ハイスクールD×Dの規格外   作:れいとん

48 / 55
今回から、十一巻です。かなりの駆け足なのは、許してください。

※前半にある一誠とドライグの会話ですが、もし十六巻を書くことになった時にやってみたいことがあるので、そのための伏線です。ですので、そのことについてのツッコミや感想はやめてください。

追記 曹操の禁手の名前がルビ振れなかったので、その部分を削除しました。


進級試験とウロボロス
第四十五話


あの京都の事件から半月近くが経過した。

この間に起こった事と言えばリアス・グレモリーとサイラオーグ・バアルによるレーティングゲームだ。勝者はサイラオーグ・バアル。グレモリー眷属は善戦したが、若手悪魔の中では圧倒的な力を誇るサイラオーグに勝つことはできなかった。更に、サイラオーグの『兵士』は十三種の神滅具のひとつ。『獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)』であった。

 

 

「一誠さま~。えへへー」

「……どうしてこうなった?」

顔をほんのり赤くして一誠に抱きつくルフェイと、ルフェイに抱きつかれて困惑している一誠。

「まさか、ルフェイがこんなにも酒に弱いとは……」

神酒と言われる酒を一誠は多数所持している。神酒は魔法や魔術の媒体として優れているからだ。むろん、普通に飲んでもかなりうまい。なので、料理の際に調理酒として使うようルフェイに頼んだのだ。

一誠が所持しているのはどれも一級品で香りも良い。興味が出たルフェイはほんの少しばかり味見をしたのだ。味見をしたと言っても舐めた程度である。それなのにこれほどに酔ったのは、ルフェイがほんの少しばかり人よりお酒に弱いのと神酒だったからだ。神酒は文字通り、神が飲むための酒。故に普通の人が飲むと大概の人間が酔いつぶれる。

「どうかしたんですかぁ?」

ほろ酔い状態といった感じのルフェイは一誠の顔を見上げる。目はとろんとしていて、顔は上気している。

「―――っ」

その何気ないしぐさが一誠の理性をかなり削っていく。

「えへへ~」

一誠はルフェイを思いっきり抱きしめる。ルフェイも嬉しそうに抱きしめ返す。

幸せそうな表情をするルフェイを見て、一誠は深くため息を吐く。

「……はぁ。なんかアホらしくなってきた」

「ん~」

一誠はルフェイを抱き上げると、そのままベッドのある部屋に移動する。

「ほれ、ルフェイ。もう寝ろ」

ルフェイをベッドまで運び布団を被せた一誠は、そう言った後部屋を出ようとする。しかし、ルフェイに服の裾を引っ張られる。

「……どうしたんだ?」

「一緒に寝ましょ~」

そう言って、今度は腕を掴んで引っ張るルフェイ。むろん、ルフェイの華奢な体じゃ一誠を引っ張りこむことなんてできない。

「一誠さまは私と一緒に眠るのは嫌なんですか?」

目の端に涙を溜め、不安そうな表情をしながらそう言うルフェイ。

「……しょうがねぇな」

一誠はルフェイがいる布団に潜り込む。一誠が布団に入ると、ルフェイは嬉しそうに抱きつく。

「温かいです~♪」

幸せそうなルフェイを抱きしめ、頭を撫でる一誠。

「ほら、寝るぞ」

「はーい♪」

ルフェイは嬉しそうな声を出し、二人は眠り始める。

 

 

「お兄ちゃんとしては複雑かなにゃ~?」

「……確かに少し複雑ですね。ただ、彼の傍にいればルフェイは平和なところで笑っていられる」

とある住宅の上にふたつの人影があり、会話をしている。

その内の一人、アーサー・ペンドラゴンは寂しそうな表情をする。

「ルフェイが幸せな笑顔でいられるなら、それでいいんですよ」

アーサーがそう言うと黒歌はニマニマと笑いながら言う。

「にゃー。アーサーはシスコンだにゃ」

「貴女には言われたくありませんね。妹のために元主を殺し、SS級のはぐれ悪魔になったのですから」

アーサーがそう言うと、黒歌は苦笑する。

「ま、お兄ちゃんお姉ちゃんなんて皆同じなんでしょ」

「そうなのかもしれませんね」

二人がそう話していると、その場に新たな気配が二つ現れる。

「おや、ヴァーリ。調整はもう終わったんですか?」

「いや、まだだ。未だ不完全で、実戦では扱えない」

ヴァーリは不敵に笑みを浮かべると、とある家がある方向を見て呟く。

「……待っていろ、兵藤一誠。俺はいつか必ずお前に勝つ」

並みならぬ闘志を出しながら、より一層笑みを深めるヴァーリ。それはまさに、戦いに飢えたドラゴンそのものだ。

 

 

「……ん」

朝、一誠は目を覚ます。視線を下に下げると、そこには自分の腕の中で眠っているルフェイがいた。

「…………」

一誠はそのままルフェイをもう少し強く抱きしめると、頭を撫で始める。

『……何をしているんだ? 相棒』

何処か呆れながらドライグが話しかける。

「……何って、頭を撫でているだけだが?」

『……アーシア・アルジェント、レイヴェル・フェニックス、ルフェイ・ペンドラゴン』

ドライグはいきなり三人の名前を言う。

『全員が金髪の女子だ。歳も相棒に近い。それにブルーに近い瞳。アルジェントはそこだけが違うが。……なぁ、相棒。お前が気にかけているのは彼女に似ているからだろ?』

ドライグの問いかけに一誠は答えない。しかし、ドライグは言葉を止めない。

『グレモリー達を受け入れていたのは、当時のアルジェントを受け入れたからだ。……しかし、アルジェントは悪魔へと転生した。そして自分の力で誰かに立ち向かう強さを手に入れた。フェニックス家の小娘も見た限り精神的に強いだろう。……相棒、お前はあいつ等から逃げたんだろ? 一度は受け入れようとして逃げたんだ。ヴァーリ・ルシファーを殺そうとした時に正面から立ち向かったアルジェントに恐怖を抱いたんだろう? だからこそあの時アーシア・アルジェントを眠らせ、あの者だけが死なないように技を放った。まぁ、オーフィスに邪魔をされたがな。―――そして今度はルフェイ・ペンドラゴンを受け入れた。俺もあえて相棒の本質を誰かに語った事がないから誤解している者が多い。だが、相棒。おまえは―――』

「―――ドライグ。それ以上グダグダとくだらねぇ事を喋るようなら……ミンチ程度じゃすまさねぇぞ?」

ドライグの言葉を遮って、一誠はそうドスの利いた声でそう言う。

『ククク。どうした相棒? まったくもってお前らしくもない。そんなに殺気を出しては、ルフェイが起きてしまうぞ?』

ドライグのその一言に一誠は舌打ちする。

「……昔とは違う」

『そう思っているのはお前だけだろう? 相棒、こうやって見ているとお前さんが人間なのだと心底思えるよ』

「……俺は人間だよ。弱くて脆弱で惰弱で。力に頼らねぇと生きていけない。そんなちっぽけでどうしようもない人間(・・)なんだよ……っ!」

『……ああ、そうだな。どこまでも強欲で、どこまでも脆く、どこまでも儚い。そしてどこまでも恐ろしいのが人間だ。相棒、規格外に強く、そしてどこまでも弱いお前はやはり人間だ』

確かに一誠はヴァーリと戦った時に興奮と幸福を覚えた。だが、一誠は特別に戦うことが好きなわけではない。実際は戦いに逃げているだけだ。……現実逃避をする人間が酒に逃げるように。

アーシアが消え去ったときに一誠があそこまで激情したのはとあるトラウマを思い起こさせたからだ。

名前も知らない、たった一度だけで出会った少女の事を一誠は思い出す。

「……ギリッ……」

一誠は昔の事を思い出して、歯ぎしりをする。

「……どうしたんですか? 一誠さま」

いつの間にか起きていたルフェイが、歯ぎしりをする一誠を心配そうに見る。

「……なんでもねぇよ。起こしたんなら悪かったな」

一誠は先ほどと違い、穏やかな表情でそう言う。そのまま頭を撫で続ける。

「……そう……ですか。それなら安心です……」

そう言って、また瞼を閉じて眠るルフェイ。そんなルフェイを見て、一誠は微笑ましそうなものを見る様な表情をする。

『今度は守れるといいな? 相棒』

「……当たり前だ。もしルフェイに危害を加える様な奴がいたら……たとえそれが世界であろうと、俺はそいつを……殺す」

そう言う一誠の瞳は、全てを焼き尽くす業火が燃えさかっている様だった。

 

 

「申し訳ありませんでした」

ルフェイが、顔を真っ赤にしながら一誠に頭を下げる。あれから三十分後にルフェイは目を覚ましたのだ。昨日の記憶は残っていたようで、起きて意識が覚醒してから顔を真っ赤にして一誠に勢いよく頭を下げているのだ。ちなみに神酒なので二日酔いは一切ない。

一誠は少しばかりルフェイを見つめたあと、ルフェイの体を勢いよく引っ張る。そしてそのままルフェイを抱きしめる。

「い、一誠さま!?」

「……少しばかりこうさせてくれ」

一誠にそう言われて、ルフェイはそれを受け入れる。それどころか、ルフェイも一誠に手を伸ばし抱きしめる。

どれくらい時間が経っただろうか。一誠が離れようとすると、ルフェイも自然と離れる。

「あの、一誠さま……」

ルフェイは少しばかり、ぼーとしながらも一誠に話しかけようとする。

「……朝飯にするか。先に下に行ってるな」

しかし、ルフェイが言うより速く一誠がそう言い、部屋を出る。

 

 

「ごちそうさま」

一誠はそう言って、箸を茶碗の上に置く。

「そう言えば一誠さま。昨日郵便受けに手紙は入っていましたよ」

そう言って、一誠に一通の手紙を渡すルフェイ。

裏返すと、そこには差し出し人の名前が書いてあった。……アザゼルだ。

「……態々手紙でなんの用だ?」

一誠は手紙の封を適当に切ると、中身を取り出して読み始める。

「どんな内容だったんですか?」

ルフェイは一誠に紅茶を差し出すと、そう訊く。

「ん? ああ。―――グレモリー眷属の『聖魔剣』といかずち……『雷光の巫女』が中級悪魔昇格試験を受けるらしくてな。冥界にある最高級ホテルの一室を貸し切って、昇格祝いパーティをするらしい。これはその招待状なんだと。……時間的にはもう始まってるな」

一誠はそう言って、一枚のカードをルフェイに見せる。それには魔法陣が刻まれていた。

「行くんですか?」

「どうする? ルフェイが行きたいんなら、今すぐ往くけど」

いきなり一誠にそう言われてルフェイは悩む。

「ヴァーリの仲間もいるみてぇだな」

「……え?」

一誠にそう言われて、驚くルフェイ。一誠に手紙を渡されて、それを読む。

「黒歌さんが……」

一誠から事情を聞いてはいたが、心配していたのだ。一人だけだが、昔の仲間に会えるチャンスだ。

「私、行きたいです」

ルフェイがそう言うと、一誠は立ち上がる。ルフェイを引き寄せると、カードに書かれている魔法陣を展開させる。そして、その魔法陣が一際発光した次の瞬間には一誠とルフェイの姿は消えていた。

 

 

「くそったれ!!」

アザゼルはそう叫ぶのを抑えきれなかった。オーフィスがグレモリー眷属に興味を持った。そのためここ数日ほどオーフィスと黒歌は行動を共にしていたのだ。そのオーフィスを狙っての英雄派の襲撃。途中でヴァーリがこちら側に現れたが、それを上回る程の最悪がその場には存在した。

『オオオオォォォォォォォォォ……』

十字架に全身を縛られた下半身が龍で上半身が堕天使の存在。苦しみ、妬み、痛み、恨み。ありとあらゆる負の感情が入り混じったかのような低く苦悶に満ちたうめき声をあげる堕天使ドラゴン。

龍喰者(ドラゴン・イーター)サマエル。『龍喰者(ドラゴン・イーター)』という名前は曹操たちがサマエルに対し付けたコードネームだ。半分が堕天使であり、半分がドラゴンである異質な存在。

―――曰く、『神の毒』―――曰く、『神の悪意』。エデンにいたアダムとイブに知恵の実を食べさせた禁忌の存在。いまは亡き聖書の神が怒りを向けた存在。サマエルの所為で神は極度の蛇―――ドラゴン嫌いになった。神聖であるはずの神の悪意は本来ありえない。そんな悪意を全てその身に受けたのがサマエル。故にその存在そのものがドラゴンに対する猛毒。世界中に存在するドラゴンが絶滅しかねないため、コキュートスに封じられていたのだ。サマエル自身が半分ドラゴンであるにも関わらず、その身は最凶して最悪の龍殺し(ドラゴンスレイヤー)。

「冥府を司る神ハーデスは何を考えていやがる!! こいつを……サマエルの封印を解くなんてよ!! ……ッ!ま、まさか……っ!」

アザゼルの得心に曹操が笑んだ。

「そう、ハーデス殿と交渉してね。何重もの制限を設けた上でサマエルの召喚を許可してもらったのさ」

「……野郎! ゼウスのオッサンが各勢力との協力体制に入ったのがそんなに気にくわなかったのかよッ!」

アザゼルはそう憎々しげに吐き捨てた。冥府を司る神ハーデスは巨大な力を持つ神の一体でもある。その力は堕天使の総督であるアザゼルすら超えている。

曹操は聖槍をクルクルと回して矛先をアザゼル達に向ける。

「というわけで、アザゼル殿、ヴァーリ、サマエル持つ呪いはドラゴンを喰らい殺す。サマエルはドラゴンだけは確実に殺せるからだ。龍殺しの聖剣など比ではない。比べるに値しないほどだ。アスカロンなど、サマエルに比べたらつまようじだよ」

龍王を斬り殺す力を秘めているアスカロンですら爪楊枝扱い。それだけサマエルの龍殺しは凶悪なのだ。ドラゴンなら全てを食らい尽すほどに。

「それを使ってどうするつもりだ!? ドラゴンを絶滅でもさせる気か!?……いや、お前ら……オーフィスを……?」

アザゼルの問に曹操は口の端を愉快そうに吊り上げた。そして指を鳴らす。

「―――喰らえ」

ギュンッ!

アザゼルやヴァーリの横をなにかが高速で通り過ぎていく。刹那―――バグンッ! という何かがのみ込まれるような奇怪な音が鳴り響いた。

アザゼル達が慌てて振り返る。オーフィスがいたであろう場所に黒い塊が生まれていた。その黒い塊には触手の様な物が伸びている。元をたどればそれは十字架に磔にされているサマエルの口元―――舌が伸びていた。

「おい、オーフィス! 返事をしろ!」

アザゼルが呼びかけるが、オーフィスからの返事はない。

「祐斗! 斬って!」

リアスがそう指示を出し、木場が聖魔剣を創りだし、黒い塊に斬りかかる。しかし、

「……聖魔剣を消した? この黒い塊は攻撃をそのまま消し去るのか?」

そう、黒い塊は聖魔剣を飲み込み、刀身を消失させたのだ。

木場はもう一本聖魔剣を創り、今度は触手の方に攻撃をしかけるが結果は変わらない。斬りかかった部分の刃が消失し、聖魔剣は上下二つに分かれる。

『Half Dimension』

ヴァーリが『白龍皇の光翼』を出現さえ、その能力を行使する。周囲の空間が歪んでいき、あらゆるものが半分になっていく。しかし、黒い塊とサマエルの触手には効果が無かった。

「これならどうだ?」

ヴァーリは手元から魔力の覇道を打ち込む。だが、それも何事もなかったように塊に飲み込まれていった。

「消滅の魔力などう!」

リアスが消滅の魔力を放つが、それも意味をなさなかった。

ゴクンゴクンと不気味な快音を立て、塊に繋がる触手が盛り上がり、サマエルの口元に運ばれていく。それはまるで、塊に捉えたオーフィスから、何かを吸い取って喰らっているかのようだ。

埒が明かないと思ったのだろう。ゼノヴィアが素早く飛び出し、デュランダルをサマエルの方に振り放つ。絶大な聖剣の波動がサマエルに降りかろうとする。

バシュンッ!

しかし、それは横薙ぎに振り払われた。―――曹操の聖槍だ。

「キミは開幕からいい攻撃をしてくれるな、デュランダルのゼノヴィア。だが、二度はいかないさ」

チッチッと指を横に振る曹操。

「絶妙なタイミングで放ったつもりなんだがな。……私の開幕デュランダルはわかりやすいのか?」

ゼノヴィアがそう呟くが、実際にはいいタイミングだった。しかし、京都でも同じことをしたので曹操たちに警戒されたのだ。これが初見だったらソコソコいい所までいっただろう。

ヴァーリが白い閃光を放ち、鎧姿となる。

「相手はサマエルか。その上、上位神滅具所有者が二人。不足ない」

ヴァーリの一言に黒歌も戦闘態勢に入る。

全身が戦闘態勢に入ったのを見て、曹操は狂気に彩られた笑みを浮かべる。

「このメンツだとさすがに俺も力を出さないと危ないな。なにせ、ハーデスからは一度しかサマエルの使用を許可してもらえていないんだ。ここで決めないと俺たちの計画は頓挫する。ゲオルク! サマエルの制御を頼む! 俺はこいつらの相手をする」

ゲオルクがサマエルを制御しながら言う。

「一人で『白い龍』と堕天使総督、グレモリー眷属を相手にできるか?」

「やってみせるさ。これぐらいの事ができなければ、彼に挑む資格なんてない」

曹操の持つ聖槍が眩い閃光を放つ。

「―――禁手化(バランス・ブレイク)

力のある言葉を発し、曹操の体に変化が訪れる。神々しく輝く輪後光が背後に現れ、曹操を囲むようにボウリングの珠ほどの大きさの七つの球体が宙に浮かんで出現した。

曹操が一歩前に出る。それと共に奴を囲む七つの球体も宙を移動した。

「これが俺の『黄昏の聖槍』の禁手(バランス・ブレイカ―)、『極夜なる天輪聖王の輝廻槍』―――まだ未完成だけどね」

曹操の禁手を見て、アザゼルが叫ぶ。

「―――ッ! 亜種か! 『黄昏の聖槍』のいままでの所有者が発現した禁手は

真冥白夜の聖槍(トゥルー・ロンギヌス・ゲッターデメルング)』だった! 名前から察するに自分は転輪聖王とでも言いたいのか!? くそったれが! あの七つの球体は俺にもわからん!」

自他共に認める神器オタクのアザゼルですら予測が付けられない。

ヴァーリがその場にいる全員に聞こえるように言う。

「気をつけろ。あの禁手は『七宝』と呼ばれる力を有していて、神器としての能力が七つある。あの球体ひとつひとつに能力が付加されているわけだ」

その言葉を聞いて、全員が驚愕する。

「七つッ!? 二つや三つではなくてか!?」

「七つだ。そのどれもが凶悪。といっても俺が知っているのは四つだけだが。だから称されるわけだ、最強の『神滅具(ロンギヌス)』と。紛れもなく、奴は純粋な人間のなかで二番目に強い。……あくまで、人間のなかで二番目だがな」

歴代最強といわれるヴァーリ・ルシファーをしてそこまで言わせる曹操。それだけ曹操は強いのだ。

曹操が空いている手を前に突きだす。球体のひとつがそれに呼応して曹操の手の前に出ていく。

「七宝がひとつ。―――輪宝」

そう小さく呟くと、その球体がフッと消え去る。そしてゼノヴィアが握るエクス・デュランダルが破壊される。

「……ッ!? エクス・デュランダルが……っ!」

ゼノヴィアは驚愕する。エクス・デュランダルとは、錬金術で制御機能として六つのエクスカリバーで強化した状態の事だ。鞘としてエクスカリバーを使用することで、その強さは何倍にも跳ね上がる。しかし、そんなエクス・デュランダルが簡単に破壊される。その事実に誰もが呆気に取られていた。

「―――まずはひとつ。転宝の能力は武器破壊。これに逆らえるのは相当な手練のみだ」

そう一言漏らす曹操。次の瞬間―――。

ブバァァァァッ!

ゼノヴィアの体から鮮血が吹き出る。その腹部には穴が空いていた。

「ゴプっ」

口から血を吐き出し、その場に崩れるゼノヴィア。致命傷なのは誰の目から見てもあきらか。

「ついでに転宝を槍状に形態変化させて腹を貫いた。いまのが見えなかったとしたら、キミでは俺に勝てないよ。デュランダル使い」

曹操の一声を聞き、全員がその場から散開する。

「ゼノヴィアの回復急いで! アーシア!」

リアスがすぐさま反応して、アーシアに指示を出す。アーシアは呆然としていたが、すぐにハッとしてゼノヴィアに駆け寄る。

「ゼノヴィアさん! いやぁぁぁぁぁっ!」

アーシアは泣き叫びながら回復を始める。

「許さないよッ!」

木場が聖魔剣を手に突っ込む。曹操はそれを聖槍で軽々と捌くと、球体のひとつを手元に引き寄せた。

「―――女宝」

その球体は高速でリアスと朱乃のもとへと飛んでいく。二人は球体に攻撃を加えようとするが、

「弾けろッ!」

それよりも速く、曹操の言葉に反応して球体が輝きを発した。それはリアスと朱乃を包み込む。

「くっ!」

「こんなものでっ!」

二人は光に包まれながらも攻撃をしようとする。しかし、攻撃はでない。二人とも怪訝そうに自分の手元を見ている。

「女宝は異能を持つ女性の力を一定時間、完全に封じる。これも相当な手練れでもない限りは無効化できない。―――これで三人」

曹操の発言に、リアスと朱乃は驚く。リアスや朱乃クラスですら無効化されたということは、ゼノヴィアやイリナ、アーシアも無効化される可能性が高い。特にアーシアは回復役。今は重傷のゼノヴィアを治療中なのだ。アーシアを無効化されたらゼノヴィアが死ぬ。

曹操が高笑いをする。その表情は完璧に戦いを楽しんでいる。

「ふふふ、この限られた空間でキミたち全員を倒す。―――派手な攻撃はサマエルの繊細な操作に悪影響を与えるからな。できるだけ最小の動きだけで、サマエルとゲオルクを死守しながら俺一人で突破する! なんとも高難易度のミッションだッ! だが―――」

まだ言い綴ろうとする曹操に向かって、黄金の鎧と純白の鎧が突っ込む。

「ヴァーリィィィィッ! 俺に合わせろッ!」

「まったく、俺は単独でやりたいところなんだが……なッ!」

高速で曹操に近づく二人。二人とも瞬時に距離を詰める。

アザゼルの光の槍とヴァーリの魔力の籠った拳が同時に曹操に打ちこまれていく。

「堕天使の総督と白龍皇の競演! これを御することができれば、俺はさらに高みへと昇れるだろうッ!」

嬉々としてその状況を受け入れる。曹操はアザゼルとヴァーリの高速で撃ちこまれていく攻撃を既でで避けていく。

あれだけの攻撃を避けられる曹操は、そこ等の超常の存在を超えている。

「力の権化たる鎧装着型の禁手は莫大なパワーアップを果たすが、パワーアップが過剰すぎて鎧からオーラが迸りすぎる。その結果、オーラの流れに注目すれば、次にどこから攻撃が来るか容易に把握できる。得物や拳に攻撃力を高めるため、オーラを集中するからね」

曹操はアザゼルとヴァーリの攻撃を避けながらそう言う。

「邪眼というものをご存知かな? そう、眼に宿る特別な力の事さ。俺もそれを移植してね。赤龍帝殿にやられ、失ったものをそれで補っている。俺の新しい眼だ」

アザゼルとヴァーリの攻撃を避けきった曹操は、視線を下へと向ける。すると、次の瞬間にはアザゼルの足元が石化していく。

「―――メデューサの眼かッ!」

目の正体に気づき、アザゼルが舌打ちする。

ドズンッ!

曹操は聖槍で黄金の鎧を難なく砕き、アザゼルの腹部に聖槍が突き刺さった。

「……ぐはっ! ……なんだ、こいつのバカげた強さは……ッ!」

アザゼルは口から大量の血を吐き出し、鮮血をまき散らしながら崩れる。

曹操は槍を引き抜きながら言う。

「貴方とは一度戦いましたから、対処できました。―――貴方が対策できる範囲の強さでよかった」

「アザゼルッ! おのれ、曹操ォォォォォッ!」

激昂したしたヴァーリが曹操に極大の魔力の塊を打ち出す。その魔力の塊へ球体のひとつが飛来していく。

「―――珠宝、襲い掛かってくる攻撃を他者に受け流す。ヴァーリ、キミの魔力は強大だ。当たれば俺でも死ぬ。防御も難しい。―――だが、受け流す術ならある!!」

ヴァーリの放った魔力は、球体の前方に生まれた黒い渦に吸い込まれていく。そして―――。

ゴパァァァァァァァァァァンッ!

新たに生み出された渦から、ヴァーリの魔力が放たれる。そしてそれは容赦なく小猫を襲った。

「……姉さま。どうして……ッ!」

「にゃはは……。私はお姉ちゃんだからね。それに前に白音に助けてもらったし……」

赤龍帝と白龍皇の戦いの時に、黒歌は小猫に助けられたのだ。

血を吹き出し、煙を上げて倒れていく黒歌。小猫はすぐさま体を抱きしめた。

「……ね、姉さまッ!」

「曹操―――、俺の手で俺の仲間をやってくれたな……ッ!」

怒りのオーラを全身に滾らせるヴァーリ。育ての親であるアザゼルと仲間である黒歌をやられたのだ。しかも、黒歌にいたっては自分の攻撃でだ。その事が余計に怒りのボルテージを上げていく。

「ヴァーリ、キミは仲間を思いすぎる。赤龍帝殿もそうだが……。―――二天龍はいつからそんなにヤワくなった? それと、キミに見せていない七宝で態々攻撃をしたんだ。良かったな? これで七宝の全てを知っているのはキミだけになったぞ」

「では、こちらも見せようかッ! 我、目覚めるは、覇の理に全てを奪われし―――」

ヴァーリが『覇龍』の呪文を唱え始める。それを察したのか、曹操がゲオルクに叫ぶ。

「ゲオルク! 『覇龍』はこの疑似空間を壊しかねない!」

「わかっているッ! サマエルよ!」

ゲオルクが手を突き出して、魔法陣を展開させる。すると、それに反応してサマエルの右手の拘束具が解き放たれた。

『オオオオオオオオォォォォォォォォォォォォオオッ』

不気味な声を出しながら、サマエルの右手がヴァーリへと向けられる。

その右手の先にいたヴァーリは黒い何かに包み込まれる。それはオーフィスを包み込んだ黒い塊みたいだった。

『オオオオォォォォォォォォォォッ』

サマエルが吠えると、黒い塊が勢いよく弾け飛んでいく。

バシュンッ!

弾け飛ぶと共に試算した塊の中からヴァーリが解放される。―――が、その純白の鎧は塊と共に弾け飛んでいき、体中からも大量の血が飛び散っていく。

「……ゴハッ!」

ロビーに倒れこむヴァーリ。そんなヴァーリを見下し、曹操は息を吐く。

「どうだ、ヴァーリ? 神の毒の味は? ドラゴンにはたまらない味だろう? ここで『覇龍』になって暴れられてはサマエルの制御に支障をきたすだろうから、これで勘弁してもらおうか。俺は弱っちい人間風情だからな。弱点攻撃しかできないんだ。―――悪いな、ヴァーリ」

「……曹操……ッ!」

憎々しげに曹操を見上げるヴァーリ。

「あのオーフィスですら、サマエルの前ではなにもできない。サマエルがオーフィスにとって天敵だった。俺たちの読みは当たってたって事だ」

曹操は槍をとんとんとしやりながらそう言う。

「えーと、これであと何人だ。白龍皇にアザゼル総督を倒したいま、大きな脅威は無くなったかな。あとはミカエルの天使と言ったところか」

曹操がそう呟いた瞬間、木場の腹部に穴が空き、鮮血をまき散らす。いまの会話中に天宝を槍の形にして、背後から貫いたのだ。

イリナは光の剣を構えたまま、怒りの涙を流す。しかし、攻め込むことができない。七宝をどうにかしなければ攻撃は全てカウンターとして帰ってくるうえ、球体の大きさと形はどれも同じだ。対応しずらい事この上ない。さらに、曹操本人のバカげた力量もある。少なくとも、イリナが激情に身を任せて突っ込んだ所で返り討ちになるだけだ。どうしようかと手を拱くリアス達。

カッ!

突如、部屋に魔法陣が現れる。

「これは?」

いきなり現れた魔法陣を訝しげに見る曹操。そして、その魔法陣が弾けると、ひと組の男女が現れた。

「―――なッ!?」

この場にいる全員が驚愕する。それは曹操やゲオルクも例外ではない。

「―――おいおい、これはどういう状況だ? 俺たちはパーティに誘われたはずなんだが?」

そう、魔法陣から現れたのはルフェイと一誠だった。




ってなわけで、曹操とヴァーリ達の戦いでした。……こんな感じで一度は一誠を登場させたかった。
……実は今日で三日連続の更新だったりします。

前書きでも言いましたが、一誠とドライグの会話についてのツッコミとか感想は無しにしてください。お願いします。十六巻も書くかどうかは未定ですし。

次回は一誠VSサマエル&曹操。……どっちが勝つんだろうなー(棒)

それじゃ、また次回 ノシ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告