比企谷八幡は平穏な生活に憧れる   作:圏外

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日付が変わる前に投稿しようと思ってたら、思った以上に長くなった。またもや八幡は出番が少ない模様。


私たちは奉仕部・その2

《由比ヶ浜side》

 

「えーと、奉仕部ってここで合ってるかな?」

 

 

入って来たのは平塚先生ではなく、隼人くんだった。こんな時間に何の用だろうか?彼の様な何でもできる人でも悩み事ってあるんだなぁ、と少し驚く。

 

 

「平塚先生に悩み相談をするなら奉仕部だって言われて来たんだけど」

 

「あ、うん!ここが奉仕部だよ!」

 

「ごめんね。もっと早く来たかったんだけど、テスト前だし、なかなか抜けられなくてさ」

 

「やー、しょうがないよ。隼人くん次の部長なんだし」

 

「能書きは良いわ」

 

 

ゆきのんの表情は何故かちょっときつい。隼人くんにいい感情を持っていないのかな……?

もしかして優美子との一件をまだ気にしてる?嬉しい様な悲しい様な……ちょっとフクザツ。

 

 

「何か用があるから来たのでしょう?葉山隼人君」

 

「あ、ああ。それなんだけどさ」

 

 

そう言って彼は携帯を取り出し、メール欄を見せた。

 

 

「あー……」

 

 

 

『戸部はカラーギャングの仲間でゲーセンで西校狩りをしている』

 

『大和は三股かけてる最低の屑野郎』

 

『大岡はラフプレーで相手校のエースを潰そうとした』

 

 

そこには自分のグループの男子の誹謗中傷が書かれている。先ほど自分にも回ってきたチェーンメールだ。

 

 

「3人とも俺の友達だ。最近送られるようになってさ、クラスの雰囲気も悪くなってるし、友達の事を悪く言われるのは腹がたつからな」

 

「なるほど、チェーンメールの犯人を捜したいわけね」

 

「いや、できれば穏便に事を進めたいんだ。だから犯人探しとかじゃあなくて、チェーンメールが止まるように出来ないかな?」

 

「ふむ……なら犯人を捜すしか無いわね」

 

「うん、宜し……あれ?何でそうなるの?」

 

 

隼人くんは驚いているようだ。でもゆきのんはそういうの大嫌いだと思う。卑怯者とか虐めとか絶対に許さなそうだし。

 

 

「チェーンメール、あれは人の尊厳を踏みにじる最低の行為よ。自分の顔も名前も出さず誹謗中傷の限りを尽くす。悪意を拡散させるのが悪意とは限らないのがまたタチが悪いのよ。止めるにはその大元を根絶やしにするしか効果がないわ。ソースは私」

 

「そーす?」

 

「情報源と言う意味よ、由比ヶ浜さん」

 

「じ、実体験なんだね……と言うか、根絶やしにしたんだ……」

 

 

隼人くんは呆れたように言った。

 

 

「とにかく私は犯人を捜すわ。一言言うだけですぐに止むと思う。その後の裁量はあなたに任せるわ。それで良いかしら?」

 

「あ、ああ。それで良いよ」

 

「それで、チェーンメールが送られてくるようになったのはいつ頃?」

 

「えっと……確か先週末からだよな?」

 

「うん」

 

「クラスで何か変わったことや、特別なことは何かあった?」

 

「うーん……チェーンメールに繋がるようなことは無かったと思うんだけど」

 

「あたしもちょっと分かんないかな」

 

「ふむ……送られるようになったのは3人同時なのよね?」

 

「ああ、そうだよ」

 

「ならその3人の中の誰かが犯人の可能性が高いわね。その3人の事を教えて欲しいのだけれど」

 

「「え⁉︎」」

 

 

私と隼人くんは同時に声を上げた。何でターゲットになっている3人が犯人なんだろう。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!3人を悪く言うメールなんだぜ?犯人は違うんじゃ……」

 

「3人同時にチェーンメールが送られるのなら、特定の個人に向けた悪意では無いでしょう?ならその3人の共通点だけど、由比ヶ浜さん。3人の共通点と言えば?」

 

「うぇ、あたし⁉︎え、えーっと……3人ともあたしたちのグループ……とか?」

 

「ええそうよ。貴方達のグループの男子3人。仮に貴方達のグループに対する悪意なのだとしたら、葉山君にメールが送られていないのは不自然じゃあない?つまりは自分への疑いを掛けられないように自分に対するメールを送っている可能性が高いのよ」

 

「そしてその理由はおそらくグループの中の立場に関する『危機感』もしくは『恐怖』ね。グループの中心は葉山君なんでしょう?それなら葉山君に対する誹謗中傷が無いことにも、グループ内で潰し合いをすることにも説明がつくわ」

 

「……」

 

 

隼人くんはショックを受けている。彼は人気者で、悪意を受けたことが少ない分、悪意に対する耐性が無いのだろう。正直私もショックだ。

 

 

「ま、可能性が高いだけで普通に恨まれてる可能性もあるけれど。それか、葉山君だけを悪く言わない事で葉山君を蹴落とそうとしているかね。取り敢えず1番可能性が高い3人の中の誰かが犯人、という線で調べていくけれど、それで良いかしら?」

 

「ああ、それで良いよ……」

 

 

隼人くんの表情は重い。ゆきのんが言っていることの筋が通っている事を理解したんだろう。

 

 

「となると、やはり何か理由があるはずよ。本当に何も無いの?グループ内の立場に関わる出来事や問題があるはず。心当たりはある?」

 

「どう、だろうね……」

 

「ショックを受けている場合じゃあないわ。あなたが持ち込んだ依頼なのだから、貴方自身がこの件を乗り越えなければいけないの。そうやって『精神の成長』を促すことが、この部の理念なのよ」

 

「ゆ、ゆきのん……もうその辺で……」

 

「……まあ良いでしょう。由比ヶ浜さんも、思い当たる節は?」

 

「え、えーっと……」

 

 

急に思い当たる節とか言われてもよくわからないよ……えーと……立場……男子4人の中で……

 

 

4人?

 

 

「あ、職場見学のグループ分けだ」

 

「え?」

 

「ふむ。続けて、由比ヶ浜さん」

 

「職場見学って3人1組だから、それでハブられる1人になりたくない……ってことじゃないかな?イベントごとのグループ分けって後々の関係性に響くから、ナイーブになる人もいるんだよ……」

 

「そ、そんな事でか……」

 

「あはは……隼人くんはいつもグループの中心だからね……」

 

「ともかく方針は決まったわね。とりあえずその三人の事を詳しく教えてくれる?」

 

「あ、うん。戸部は俺と同じサッカー部だ。金髪で見た目悪そうに見えるけどいつもみんなを盛り上げてくれるムードメーカーだな。文化祭とか体育祭などの行事にも積極的に動いてくれる。いい奴だよ」

 

「騒ぐことしか能のないお調子者、と」

 

 

ゆきのんの台詞に隼人くんが絶句している。

たまにゆきのんってこうなるんだよね……

 

 

「どうしたの?続けて?」

 

「……大和はラグビー部。冷静で人の話をよく聞いてくれる。ゆったりとしたマイペースさとその静かさが安心させてくれる、っていうのかな。寡黙で慎重な性格なんだ。いい奴だよ。」

 

「反応が鈍く優柔不断、と」

 

「お、大岡は野球部だ。人懐っこくていつも誰かの味方をしてくれる気のいい性格だ。人の上下関係にも気を配って礼儀正しいし、いい奴だよ」

 

「人の顔色を伺う風見鶏、ね」

 

「ゆ、ゆきのん口悪いよ……女子力足んないんじゃないの?」

 

「状況を多方面から観ることができると言いなさい。ま、誰が犯人でもおかしくないわね」

 

 

それは話を聞かなくても同じだったと思うけど……実際どうなんだろうか。

あの3人はいつも隼人くんを中心にして一緒に居るから、1人ひとりの性格ってあんまし知らないんだよね……

 

 

「葉山君の話じゃあよくわからないから、由比ヶ浜さん。できればその3人のことを調べて欲しいのだけれど……」

 

「えっ、あ、あたし⁉︎」

 

「いや、そんな事を女の子にさせられないよ。俺が……」

 

「いや、葉山君には無理よ。その3人は葉山君と話すときは貴方のゴキゲンを取るのよ。ハブにされたくないからね。だから本当の姿を貴方が見るのは難しいわ」

 

「で、でも……」

 

「いいよ隼人くん。あたしやるよ」

 

「……ごめんなさい。あまり気持ちのいいものじゃあないでしょうけど……」

 

「あたしも奉仕部だもん!それに、ゆきのんのお願いだからね!断れないよ」

 

 

そう言ってあたしはゆきのんに抱きつく。ゆきのんは押しに弱いから、こうやると恥ずかしがって言うこと聞いてくれるんだ〜エヘヘ。

 

 

「仲、良いんだね」

 

「もっちろん!あたしたち仲良しだもん!」

 

「はぁ……由比ヶ浜さん、頼むわ。無理はしなくて良いからね」

 

「うん!心配しないで!あたしがバッチリ解決しちゃうんだから!」

 

 

 

 

《次の日の昼休み・テニスコート》

 

 

 

「それで、結果はどうだったの?犯人はわかった?」

 

「全然……優美子には茶化されるし、姫菜はいつも通りだし……」

 

「そんな事よりなんで当然のようにここに来てんだよ。もしバレたら川尻の機嫌を取るのは俺なんだぞ?」

 

「だってこんなのやってらんないよ〜。今は隼人くんが喋りながら探ってるんだって」

 

 

由比ヶ浜は最近、雪ノ下のところに行っている日には基本的に、私たちが休憩を入れる頃にテニスコートに現れるようになっていた。今日は教室で三浦たちと飯を食っていたので来ないと思っていたんだが……

 

 

と言うか、なぜそんな事をペラペラ私たちに喋ってるんだ?結構重要で外部に話して良いような話じゃあないような気がするが。

やっぱり信用ならんな。できる限り情報を渡さないようにしよう。

 

 

それに、

 

 

「その話解決する必要あるのか?」

 

「え?」

 

「いや解決しないとあたしたちのグループ、雰囲気悪いままじゃん……」

 

「そんなの葉山に外れた1人をフォローしてもらえよ。ぶっちゃけグループ分けのことなんてそのうち忘れるもんだろ?」

 

「それが結構影響があるんだよ……ヒッキーたちは良いよね、みんな仲良しで。揉め事とか無さそうだし」

 

 

何やら思ったよりトップカースト組はギクシャクしているようだ。そんなんでよくグループが成り立つな、本来バラバラな3人を葉山が『カリスマ』で強引に引っ張って行っているのか?カリスマ凄いな。もう葉山と三浦の本体はカリスマなんじゃあないか?葉山も三浦も実は自分の中に潜む『カリスマ性』に操られているだけで……無いか、無いな。

 

 

「4人グループと言えば、ヒッキーたちのグループも4人だよね。グループ分けどうするの?」

 

「僕たちは男女で別れて、あとは誰か1人入れるって事になってるけど。あ、葉山くんたちにもそうしてもらったら?」

 

「それだと隼人くんと組んだ1人がリードしちゃって公平じゃないし……」

 

「面倒だな……」

 

「さいちゃんたちはもう1人のメンバーって決まった?」

 

「まだ決まってないよ。しのぶちゃんたちは杉本さんと組むんだって」

 

「あーレイちゃん?可愛いよね、レイちゃん」

 

 

どうでも良い話で盛り上がるんじゃあない。また練習の時間がなくなるだろうが。

こっちからしたら他のグループの内部抗争なんてどうだって良いんだ。内輪揉めをこっちに持ってくるな、うっとおしい。

 

 

「ほら、戸塚。そろそろ練習に戻るぞ」

 

「えー、相談に乗ってくれても良いじゃん……」

 

「最近お前が来るようになったせいで、練習が中途半端に終わることが多くなってるんだよ。自分たちの依頼だろ?もっと自分で頑張れ」

 

「あはは……ごめんね、由比ヶ浜さん」

 

「……うん、あたしの方こそごめんね。迷惑かけて……」

 

「ま、邪魔にならなきゃ良いんだよ、休憩時間なら暇なんだから。また今度」

 

「!……う、うん!また今度ね!」

 

 

そう言って由比ヶ浜は嬉しそうに去って行った。『飴と鞭』、実にわかりやすい。

休憩時間ならデメリットは無いし、邪魔にならなきゃ特に問題無い。少しずつコントロールして、いずれ追い出せば良い話だ。

 

 

それにしても、ハブられるのを気にしてチェーンメールねぇ……ハブにされる事にビクビク怯えて……そんなにトップのグループに居ることが大事なのか?気苦労の方が多いのに……

 

 

 

《放課後の奉仕部・由比ヶ浜side》

 

 

「で、由比ヶ浜さん。収穫はあった?」

 

「全然……隼人くんは?」

 

「葉山君からなら昼休みに聞いたわ。収穫無しですって」

 

「いや……収穫はあったよ」

 

 

隼人くんは俯いて弱々しくそう言った。何やら暗い話の予感がする。

 

 

「あら?昼休みと言ってることが違うじゃあない。何があったのかしら?」

 

「実はさ……雪ノ下さんと話した後、教室に戻ったら、違和感があったんだ」

 

「え?どんな?」

 

「その、いつも賑やかなはずの3人の声がさ、聞こえなかったんだよ、教室に入る瞬間まで。それに3人とも携帯を持っていたし……後で優美子にこっそり聞いてみたら、『そう言えばあの3人だけで話してんの見たことないような……』って……」

 

「あー……ちょっとわかるかも。話を回す人がいなかったら、気まずくなって携帯いじっちゃうよね……」

 

「つまり、3人から見て葉山君は友達でも、それぞれは友達の友達でしかない、という事ね」

 

 

その言葉に隼人くんはショックを受けたみたいで、表情が固くなった。無理もないと思う、辛い現実なのに、否定ができないもん。

 

 

「でもそれじゃあ3人とも犯人の可能性があるわね。やっぱり私が犯人を捜して釘を刺したほうが良いんじゃあないかしら」

 

「……やっぱり、この件は俺がなんとかするよ。2人には悪いけど……」

 

「あら、どうするの?」

 

「そりゃ……4人で話し合って……」

 

「誰をハブにするのか決めるの?」

 

「ッ‼︎……そうじゃないだろ、みんなで……」

 

「犯人を捜しても絶対に誰も出てこないわ。何故ならハブにされるのが怖くて犯行に及んだのでしょう?なら進んでハブにされに行くわけないじゃあない。それに、チェーンメールを送った誰かわからないのに、誰かが送ったと知っているあなたが彼らと仲良くできるの?」

 

「……それは……」

 

「もう犯人を捜すしか手はないのよ。どっちにしろ放置したら、また同じようなことが起こるわ。それも嫌でしょう?」

 

「……」

 

「隼人くん……」

 

 

どうしよう……あたしじゃ何も出来ないし……

みんな怖いよ……なんでそんな事をするの?一度しかない青春なんだよ?楽しもうよ……そんなことばっかりじゃ、全然楽しくないよ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そもそもこの話、解決する必要があるのか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんとなく、ヒッキーの言葉を思い出した。

 

 

解決する必要がない……それじゃあ誰かが1人になっちゃう……

 

 

『そんなの葉山に外れた1人をフォローしてもらえよ。ぶっちゃけグループ分けのことなんてそのうち忘れるもんだろ?』

 

 

そう……だけどさ……でも、1人ぼっちは、怖いんだよ……みんながゆきのんみたいに強くは無いから……1人でも平気なほど強くは無いんだ……

 

 

 

……………………………………でも

 

 

 

『そういう周囲に合わせようとするの辞めてくれるかしら?自分の不器用さ無様さ愚かしさの原因を他人に押し付けるなんて、恥ずかしくないの?』

 

 

あたしは、強くなりたい。だからゆきのんに憧れたんだ。ゆきのんみたいに、カッコよくて、なんでも1人でできて、自信があって、確固たる自分を持っていて。

 

 

『ショックを受けている場合じゃあないわ。あなたが持ち込んだ依頼なのだから、貴方自身がこの件を乗り越えなければいけないの。そうやって『精神の成長』を促すことが、この部の理念なのよ』

 

 

………………そっか。

 

 

あたしも、乗り越えなくちゃ。自分の弱さを、乗り越えて、『成長』しなくちゃ。

 

 

あたしは、『()』は、成長するんだ。

 

 

……してみせる。

 

 

「ねぇ、隼人くん」

 

「……どうした、結衣。何かいい案でも……」

 

「いっそのこと、作っちゃえば?3人グループ」

 

「「……え?」」

 

 

2人が声を上げる。()がそんな事を言うのは珍しいし、当然っちゃあ当然か。でも、思った事は口に出さなきゃ伝わらないよね?

 

 

「誰か1人を抜いて、チェーンメールは一旦止まると思う。でもこの次のイベント事のメンバー分けになって、ハブられた人が犯人だったらチェーンメールは多分もっかいあるよ?だったらハブにした人が犯人、無かったら他の2人。結構いい案じゃない?」

 

「いや……でも……」

 

「ふむ……中々いい案ね。取り敢えずそれでどう?誰をハブにするのかは葉山君に任せるわ」

 

「いやいや、ハブにするとかしないとかじゃ無いだろ!そもそも誰かをハブにするって言い方が!」

 

「ハァ……隼人くん?」

 

「何をッ…………⁉︎」

 

 

何だろう?隼人くんが()を見てビックリしてる?ま、今までの()じゃあ無いしね。『しょうがないか』。

 

 

「そんなんじゃダメだよ。()は誰かを悪く言うチェーンメールを送った人なんかと仲良くしたく無いし、私たちのグループがギクシャクするのもやだ。コレ誰が悪いの?犯人1人じゃん」

 

「それは…………」

 

「それで私たちが悩まないといけないのはおかしくない?おかしいでしょ。じゃあ犯人をハブにすれば良いんだよ。どうするの?原因作った『犯人』と、『被害者』の私たち、どっちの味方をするの?」

 

「……由比ヶ浜さん、その辺でやめなさい。葉山君を追い詰めてもいい事はないわ」

 

「……いや、ありがとう。参考になったよ」

 

 

隼人くんはまたショックを受けたみたいだけど、決意したようだ。良かった、私も誰かを変えられたんだね。ね、私も、ちょっとは強くなれたかな?ゆきのん。

 

 

「あとは……俺が決めるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《次の日・教室》

 

「と言うわけで、宜しく。比企谷くん、戸塚くん。あ、テニスの件は本当に済まなかった。この通りだ。俺が優美子を止められたら……」

 

 

いや、何でこうなる?

 

 

「テニスの件はもう気にしてないよ。葉山くんは悪くないし……と言うか、誰かを抜いて犯人探しするんじゃあないの?今の話からしてもそうなるよね?」

 

 

戸塚の言う通りだ。それなのに何故か葉山が私たちのグループに入ってきている。

 

 

「いや、俺も悩んだんだけど、俺が抜けてあいつら3人で話す機会を与えたほうが良いかなって。これであいつらが本当の友達になれたらってさ」

 

 

こいつ性善説でも信じてるのか?いい奴すぎるだろう……ここまできたらもはや病気だな……

 

 

「それにしても……2人とも、あのさ……結衣を見て、何か変だとか、変わったとか、思わないか?」

 

「由比ヶ浜が?別に?」

 

「特に変わったところはないと思うよ?」

 

「……そうか……そうだよな……ゴメン、俺がおかしかった」

 

 

奉仕部で何かあったのかね……?

ハァ、ちょろい奴だと思っていたんだがな……変わっただとかそうで無いとか、厄介な。どっちかというと面倒か?

 

 

とにかく、私に厄介事を持ってこなければ良いんだがね……

 

 

 

その後、私たちは葉山の案を採用してIT系の企業に行くことに決めたが、結局残りの3人もそこに行くと言い出し、クラスの殆どが私たちと同じ企業に行くことになった。

 

 

ハブにしても職場見学が終わればどうせすぐ忘れるとは言ったが、まさか終わるまでもないとは……葉山は大変だな、と改めて思った出来事だった。




タイトルが由比ヶ浜成長の伏線だと気付いていた人はどれくらい居るのだろうか。
漸く次は川崎編だ……気合!入れて!執筆します!

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