ニグンさんは死の運命と戦うようです   作:国道14号線

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死んだはずのニグンさん。しかし、彼は生きていた。

果たしてこの先生き残れるか。




ニグンさんは現実を突きつけられるようです

「どうかしましたか、隊長」

 

 報告した隊員は不思議そうにニグンを見る。その様子を見てニグンは必死に考える。

 

 ここはカルネ村の外の草原だ。先程の報告は、村を包囲する前に偵察させた隊員から聞いた報告だったはず。

 

 目の前に整列する隊員たちを見ると、全員直立不動でニグンの命令を待っている。1人として様子のおかしい者はおらず、この状況をおかしいと思っているのはニグンだけのようであった。

 

 今までの地獄は追跡に疲れた自分が見た夢だったのか。

 

 ひとまず情報の収集が必要と考え、隊員たちに命ずる。

 

「各員2人1組となり村の周辺の偵察を行え。王国の別働隊がいる可能性がある。どんな些細なことでも、何かがいた痕跡が見つかれば報告せよ」

 

「「「はっ」」」

 

 ニグンの命令に隊員たちはすぐさま行動を開始する。

 

 この命令の目的はアインズの部下の化け物たちの存在を確認することである。

 

 アインズは村人を助けてやったと言っていた。あれほどの組織のトップが単身で村人を助けに来るとは思えない。部下たちが村を包囲し、兵士たちの実力を見極めてから、側近のアルベドを連れて介入したと考えるのが自然である。

 すなわち、村の周辺には既に化け物たちがいるか、もしくはいたはずである。多数の化け物がいたならば何かしらの痕跡が残っているはずだ。また、まだそこにいるのならば隊員たちを襲うことも考えられる。

 

 偵察の間ニグンは自分の体や装備の状態を確認する。体は健康そのものであり、痛みもない。使用したはずの 威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)が封じられたクリスタルも未使用のままであった。

 

 先程までのことが現実だとはとても考えられない。

 

(そうだ。夢に決まっている。あんな化け物いるわけがない)

 

 そもそも第7位階の魔法を受けても無事である化け物の存在など到底信じられない。かつて十三英雄と戦った魔神たちでさえ、威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)には敵わなかったのだ。それにあれほどに大量の化け物がいるならば、法国がすぐに気づくはずである。

 

 考えれば考えるほど夢だったとしか思えない。

 

 そんなニグンの考えを証明するように報告がくる。

 

「隊長。村周辺を徹底的に調べましたが、伏兵の存在も痕跡も確認できませんでした」

 

 ニグンは頷いて、命令を出す。

 

「では、包囲を開始しろ」

 

 村の包囲も何の問題もなく完了した。念のため何人かは周囲の警戒にあたらせたが、異常はない。

 

(やはり夢だったな)

 

 ようやくニグンは安心し、殲滅の手順を復習しながらガゼフの動きを待つ。やがて隊員から報告の声が上がる。

 

「ガゼフが西から出てきました!! 強引に包囲を突破するようです!!」

 

 悪夢と同じガゼフの動きに、一抹の不安を抱えて戦闘が始まる。

 

 

 

 

 

 戦闘は夢と同様に進んだ。ガゼフの部下は次々に倒れていき、ついにガゼフ1人になった。そのガゼフも天使の攻撃を受けてついに倒れる。

 あまりにも夢と同じ展開に不安が大きくなるが、必死に抑える。

 

 これは夢の通りではない。計画通りなのだ。

 

 そう自分に言い聞かせながら、天使たちに命じる。

 

「天使たちよ、止めをさせ。」

 

 これで終わりだ。ガゼフは死に、任務は完了だ。

 

「なめるなああああああああッ!!」

 

 しかし、ガゼフは叫び、立ち上がる。

 天使たちの動きが止まる。

 

「俺は王国戦士長! この国を愛し、守護する者! この国を汚す貴様らに負けるわけにいくかあああ!!」

 

 夢と()()()()変わらぬ主張に思わず声をあげる。

 

「黙れ! お前にもう打つ手はなく、村人とともにここで死ぬのだ!」

 

 笑うなよ。決して笑うんじゃないぞ。

 ここで笑わなければあくまで計画どおりの展開であり、問題ないのだから。

 

 しかし、ガゼフは笑う。

 

「な、な、なぜ笑っている! お前にはもう打つ手がないはずだ!」

 

 自然と声が震える。

 夢と同様にガゼフは答える。

 

「くくっ、俺を殺すのは容易だろう。しかし、あの村には・・・俺よりはるかに強い人がいるぞ。そんな人が守っている村人を殺すなどお前たちには不可能だ」

 

「嘘だ! 嘘だ! 嘘に決まっている!!」

 

 あんな化け物が現実にいるわけがない。

 

「そんなことはあるはずがない!! お前は嘘をついている!!」

 

 明らかに取り乱したニグンの様子に隊員たちから戸惑いの目が向けられる。

 ガゼフも不思議に思ったのかニグンに告げる。

 

「・・・なぜそんなに必死なのか知らないが、俺の言っていることに嘘はない」

 

「いいや、嘘だ! 誰もお前の助けに来ず! 私は生き残るのだ!」

 

 あれはただの悪夢だ。現実ではない。

 

「天使たちよ、ガゼフ・ストロノーフを殺せ!!」

 

 襲い掛かる天使たち。迎え撃とうとするガゼフ。

 ニグンは神に祈る。

 

 何も起こるな。あれは夢だったのだ。

 

 しかし、ニグンの祈りもむなしく、悪夢は現実となった。

 

 

 

 

 

 

 奇妙な仮面をした魔法詠唱者(マジック・キャスター)全身鎧(フルプレート)を着けた戦士がガゼフのいた場所に現れる。その存在に隊員たちは天使を下がらせ警戒する。

 やがて魔法詠唱者(マジック・キャスター)があいさつをする。

 

「はじめまして、スレイン法国のみなさん。私はアインズ・ウール・ゴウン。親しみをこめてアインズと―――」

 

「も、もうしわけありませんでした――――!!」

 

 突如としてニグンは両手を地面につけ、その場に平伏した。 

 

「「「え?」」」

 

「え?」

 

 予想外の行動に隊員たちからもアインズからも戸惑いの声が出る。

 

「偉大なるあなた様に大変失礼なことをしていたと痛感しました! ムシケラの分際で調子に乗ってしまい申し訳ありません! 」

 

 先程までの行動から一転して必死に謝罪をするニグン。

 あまりの態度の変化に驚いたのか、アインズは独り言をつぶやく。

 

「魔力探知を防ぐ指輪はしているし、転位魔法は第3位階にもあるからそこまで高度というわけでもない」

 

 他の隊員たちにとってもアインズは突然現れた警戒すべき相手ではあるが、自分たちとそこまで差があるとは考えていない。アインズの行動を振り返ってもここまで態度が変わる理由はなく、隊員たちもニグンの行動が理解できない。

 

「なぜ私の姿を見て、即座に平伏したのだ?」

 

 アインズの疑問に後ろにいるアルベドが答える。

 

「アインズ様の偉大なる御姿を前にすれば、当然の反応でございます。この世界の全ての存在はアインズ様に跪くべきなのですから。アインズ様の偉大さが分からぬムシケラの方がおかしいのです」

 

「そ、そうか・・・。この男にそれを見抜く力があるとは思えないが・・・」

 

 アルベドは当たり前のように考えているようだが、アインズは納得できないようである。

 

「おやめください、隊長!」「突然どうしたというのですか!」

 

 ようやく我に返った隊員たちはニグンを諌めるが、全て無視してニグンは必死に命乞いをする。

 

「どんなことでもします! この埋め合わせは必ず致します! ですからどうか命だけは」

 

「駄目よ」

 

 アルベドが冷たく告げる。

 

「お前は自分が何をしたか分かっていないようね。アインズ様の御計画を邪魔したのよ。どれほど謝罪しても許されることではないわ。最大の苦痛を受けて、己の愚かさに後悔しながら無残に―――」

 

 アルベドの主張をアインズが手をあげて静止する。

 

 もしや、見逃してくれるのではないか。

 

 ニグンの胸に希望がわいてくる。しかし――

 

「ま、まあ身の程を弁えていれば、いたずらに苦痛を与えずに死をくれてやるがな」

 

「ああ、さすがはアインズ様! こんなゴミにさえ御慈悲をお与えなさるとは。なんて器が広いのでしょう」

 

 この化け物たちは狂っている。死を与えることの何が慈悲だというのだろうか。

 ニグンは震え上がる。

 

 アインズたちの言い草に隊員たちが怒り出す。

 

「黙って聞いていれば調子に乗りやがって!」「お前たちは私たちに勝てると思っているのか」「ストロノーフより先にお前たちを殺してやる!」

 

 彼らは全員、第3位階の魔法を使いこなす一流の魔法詠唱者(マジック・キャスター)である。その上常日頃から厳しい訓練を積んでおり、その実力に自信を持っている。たかが2人に負けるわけがないと判断するのも当然である。ニグンもそう判断しただろう。―――あの悪夢をみるまでは。

 

「お、お前たちやめるのだ! 相手を怒らせるな!」

 

 この2人の実力を知っているニグンは必死にとめる。隊員たちがどれだけ無残に殺されようと構わないが、下手に刺激すれば自分も巻き添えに死んでしまう。

 しかし、あの悪夢をみていない隊員たちは聞く耳をもたない。

 

「全天使で攻撃するぞ」「俺たちの力をみせてやれ!」

 

 次々にアインズたちに向かっていく天使たち。

 いまだニグンの行動の理由を考えていたアインズがこちらを向いて言った。

 

「ひとまず周りを黙らせるか」

 

 

 

 

 

 

 夢の通りアインズの実力は圧倒的であった。

 襲い掛かる40以上の天使を一撃で粉砕し、雨のように降りそそぐ魔法の1つもアインズには届かない。ようやく実力差を理解した隊員たちの命乞いも、うるさいとばかりに全員を一撃で倒す。蹂躙するその姿はまさに魔王。人を遥かに凌駕した化け物である。

 まだ全員が一応生きていることを確認すると、アインズは戦闘に参加せずに平伏していたニグンの前に立つ。

 

「馬鹿な部下たちはどのようにあつかっても結構です。 ですが私の命は見逃してください! 命さえ助けて頂ければ必ずお役に立ってみせます! 」

 

 最後のチャンスとばかりにニグンは必死で願う。

 アインズは黙って聞いていたが、処遇を決めたのかニグンに言った。

 

「では役に立ってもらうか。<支配(ドミネート)>」

 

 アインズの指からニグンに魔法が放たれる。体の自由がきかなくなり、その場で立ち上がる。いやな予想が頭に浮かぶ。

 アインズが問いかける。

 

「名はなんという」

 

「ニグン・グリッド・ルーイン」

 

 やはり意志に反して言葉が出てくる。

 

 まずい。このままではあの悪夢の再現だ。

 

「ではニグンよ、ここには何をしに来た」

 

「ガゼフ・ストロノーフを殺しにきました」

 

 やめてくれ。質問はここまでにしてくれ。こんなことをしなくても自分からいくらでも話すから。

 

 そんなニグンの心の中を知る由もなく、アインズは問う。

 

「ではなぜ私がお前たちよりはるかに格上の魔法詠唱者(マジック・キャスター)だと分かったのだ」

 

 そんなこと決まっている。

 

「夢でみたからです」

 

 胸に痛みが走り、ニグンは倒れこむ。

 驚くアインズをよそに、目を閉じながらニグンは後悔する。

 

 

 せっかく夢で警告されたというのに、自分は死んでしまうのか。

 なぜ、夢を信じなかったのか。

 

 

 

 暗転する世界の中で無機質な声が聞こえる

 

 

―――これで2回

 

 

 

 

 

 

 ニグンはまたしても草原に立っていた。

 

 悪夢で見たときと、悪夢から覚めたときと同様に。

 

 そうしてニグンは3度目の報告を告げられる。

 

「隊長。ガゼフ・ストロノーフはまだ村の中にいるようです」

 

 

 




1回で学習するニグンさんなんてニグンさんじゃないと思います。


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