きんいろモザイク‐ボーイズ・ビー・アンビシャス‐   作:星の翼

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8話:セカンドゴールドはアグレッシブ

「久遠が怪しいッ………。」

「…………何だ藪から棒に?」

「だから…久遠の奴が怪しいんだよ……ッ。」

 

そう言って宗吾は昼食である弁当から唐揚げを摘んで口の中に放り込む。

町巡からさらに数週間が過ぎ…桜は散ってそろそろ夏が近づいてきている季節の変わり目。

既に熱いからと上着を脱いで登校している俺達もだが─此処最近、独り欠けて珍しく4人で食べる昼食の中の会話がそれだった。

 

「別に…普段と変わらない…とは思うでござるが?」

「お前らにはそう見えるかもしれないけどよ……聞いて驚け?」

 

 

 

「俺ここ数日……久遠の奴の嫌味を言われてない。」

「「「ッ?!!」」」

 

ガタッ…思わず、俺達の体が後ずさる。

それは当然だ……【一日一弄】……いや【五弄】くらいが八房久遠と宗像宗吾の関係だ。

 

「何か今スゲェ不愉快な事頭に出てこなかったか?」

「………気のせいだ。」

「……しかし、それは確かに妙でござるな。久遠殿が宗吾殿を苛めない日などないと思っていたでござるよ?」

「俺は苛められてねぇよ!!あんなのが苛めに入るか……ったく、とにかくさ!何つうか……久遠が此処最近南下余裕がなさげだってのを俺は感じてんだよ。」

「確かに…昼食でならアイツが俺達の所に来るのが大体だったが……」

 

思い返してみると─確かにここ数日こっちに来てないし、そもそも宗吾とのペアを見かけない。

確かに……【あの】久遠がっと考えれば宗吾が疑問に感じるのにも納得がいく。

 

「…………様子、見に行ってみるか?」

「だな…飯食ったら行ってみるか。」

「そういえば逆パターンって結構珍しいでござるなぁ。これはいよいよ…鬼畜眼鏡の調教が」

「止めろ!……何の事かしらねぇが気持ち悪い寒気がッッ……ッ!」

 

いや…寒気ではない気がするぞ宗吾。

確かに一角の女子が妖しく目を輝かせてこっちを見たのを俺は見逃さなかった……まあ、本人は知らない方が良いのだろう。知らぬが仏…っとな。

ともあれ…昼休みに俺達は久遠の所へ向かう事になった。

 

 

 

「……学校には来てるんだよな?」

「それは確認してる…けどよ、なんっつーか…………何かスゲェ警戒してるんだよ。」

「警戒…でござるか?」

「ああ……まさしく毛を逆立たせた猫だな。ほら………」

 

 

扉の陰から伺ってみると……窓際の一角にあの眼鏡が居る。

……ぼんやり窓から外を見つめているようだが………

 

「普通だな」

「……普通だ」

「普通でござるぞ。」

「普通だよなぁ……って、思うじゃん?」

 

行くぞ…っと、一言だけ言って宗吾が一人で久遠に近づいて行く。

本人は気付いてないようだが……そして

 

「よっ」

「ッッッ?!?!?」

 

たった一言に久遠の肩が大きく震えた。

 

「「「ナ、ナンダッテー!?」」」

 

あの久遠が……誰からの眼でもわかる様に驚いたのだ。

あのポーカーフェイス…涼やかな笑顔を崩さないあの、八房久遠が…【驚いたのだ】!!

 

「ほ、本当に何があったんだ久遠!!」

「ッ!?何ですか皆さん……そろいもそろって…」

「揃いも揃うでござるよ!!見たでござるぞ…あの久遠殿が驚く姿をッ!!」

「ハァ……僕も驚くことくらいありますよ、人を何だと思っているんですか?」

「は?鬼畜眼鏡。」

「宗吾には聞いてません…冷やかしに来たなら帰ってください。」

「それじゃあ、何かありましたって言ってるもんじゃねぇかよ。お前らしくもねぇ……何隠してんだよ?」

「洗いざらい吐いちまえよ。カツ丼でも持って来てやろうか?」

「自供を促さないでください…はあ…分かりましたよ。 実は……………」

 

 

 

「「「「許嫁が来るぅ?!!!」」」」

「大きな声を出さないでください!!!…はぁ、でもまぁ、これが事実です。」

 

そう言ってまた重々しく溜め息を吐く久遠。

 

「ってか、許嫁って何でござるか?!初めて聞いたでござるよ!?」

「あれ言ってなかったっけ?久遠の実家ってすっげぇ金持ち何だぜ?知らなかったのか?」

「………初耳だ。」

「宗吾とは皆さんと比べて付き合いも長いですからね……」

「けどよ?そいつは初耳だぜ……っつーか、何でそれで気持ち重いんだよ?」

「……………正直、僕は彼女が苦手なんですよ。」

「苦手?許嫁なのにか?」

「親同士が勝手に決めただけで…それに、彼女は凄まじくアグレッシブな人なんです。」

「ああ、成る程…確かにテメェとセットって考えると想像つかねぇな……」

「久遠殿…所謂、もやしっ子でござるからなぁ。」

「逆に宗吾は帰宅部の癖に身体能力学校トップですもんね……帰宅部の癖に。」

「うっせなぁ…バイト掛け持ちしてんだよ、あと色々!!」

 

一時期、宗吾が体験入部した部活動が血眼でコイツを追っかけ回したって事で学校が騒がしくなったことがあったっけ?……何かアリスちゃんが来てから月日が経つの早く感じるなぁ。 そんなに経ってない筈なのに……不思議だなぁ。

 

「でも勿体無いでござるなぁ…宗吾殿、どっか部活入ればよかったのに…女子からモテモテのはずだったでござろう?」

「良いんだよ、特別やりたい部活があったわけじゃねぇしmやりたいことが他にもあったからな。それに──」

「モテたいのは小路さんだけですかr「言うなバカヤロウ!!!余計なお世話だヴォケェ!!」

 

ああ、これこそが…宗吾と久遠のやり取りだな。

 

「で?如何するんだよ…その許嫁ちゃんとは─」

「そうですね…彼女の家…九条さんの家は有言実行ですからね。来る事は避けられません…………せめて、此処に居る事を知られない様に気を付けませんと。」

「まさか…日本に来るからって、日本も広いんだぜ?幾らなんでも鉢合わせるなんて…」

「同感だな……知古でもいない限り大丈夫だろ?」

「……………そうですね、少し警戒しすぎたのかもしれませんね。 少し落ち着いて考えましょう。」

 

やっと元の久遠になったな…

 

「ところで日本に来るって事はその子海外か?何処から来るんだ?」

「イギリス」

 

・・・

・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・

 

「「「「「……………まさかな?」」」」」

 

おそらく俺達5人の中に金髪ツインテールの小さな女の子の影が同時に思い浮かんだのは気のせいじゃない………はず。

 

 

 

 

 

 

「おはようございます。」

「うぃ~~ッス」

「おぅ……」

 

翌日の登校─久遠と宗吾と合流する。

 

「大宮ちゃん達は?」

「先に出たらしい……アリスがしっかりしてるからな。」

「へぇ~珍しいこともあるもんだな。」

「だよな?勇さん曰く【出会いの予感がする】とか何とか……」

「出会いねぇ…金髪につられてかなぁ?」

「………宗吾、昨日の話もあるので止めてくれませんか?」

「お前……どんだけその許嫁ちゃん苦手なんだよ。」

 

身震いさせながら言う久遠に若干引く宗吾。

っと言う事は─その子も金髪って事か?

 

此処まで久遠が苦手っと考えると─何だか俺も会って見たくなるな……

っと忍達が集まってる……ん?何か様子おかしいぞ?

 

「よぉドラ…何かあったのか?」

「武…ああ、ちょっとな。」

 

「すごいでござるよ!!」

 

何だ……勧九郎がやけにテンション高い。

こんな勧九郎見るのはアニメの話とかそれこそ夏コミ?の話する時だ…。

 

ひょいと宗吾と俺が隙間から女子陣を見る。

 

「えへへぇ♪」

 

金髪の女の子2人を抱えて満面の笑みを浮かべる忍の姿が……

 

「「何だいつも通りか…」」

「違う、そこじゃない。」

 

あ、ほんとだ…金髪がもう一人………ん?!もう一人!?

 

「誰?」

 

っつーか何で忍まで抱き合ってるんだ?あぁ、いや…多分金髪だからだろうなぁ。

っと、金髪の女の子がこっちに気づいた。

 

「九条カレンと申すデス!」

「ああ、如何も日本武です。」

「宗像宗吾です。……………ん?」

「で、どなた?アリスの友達…かな?」

「そうデス!イギリスから来まシタ!」

「やっぱりか、イギリス……………イギリス?」

 

まさか…と思いながらちらりと横目で久遠を見る。

 

「何で、如何して、日本だって広いのにッ……ッ!」

「…………たけちゃん、助けて。」

 

宗吾の後ろに隠れ気づかれない様に必死でその姿を屈め隠している、見た事もない久遠の姿があった。

 

「俺も、何となくそうなんじゃって思ったけど………やっぱりか。」

「みたいだな。」

「如何する?」

「ごめん、助けて…こう言うのもなんだけどさ……気持ち悪い。」

「「だよなぁ…」」

 

普段の久遠らしさがまるでない。

レアと言えばレアだが…ここまで来ると気持ち悪いとさえ思える。

 

「?」

 

にしても……可愛いなこの子。

アリスも可愛いが……ベクトルが全然違ってくる。

 

例えるなら

アリスはリスなどの小動物的なのに対して─

九条さんは元気な子と言う天真爛漫な可愛さだ。

 

「武殿もそう思いでござろう?」

「うお?!」

 

ぬっと何時の間にか真横にあった顔から不気味な声が掛かって来てビビった。

ってか、勧九郎だった…お前もお前で今きもいぞ?

 

「ってか、人の心読むな!」

「まあまあでござる…しかし、素晴らしいでござらんか!!まさしく向日葵!!ダイヤモンドでござるぞ!!!」

「?向日葵はともかく、何でダイヤモンド?」

「こ・え・で・ご・ざ・る!!」

 

いや、理由になってねぇ……訳が分からないよ。

 

「これはまさしく愛はバーニングラブでござるかもなぁ~~のう久遠殿」

「ッ!バカッ!!」

 

名指しされて思わず反射的に大声を上げる久遠だが─ばっちりそれは九条さんに聞かれる。

 

「クオン?………!」

「あ………………カレン……………………」

 

何とも言えない間の後──

 

 

 

「クオンー!!」

 

九条さんが久遠に向けて猛ダッシュ─

 

「ぐぇ!」

 

久遠に壁役とされていた宗吾の腹に諸にダイブし、つぶれたカエルの様な声を上げた宗吾が吹っ飛ばされ久遠は捕まり、地面に押し倒される

 

「か、カレンなにを─」

 

抗議しようと顔を起こす久遠の顔を抑えたと思ったら─それはそれは熱いベーゼ(接吻)が炸裂した。

 

「「「「「「「!!!?」」」」」」」

「ッ~~~~!!!!」

「………………。」

 

固まる俺達─突然のキスに声も出ないってか出せない久遠─そして声も上げずに伸びた宗吾。

そんな固まった時間の中で─

 

「会いたかったデス、マイダーリン♡」

 

そんな彼女の声だけが響いた。

 














「お、俺……こんな役目だったっけ?」

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