ハイスクールD×Dの規格外   作:れいとん

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Pixivやニコニコ静画にルフェイの絵増えないかなぁ(切実)

※後書きの注意を必ず読んでください。


補習授業のヒーローズ
第四十七話


中級悪魔の昇格試験日から二日ほど経過した正午―――。

木場達グレモリー眷属は、グレモリー城の一角にいた。グレモリー城の使用人をはじめ、グレモリーの私兵も慌ただしく動いている。

理由は現在冥界が危機に瀕しているからだ。

旧魔王派のトップ。シャルバ・ベルゼブブの外法によって生み出された『魔獣創造』の超巨大モンスターの群れは冥界に出現後、各重要拠点及び都市部へと進撃を開始。

フロアに備え付けられている大型テレビでは冥界のテレビはトップニュースとして、進撃中の魔獣を映している。

『ご覧ください! 突如現れた超巨大モンスターは歩みを止めぬまま、一路都市部へと向かっております!』

魔力駆動の飛行機やヘリコプターからレポーターがその様子を恐々として報道している。

冥界に出現した『魔獣創造』の巨大な魔獣は全部で十三体。どれもこれもが百メートルを優に超える大きさだ。

人型の二足歩行をするタイプの巨人もいれば、獣の様なタイプの四足歩行をするものもいる。姿形は一体として同じものがいない。

人型タイプも、頭部が水生生物のものであったり、目がひとつであったり、腕が四本も生えているものもいる。一言で表すなら合成獣(キメラ)のようだ。

魔獣たちはゆっくりと一歩ずつ歩みを止めぬまま進撃し、速ければ今日、遅くても明日には都市部に到達する。

さらに厄介なのが、この魔獣たちが進撃をしながらも小型のモンスターを独自に生み出している点だ。魔獣の体の各部位が盛り上がり、そこから次々と小型のモンスターが生まれてくる。大きさは人間サイズだが、一度に数十から百数体ほど生み出されている。このモンスターたちは通りかかった森や山、自然を破壊し、そこに住む生き物も食らい尽していく。人的被害は出ていないようだが、進撃先にあった町や村は丸ごと蹂躙されていった。

異形の中でも群を抜いて巨大なのが冥界の首都、魔王領にある首都リリスに向かっている。

一際巨大なその魔獣を冥界政府は『超獣鬼(ジャンバウォック)』と呼称した。その他十二体は『豪獣鬼(バンダースナッチ)』。これらはアザゼルがルイス・キャロルの創作物にちなんで付けたものだ。

テレビの向こうでは、『豪獣鬼』を相手に冥界の戦士達が迎撃を開始していた。黒い翼を広げ、正面や側面、或いは背面からほぼ同時攻撃で魔力の火を打ち込んでいく。周囲一帯を覆い尽くす質量の魔力が魔獣に放たれていた。

その攻撃を繰り広げたのは、最上級悪魔とその眷属だ。通常の魔獣ならそれだけでオーバーキル。間違いなく滅ぼされているだろう。しかし―――。

『なんということでしょうか! 最上級悪魔チームの攻撃がまるで通じておりません!』

体の表面にしかダメージを与えられず、致命的な傷は一切加えることができなかった。迎撃に出ている最上級悪魔チームはどれもがレーティングゲーム上位のチームだ。しかし、それでも効果のある迎撃ができずじまいだった。次々と生み出されていく小型モンスターを壊滅させるだけで手一杯だ。……巨大な魔獣たちの堅牢さは圧倒的であるのだが。

各魔獣の撃退には堕天使が派遣した部隊と、天界側が送り込んだ『御使い』たち。そしてヴァルハラからはヴァルキリー部隊、ギリシャからも戦士の大隊が駆け付け、悪魔と協力関係を結んだ勢力から援護を受けている。そのおかげもあって、最悪の状況だけは脱している。しかしそれはあくまで現状は、だ。このまま時間が過ぎればどうなるかわからない。

更に問題は山積している。

昨夜、レーティングゲーム王者―――ディハウザー・ベリアルとその眷属チームが迎撃に出たのだ。『超獣鬼』にダメージこそ与えられたものの、歩みを一時的に止めることしかできなかった。『超獣鬼』はダメージを速効で再生、治癒してしまい、何事もなかったように進撃を再開させた。

その衝撃的な事実はニュースとして冥界中を駆け巡り、民衆の不安を煽る結果となってしまった。レーティングゲーム王者である皇帝ベリアルとその眷属が出場すれば『超獣鬼』ですら倒せると内心で信じ切っていたからだ。

実際にベリアルと眷属の力は強力だ。バアル眷属やグレモリー眷属ですら万全の状態でも十回戦ったら十回負けるだろう。それ程のものでも無理だったのだ。

もうひとつ問題なのは、この混乱に乗じて各地に身を潜めていた旧魔王派がクーデターを頻発させている点だ。おそらく、この魔獣たちの進撃は旧魔王派の計画通りであり、それに合わせる形で各都市部を暴れ回っている。

さらに、この混乱によって冥界各地で上級悪魔の眷属が主に反旗を翻しているのだ。無理矢理悪魔に転生させられた神器所有者がこれを機にいままでの怨恨をぶつけているのだ。

アザゼル風に言うなら、各地で禁手(バランス・ブレイカ―)のバーゲンセール状態だ。魔獣群を止めなければならないうえに、冥府の神ハーデスや『禍の団』の英雄派も警戒しなければならない。冥界は深刻な危機に瀕している。

「『超獣鬼』と『豪獣鬼』の迎撃に魔王さま方の眷属が出撃されるようだ」

突然木場に話しかける声。木場が振り返るとそこにはライザー・フェニックスがいた。

「レイヴェルの付き添いでな。あいつ、お前らのことが心配だから、会いに行きたいと言うんだ。それで俺が付き添いってわけだ。今さっきリアスと話してきた。……すまないな。こんな状況だと言うのに、涙をこれしか用意できなかった」

そう言ってライザーは懐から小瓶を幾つか取り出し、それを祐斗に渡す。

「いえ、いまは非常時です。涙をこれだけ回していただき感謝します」

そう言って、頭を下げる木場。そんな木場にライザーは言う。

「俺はこれから兄貴と共に魔獣撃退に出る」

不死身であるフェニックスが出れば、前線の心強い戦力となるだろう。

フェニックス家は現代の上級悪魔にしては珍しく多い四兄弟だ。長男と三男はレーティングゲームに参加していて、二男はメディア報道の幹部だ。

「それじゃあな」

そう言って、ライザーはこの場から去っていった。

 

 

木場が別室にいた小猫やゼノヴィアと涙の配分を決め、元のフロアに戻ろうとした時だった。廊下で見知った人物が前を通りかかる。

「―――匙君」

その人物は匙だった。木場が話しかけると匙も手を挙げる。

「よ、木場」

「どうしてここに?」

木場がそう訊くと、匙は息を吐きながら言う。

「会長がリアス先輩の様子見と、今後のことで話しにきたんだよ。その付き添いでな。表ですれ違い様フェニックス家のヒトたちにも会ったけどな」

「そっか、ありがとう」

ソーナは、一誠と出会いながらも会話することすらできなかったリアスを心配してきたのだ。

フロアに戻りつつ、匙は決意に満ちた眼差しでいう。

「木場、俺も今回の一件に参加するつもりだ。都市部の一般人を守る」

実力のある若手は招集がかけられている。シトリーとグレモリーの眷属はもちろん、バアルとアガレスの眷属もかけられている。

「僕たちもあとで合流するつもりだ」

そっかと木場に笑みを見える匙、しかし一転して暗い表情をする。

「聞いてくれよ、木場。俺さ―――」

匙はポツリポツリと話し始める。

「俺さ、兵藤さんに憧れてたんだ。初めて会った時は人間が調子に乗りやがって! って思っていたけど。コカビエルが襲ってきた時、一方的に殺しかけて恐怖した。悪魔である自分より強い兵藤さんを見て怖くなったんだ。でもさ、その後なんだかんだで俺の面倒見てくれて、修行にも付き合ってくれた。それでさ、いつか絶対に兵藤さんくらいに強くなってやるんだって思った。……けど、俺弱いままでよ。修学旅行の時も龍王形態があるって言うのに英雄派のトップに瞬殺されたしさ。白龍皇や聖槍使いもメチャクチャ強くて、その全員が兵藤さんを倒そうとしていろいろやっていて。俺さ自分が情けねえよ。いつか最強の『兵士』になってやるって息巻いていたのに、メチャクチャ弱くてよ。口先ばっかりで何も自分じゃできないのが情けなくて、悔しくて……」

そう言って、心底悔しそうに涙を流す匙。そんな匙の気持ちを痛いほど理解できる木場。なにせ神滅具使いのほとんどが自分たちとそう年齢が変わらない。その上、全員が神滅具を使わなくても十二分に強いのだ。先代ルシファーの孫である父を超える魔力と才能を持つヴァーリ。人間でありながら卓越した技量を誇る曹操。魔法使いとしてはトップクラスの実力をもつゲオルク。そして、一誠は言わずもがな。故に焦ってしまうのだ。歳がそう変わらないのに、新たに力を手に入れた自分よりも遥か先にいる一誠達を見て、自分を情けなく思ってしまうのだ。

「……気持ちは分かるよ。僕だって、……僕達グレモリー眷属も皆同じ気持ちなんだから」

木場がそう言うと、匙は呆けたような表情をする。

「……そっか。なら、これ以上情けない姿は見せられないな」

そう言って、涙を拭う匙。その顔はとても凛々しいものだった。

「サジ、別にそれは情けなくとも何とも無いですよ。本当に情けないというのは、その場で諦めて立ち止ってしまうことです」

匙と木場が振り返ると、そこにはソーナがいた。

「私たちはこれで失礼します。魔王領にある首都リリスの防衛及び都民の非難に協力するようセラフォルー・レヴィアタンさまから仰せつかっていますので」

最上級悪魔クラスの強者は各巨大魔獣の迎撃に回っているため、悪魔政府は有望な若手に防衛と民衆の非難を要請している。木場達グレモリー眷属もすぐその場に向かうだろう。

「……ああ、それともう一人、貴方達に会いに来ていますよ」

そう言ってソーナは薄く笑うと、匙を引き連れてその場を去っていった。

 

 

木場がフロアに戻ると、ちょうどテレビで首都の様子が映し出されていた。テレビに映る首都の子供達。レポーターの女性が一人の子供に訪ねる。

『ぼく、怖くない?』

レポーターの質問に子供は笑顔で答える。

『平気だよ! だってお母さんが言っていたもん。どんなことがあっても魔王さまが僕たちを守ってくれるって! だから怖くなんかないよ!』

『サタンレンジャーが助けてくれるもん!』

『違うよ、レヴィアたんが助けに来てくれんだよ!』

そこで言い争う子供たちだが、誰一人として不安な顔をひとつも見せない。そんな子供たちの様子を見て、やる気が出てくる木場。

「俺たちが思っている以上に冥界の子供達は強い」

突然の声。いつの間にか、木場の隣にその男はいた。

「あなたは!」

「これが俺の目指すものか、遠いな。―――久しいな、木場祐斗。リアスに会いにきた」

サイラオーグ・バアルだった。

サイラオーグと木場はリアスのいる部屋へと入る。そこには気丈に振る舞っているが、いつもより落ち込んでいる。

「サイラオーグ! 何しに来たの?」

「ソーナ・シトリーから連絡をもらってな。お前が酷く落ち込んでいると言うか来たのだ」

サイラオーグはリアスと前に立つと、真正面から言い放つ。

「情けない姿を見せてくれるものだな、リアス。お前はもっと良い女だったはずだ」

「なにを言いたいのかしら?」

リアスは不機嫌な表情と口調で言う。

「お前達と赤龍帝殿との間に起こったことは聞いている。リアス。赤龍帝殿がお前達に興味をなくし、無視するというのなら、無視できないくらいに強くなり、強引に振り向かせればいいではないか。少なくとも昔のお前なら、そうしたはずだ」

消滅の魔力を持って生まれず、辛い幼少期を過ごしたサイラオーグ。障害をひとつひとつ乗り越え、若手最強とまで言われるようになった彼だからこそ、その言葉には迫力があった。

サイラオーグの発破が訊いたのだろう。リアスは苦笑するが、いままでのように何処か陰る様なものではない。

「……そうね。サイラオーグ、貴方の言う通りだわ。一誠が私たちのことをなんとも思っていないようなら、思わせるようすれば良いんだわ」

そう言って、笑むリアス。その表情はいつもの自身に充ち満ちているものだ。

「―――行くぞ。冥界の危機だ。強力な眷属を率いる俺とお前は若手の最有力として後続の者に手本を見せねばならない。そうしてこそ、いままで俺たちを見守ってくださった上層部の方々―――魔王さまのお恩に報いるまたとない機会ではないか」

「ええそうね。―――ごめんなさいね、祐斗。『(キング)』である私が情けない姿を見せたわ。もう大丈夫よ」

「はい!」

こうしてリアスは祐斗を引き連れ、他の眷属と共に首都リリスの防衛に出陣する。

リアス達のいなくなったフロアのテレビは未だに巨大魔獣を映し続けていた。そのチャンネルは『超獣鬼』を映していた。その映像に異変が起こる。

『どうしたことでしょうか! いきなり上空、空間の一部が歪み始めました』

空間に巨大な歪みが生じ、次元の穴が開かれる。そして、そこから巨大な何かが現れる。

『なな、何あれっ!?』

あまりの出来事にレポーターは実況することを忘れてそう叫んでしまう。

『ドラゴンっ!?』

そう、突如現れたのは百メートルほどの巨体を誇る赤いドラゴン。『D×D』『真龍』と称される偉大なドラゴン。黙示録に登場する、この世界でもっとも規格外な存在のひとつ。

『真なる赤龍神帝』グレートレッド。

 

 

上空数百メートル。そんな高さの所に一誠とルフェイ、オーフィスはいた。正確にはグレートレッドの上だ。

「―――ったくよぉ。適当に次元の狭間をうろついてる所為で、探し出すのに二日もかかっちまったじゃねぇか」

「凄いです! これがグレートレッドさんなんですね!」

「えいえいえい。我、グレートレッド、倒す」

一誠は足元に敷かれたシートの上に並べられたルフェイお手製弁当を頬張りつつそう言う。ルフェイはグレートレッドに乗れたことに感激しており、オーフィスはシートの外側のグレートレッドの体をぺちぺち叩いている。

疑似空間から脱出したあと、一誠はルフェイとの約束通り、グレートレッドの背中に乗って遊覧飛行を行おうとしたのだ。普段なら、次元の狭間で適当に魔力を放出すれば現れるグレートレッドが今回に限っては現れなかった。おかげで、一誠は広大な次元の狭間でグレートレッドを探すということをしなければならなかったのだ。

オーフィスが一緒にいるのは、ルフェイに懇願されたからである。……ちなみに余談ではあるが、苦労の末、漸くみつけたグレートレッドにキレた一誠がエーテリオンを籠めた拳を放ち、グレートレッドが死にかけたりした。

その後、ルフェイに弁当を作ってもらい、グレートレッドの背中に乗った一誠達。途中まで次元の狭間を永延と飛んでいるだけだったが、急にグレートレッドが進路を変更して冥界に出現したのだ。

「しっかし、面白いことになってんな。あの時わざと見逃したけど、まさかこれほど混乱を起こすとは」

一誠は水筒に入れられたお茶を啜りつつ眼前で暴れる超巨大モンスター―――『超獣鬼』を見て、そう呟く。

「……っお! グレイフィアか。それにあいつ等。ルシファー眷属総出かよ」

上空に現れたグレートレッドを訝しげに思いながらも、『超獣鬼』に攻撃を開始するグレイフィア達ルシファー眷属。

その様子を見て、ルフェイは感嘆した様子で言う。

「凄いですね。流石は魔王ルシファーの眷属」

サーゼクス・ルシファーの眷属達は全員がかなりの強者だ。ベオウルフは五指に入る『兵士』だし、『戦車』のスルト・セカンドと『女王』のグレイフィアは冥界最強と言われるくらいだ。最低でも最上級悪魔の中クラス以上、グレイフィアにいたっては魔王クラスの実力者だ。

しかし、そんな化け物揃いのルシファー眷属でも足止めが精一杯という状況だ。

「グレイフィア達でも仕留めきれないほどの耐久力と回復能力か。上位神滅具といわれるだけあるな」

一誠は改めて『神滅具(ロンギヌス)』の凶悪さを理解する。

「……ちょっと、試してみるか。ルフェイ、俺は下に行ってくる。ここから動くなよ?」

「はい、気を付けてくださいね」

一誠はそう言い、ルフェイは笑顔で一誠を送りだす。一誠は立ち上がると、オーフィスの方に視線を向ける。

「オーフィス、なにかあったらルフェイを守れよ」

一誠がそう言うと、オーフィスはグレートレッドを叩くのを止めコクリと頷く。

「グレートレッド! 俺は下に降りるけど、ここから離れるなよ? もし離れたりルフェイになにかあったら肉片の一欠けらも残さず消滅させるからな」

一誠がそう叫ぶと、グレートレッドの頭が上下する。それを確認して、一誠は下へと降りる。

一誠が地面に着地すると、グレイフィアが近づいてくる。

「なぜ、貴方様が此処にいらっしゃるのですか?」

グレイフィアがそう問いかけると、一誠は適当に答える。

「暇つぶしだ」

そう言うと、グレイフィアが呆れた雰囲気を醸し出す。

「……それでは、あれを任せてもよろしいのですか?」

グレイフィアは少しばかり視線を『超獣鬼』の方へ向ける。一誠は頭をぼりぼりと掻きながら答える。

「あ~。まぁ、巻き込まれたくなきゃ下がってろ。死にたいんなら纏めて吹き飛ばしてやるが」

「それは勘弁願いたいですね」

一誠がそう言うと、グレイフィアは高速でその場から離れていく。それに続くようにルシファー眷属も後退した。

「……近くで見上げると、かなりでけぇな」

グレイフィア達の攻撃がやみ、進撃を開始する『超獣鬼』攻撃がやんでほんの少しだと言うのに、もう回復しきっている。

一歩進むたびに振動を発生させる『超獣鬼』。このまま何もしなければ、一誠は踏みつぶされるだろう。

「少しは楽しませろ」

一誠はそう呟くと槍を創りだし、それを投擲する。それは『超獣鬼』の体を簡単に貫き、左腕を吹き飛ばす。

「―――期待はずれか?」

いつの間にか片腕を吹き飛ばされた『超獣鬼』の腹部に現れた一誠は、そのまま回し蹴りを叩きこむ。

ドォォォォォォォォォォンッ!

辺りに衝撃や粉砕音をまき散らしながら『超獣鬼』は数百メートルも吹き飛ばされ、地に倒れる。一誠に蹴られた部分は大穴が空いていた。しかし―――。

『ゴガァァァァァァァァァァアアアアアアアアッッ!』

鼓膜が張り裂けそうなほどの声量で咆哮を上げながら立ち上がる『超獣鬼』。一誠にやられた左腕や腹部が回復していき、即座に完治する。

「はっはは。少しはやるじゃねぇか」

空中に浮かび、立ち上がる『超獣鬼』を楽しそうに見下す一誠。一誠は笑みを作りながら、腕を高速で動かす。その様子はまるで、指先で魔法陣を描くようだった。

一誠が最後に片手を空へ向ける。すると―――。

ドガンッ! ドガァァンッ!

空から隕石が降ってきて、『超獣鬼』をその圧倒的な質量と破壊力で押しつぶす。

星座崩し(セーマ)

RAVEの世界において、大魔導を超えた超魔導のみが扱える古代禁呪。その力は自然を自在に操り、空から星を降らせることすら可能だ。

これがこの世界で唯一、一誠のみが使用することができる魔法。圧倒的で絶対的、まさしく規格外の魔法。

元龍王のタンニーンは破壊力だけなら魔王級と称されている。そしてタンニーンの吐き出す咆哮(ブレス)は隕石の衝突にもひとしいと言われる。つまり隕石の衝突は魔王級の一撃と同等なのだ。魔王の攻撃にも等しい隕石が雨霰と『超獣鬼』に降りそそぐ。

隕石を降らせるという離れ業を繰り出した一誠を、グレイフィア達は唖然として見ている。彼女達は一誠が出鱈目な強さを持つことは知っているが、流石に隕石を降らせることができるなんて思いもしなかった。いや、誰もそんなことができるだなんて想像すらしない。そんなこと、オーフィスやグレートレッドでも不可能だ。

隕石の質量に押しつぶされ、地面の中に埋まる『超獣鬼』。動き出す気配はない。

一誠はそれをつまらなそうに一瞥すると、グレートレッドの背中、ルフェイ達がいるところに戻る。

「凄いです! まさか、隕石を降らせることができるなんて!!」

帰ってきた一誠を、ルフェイはキラキラした瞳で見つめる。

「実際のところ、素手でもあれ以上の破壊力を生み出せるんだけどな。それにオーフィスやグレートレッドに、あの程度の魔法は効かねぇし」

一誠はそう言うと、シートの上に腰を降ろす。

「そこそこ楽しめたな。オーフィスと比べるとあれだが、中々にしぶとかった」

そう言う一誠。実際は、一撃で消し飛ばすこともできる。あえてそれをやらなかったのは『星座崩し』を始め、一誠のみが扱える魔法を実戦で使いたかったからだ。……結局ひとつしか使用しなかったが。

「さて、どうするか。正直、そろそろ飽きてきた。……ん?」

「……」

一誠とオーフィスが揃ってなにかに反応する。

「どうかしたんですか?」

ルフェイがそう訊くと、一誠が答える。

「ああ、どうやらヴァーリが来たようだ。近くに曹操もプルートもいるみてぇだな」

一誠はとある方向を向くと、声を出す。

「グレートレッド!」

一誠がそう叫ぶと、グレートレッドはその場から西側へと飛んでいく。

 

 

場は混沌としていた。

実質、子供達を人質に取られ、ヘラクレスやジャンヌ、ジークフリートに危険な状態に追い込まれていたシトリー眷属。そんなシトリー眷属を救ったのはリアスが率いるグレモリー眷属とサイラオーグ・バアルだ。

旧魔王の血を利用して作られた『魔人化』を使用して『業魔人』となったジークフリートを見事に打倒し、ジークフリートが持っていた魔剣全てに所有者と認められた木場祐斗。

神滅具である『獅子王の戦斧』を使わず、最後には英雄としての誇りをヘラクレスに思い出させたサイラオーグ・バアル。

そして神滅具である『絶霧』の所持者であるゲオルクを予想外の覚醒によって瞬殺したギャスパー・ブラディ。

この三者の活躍により、シトリー眷属と冥界の子供は守られた。だが、その場に予想外の乱入者が現れる。

「貴様は……ッ!」

リアス達と途中で合流したアザゼルが、その乱入者を見て驚く。

《初めまして、堕天使の総督殿。私はハーデスさまに使える死神の一人―――プルートと申します》

プルートはそう言って、お辞儀をする。

「……ッ! 最上級死神のプルートか……ッ! 伝説にも残る死神を寄こすなんてハーデスの骸骨オヤジもやってくれるもんだな!」

《前回、赤龍帝殿に完敗しましてね。オーフィスを奪うことができませんでしたので、せめてコウモリやカラス程度は狩ってこいとのハーデスさまのご命令でして》

その言葉を聞いて、アザゼルは皮肉げに笑う。

「大方、人間である一誠がサマエル相手にして、死にかけ、もしくは消耗して弱体化したとでも思ったんだろ。調子づいて返り討ちにでもあったな」

その言葉を聞いて威圧感を増し、鎌をかまえるプルート。アザゼルは光の槍を出現させ、かまえる。

「お前の相手は俺がしよう。―――最上級死神プルート」

またも響く乱入者の声。アザゼルとプルートの間に光の翼と共に降りてきたのは、純白の鎧に身を包む男―――ヴァーリだった。

「ヴァーリ!」

「悪いな、アザゼル。こいつは俺がもらうぞ」

アザゼル達の目の前でヴァーリがプルートに言う。

「あのホテルの疑似空間でやられた分をどこかにぶつけたくてな。ハーデスか、英雄派か、悩んだんだが、ハーデスは美侯たちに任せた。英雄派は出てくるのを待っていたらグレモリー眷属がやってしまったんでな。こうなると俺の内にたまったものを吐きだせるのがお前だけになるんだよ、プルート」

そう言うヴァーリは普段と変わらない口調だが、語気に怒りの色が見えている。

プルートは鎌をくるくると回すとヴァーリにかまえる

《ハーデスさまのもとにフェンリルを送ったそうですね。先ほど、連絡が届きました。神をも殺せるあの牙は神にとって脅威です。―――忌々しい牽制をいただきました》

「―――? なんの話だ?」

《まぁ、いいでしょう。しかし、真なる魔王ルシファーの血を受け継ぎ、なおかつ白龍皇である貴方と対峙するとは……。長生きはしてみるものですね。―――貴方を倒せば赤龍帝にやられた鬱憤も少しは晴れるかもしれませんしね》

そう言って、威圧感を増すプルート。

「俺を舐めるなよ!!」

ドンッ!

そう叫んだヴァーリが特大のオーラを纏い始める。ヴァーリはとんでもない質量のオーラを辺り一帯に放出しながら言う。

「―――歴代所有者の意識を完全に封じた、俺だけの『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』を見せてやろう」

光翼がバッと広がり、魔力を大量に放出させる。純白の鎧が神々しい光に包まれ、

「我、目覚めるは―――律の絶対を闇に落とす白龍皇なり―――」

各部位にある至宝から闘志を宿した声が響き渡る。

『極めるは、天龍の高み!』

『往くは、白龍の覇道なりッ!』

『我らは、無限を制して夢幻をも喰らう!』

いままでと違い恨みも妬みも吐き出さない。その代わりに圧倒的なまでの純粋な闘志に満ちていた。

「無限の破滅と黎明の夢を穿ちて覇道を往く―――我、無垢なる龍の皇帝と成りて―――」

ヴァーリの鎧が形状を少し変化させ、白銀の閃光を放ち始める。

「「「「「「汝を白銀の幻想と魔導の極致へと従えよう」」」」」」

Juggernaut(ジャガーノート) Over(オーバー) Drive(ドライブ)!!!!!!!!!!!』

そこに出現したのは、極大のオーラを放つ別次元の存在と化したヴァーリだった。

「―――『白銀の極覇龍』。『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』とは似ているようで違う、俺だけの強化形態。この力、とくとその身に刻めッ!」

そう言い放つヴァーリに斬りかかるプルート。残像を生み出しながら高速で動き回り、紅い刀身の鎌を振るう。

《ッ!》

驚愕するプルート。なぜならたった一発、ただの拳で鎌が難なく砕かれたからだ。そのプルートの顎にアッパーが撃ち込まれ、プルートを上空へと浮かばせる。

ヴァーリはプルートへと右手をあげて、開いた手を握る。

「―――圧縮しろ」

Compression(コンプレッション) Divider(ディバイダー)!!!!』

『DividDividDividDividDividDividDividDividDividDividDivid!!!!!!!!!』

空中に放り投げだされたプルートの体が、縦に半分、その次に横に半分に圧縮される。さらに縦、横と半分に―――。プルートの体が瞬時に半分へ、また半分へと体積を減らしていく。

《こんなことが……!このような力が……ッ!》

プルート自身が信じられないように叫ぶが、ヴァーリは容赦なく言い放つ。

「―――滅べ」

目で捉えきれないほどにまで圧縮をされたプルートは、空中で生まれた振動を最後に完全に消滅した。

白銀から通常の禁手姿に戻ったヴァーリは肩で息をしていた。

「……恐ろしいな、二天龍は」

いつの間にか現れた曹操が、近づきながらにそう言う。

「ヴァーリ、あの空間でキミに『覇龍』を使わせなかったのは正解だったか……」

曹操にそう言われるが、ヴァーリは息を吐く。

「『覇龍』は破壊という一点に優れているが、命の危険と暴走が隣合わせだ。いま見せたのはその危険性をなるべく省いたものだ。更に『覇龍』と違い伸びしろもある。曹操、仕留められる時に俺を仕留め無かったのがお前の最大の失点だ」

ヴァーリの言葉に曹操は無言だったが、一度息を吐いて何かを言おうとする。しかし、それは無理だった。その場に新たな乱入者が現れたからだ。

「―――ハハハハ。あれがお前の『覇龍』か、ヴァーリ」

笑みを作りながら空中から降り立ったのは一誠だ。

「なるほど。戦闘と言うものを通して、歴代所有者を説き伏せたのか。俺とは違うが、独自の『覇龍』を習得するとはな。……曹操といい、ヴァーリといい、随分楽しませてくれる」

そう楽しそうに言う一誠に、曹操は苦笑しながら答える。

「赤龍帝殿、随分派手に暴れましたな。―――まさか隕石を降らせるなんて、予想外もいいとこです」

曹操はそう言うと、槍をかまえる。

「―――禁手化(バランス・ブレイク)

曹操がそう呟くと輪後光が現れ、七つの球体が出現する。

「せめて、貴方に掠り傷ひとつは負わせてみせる」

そう呟いた瞬間、曹操の姿が消え、一誠の背後に現れる。そして一歩踏み出し、聖槍を放つ。一誠はそれを掴む。

「ヴァーリは新たな『覇龍』を見せ、おまえは亜種の禁手を見せた。―――それなら俺も、禁手位はださないと失礼だな?」

一誠はその場から曹操を掴んだ槍ごと投げ飛ばすと、左腕に赤い籠手を出現させる。

「―――禁手化(バランス・ブレイク)

そう呟いた瞬間、一誠の体を赤い鎧が包み込む。

「誇っていいぞ、曹操。俺が禁手(バランス・ブレイカ―)を使った相手は片手で足りるほどしかいない」

全身を赤い鎧が包み込んだ一誠。通常状態の禁手(バランス・ブレイカー)だというのに、ヴァーリの『白銀の極覇龍』以上のオーラを滲ませている。

一誠は片手を前に突きだすと、その手元に野球ボールほどの魔力の塊をうみだす。

「一撃でやられるなんて、無様を晒すなよ?」

『Boost!』

たった一度の倍化。そして放つ。ものすごい速さで放たれるその魔力弾を、曹操は慌てて交わす。その魔力弾はビルを貫いて、遥か彼方、上空へと消えていった。そして―――。

ドオオオオォォォォォォォオオオオォォォンッッ!!

空中で籠められた魔力が爆発し、首都リリス全体を揺らすような衝撃と爆音をまき散らす。

先ほどのヴァーリの力が霞むほどの力を容易く見せつける一誠。曹操は引きつった笑みをしながら言う。

「出鱈目な。通常の禁手でこれほどの力を出すだと? どう足掻いても勝ち目なんて無いじゃないか」

曹操は、一誠の方を向くと口を開く。

「俺ではどう足掻いても勝てない。掠り傷ひとつ負わせるのだって奇跡でも起きない限り不可能だろう。―――ならば『奇跡』を起こしみせる」

「『覇輝(トゥールス・イデア)』かッ!」

そう叫ぶアザゼルを無視し、曹操は槍をかまえると、唱えだす。

「槍よ、神を射抜く真なる槍よ―――。我が内に眠る覇王の理想を吸い上げ、祝福と滅びの狭間を抉れ―――。汝よ、意思を語りて、輝きと化せ―――」

曹操の口にした呪文と共に聖槍の先端が大きく開ききり、そこから莫大な光が輝く。

莫大な聖のオーラを放つ聖槍。徐々に槍の光が弱まっていき、大きく開いた槍の先端も普通の状態に戻っていった。

曹操はそれを見て―――目を見開き、絶句している。

「……発動……しない?」

そう呟く曹操。莫大な光量を発していた聖槍からはそれほどプレッシャーは感じられない。しかし―――。

「……? いや、これは……ッ!」

いきなり曹操が驚愕したかと思えば、全身から血を噴き出す。

『―――ッ!?』

いきなりのことに、一誠を含めた全員が驚愕する。

そして流れ出た血は曹操の頭上に集まると、ソフトボール大の大きさの黒いに近い紫色の球体になる。まるで占いに使われる水晶の様な形をしているが無機物でないことが一目で分かる。―――ドクンドクンと鼓動を発していたのだ。

それは独りでに動き出すと、どこかへと飛び去っていく。その方向には、『超獣鬼』が埋まっている場所があった。

球体は『超獣鬼』が埋まっている所まで辿りつく。すると―――。

ザァァァァァアアアアッ!

『超獣鬼』と『豪獣鬼』。そしてそれによって生み出された小型モンスターたち全てが粒子状となり、球体に吸収されていく。

そして全てを吸収しきった球体は次第に新たな体を構成していく。人型の形にドラゴンの様な顔。そして初めは白かった体が変色してく。白から紫に近い黒色へと―――。『超獣鬼』と同じくらいの大きさになった球体。一目で異質の化け物と理解できる。そして―――。

『ゴガアアアァァァァァアアアァァァァァァッッ!!!』

その化け物が叫んだ瞬間、周りの大地は消し飛び、空は悲鳴を上げる。上空の空間が罅割れるように砕かれ、次元の狭間を覗かせる。

冥界の―――世界の危機は、これから本当に始まる。




四十七話でした。いかがだったでしょうか?

ここまで本当に長かったです。あと少しで終わりなので、もう少しお付き合いください。

もしかしたら、次回が後日談を除いた最終回になるかもしれません。

それではまた次回。 ノシ

※最後に出てきた怪物が分かった方々。感想欄でのネタばれはやめてください。よろしくお願いします。

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