比企谷八幡は平穏な生活に憧れる   作:圏外

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ぶっちゃけ物足りない感が否めない……

それはそれとしてハンバーグ師匠ネタ面白いよね。


雪ノ下雪乃は変わらない

《放課後》

 

「じゃあね、八幡、しのぶちゃん、川崎さん」

 

「さよなら」

 

「また明日ねーッ」

 

「ああ、またな」

 

 

部活に行く戸塚を見送り、帰路に着こうとする。川崎も川尻も家が学校を挟んで反対側なので、一緒に帰ったりはしない。

 

 

教室を出て少しした所に、何故か平塚先生が待ち伏せしていた。いや何故居るのかはわかるが、あれだけコケにされた癖に何故来たんだ。

 

 

「ハァ……先生、なんで来たんですか?」

 

「随分な言い様だなぁ比企谷。来なきゃお前はどうせ直帰するだろうが。ほれ、奉仕部に行くぞ」

 

「行かないって言ったじゃあないですか。俺も別に暇ってわけでも無いんですよ」

 

 

適当に返すと、平塚先生はニヤニヤしながらこちらを見ている。どうせ脅す気なんだろうが、先生が生徒を脅すのはどうなんだろう。

 

 

「良いのか?お前の本性をバラしても良いんだぞ?」

 

「どうせバラさないならそんな事を言うのはやめて欲しいですね」

 

「……何故そう思う?」

 

「すぐに人の秘密をバラすような性格の人が、猫を被るのを良しとしないと言うのは些か不自然ですし。これでも先生の事は信用してるんですよ?」

 

 

そう言うと平塚先生は苦い顔をしていたが、若干嬉しそうでもあったので断りながらご機嫌をとるのは成功したように見える。ちょろい。

 

 

「それに俺の何がいけないって言うんですか?私も周りも何も困ってないし、普通に生活に満足してるんですけど」

 

「なら友人たちにくらい本音で語り合っても良いじゃないか。何故そうしない?」

 

 

しつこいな先生。そんな事にいちいち理由なんざあるわけ無いだろうに。面倒くさいな……

 

「さあ?」

 

「さあ?って……」

 

「特に理由はありませんけど、強いて言うならタイミングがわからんだけですかね」

 

「……そんな事では、本当に仮面が外せなくなるぞ」

 

 

チッ……まだ食い下がるか、仮面なんぞ将来的には外せない方が得だろうが。もうさっさと帰ってくつろぎたいってのに……

 

 

「妹には常に本音で話してますんで大丈夫です。ああ、本音を言っても逃げない人が居ない先生にはわかりませんでしたね。それでは」

 

 

そう言って踵を返すと、後ろから殺気が当てられる。

 

 

マズい、言い過ぎた。だが脚力には自信がある、このまま逃げさせてもらおう。

 

 

そう思い私は走り出す。後ろを振り向くと平塚先生が般若のような顔をしていた。だが動いていなかったので逃げ切れたと思うと、その瞬間には肩を掴まれていた。

 

 

ば、馬鹿な……速すぎる……時間でも止まったみたいに速すぎる……

 

 

「お前はたった今ァ……越えてはならん一線を越えたぞ……」

 

 

逃げようとしても理不尽なほどの握力で逃げられない。そして、教師が生徒を殴るわけが無いッ!と言う幻想を

「衝撃のォォ‼︎ファーストブリットォオ‼︎‼︎」ゴッ‼︎

 

 

ブッ殺す様に、と思った時には、すでに行動が終わっていた。

 

 

 

 

《奉仕部部室》

 

「フンッ‼︎」

 

「ぐえっ」ドサッ

 

 

そのまま気を失った私が平塚先生から放り投げられる衝撃で目を覚ますと、そこには雪ノ下がいた。どうやら奉仕部部室まで運ばれてきたらしい。

 

 

それにしても、全力の腹パンを生徒にかますのを置いといても、あの威力は人間が出して良いものじゃあ無いと思う。マジに人間か?あの女……

 

 

「あら、目が覚めたのね手首谷君。永遠の眠りについたのかと思ったのだけれど」

 

 

永遠の眠りについてるのはお前の常識じゃあ無いのか?と言いたくなったが、言ったところで面倒くさいだけなので放っておく。

 

 

口を閉ざしていると、雪ノ下が聞いてくる。

 

 

「……ねぇ、貴方はなんでそこまでして仮面を被るの?」

 

 

……さあな。いつ頃からこんな性格になったかはよく覚えていないが、今は『目立ちたく無いから』だと思っているよ。

 

 

「えっと……何のことかな?」

 

 

私は怪訝な顔をする。

 

 

「……そう」

 

 

拒絶の意は伝わったようだ。それで良い。

 

 

私はそのまま帰ろうとしたのだが、雪ノ下は私に話しかけてきた。やはり話したがりみたいだなこいつ。いよいよ友達がいない説が濃厚になってきた。既に確信は持っているがね。

 

 

「貴方は何も聞かないのね。何故1人で部活をやっているのかとか、何故仮面を被るのを嫌うのかとか」

 

「普通そう言うのって、聞くのは迷惑になるんじゃあないかな」

 

 

皮肉を込めて言うと、雪ノ下は何やら遠い目をしていた。私は知っている、これは長話の予兆だ。

 

 

「みんながみんな、そうだったらよかったのだけれどね」

 

 

……はぁ、長くなりそうだ。

 

 

「昔から私は可愛かったから、男子はみんな私に好意を持っていたわ。でも女子はそれが気に食わなかったみたいね」

 

「小学校の頃、上履きを60回ほど隠されたけど、そのうち50回は女子にやられたわ。おかげで私は毎日上履きとリコーダーを持って帰るはめになった」

 

「小学生の終わり頃から中学2年まで私留学していたのだけれど、日本に戻ってからも同じようなことが続いたわ」

 

「男子に告白され、振ったらその男子の事を好きだった女子が私に嫌がらせをしてくるのよ。ああ、貴方にはわからないわよね、ごめんなさい」

 

「でもそれは仕方ないのよ。人間は完璧ではないのだから。弱くて醜くて、すぐに嫉妬し蹴落とそうとする」

 

「この世界って不思議と優秀な人ほど生き辛い物なの。だから私が変えてやるのよ、人ごとこの世界を」

 

 

……案の定話が長い。人を見下している事がありありと伝わってくるな。

 

 

要するに、『私は可愛いから男には好かれていたけど、周りの嫉妬でいじめられたのよ。私は何も悪くないのに。だから私がみんなを変える』と言うことかな?

 

 

個人的には『それお前が自己中で高飛車だったから同性から嫌われただけじゃね?』と言ってやりたいのだが、これをどう返したものか……

 

 

「へぇ、大変だろうけど頑張ってね」

 

「フン、貴方にはわからないでしょうね」

 

 

ああわからないね。お前みたいな『ぼくは1番が好きだ。ナンバー1だッ‼︎』みたいなことを考えてる奴らの考え方なんざ。

 

 

いじめ自体はまだしも、いじめのきっかけや無視などにはほぼ確実にいじめられる側に原因がある。無視なんか特にそうだ。

 

 

ましてや嫌われるのは99%嫌われる側が悪い。単純に性格が合わなかった、という事もあるが、それも悪いのは嫌われる側だ。

 

 

お前は1人でも生きていけるのかもしれんが、周りの人間は1人では生きていけない。そして集団の力は理不尽なまでに強い。私なんかでは太刀打ちができないほどに。

 

 

『英雄』では、『優秀な指導者』には絶対に勝てない。こいつはこの歳になって、そんな事もわからないのか。いや、わかっていてもなお抗っているのか。

 

 

「ああ、わからないさ」

 

 

お前も、平塚先生も、何故抗おうとするのか。勝てる訳などないのに。少数派はどんなに正しかろうと、多数派には勝てないのは知ってる癖に。

 

 

 

「……貴方は___

 

コンコンッ

 

 

 

雪ノ下が何かを言おうとしていたが、それを遮るように何者かが教室の扉を叩いた。

 

 

 




次回、由比ヶ浜登場。多分原作とほぼ変わらない。

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