<十年前、アザゼル視点>
「―――ふう、これで書類は全部だな?」
「ええ、そうですよ。今度からはこんなに溜めないでくださいね」
相変わらず固い野郎だ。シェムハザは。全くやることが多すぎるんだよ。あの戦争が終わってもう2000年近く経つが未だに小競り合いは続いている。これ以上の犠牲を出さないためにも何とかしてぇんだけどな……
「仕事は終わらせたろ?俺はこのお茶を飲んだら、ヴァーリの所に行ってくるぜ」
「やれやれ、貴方も過保護ですね」
シェムハザが呆れながら言う。ヴァーリはこの前俺が拾った悪魔と人間のハーフで神器持ちだ。前ルシファーの孫であり膨大な魔力を持っている。しかも持っている神器は『神滅具』である『白龍皇の光翼』だ。まず間違いなくヴァーリこそが過去、現在、そして未来永劫においても最強の『白龍皇』になるだろう。今代の『赤龍帝』は知らないが、少なくともヴァーリより強いという事はないだろう
「しっかし、あいつの戦闘狂はどうにかならないもんかね?」
ヴァーリは典型的なドラゴンに憑かれたものだ。強者との戦いに飢えている。初めて会った時も俺に襲い掛かってきやがった
「しかたありませんよ。彼は『白龍皇』なのですから」
人事みたいに言いやがって。俺はヴァーリの事に頭を悩ませつつお茶をすする
ゴォォォォォォォオオオオオンンッッ!!!!
いきなり巨大な振動が俺たちを襲う
「な、なんだ、今の揺れは?」
「私にもわかりません」
「―――――アザゼル!!」
バラキエルが慌てながら部屋に入ってくる
「どうした!?さっきの巨大な揺れは何だ!?ミカエルかサーゼクスが俺達に戦争でも仕掛けてきたのか!?」
俺はバラキエルに早口で問いかける
「それよりも外を見ろ!!」
俺はバラキエルに促され外を見る
「な!?どうなっていやがるんだ!!?」
「これは!!?」
俺とシェムハザは外を見て絶句する。見渡す限りの空間が割れ、次元の狭間が見える。空間を割ることは簡単だ、強大な力を一か所で爆発させればいい。ここにいる三人で力を合わせればそのくらいは可能だ。だがそれでも今回みたいに見渡す限りの空間を割ることは不可能だ
「あれは次元の狭間、――――オーフィスか!?」
オーフィスなら今回のようなことも可能だろう。しかしあいつがそんな事をするとは思えねぇ。
「わかりませんが、早急に調査する必要が有るでしょう」
シェムハザが幾分か冷静になりながらも俺に言う
「そうだな。だが場所が場所だ。行くのは俺とバラキエルだ」
俺のその言葉に唖然とするシェムハザ
「正気ですかアザゼル!?貴方は私達の総督なのですよ!!」
「しかたねぇだろ!今すぐに次元の狭間で行動できるのは幹部クラスの奴だけだ!!今起きている事がミカエルやサーゼクス達の可能性も否定はできない。最悪攻め込まれる可能性に備えて戦力を固めておく必要がある。それはシェムハザ、お前に一任する」
俺の返答を聞き、苦汁をのまされたような顔をする
「………。わかりました。至急に戦力を整えます。―――絶対に生きて帰ってきてくださいね」
「死ぬ気はねえよ!―――いくぞ!!バラキエル!」
「ああ」
俺とバラキエルは翼を展開して飛行する
「………悪いな お前をつきあわせちまって」
「別に気にするな。お前一人を行かせるわけにもいかない」
バラキエルは顔色一つを変えずに言い返してくる
「しっかし、なんなんだ?この現象は?」
「俺にもわからん。もしかしたら『
グレートレッドか。しかしあれは次元の狭間をただ泳いでいるだけだ。オーフィス同様害は無い。誰かが襲撃したかのか?それもありえない。次元の狭間の『無』に消滅されずにどこにいるかもわからないグレートレッドを攻撃できる奴なんざいない。
(天帝あたりでが攻撃したとしてもグレートレッドの注意を惹かせることはできねぇだろうし)
それこそ歯牙にかけてもらうこともできないだろう
「十年前にそんな事があったの?私初めて聞いたわよ?」
リアスが慌てながら俺に問いかけてくる
「お前は十年前、冥界にいたか?」
「いえ、ちょうどそのころ人間界を旅行していた時期があったわ」
「それじゃしたなねぇな。あの時の事は冥界全域に緘口令が敷かれたからな」
他のメンツも驚いてやがる。ま、無理もねえな。それこそ冥界の歴史に残る程の事件だ
「それで、俺とバラキエルは原因をつきとめるため、次元の狭間に侵入したんだ」
「ようやく辿りついたな。何が起こるかわからねぇ。注意していくぞ」
「ああ、結界も十時間が限界だろう」
俺たちは次元の狭間でも行動できるように、特殊な結界を発動させる
「―――――これは!!!?」
「酷いありさまだな」
元々、次元の狭間には古い世界の神が残した異物と瓦礫がそこ等辺に転がっている荒野みたいな世界だ。だが見渡す限りが更地になっている
「なにかいるな」
「今回の原因かもしれんな。どうする?」
バラキエルが俺に聞いてくる
「会ってみるしかないな。こんな事をしでかす存在を俺たちはしらない。だから会ってみる必要がある」
「………。わかった」
俺の返答を聞き少し迷いながらも従うバラキエル
しばらく飛んでいると数人の人影が見える
「――――お前らか」
「貴方か。アザゼル」
「此処にいると言うことは、貴方たちが原因ではないという事ですか」
人影はミカエルとサーゼクス、グレイフィア、そしてセラフォルーとガブリエルだ
「お前らも原因がわからねぇのか?」
「ああ、いきなり巨大な振動が我々を襲い、外は見渡す限り空間が割れ、ここ、次元の狭間が見えるようになっていた」
「天界も同様です」
こいつらも俺らと同じらしい
「じゃ、目的は同じか」
「ああ、我々でも、グレートレッドでもないなにか、十中八九それが原因だろう」
俺たちは目的を確認し合い、移動を始める
「なにか視えますね……」
ガブリエルが呟く。クレーターができていて、その中心に人影が見える
「ちょっとまってください」
グレイフィアが俺たちを制止させる
「どうしたんだい?グレイフィア」
サーゼクスが全員を代表して訊く
「私はここに入ったとき、ただ更地になっているものだと思っていました」
「それがどうしたんだ?」
俺が怪訝な顔をして訊く。俺だけではない。グレイフィアを除く全員が怪訝そうな顔をする
「あのクレーターの中心から私達が入ってきた所まで見渡してみてください」
俺はその言葉に疑問を抱きつつ言われたとおりにする――――ッ!?
「こんなことが……」
「ありえない……!!?」
俺たちが入ったところが更地になっていのではない。人影を中心に巨大なクレーターができていたのだ
「おいおい、嘘だろう?あそこから俺たちが侵入した所まで数百キロはあるぞ!?」
俺たちにだってクレーターを作ることはできる。しかしそれは良くて百数十キロが限界だ。しかもよくよく観ると何かを放出し、その反動により広がったようなかんじだ。攻撃があたりクレーターができたのではなく、何かをした時の反動によってこの巨大なクレーターができたのだ。
「………。ともかく中心に行ってみるしかないですね」
ミカエルがそう言い、俺たちは急いで中心地に降り立つ
「―――これはグレートレッド!!?それに、こども?」
そう、人影の正体は見ため5~6歳くらいの子供だ。だが、全員が警戒を怠らない。当たり前だ。100Mはあるだろう巨体のドラゴンが魔力に似た力によって作られた槍で縫い付けられ、その上に座っているのだから
グレートレッドは力なく倒れていて、ピクリとも動かない
「おい!ボウズ!!」
俺は人影に話しかける。その言葉に反応して俺たちの方を向く
「――――だれ?」
ゾクッ
そいつと目が合う。それだけで全員が動けなくなる。此処にいる奴らは俺も含め単体で国を滅ぼせるような存在だ。そんな俺たちが見ためただの子供と目があっただけで動けなくなったのだ
『相棒、お前に話しかけたのはアザゼル。聖書にも出てくる、堕天使の頭だ』
子供に話しかけたのは俺たちの誰でもない。子供の左腕に現れた籠手から発せられたものだ。――――あれは!!?
「それは『赤龍帝の籠手』!!」
神器を持っているということが、こいつを人間だと教えてくれる。人外の気配は感じないことから、こいつが100%の人間だとわかる
「――――へぇ。天使って本当にいるんだ。ドライグから話しは聞いていたけど会うのは初めてだ」
俺の羽を興味深そうに触っている。―――いつの間に!?
「意外に触り心地はいいんだね」
サーゼクス達も気がつかなかったらしく距離を取り、警戒する
「お前は誰だ?」
俺はこいつに話しかける
「僕?兵藤一誠。6歳」
普通に自己紹介してくる。恰好は普通の子供が着る様な服を着ている。魔術的な刻印も見当たらない
「一誠君。一つ聞いてもいいかな?」
サーゼクスが子供―――一誠に話しかける
「なに?」
「君がグレートレッドを串刺しにしたのかい?」
サーゼクスがグレートレッドを指さしながら訊く
「うん。そうだよ。ドライグから話を聞いていて楽しみにしていたんだけどね。拍子抜けしちゃったよ」
「つまり自分から襲ったわけか?」
「うん。帝釈天やゼウス、オーディンやハーデス達よりも楽しめたよ」
俺たちはその言葉を聞き唖然とする
「君が今言った者たちと、戦った事があるのかい?」
「あるよ。ドライグがこの世界でもトップクラスの強者って言うから戦ってみたんだけどね。帝釈天を除いて一撃でやられちゃったんだ。弱すぎるよ」
「それでグレートレッドを襲ったのか?」
「そうだよ。オーフィスって奴も一緒にいてさ。同時に相手したけど、そこまで強くなかった。でも、初めて二撃以上、攻撃したよ」
「オーフィスまでいたのか!?」
「うん」
嘘を言っているとは思えない。現にグレートレッドは串刺しにされている。そんなこと世界中を探してもできる奴なんかいない
「つまり君はオーフィスとグレートレッドを同時に倒したのかい?」
「そうだよ」
サーゼクスのその言葉に頷く一誠。あのオーフィスとグレートレッドを同時に相手して無傷?
「本当は神様や魔王とも戦おうと思っていたんだけれどね。それ以前が拍子抜けしすぎちゃって、本命を襲ったんだ」
その言葉を聞き、顔を引き攣らせるサーゼクス達
「それは勘弁してくれないかな?」
「なんで?」
「私と彼女、セラフォルーが現魔王だからだよ」
サーゼクスが顔を引き攣らせたまま一誠に言う
「そうなの?別にいいよ。おじさんたち皆弱いし」
ああ、オーフィスやグレートレッドを無傷で倒すようなこいつからしたら、俺らはザコだろうな
「それじゃ、後は神様だけだね」
「待ってください!!」
ミカエルが慌てて一誠を止める
「今度はなに?」
いい加減にうんざりしてきのだろう。少し不機嫌になる一誠
「あ、あのですね。私は神様に仕えている天使の長、ミカエルと申します。我らの主は残念ながら既に亡くなっているのです」
冷や汗を流しながら神の不在を説明するミカエル。不機嫌になって無意識の内に出したプレッシャーをもろに浴びているのだ。その余波だけでも冷や汗が止まらないというのに
「神様って死んじゃってるの?」
「ええ、ですから天界に攻め込むのを止めていただきたいのですが」
必死に懇願するミカエル
「なんだ。もうやることないじゃん」
つまらなさそうに呟く一誠
「僕もう帰るよ。じゃあね」
そう言って消える一誠
「――――で、その後、俺たちは名前を頼りに一誠を探し出し、交渉を始めたんだよ。っま、俺たちだけじゃなくていろんな勢力が一誠を取り込もうとしたわけだ。それは今も変わらないけどな」
「十年前にそんな事が……」
リアス達は俺の話しを聞いて呆然としている
「強いと思っていたけど、まさかそこまで強いなんて……」
木場が呆然としながらも呟く
「それでも私の一誠に対する思いは変わらないわ」
リアスは決意を新たに固めている。リアスだけではなくアーシアや朱乃もだ
「お前らにこれだけは言っておく」
「何かしら?」
「お前らの内、誰かが一誠と結ばれようとも、こいつは常に一人だ」
俺は一誠を指さしながら告げる
「それってどういう―――」
『まもなくグレモリー本邸前。まもなくグレモリー本邸前。皆さま、ご乗車ありがとうございました』
ついたようだな
「さっきの言葉の意味はまた今度教えてやるよ」
俺はそう言ってリアス達と別れる。――――そう、あいつらがどんなに頑張っても一誠は一人なんだよ。
俺は自分の無力さを再認識し手を強く握る
この無力さは俺だけではなく、サーゼクス達も感じていることだ。セラフォルーなんか特に一誠を気にかけているようだから俺達以上に感じているだろう。まったく、大人の俺たちがこの様だ。情けねえ