比企谷八幡は平穏な生活に憧れる   作:圏外

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人間、やろうと思えばできるものですね。


キャンプに行こう!・その4

《side雪ノ下》

 

由比ヶ浜さんが言うには、決行するのはこの自由時間。出来れば昼食を食べる前くらいがいいという。

 

今は鶴見さんを探している最中だ。

そして私は由比ヶ浜さんへ質問をする。

 

「どういうことなのか説明してちょうだい」

 

「うん。私が提案したやり方で大丈夫な理由だよね?」

 

 

由比ヶ浜さんが提案した方法は、言い方は悪いがもう使い古された様なやり方。

 

 

『私はその子、留美ちゃんって言うんだけどね?とお話しをしたんだ。それで、あの子に友達を作ってあげたらいいかなって』

 

『私には分かるんだ。だってみんなは『強い』立場で考えているけど、私はそんなに強くなかったから。こういうイジメ問題ってね、みんなが思ってるより簡単に始まって簡単に終わるんだよ』

 

 

…………『友達を作る』。たった、それだけだ。

 

 

「……そんな事でイジメは止まらない筈よ。

第一、友達を作ってあげるって言ってたけど……そんな事を鶴見さんが出来るの?それができたらそもそもイジメなんて……」

 

「まあその辺はちょっとだけ頑張ってもらうんだけど……とにかく、これでいじめは止まるはずなの」

 

 

由比ヶ浜さんは確信を持って答える。

『強い立場』では考えつかない、『弱い立場』を利用したような解決策。

 

……誰もが強く生きるべきと考える私には、思いつけないその理由を。

 

 

「まず、留美ちゃんがどうして虐められてるのかわかる?」

 

「そうね……この場合、特に理由は無いと思うわ。強いて言うなら『虐めやすかったから』かしら?」

 

「うーん、まあそうなんだけどね。ホラ、留美ちゃんさ、『見て見ぬ振りしちゃったから、仲良く出来ない』って言ってたじゃん?」

 

「ええ、そうね」

 

 

鶴見さんは『他の人が虐められて居るのを見て見ぬ振りしていたら、いつの間にか自分がそうなってた』と言っていた。

 

 

「つまりね、いじめっ子たちからしたら元々友達っていうか、仲間だったはずなんだよ。私が思うに、多分虐められた理由は『1人だったから』」

 

「……?仲間だったのでしょう?」

 

「意見の違いってやつだよ。留美ちゃん1人だけ『見て見ぬ振り』で、他の子は嫌な顔一つせずいじめられっ子を笑ってたんだと思う」

 

 

仲間内で溢れた1人が虐められると言うのはありがちだ、筋は通っている。

 

 

「それでもさ、おかしくない?今までもいじめられっ子は居たのに、直ぐに留美ちゃんだけが虐められるようになったのってさ。

わざわざ、元々は仲良く……とまでは行かないかもしれないけれど、友達だった留美ちゃんにターゲットを移すかな?」

 

「まぁ……鶴見さんに興味が移って、今までのターゲットには無関心になったんじゃあないかしら」

 

「実は、それもちょっと違うんだよね。

それに、見た限り孤立しているのは留美ちゃんだけで、元々虐められていたはずの子は別のグループにはいってる。

他の子は、今までのいじめられっ子も、ちゃんと他のグループでそれなりに楽しくしてる。虐められていて、ずっとクラス全員から無視とかされてたはずなのに」

 

「……そうね、でもそんなのは別におかしな話ではないわ。大方グループの子に『虐められていなければ被害を被ることはない』と思われたんじゃあない?」

 

「グループに入れてあげた子たちの考え方はそうだろうね。でも今まで虐めてきた子たちはなんでそのグループを攻撃しないのかな?」

 

「だから興味を失ったんでしょう?」

 

「ならなんで次のターゲットにいじめられっ子がいるグループの子じゃなくて留美ちゃんを選んだんだと思う?」

 

「それは……」

 

 

確かに、それは何故なのだろうか。

私たちの考え方では『友達を作りたくても作れないから虐められる』と考えていたが、よくよく考えると元々虐めている側と仲間だった訳で……鶴見さんは『今まではうまく立ち回っていた』と言っていたのだから昔は友達がいたはずだ。

少なくとも友達がいなくなったのは最近という事になる……

 

 

いじめられっ子たちのグループを攻撃しない理由……わざわざ自分たちの集団の中から切り離してまで鶴見さんを虐める訳……?

 

 

「……ごめんなさい、分からないわ」

 

「だろうね。ゆきのんは『強い』から分からないと思う。

答えは『1人だから』」

 

「それはさっき……」

 

「うん。これがみんなには私の策で解決すると思えない理由だね。つまりはいじめっ子たちも、いじめられっ子と同じくらい『弱い』んだよ」

 

 

……要領を得ない。

仲間だったのに1人だから?

そしてそれが私たちにはわからない理由?

 

 

「つまりね、いじめっ子は恐がってるの」

 

「いじめなんてしている癖に?」

 

「……やっぱ分かんないよね。

えっとね、さっきも言ったようにゆきのんたちは『強い』から、『強い人』が『弱い人』をいじめるって考え方をしてるの。自覚があるかどうかは別としてね。

でも実際はどっちも『弱い人』、だからゆきのんたちにはいじめっ子の心が分かんないはずなんだよ」

 

「……心が弱いから、『争い』が出来ない。

よって今は自分たちが上位に居るとわかっていても、いじめられっ子たちのグループと事を構えるのを恐がる……と言うことかしら」

 

「基本はそれで合ってるよ。でも、もっともっと『弱い』」

 

 

 

「いじめっ子ってね。『1対多』でしかイジメをしないんだよ。例えば『1対5』の勝負ができたとしても、『2対10』は出来ないの。相手が2人いるってだけで恐がって手を出せない。そのくらいいじめっ子って『弱い』んだ」

 

 

それこそ誰かをイジメを続けて『自分より下』って明確に分かる人を作り続けなきゃ駄目になっちゃうくらいね、と由比ヶ浜さんは説明を続ける。

 

 

「……そんなものなの?イジメをしている位だから、もう少し図太い神経をしているのでは?」

 

「多分隼人くんも同じような事考えてるんだろうね。

みんなイジメをしてる子たちを『いじめっ子』としか見てないからね、どんなに不安定な心でイジメをしてるか分からないんだよ」

 

「私はイジメを受けてきたから大体反撃を喰らわせると彼方からは何もしてこない事は知っていたわよ?」

 

「ほら、ゆきのんは『ゆきのんの想像してるいじめっ子』みたいに図太い神経をしてるから痛い痛い痛い痛い⁉︎」

 

「人の気持ちについて語っている割にデリカシーが無いわよ由比ヶ浜さん……?」

 

 

ついアイアンクローを喰らわせてしまったが、由比ヶ浜さんの言いたい事は大体分かった。

 

 

「ふぅ……つまり、集団でなくとも『2人』になれさえすればもう虐められることは無い、という事?」

 

「簡単に言えばそういう事。男の子の虐めは暴力とかだけど、今回のは女の子が主犯でしょ?ならこれで大丈夫なハズだよ。

それに……いじめっ子グループの中にも、イジメなんてしたくないけど留美ちゃんみたいになりたくない一心で笑ってイジメをしてる子もいるハズだしね」

 

「……」

 

「あはは……まぁ、私もね、()()()()()は、ずっと見てきたよ。小学生くらいの女の子って基本そうだから。周りには自分を可愛く見せようと必死なのに、裏でイジメやってたりとかね」

 

 

確かに、筋は通っていると思う。

今までうまく立ち回って、虐められる事が無いようにして来た由比ヶ浜さんだから分かる事か……

 

 

「ええ、よく分かるわ。私もそれはありありと見てきたから」

 

「ゆきのんは1人で立ち向かったんだっけ……やっぱゆきのんは強いよねぇ……私なんにも出来なかったから……」

 

 

消え入るような声で呟いたあと、なんでもないと言って笑顔を見せた。

由比ヶ浜さんは鶴見さんを見て、昔の自分と重ねていたのだろうか。

 

 

一歩間違えていたら、自分自身がああなっていたのだと……そう思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

《川岸》

 

「それはそれとして、『鶴見さんに友達を作る』ってどうするつもりなの?確かに友達ができればそれでベストだと思うけれど」

 

「まあその辺も一応考えてはいるよ」

 

「……貴女ずいぶん成長したわね……奉仕部に入った頃のままだったら今も三浦さんの影で怯えてたでしょうに……」

 

「いやそれはさすがに言いすぎだ思うけど……あ、留美ちゃんいた。やっぱり一人ぼっちかぁ……」

 

 

鶴見さんは木の影で休んでいた。

特に理由は無く、何をするでもなくただ座っているだけ。

 

 

「留美ちゃん、何してるの?」

 

「……朝ご飯食べて部屋に戻ったら、もう誰もいなくなってた」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 

恐らくグループの子たちは今頃楽しく遊んでいて、偶に鶴見さんを思い出して優越感に浸るのだろう。

思い出すことすらないのかもしれない。

 

 

「じゃあさ、私たちと一緒に遊ばない?」

 

「……ハァ、別に遊びたいわけじゃあないし」

 

 

そう言ってこの場から逃げようとする鶴見さん。だがそれは由比ヶ浜さんの狙い通りの行動だった。

 

 

「留美ちゃん!」

 

「……」

 

「私さ、留美ちゃんを救ってあげられる。

でもこのままじゃダメなの。留美ちゃんにも頑張ってもらわなくちゃいけない」

 

 

そう言った由比ヶ浜さんに対して、鶴見さんは今にも泣き出しそうになりながら答える。

 

 

「……私に、そんな資格ない」

 

「あるよ。だって今までの子もみんなそうだから」

 

「……?」

 

「みんなで写真、撮ろうよ。その時は私も一緒に写らせて欲しいな」

 

 

微笑む由比ヶ浜さんを見て、鶴見さんは心を動かされてしまう。やはり由比ヶ浜さんは凄い。私と友達になれたように、鶴見さんの閉ざされた心も開いてしまった。

 

 

「……私は……私はどうすればいいの?」

 

「じゃあ、説明するね。えっとーーーーーー」

 

 

………………………………

 

 

 

「……こんな感じ。出来る?」

 

「出来るとは思うけど……そんな事で出来た友達なんて……」

 

「大丈夫、私に任せて!」

 

「……う、うん……」

 

 

 

 

 

 

《木陰》

 

「……」

 

「……」

 

「なぁ、お前ら別にこんな事しなくても普通に見に行けばいいんじゃ……」

 

「ダメだし!結衣が1人で頑張るって言ってんのにあーしらが邪魔するわけにはいかないっしょ⁉︎」

 

「あはは……流石に気になるからね。比企谷たちには悪い事したかな……イヤな気持ちにさせちゃっただろう?」

 

「いやそうでもないけどさ……」

 

 

現状を説明すると、由比ヶ浜が少女を連れて行動し、気付かれないように後ろから雪ノ下がそれを見張り、さらにその後ろから全員で由比ヶ浜を見張っている。もはやコントのようだ。

 

 

「あああ、大丈夫かな結衣ぃ……失敗してトラウマになって不登校とか……」

 

「優美子心配しすぎだって」

 

 

三浦は思ったより由比ヶ浜を心配しているようだ。

普段『私こそが世界の中心』とでも言わんばかりな三浦があわあわしているのは中々にシュールで笑える光景だが、今はそんな事を楽しむ暇もない。

 

 

由比ヶ浜がヘマをしない事を祈るしかないというのはとてもストレスが溜まる行為だ……

今の状態に持って行かれた時点でかなり『してやられた』って気分だが、見張らない訳にもいかない。

 

 

「シッ!動きがあったようだぞ……」

 

 

葉山の言葉で由比ヶ浜の方を見ると、すでに由比ヶ浜は居なくなり、そこには鶴見とかいういじめられっ子と2人の少女が居た。どうやら少女2人を由比ヶ浜が連れてきて、そのままどこかへ行ったようだ。

 

 

「ねぇ隼人、結衣は?」

 

「雪ノ下さんと一緒に居るよ。ホラあそこ」

 

「あ、本当だ」

 

 

由比ヶ浜は雪ノ下と一緒に鶴見を見張っている。さて、肝心の鶴見は……?

 

 

「……おいおい、不味いんじゃあないか?」

 

「ちょっと……!あの子泣いてるじゃん!これ本当に大丈夫なの⁉︎結衣!」

 

「やべー、マジでやべー」

 

 

……ほう、なるほど。

 

 

鶴見は残りの2人に対して頭を下げ、何かを話しているうちに泣き出してしまった。頭を下げられている2人も困惑しているようだ。

 

 

「ねぇ八幡、不味いんじゃあない?」

 

「安心しろ戸塚。()()()()()

 

 

『強い』からどうのこうのと由比ヶ浜は言っていたが、中々やるじゃあないか。

『弱さでの武装』ほど弱い立場の人間に効くものはない。

 

 

「八幡くん、どういう事?」

 

「由比ヶ浜がどこまで計算しているのかはわからんが、やろうとしている事は大体予想がつく。

鶴見とやらが話している内容は、『謝罪』だ」

 

「謝罪?」

 

「ああ。恐らく鶴見に対して『泣け』や『辛そうにしろ』と言った指示は出されていない。だが、普通に考えればかなり辛い事だろう。

ましてや小学生、泣き出すのも無理はない」

 

「……ちょっと聞きたいんだけど、あの子はいじめられていたんでしょ?謝られる事はあってもその逆は……」

 

「鶴見も元々はいじめる側にいたんだろうさ。つまり後の2人は過去のターゲット。鶴見がこれまで見捨ててきた相手だ」

 

「!」

 

 

そして彼女らは現在、皆で泣きながら抱き合っている。

『友達を作る』、ね……弱さを見せつけ、他の弱さを呼び寄せる方法か……

確かに雪ノ下や葉山ではその策を考えるには『強すぎる』。強い立場に居ながら弱い立場にも居る由比ヶ浜だからこその作戦というわけか。

 

 

「後は……ま、泣いて許しを乞う相手に向かって『ダメだね』って具合に断る事ができる奴が、イジメなんて受けるわけが無いのさ」

 

「そっかぁ……

でもあの子達、みんなイジメられたりとかしないかな?僕それが心配なんだけど……」

 

「流石にそこまでは面倒は見切れんだろう。全てを助けるのは鶴見の為にもならん」

 

 

……この後『イジメ』が『抗争』に発展しても、鶴見からしたら幸せだろうな。そのための策まで由比ヶ浜が考えているのかは……どうなのだろうか。

 

 

不可能と断じる事は容易いが、今の由比ヶ浜を侮るのは愚かな判断だと思う。

警戒を……それこそ、雪ノ下と同列の警戒をするべきだな……

 

 

「ふーん……由比ヶ浜も、なかなかやるじゃない。ちょっと見直したよ」

 

「もうここにいる必要もないな、俺らも戻るか。

おーい葉山、お前らも……」

 

 

葉山たちに呼びかけると、何故か三浦と戸部が滝のような涙を流していた。

 

 

「ぅうっ……ゆいぃ……せいちょうしたねぇ……グスッ」

 

「だめだぁ……俺こーいう感動系だめだべ……ひぐっ……幸せになれよぉ……鶴見ちゃん……」

 

「えっと……ゴメン、先に行ってて」

 

「……ぁ、ああ。分かった」

 

 

感動系か?アレは……

あいつら由比ヶ浜が考えた作戦だという事を忘れているようだな……別段興味があるわけでもないが。

 

 

 

 

 

《キャンプファイアー》

 

燃え盛る炎を囲んで、各々が楽しんでいる頃。私は何となく1人になりたくなったので、集団から離れたところに陣取っていた。

 

 

結果的に、そのまま鶴見のイジメは無くなったらしい。

 

 

どうにもイジメをしている連中は臆病者で、仲間ができた鶴見には手を出さないようだ。雪ノ下の話だと、由比ヶ浜は最初からこれを見越して行動していたそうだ。

 

 

「……ん?」

 

 

 

「…………」

 

「!…………」

 

「…………」

 

 

ふと広場の端を見ると、鶴見が由比ヶ浜に礼を言っている。由比ヶ浜は恥ずかしそうに対応していた。

それにしても、平和に終わったもんだ。一時はどうなる事かと……

 

 

「比企谷、少し良いか?」

 

 

声を掛けられる。

声の主は平塚先生だった。

 

 

「なんでしょうか」

 

「お前も何か企んでいる様子だった気がしてな。それを由比ヶ浜に潰された形か?」

 

「……別に。兄なんだから、妹の頼みくらい聞いたって構わないでしょう」

 

「お?お前の弱点は妹さんか。これは良い事を聞いたな。ははは」

 

「……もし何かするようだったら、今度はキツめの社会的制裁を……」

 

「まぁ待て、もうお前に手は出さんよ。大切にしているものもあるようだしな。あんなに良い友人を持ったんだ。悪いようにはならんだろう」

 

「そんな事くらい、最初からわかっていたでしょうに……」

 

 

何となく、前から気になっていた質問を投げかける。

あまり警戒されても困るが、私には手を出さないと言っているし、問題はないだろう。

 

 

「質問をしても?」

 

「構わんよ。何でも言ってくれ」

 

「前に私を奉仕部へ入れようとしたのは、雪ノ下を改心させるためですか?」

 

 

少しの間沈黙していた平塚先生だったが、すぐに諦めたように肩を落とした。

 

 

「……雪ノ下と由比ヶ浜には言うなよ」

 

「やはりですか……」

 

「言い方は悪いが、奉仕部は雪ノ下の為の部活だ。だから、由比ヶ浜がいてくれて本当に助かったよ。これで雪ノ下も人の気持ちを考えるようになる」

 

「……さあ、どうでしょうかね?あの雪ノ下ですよ?」

 

「お前は知らんだろうが、雪ノ下は由比ヶ浜に誕生日のプレゼントをあげたことがあるぞ?」

 

「別にそんな勿体つけるような事でもないでしょうに……」

 

 

得意げな顔の平塚先生が気に食わないので表情は変えない。しかし、あの雪ノ下が誕生日プレゼントか……全くもって似合わないがな。

 

由比ヶ浜だけでなく、奴も少しは前に進んでいるのかね。

 

 

「彼女らにとっては大きな一歩さ。そうやって少しずつ進んでいくものなんだよ、『成長』というやつは」

 

 

……成長、ね。面倒なものだ。

 

 

「最後に一つ言っておくが、彼女らを傷つけるような事をしたら、私はお前を許さんぞ」

 

「しませんよ。面倒事が増えるだけじゃあないですか」

 

「……お前はそういう奴だったな。それじゃあ、私はもう……」

 

「私からも一つ」

 

「……何だ?」

 

「ちゃんと報告はしてくださいよ?テニスの件、学校(うえ)に報告していないでしょう?アレ結構根に持ってますからね」

 

「……肝に銘じておくよ。……後で雪ノ下に報告書でも書かせるか」

 

「……私たちの後ろからずっと見てた癖に……」

 

「ぐっ……はぁ、何で私が……」

 

 

そろそろ責任くらい自覚してくださいよ、平塚先生。

 

 

 

 

《3日目・総武高校》

 

「家に帰るまでがボランティアだ、解散」

 

 

その後は特に問題が起きることもなく学校まで帰ってきた。後は親父の車を待つだけだ。

 

 

「色々あったけど、結構楽しかったな」

 

「うん!またキャンプしたいな!」

 

「出来れば今度は私たちだけが良いけどね」

 

「沙希ィ〜、よく確認しなかったのは悪かったからぁ〜」

 

「皆さんどこか寄って行きません?小町久しぶりに皆さんと遊びたいです!」

 

 

やめてくれ小町、私は一刻も早く家に帰ってくつろぎたいんだ……

 

 

「雪乃ちゃーん、迎えに来たよー」

 

 

その声を聞いて振り返ると、まるで男子の理想を現実にしたような美女が雪ノ下に手を振っていた。

 

 

(……雪ノ下の『手』も美しいが、この女の『手』はそれ以上だな……)

 

「……お兄ちゃん?」

 

 

つい手を凝視していると、小町に睨まれてしまう。別に美しい手を見るくらい良いだろう……

 

 

「姉さん……」

 

「あ、貴女が噂の由比ヶ浜ちゃん?雪乃ちゃんから話は聞いてるよー!」

 

「あ、はい!初めまして、由比ヶ浜結衣です!

えっと、ゆきのんのお姉ちゃんですよね……?」

 

「うん、そうだよ!それにしても、結衣ちゃんってかわいいね!」

 

「え、あ、ありがとうございます?」

 

 

彼女らの会話を聞いていると、どうやらあの女は雪ノ下の姉らしい。

 

 

しかし、喋り方といい仕草といいどうも『胡散臭い』。性格は雪ノ下とは似ても似つかないようだ。

 

 

「……お久しぶりです、陽乃さん」

 

「あ、隼人。久しぶり」

 

「ちょ、隼人⁉︎この人誰⁉︎」

 

 

三浦が雪ノ下姉に突っかかっていく。敵意丸出しだ。

その後、ただの幼馴染だからそういう関係ではないと説明されホッと息をついていた。

 

 

「じゃあ雪乃ちゃん、帰ろっか」

 

「……」

 

「あ、ゆきのん……」

 

「……お母さん、待ってるよ」

 

「ッ……由比ヶ浜さん、ごめんなさい。買い物はまた今度お願いするわ」

 

「あ……」

 

 

そう言って黒塗りの高級車に乗って雪ノ下姉妹は帰っていく。

 

 

……あの車……

 

 

見間違いじゃあなければ、アレは私が前に轢かれた車と同じ車種のはずだ。それにあんな高級車、そうそう見ない。

もしかして雪ノ下は私を轢いた車に……?

 

 

……いや、余計な詮索はよそう。あの事故はもう終わったのだ。私ももう気にしていないし、これ以上厄介事を増やしてたまるか。

 

 

「あ、お兄ちゃん。お父さん迎えに来たよ」

 

「わかった、すぐ行く」

 

 

しかし、何か嫌な予感がする。『背中に何か得体の知れないものが張り付いている』ような嫌な感覚だ……

 

 

「それにしても、ちゃんとお菓子の人に会えてるじゃん。それに結構良い人みたいだったし」

 

「……?何を言っているんだ?」

 

「だからさ、あのおっぱい大きい茶髪の人」

 

 

何……⁉︎

 

 

「すまん、小町。もう一度きちんと説明してもらえるか?」

 

「だからさー、お兄ちゃんが助けた犬の飼い主さん、確かあの人でしょ?」

 

「……それは……本当の事か?」

 

「何で小町が嘘つくのさ……と言うか顔くらい覚えてるでしょ。お見舞いに来なかった?」

 

つまり、由比ヶ浜が私に気があるのはそういうことか……自分で蒔いた種だと……

……くだらない犬なんぞ助けた昔の自分を爆破してやりたい気分だ……

 

 

私の気が休まるのは、一体いつになるのか……

少なくとも家に帰ってもこの不愉快な感覚は無くなることはなかったと言っておこう。




最初に由比ヶ浜の案を聞いた各々の感想。

雪ノ下(友達が出来たくらいじゃその友達も虐められるだけでは?)
葉山(友達が出来たくらいじゃその友達も虐められるだけでは?)
八幡(何処かで聞いた気がする案だな……)
三浦(それあーしが最初に出した案じゃ?)


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