ふとこの作品の事を思い出し、何故か創作意欲が湧いてきたので少し再開します。
「私は……必ず平穏を手に入れる」
それは、夏休み最後の日の夜。明日の準備を終わらせ、身に染み付いた習慣であるストレッチを終わらせてのことだ。
明日からの生活を考え、思考する。何をして、何をするべきではないのか。そして私は柄にもなく過去を思い出し、少々思い耽っていた。
「私のすべきことは、最早何もない。自分から動くなどと言うのは愚の骨頂……依然変わりなく、気をつけるべきはあの由比ヶ浜と葉山だ」
思い出すのはあのキャンプ。
私たちは愚かしくも、我々だけが参加するのだと思い込み、彼らや雪ノ下と共にキャンプに勤しみ…そして、イジメ問題の解決に当たった。
「正確には、解決には殆ど関わってはいないがね……さて、私に降りかかる問題は、葉山らとの繋がり、雪ノ下、そして由比ヶ浜……『ではない』」
確かに、私はあのションベン臭いガキを見捨てた。それに対しての由比ヶ浜、雪ノ下の心中は穏やかではないだろうが、寧ろそれは私にとって『得』になるとさえ言える。
由比ヶ浜は空気が読める。
下手に私に突っかかって、終わった問題を掘り返す……それは、周りの空気を崩しかねない。
あの問題は、解決したから円満に収まったのだ。しかも私は葉山の側に付いた、これに対しあからさまな反抗は自らのグループに対する叛逆とも捉えられる。そう見なくとも、奴がクラスの空気を崩すとは考え難い。
「尤も……解決したとは言え、イジメ側は数で勝る……1人が3人になろうと、『慣れれば1人と変わらん』。結局は奴らで何とかするしかないんだ」
由比ヶ浜なら「あの子達は大丈夫」と言うのだろうがね。鶴見個人の心は折れんだろうが……他のガキは『既に2回裏切られている』。どう転ぶかは私にも分からん。
そして雪ノ下はクラスが違う。流石の奴も態々うちのクラスに来てまで突っかかりはしないだろう……しないよな?いやしないはずだ。
葉山は少し問題だ。
奴は自分勝手な自己を抑えつけている節があり、何かの問題を私に押し付けかねない……周りの連中も、『葉山が言うなら間違いはないだろう』と考えることは容易に想像ができる。
まあ、それもうまく流せる自信くらいはある。奴のいいなりなるつもりは毛頭ないし、『比企谷は葉山の腰巾着』と思われなければ、まぁ妥協できるだろう。
よって、これらはさしたる問題ではなく。
「1番避けなくてはならないのは……『相模』」
私が最も嫌う、『騒がしく』『自分勝手で』『他人を巻き込む』タイプの女……
奴は三浦や由比ヶ浜ほど顔は良くない。スタイルも同上。空気は読むが、いつでも『自分を中心とした空気の読み方をする』。葉山を好いている。本気になれば三浦より自分が上に立てると信じている。自重というものをしない。気が短く、思った事は実行に移してから考える。
そして何より……奴は『諦めを知らない』。
「……奴には関わるだけ損だ。叩きのめして再起不能にしたところで、私に不幸を振りまく」
『諦めない』ことと『諦めを知らない』ことは、同じようで同じではない。
諦めないのは『自由』だ。自分の意思で諦めていないことであり、また諦めることもできる。『諦める』と『諦めない』、この2つを天秤にかけて諦めるを選ばないだけだ。
だが、『諦めを知らない』場合、完全に『行動を縛られる』。
そして『諦めを知らない』奴は、負けたら悔しがる、それだけならまだいいが、別の機会でも相手と勝負をしたがるようになる。それも
仮に、徒競走をしたとしよう。相手は自分より力量が上で、どうやったって勝つことは出来ない。だが、勝負をしなくてはならない。
私の場合、特別な事情がない限りは『争い事はしない』。それが勝負を呈していようと、心の中では唯の体力測定だと考える。無駄だからな。
諦めない奴の場合、勝負には熱中するだろうが……それはその勝負の中だけだ。残るのは『結果』だけ、と言うのが分かりやすいか?『結果』が出てしまえば、その勝負は終了する。負けたことを女々しく引き摺る事はしないだろう。
だが、諦めを知らない奴はそうではない……『勝負』と決めた時点で、その終結は『結果』ではなく『勝利』にすり替わる。
そんな奴らにとって、『勝利』以外の結果は『終わり』ではない。勝って優越感に浸るまで、勝ち敗けにこだわり続ける。それは徒競走のみならず、『成績』『体格』『顔』『評価』…何かにつけて相手を上回ろうとし、突っかかる。
この場合、葉山に対し我々が近づいた事に対して私にクラス内での立ち位置を理由に敵対心を抱かれた時、奴は私に対し勝っていることが1つもない。
成績、確か私の方が上。当たり前だ。体格と顔、別に悪くはないので優越感は得られないだろう。運動、私はそれなりにできる。
まあ、奴は教師などではなく
「そうなれば、奴は私と自分を比較し、心の中で難癖をつけ……そして、『蹴落とそうとする』……奴は自重しないからな」
そうなると非常に厄介だ。難癖をつけるだけならまだいい、私もやっている。だが……
キャンプのガキどもと精神のレベルが同じだ。小学生と比べてすら、全く成長していない。
「チッ……どうして私が、こんなどうでもいい事で悩まなくてはならんのだ……もういい、健康に悪い」
「独り言うっさいよ!やる事がないならさっさと寝ろ!こっちは受験生なの!」
小町は突然扉を開け、言うだけ言って出て行った。かなりイラついているようで……あいつは特段頭の出来がいいわけではないしな、受験勉強の疲れと……あとはまぁ、アレか。
「……はぁ、寝るか」
解決はしたからいいじゃあないか……いつになったら機嫌を直してくれるのやら……
《次の日・学校》
私が登校すると、一心不乱にペンを走らせた川尻が、顔も上げずに挨拶をしてきた。当然、怒る事なく挨拶を返す。
「おはよう、八幡。宿題見せて」
「おはよう川尻。ダメだ」
「なんでよォー!」
新学期早々、川尻は朝っぱらから課題に勤しんでいた。
「私がこんなにも悩んでいると言うのに!ここの課題だけ課題表に書いてなかったから忘れててたの〜!」
「もう少しで終わりそうじゃないか。あとは……問題集の見開きが2つ分、つまりあと4ページか。余裕余裕」
「無理よォ!課題提出まであと1時間もないのよ⁉︎
「ん?あと3ページだったか。まぁなんとかなるだろう」
「八幡は容赦ないなぁ……」
「お、戸塚おはよう」
「おはよう八幡。しのぶちゃん、僕のを見せてあげるから元気出して」
「流石彩ちゃん!それに比べて八幡の鬼!悪魔!八幡!」
「八幡の八幡って一体どういう事なんだ……?」
「もはや哲学だね。比企谷は概念なんだよ。おはよう」
「おはよう川崎。そう言う君は頼まれたら見せてやるのか?」
「愛の鞭って言葉知ってる?」
「OK、理解可能」
「彩ちゃん彩ちゃん。まだ夏なのになんか寒くない?私はあの2人がキンッキンに冷えてるからだと睨んでるんだけど」
「え、えっと……僕は暑いかな〜なんて……」
「戸塚が暑がっているのは厚かましいやつが近くにいるからじゃあない?さっさと書きうつさないと、ホームルーム始まるよ」
いつもの下らんやりとりは健在だな。どこか安心できる。
「お、終わった……私は成し遂げたのだわ……!」
「そう呟き、ペンを置く川尻は清々しい笑顔だった。2人分のノートを提出し終え、彼女は机に顔を埋める。誰とも顔を合わせないように……そういった姿勢であるが、それをどうして他の者たちが責められようか。いや、責めることは出来ない」
「はちまん、もしかしてテンション上がってる?」
「……いや、忘れてくれ」
気の迷いで恥ずかしい事を言ってしまった。反省すべきだな、これは。
結局始業式が始まるまでには終わらなかったが、ノートを係に持って行かれる直前に終わらせることができたようだ。ま、よくやったと褒めるべきだろう。
そして、課題を提出し終えたならば次は
「えーっと、じゃあ次は文化祭の実行委員を決めたいなんだけど……誰かやりたい人いる?」
さて、ここだ。どうなる?戸部辺りがやるなら問題ないんだが、そうも行かない。
何故ならば、実行委員は男女一組の2人だけだ。2組作るのならまだ気楽なんだが、男女の問題に敏感なこの年頃で2人きりと言うのもな。
葉山や戸塚辺りが実行委員をやるのなら、直ぐに女子でその枠の取り合いになるのだろうが……逆に、男子がぼっちの哀しいヤツとかだった場合、そうも行かんだろうがね。流石にそんなネタでイジられるのが好きと言う物好きも居ないだろう。
「うーん……時間も無いし、じゃんけんでいいですか?」
「えー?そりゃ無いっしょー」
「え?あぁ…じゃ、じゃあ推薦とかありますか?誰になら任せられるーみたいな……」
別に、私がイジられたく無いから実行委員をやりたく無い、と言うわけでは無い。私が実行委員になった場合、女子側は川尻が率先して立候補するだろうからな。相手が川尻なら、別に問題はない。共に行動するのは慣れている。
「えっと……じゃあ、葉山くんとか?」
「……えっと、俺は劇の主要人物らしくて……済まない、他の誰かに任せるよ。戸部とか、そう言うの好きそうだけど」
「ええっ⁉︎いや、流石に勘弁だわー。えっと、
あ、そうだ。比企谷くんとか、どう⁉︎」
……まぁ、そうはなるか。
「いや〜……あんまりそう言うのは得意じゃあない。他を当たってくれ」
「いやいや、何かこう……はっきりしてるってゆーかさ……あ、優柔不断じゃない感じ?意見をスパッと言えるタイプつーの?そうゆーのいいじゃん⁉︎会議とかそっち向きじゃね?」
「あ、ちょっと分かるかも。比企谷って決断力あるよね」
こう言う展開が一番不味い。私に対しての謎の高評価はキャンプで味方したからしょうがないとはいえ、コレは……相模が不味い。
「……?」
今相模を見るわけには行かないが……恐らく、眉間に皺を寄せて私を凝視している事だろう。
「……悪いけど、俺はちょっとパスしたいかな。そう言うの苦手なんだ」
「えぇ〜?そうかな?比企谷って結構……」
「ま、まあまあ。比企谷本人がそう言ってるんだから、強要するのもよくないだろう」
「あー……じゃ、じゃあ他に相応しい人とかは……」
……コレは葉山に助けられたと言うべきか、寧ろ状況が悪化したと言うべきか。
クラス内カーストと言うのは、本来ならクラス内影響力ランクと言い換えてもよい。実際、立場が上の人間ほど意見がよく通る。自分から意見を出すのをためらいがちな学生の間なら尚更な。
だが、このクラスは少々特殊だ。『葉山、及びそのグループとの距離』……これが、このクラスのカーストを決定付けるとても大きな要因となっている。
そして……今、私はその葉山グループからの『信頼を見せつけた』。見せつけてしまった。
グループ内でもナンバーツーの三浦、それに葉山との距離が近い戸部。その2人の影響力は、実のところ葉山本人よりも高いとさえ言える。葉山が割と優柔不断なので、周りの意見に左右されやすいからだ。
そんな奴らからの高評価を受けてしまえば、『あいつは葉山とも仲が良い』と思われても仕方がない……それだけならまだ良いんだが、相手が相模だと話は別だ。
下手に敵対心を覚えられては手遅れだ。目立たず、穏便に始末できらのならここまで警戒はしないが……生憎奴は、『人を巻き込む』。
最悪、先手さえ取れれば奴程度、不登校にでもしてしまえばいい。だが、先に行動を起こされると、相模が私を目の敵にしていることが直ぐにバレてしまう。こちらが裏で行動をしていたとしても、昨日の今日でそんな事になれば私が
そうなれば、周囲から畏怖の感情を抱かれることもあるだろう……全くもって、好ましくない。
どんなに小さな芽も詰まなくては……葉山のような『教会』には表立って手を付けられなくとも、奴のような『藁の家』……燃やすのは、吹き飛ばすのは容易い。先んじて行動を縛り、直ぐに動けなくしてやる。
今の段階でも充分に厄介だ。奴はこの文化祭準備期間中にでも消し去る、それが賢明だろうな……ナンバーツーグループは、別の輩に押し付けよう。ばらけた相模の取り巻きと大和辺りでもくっつければ足りるだろうか。
そんなことばかり考えていると、そろそろLHRが終わる時間だ、ということに気づいた。
未だに男子側すら決まっていないが……まぁ、無難にじゃんけんにでもなるか?流石の私でもそんな運否天賦で決まってしまえば、実行委員だろうがやらざるを得ない。
まぁ、なんとかなるだろうとたかを括っていた。
そう、思っていたのだが……
「ほら、いつまでLHRをしているんだ。もう時間は終わったぞ、席につけ。……なに?まだ実行委員が決まってないだと?
……推薦で比企谷が推されていたのだから、それで良いだろう。女子はまた帰りのHRにでも決めなさい。では、授業を始めるぞ」
……本気で学校から追い出してやろうか、この腐れ教師。
旧作期間中にも拙作に感想を書いて下さった方、見ていただいていた方。本当にありがとうございます。
正直、もう続きを執筆する予定も気力もなかったのですが、モチベーションが少しだけ戻ってまいりましたので、ちょっとだけ続きます。