を逸らしたが、眼前の川尻は見逃してはくれなかったようだ。

 

 

「八幡君?何ずっと由比ヶ浜さんの方ばっかり見てるの?ねぇ」

 

「いや、何やら空気が悪いからな。原因を見てただけさ」

 

「それなら良いんだけど……あっちは大変そうね〜。ま、きっと私の八幡君に唾つけようとした報いね、これは」

 

「お前な……」

 

 

ギリギリ声が届かないくらいの声で言っているあたり、強かである。ちなみに川尻は元々由比ヶ浜の事を『結衣ちゃん』と呼んでいたが、今やこの有様だ。女ってメンドクサイ。

 

 

そうこうしているうちに、由比ヶ浜が行動を起こした。

 

 

「えっと!その……あたし、お昼行くとこあるから……」

 

「あ、じゃあレモンティー買って来てくんない?あーし今日飲み物忘れちゃってさ」

 

「あ、いやその……」

 

 

おいおい、普通にオトモダチをパシッたぞ、この女。マジに女王気取りか?これは由比ヶ浜も大変だな。こんな奴の取り巻きなんてしてるくらいならぼっちの方がマシだと思うのは私だけだろうか。

 

 

「あたし戻ってくるの5限になるって言うか……何てゆーか……」

 

「はあ?ちょっと何それ?てか結衣最近付き合い悪くない?」

 

「いやあの……それはその……止むに止まれぬというか……大変私事で恐縮ですー、というか……」

 

「あのさぁ、それじゃわかんないからちゃんと説明してくんない?」

 

 

うわぁ、遂に三浦がキレだした。どんどん雰囲気が悪くなるな。もうこの教室ではこいつら以外誰も喋っていない。

 

 

コレだからこう言う奴らは嫌なんだ。自分らの都合しか考えず、周りに影響をばらまく。そして周りは被害を被りたくないので、動向を見極める為に注目をする。あいつらの中に私がいたらと思うと、もはや悪夢だ。

 

 

「あーしら友達でしょ?ねぇ聞いてんの?」

 

「えっと……ご、ごめん……」

 

「だからごめんじゃなくて。結衣さ、言いたいことあんでしょ?」

 

 

はぁ、アホくさい。パシリ断ったらキレだす友達なんぞ友達とは呼ばない。もはや主従関係の方がしっくりくるくらいだ。

 

 

「ねぇ、八幡」

 

「ん?どうした戸塚」

 

「助けてあげない?由比ヶ浜さん、可哀想だよ……」

 

 

戸塚が小声でそう聞いてくる。なぜか若干涙目だ。戸塚は純粋でとても心優しい、友人関係の黒い部分を見せられるのは辛いのだろう。

 

 

だか、由比ヶ浜を助ける義理もないしな。それにこんな所で三浦に目をつけられでもしてみろ、今まで築き上げた私の平和な居場所が一瞬でパーだ。少々心が痛むが(無論、戸塚に対して)、生憎私は善人じゃあない。

 

 

「悪いけど、俺もあそこに入っていく勇気は無いわ。お前らの誰かならまだしも由比ヶ浜とかそこまで仲良いわけでも無いしな……」

 

「戸塚も放っときな。あんなのに関わるとろくなことが無いよ」

 

 

川崎はそうだろうな。私と同じく、中学時代はグループに属していなかったようだし、騒がしいのを嫌うタイプだ。

 

 

「そうだよ。放っとけばさっきみたいに葉山くんが何とかするって。私らには関係ない関係ない」

 

「そうかな……でも……」

 

 

それに、待たされているのが雪ノ下なら多分この教室までやってくる。あいつは待たされたらそのまま帰るような奴じゃあない。

 

 

正直に言えば、来て欲しくはないがな。

 

 

「あんさぁ、結衣の為に言うけど、そういうはっきりしない態度ってイラっとくんだよね」

 

「……ごめん……」

 

 

 

 

「謝る相手が違うわよ、由比ヶ浜さん」

 

 

 

 

はぁ……おいでなすったか、雪ノ下。頼むから話を拗らせないでくれよ……嫌な予感しかしないが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結論から言うと、雪ノ下が罵倒し葉山が納めてくれた。と言うか、雪ノ下は罵倒して出て行っただけだった。

 

 

正直、類人猿の威嚇とか言い出した時には笑っちまいそうになったが、あいつもあんまり変わらないと思う。意見を押し付けてるだけとかまさにお前のことじゃあないかと言いたくなってしまった。

 

 

と言うかあいつ、葉山が三浦を宥めなかったらどうするつもりだったんだろう。リア充に対して敵対心と抵抗を持っているだけにしか見えない罵倒を浴びせていたし、ただ論破して終わりって気がする。そりゃあ好かれないだろう。

 

 

しかし流石は葉山、三浦を抑えることに関しては右に出る者はいない。機嫌が悪くなった三浦も、さっきアイスがどうとか言っていたのでその時にでも葉山が機嫌をとってくれるだろう。葉山様々だな、本当に。

 

 

三浦が面倒くさい時は葉山に何とかしてもらう、これは2-Fでは常識となっている。そこら辺が便利なところも人に好かれる要因なんだろう。実際頼めば何でもしてくれそうだしな。奉仕部なんかよりずっと便利だ。

 

 

とにかく、思ったほど話が拗れなくてよかった。戸塚も安心したようだし、私も安心して熟睡できそうだ。今日は寝る前に葉山に感謝してから眠りにつくとしよう。これからもうちのクラスの面倒事を一手に引き受けて尊敬され続けてくれよ、葉山。

 

 

私たちクラスメイトの平穏の為にね。フフフ……

 




吉良ヒッキーが難しいと改めて思った回でした。

改善の為、意見感想お待ちしています。

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