比企谷八幡は平穏な生活に憧れる   作:圏外

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念願の川崎編だけど、本番はその2になってから。
因みにサブタイトルの元ネタはジョジョ4部のサブタイの『虹村兄弟』


川崎姉弟・その1

《昼休み・テニスコート》

 

 

「ねぇ、何でヒッキーたちのグループに隼人くんがいるの?」

 

「何でって……葉山が俺たちのグループに入れてくれ、って言ってきたからだけど」

 

「そうじゃなくて、何で奉仕部で誰か1人を抜いて犯人探ししようって決まったのに隼人くんが抜けてるのって事だよ!これじゃあ犯人わかんないままじゃん!」

 

 

いつも通り(不本意だが)テニスコートに来た由比ヶ浜は、とても機嫌が悪い。依頼した葉山が決めた事なんだから別に良いだろうに……

 

 

「あいつ曰く、3人で話す機会を与えて仲良くなってくれたら、だとよ。良い人もここまで来ると異常だな」

 

「せっかく良い案だと思ったのに……」

 

 

……………………は?

 

 

「え?1人ハブって犯人探しするって由比ヶ浜が提案したのか?」

 

「そうだよ?」

 

「え、でも由比ヶ浜さんらしくないような……てっきり雪ノ下さんが出した案だと思ってたよ。葉山くんもそこまで言わなかったけど……」

 

「だってチェーンメール送るような人と同じグループって嫌じゃない?普通に邪魔じゃん」

 

「いやまあそうだけどさ……」

 

 

葉山が言っていたのはコレか……

雪ノ下が世界を変えるってのも案外夢じゃあないかも知れないな……

 

 

今、『普通に邪魔』だとあっさり言った由比ヶ浜の目はとても真っ直ぐだった。『チェーンメール送るような奴は悪い奴だからグループから追っ払う』という事を実行するのに躊躇いがない目だ。

 

 

言ってる事は何も間違ってないし、実際それは正しい判断だろう。情報だけを見れば誰でもそれが間違っていない事が判るだろうが、自分と同じグループで同じ事が起こったならばそれを提案、実行するのは並大抵の精神力じゃあ不可能だ。『今まで仲良くやってきたじゃあないか』と良心を信じ、改心させる方法をとるのが普通だと思う。

 

 

だが由比ヶ浜は『邪魔』だと断言した。これは今までの『流され体質』の由比ヶ浜ではそう分かっていても絶対に口には出さない。というか『自分で提案した』という時点でまずおかしい。葉山と同じグループに所属する彼女は、今までならばグループトップである葉山か三浦の意見に従うだけ。仮に自分の感情を出したとしても『雪ノ下vs三浦』の時のように怯えるのがオチだろう。そのはずだった。

 

 

それなのに由比ヶ浜は『自分のグループの悪者を放り出す』という案を自ら『提案』した。つまり由比ヶ浜は『悪』と『正義』をキッチリと分け、それを『正しい』と信じて『行動に移した』と……そう、あの『正しいことは全て正しい』と愚直に信じて、すぐさま『行動』する、『雪ノ下雪乃』の考え方にとても良く似ている。

 

 

おそらく、雪ノ下に憧れていたのだろう。自信に満ち溢れ、確固たる信念を持ち、行動力と能力を兼ね備えている雪ノ下をみて、こうありたいと願い、求めた結果、自身の成長に繋がったという事だろうな……雪ノ下の思惑通り……という訳ではないと思うが、ある意味雪ノ下の願いが叶ったわけだ。

 

 

ハァ……この成長は、とても良い事なんだろう。歪んだとかそういう事ではなく、強い人間になったと言うのは祝福すべき事なんだろうが、私にとっては都合が悪いばかりだ。私にとって都合の良い事を正しいと信じさせればとても楽になるのだが、『決意』した事は恐らく曲げはしないだろう。

 

 

要は扱いが難しくなった訳だ……それに『行動力を得た』という事は即ち『躊躇いがなくなった』という事……私に積極的なアプローチなどされても困るんだがな……どうするべきか……

 

 

「じゃあゆきのんも待ってるから私戻るね。バイバイヒッキー、さいちゃん」

 

「あ、ああ……」

 

 

ん?

 

 

「じゃあ僕らも練習に戻ろうか」

 

「…おう」

 

 

あいつが、自主的に去った……?時間も休憩時間としてちょうど良い時間が過ぎたからか?だが行動力を得たのなら雪ノ下のように空気を…………まさか…………

 

 

『確固たる信念』『躊躇いがない行動力』を得て、元からあった『空気を読む力』も研ぎ澄まされているというのか?

 

 

……マジに『人間性』が成長しているじゃあないか……恐らく『攻めても問題ないタイミング』で『集中的』に私にアプローチを仕掛けてくるはず……私は更に大っぴらに避け辛くなり……由比ヶ浜に攻めさせないようにする為には……

 

 

……コレは、思ったよりも厄介かもしれんな……

 

 

 

 

 

《次の日・朝ホーム後》

 

 

担任の先生が時間割の変更を伝え、朝ホームが終わった。だが、未だに川崎が学校に来ていない。

 

 

「……川崎は今日も遅刻か?」

 

「そうみたいね……最近増えてきたわね〜さすがに心配だわぁ」

 

「しのぶちゃん、何か聞いてない?さすがに遅刻多すぎるよ……川崎さん真面目なのに……」

 

 

川尻は首を横に振る。どうにもお手上げのようだ。

 

「遅刻が多いと、それだけで不真面目に見られるからな……あいつ目つき悪いし」

 

 

川崎は真面目なので学校を休むなんて事は無い。一年の時は確か『皆勤賞』を貰っていたはずだから間違いないだろう。それなのに遅刻が増えるのは、何かの理由があるのだろうが……

 

 

仮に金銭面で困っているとすると、『ウリ』なんてのをする様な奴でも無いので恐らくはバイトを始めたとかだろうな。若しくは家族間トラブルか何かか?どっちにしろ友人程度が手を出せる案件では無いな……少々心は痛むが。

 

 

結局、川崎が学校に来たのは2時限目の休み時間だった。

 

 

 

 

 

 

《放課後》

 

「ねぇ沙希、テスト期間だし、みんなで勉強会でもしない?」

 

 

下校しようという時、川尻が川崎にそう提案した。

 

 

無論私たちはそんな話聞いちゃあいないが、意図はすぐさま理解した。勉強会と言うのは勉強というよりも駄弁るのが主軸(まぁ私たちはちゃんと勉強もするが)、川崎の遅刻の原因を探ろうという心積もりなのだろう。

 

 

「悪いけど、私今日用事あるから。また明日」

 

 

が、結果は上手くいかない。川崎も直ぐにそれを察し、私達を一瞥すると踵を返して教室を出て行ってしまった。

 

 

「川崎さん……大丈夫かな」

 

「どうだろうな……それで川尻、結局勉強会はやるのか?」

 

「う〜ん……じゃあ勉強会で今後の計画を練りましょう。このままにしてもおけないし」

 

「そうだな」

 

 

グループ内の問題はグループの注目に繋がるからな……三浦はテニスの一件や、葉山が職場見学のグループで私たちと一緒である事もあり、最近はとても大人しく、由比ヶ浜も事を大きくしたく無いのか教室ではアクションを起こさないようだ。

 

 

つまり今問題が起きれば注目される羽目に……

さっさと解決してしまわねばならない。ただでさえ川崎は外見から不良に見られがちなのだ、何か問題でも起こして仕舞えば、クラスのやつからは行動ごとに気にされる事になりかねない。

 

 

それに本当に心配でもあるしな。あいつは1人で背負い込むタイプだし、大切な『友人』だからな……なんかこっぱずかしいな。すぐに解決するとしよう。

 

 

 

《駅前のサイゼリヤ》

 

 

ここのサイゼリヤは行きつけである。大抵は各々が好きな物とドリンクバーを注文し、勉強をしたり駄弁ったりする。

 

 

「ふぅ……で、どうしようか」

 

「ここまで来て言うのも何だが、仮にバイトだとするなら手を出すのは難しいと思うぞ。遊ぶ金欲しさでは無いだろうから、本当に金に困ってるなら俺たちがどうこうできる問題じゃあ無い。迷惑をかけるだけだ」

 

「本当にここまで来て言うことじゃあ無いわね……じゃあ如何にか負担を減らしてあげることね。何か意見は無い?」

 

 

負担を減らすとなると……バイトならシフトを変えてもらうようにするか、バイト先を変えるかだが……

 

 

「まず川崎が俺たちに話してくれないとどうしようも無いよな……」

 

「そうだよね……」

 

 

その後もずっと話し合いをしているが、特に良い案は出てこない。結局明日、どうにか聞き出そうという事で話し合いをやめ、勉強を始めた。

 

 

ちなみに私たちは結構成績が良いグループで、グループ全員80位以内はキープしている(生徒数は約320人、そのうち40人ほど国際教養科)。その中でも川崎が1番成績が良い(無論私は本気では無い)が、最近は授業中にウトウトしている様子も見られるし、今回は成績が落ちるかもしれんな……

 

 

「ねぇ八幡。ここはどうすれば良いの?」

 

「ああ、そこは直後に未然形が来るから……」

 

 

私は文系である。と言うのも、文系の方が数が多いのでそう装っている訳であり、実際はどちらにも行ける学力は持っているがね。

 

 

一応得意教科として現代文と古典の2教科を1〜5位辺りに、苦手教科として数学を150〜200位辺りに。それ以外は大体平均50位程度に落ち着けている。少々やり過ぎかも知れんが、これくらいでなければ安心することはできないんでね。

 

 

「そうなんだ。ありがとう八幡」

 

「おう。そんで戸塚、ここはどうやれば良いんだ?」

 

「あー、その積分はね……」

 

 

 

 

 

 

「あれ?お兄ちゃん?」

 

 

聞きなれた声がした。その声を受けて振り返ると、妹の小町と見知らぬ男子生徒がいた……ふむ……

 

 

男子生徒……ねぇ……

 

 

「あ、戸塚さんとしのぶさんじゃあないですか!小町たちもご一緒して良いですか?」

 

「もちろんよ。ささ、私たちはこっちに寄るから、2人はそっち座って」

 

「…………」

 

 

川尻が性懲りもなく体を寄せてくるが、そんな事はどうだって良い。

 

 

「席を共にするのは問題無いが……小町。そこのそいつは、何だい?」

 

「あ、紹介するね。こっちは同じ塾の生徒の……」

 

「川崎大志っす。比企谷さんのお兄さん」

 

 

………………『お義兄さん』……だと?

 

 

「そうか……同じ塾の……」

 

「あ、はい!えっと、比企谷さんはしっかりしてるから「そうだろうな。小町はしっかりしている……私に似ているからね……」

 

「え?あ、はい……確かに結構よく似て「おっと……君に名前を教えてもらったのに、名乗り出ないのは失礼だったね……悪い悪い……私の名前は比企谷八幡。知っているとは思うが、そこの小町の兄だ……」

 

「現在千葉市立総武高校2年生。誕生日は8月だからまだ16歳だ。自宅の場所を教える訳にはいかないが、自転車通学をしている。彼女とかそう言うのは居ないよ……」

 

「部活はしていない……いつも夜の6時には帰宅して、当番であれば夕食の仕込みをする……今日は当番だ……夕食は豚の生姜焼きだな。メモ帳の『献立表』に書き込んである……」

 

「夜11時までには課題ややるべき事を済ませて床に着き、必ず8時間は睡眠をとることにしている……寝る前に温かいミルクを飲み20分ほどのストレッチで体をほぐしてから床に着くとほとんど朝まで熟睡さ……」

 

「え、えっと……何を話してるんすか?おに「君に『お義兄さん』と言われる筋合いは無い」

 

「私は常に『心の平穏』を願って生きてる人間だと説明しているのだよ……勝ち負けにこだわったり、夜も眠れないような『トラブル』を抱える様な事はしない……」

 

「君は、私の『心の平穏』を脅かす『敵』なんだよ……私の幸せの象徴である小町につく『悪い虫』……つまり君は私にとって大きな『ストレス』になる……という訳さ……」

 

「私の平穏を脅かす者は許さない……決して!何であろうと確実に始末しなければならない……」

 

「勉強は後でじっくりとすることにするよ……君を……始末して」

 

「小町アターック!」

 

「痛っ⁉︎」

 

 

何事かと思ったら、小町がメニュー表を私の頭に振り下ろしていた。

 

 

「お兄ちゃんが小町を大切に思ってるのは小町的にポイント高いけど、流石にやり過ぎ!キモいよ!大志くん引いてるじゃん!」

 

「キモっ……⁉︎」

 

「あはは……出たね、八幡のシスコン」

 

「小町ちゃんに関してはこんな風なのよねェ……ちょっと恐いわ、流石に」

 

「え、えっと……」

 

「大体、大志くんとか無いから!絶対一生オトモダチだから!」

 

「ぐふっ……」

 

「そうか。なら安心だな。おいそこの小町のオトモダチ。さっさと用件を済ませろ」

 

「うわぁ……生き生きしてる」

 

 

ザマァ見ろクソガキが。お前ごときが小町に近付こう何ざ片腹痛いわ。

 

 

「……え、えっと……その、比企谷さんはしっかりしてるから相談事があったんすけど……」

 

「なんかね、大志くんのお姉ちゃんが不良化しちゃったんだって」

 

「不良化?」

 

「はい。うちの姉ちゃん総武高行くくらいなんで、元は真面目だったんすけど、最近夜遅くまでバイトとかしてて……」

 

「へえ〜、大変ねぇ」

 

 

フン、お前の姉ちゃんのことなんざ知ったことか。どうせ『ウリ』でも……ん?そう言えばコイツ『川崎』大志って言ってたような……『バイト』『不良化』『川崎』『総武高』……

 

 

「なぁ、お前の姉ちゃん、名前なんていうんだ?」

 

「沙希です。川崎沙希。知ってるんすか?」

 

「え⁉︎大志くん沙希さんの弟だったの⁉︎」

 

「知ってるも何も……」

 

「僕たち、さっきまでその事を話してたしねぇ……」

 

 

まさかこんな所で突破口が開けるとは……ここを取っ掛かりにして、どうにか川崎を何とかできそうだな。やはり私は『運命』に味方されている……

 

 

「俺たちと川崎でいつもつるんでるんだよ。クラスも同じだし、かなり仲も良いぞ」

 

「え⁉︎姉ちゃんの友達だったんすか⁉︎」

 

「ああ、俺たちも川崎の遅刻が多いからどうにか出来ないかって話し合ってたんだ。力になれると思う。俺たちに話してくれないか?」

 

「勿論っすよ!えっと、最近帰りが遅くて、酷い時には5時頃とかになるんすよ」

 

「5時ィ⁉︎夜遅くって言ってたけど、もう朝じゃん!」

 

「そりゃ遅刻もするよ……」

 

「親御さんは何も言わないのか?」

 

「両親は共働きだし、まだ下に小さいのも多いから、姉ちゃんにはあんまりうるさく言わないんす。それに最近『エンジェル何とか』って店から連絡が来たりしてて……」

 

「じゃあそこがバイト先なんじゃあない?調べてみれば……」

 

「いやだって『エンジェル』っすよ⁉︎もう絶対ヤバいっすよ!」

 

 

わかったから落ち着け。それは男にしかわからん考え方だから川尻に力説しても無駄だ。

 

 

「とにかく、何で川崎が無理して働かなきゃいけないかは分かるか?何か些細なことでも良い、何でも言ってくれ」

 

「そう言われても……確かにうち金はあんま無いっすけど、姉ちゃんが働かなきゃいけないほどでは無いですし……」

 

 

ふむ……

 

 

「川崎が変わったのはいつ頃からだ?そんで、変わった時になんかあったか?」

 

「えっと……今年入ってからっす。変わったことと言っても、俺が塾に入ったくらいで特に無いっすね。姉ちゃんは1年の頃から予備校に行ってるし……」

 

 

なるほどね、学費か。

 

 

コイツは今サラッと言ったが、予備校と言うのはかなり金がかかる。最も安価であろう駅前の代々木ゼミナールに通うにしても年間20万ほど掛かるし、他の予備校なら相場は4〜50万程度。コイツも塾に通い始めたというのに加えて、まだ小さい子供がいるというのは経済的に厳しくなる。

 

 

でも厳しいからと言って、本来なら気にする必要は無い。親が通うのを許可しているのだからその分の金はあるのだろうし、もし行けないのであれば『夏期講習は悪いが行かせられない』とか言うだろう。そうで無いのなら、それだけの金は有ると考えて良い。

 

 

川崎は心配性で、何でも背負い込む性格をしている。大方、親が夜中の子供が寝静まった頃に『子供を塾に行かせるとなると厳しい』とか言っているのを聞いた、とかか?まあ家計簿を覗いたとかでもいいが、『親に迷惑をかけたく無い』『でも将来もあるし良い大学に行きたい』の板挟みになって、『私が予備校分の金だけでも稼ぐ』となったのだろう。

 

 

問題は川崎の説得だな……あいつは頑固だから、下手に諭しても効果は薄いだろう。説得する為には……まずは費用を抑える手段を調べて、無ければ泣き落としで良いか。適当に見えるが、川崎は信用した人にはどこまでも心を許すタイプだ。当然、家族は大切にするはずだ。

 

 

「よし、分かった。あとは俺らが何とかする。お前の力が必要になったら連絡を入れるから、とりあえず待ってろ」

 

「え⁉︎本当っすか⁉︎」

 

「ああ。戸塚たちにも協力してもらうけど、大丈夫だよな?」

 

「勿論!友達だもん」

 

「当たり前よ。沙希は1人じゃ危なっかしいものね」

 

「ありがとうございます!おに「お前に『お義兄さん』と呼ばれる筋合いは無いと言っただろうが!」

 

「え、えっと……じゃあなんて呼べば……」

 

「そうだな……八幡さんで良い」

 

「じゃあ八幡さん、姉ちゃんをよろしくお願いします」

 

「ああ、任せておけ」

 

 

さて、まずは『エンジェル何とか』を探し出す所から、その後は資金の問題だ。すべて今日中に見つけ出してやる。

 

 

私の『心の平穏』の為にも、川崎には幸せになってもらわんとな。フフフ……




あんまり吉良吉影っぽく無いなぁ……今回はちょっと八幡よりになってる。

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