乙女は戦車道に恋してる   作:くりむぞー

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聞いてくれ、最初冒頭はみほ杏って感じで書こうと思ったんだ。
でも、なんかシリアスになってしまってコレジャナイ感になってしまったんだ。

そしたら、まほお姉ちゃんが夢のなかでこう言ったんだ。

まほ「……毒電波☆」


――瞬間、私は劇場版のワンシーンを台無しにしていた。


ラブ戦車道2

 ――夢を見た。

 

 それは懐かしき夏の思い出であり、私、西住まほにとって全ての始まりとも言えるターニングポイントでもあった日の記憶。

 

 何時ものように私は当時から活発であった妹のみほを連れ、実家に置いてある戦車を引っ張り出し、その上で持参したアイスキャンディーを食べていたりしていた。

 ちなみに、偶然にもその日は当たり棒を引いてしまい、顔には出さなかったが私は内心で嬉しさのあまり興奮をしていた。

 一方で、一生懸命にアイスを頬張っていたみほはというと、棒に『はずれ』の文字が出た瞬間にがっくしと肩を落とししょんぼりとしていた。

 ……そこで私は、黙って自身が引いた当たり棒を差し出してやると、途端にみほは明るくなり『お姉ちゃん大好き』と抱きついてきた。やったぜ。

 なお、私は照れを隠すようにすぐさま戦車から降りたわけだが、感謝の念を抑え切れなかったみほは続くようにして、あろう事か私の手を借りずにジャンプと共に飛び降り、勢い良くダイブを実行に移した。

 慌てて受け止めようとした私は辛うじてキャッチしかけるが、体重以上に愛が重かった為に背中からぬかるんだ地面に倒れてしまった。

 ………気がついた時には互いの唇は重なり合っており、そこで私達は新たな姉妹の繋がり方を覚えるに至った。初めてのキスの味はかなり濃厚で甘かったのは今でも鮮明に覚えている。

 ――それからというもの、みほと私は親の目を盗んでは密かに愛を確かめ合うようになり、起きている時も寝ている時も一緒にいるようになった。

 まあ、一緒に居過ぎて母に関係がバレてしまう事もあったが、その頃にはみほとのラブラブな関係は黒森峰に広まりきっていた為、特には問題はなかった。

 むしろ、関係が強まって過激になったような気もしたが気のせいだろうか。私は一向に構わないがな、えっへん。

 

 ……しかしあれだ、スキンシップをとる毎日が続いていただけに、みほが黒森峰から去ることになったダメージは大きい。

 私自身も士気が下がったし、みほと交流のあった面々に至っては死んだ魚のような目になっていたりと大変な状況だ。

 特に、姉妹揃ってお気に入りであった逸見エリカに関しては、ミホニウム欠乏症の末期症状を起こして部屋をみほのグッズだらけにしている始末だったりする。

 余程、決勝戦で溺死しかけたところを効果音が鳴りそうなディープキスによって救われたのが忘れられないのだろう。

 ……ああそうだ、決勝戦という言葉で思い出したが、私はみほが優勝を逃してまで仲間を救いに行ったのは間違いではなかったと思っている。

 なぜなら、あそこで勝利に固執してプラウダ高校のフラッグ車を倒していたら、確実に被害を受けたⅢ号は水没していた可能性が高かったからである。

 実際、中にいた生徒の報告書による証言によれば、脱出が出来ないだけでなく僅かな隙間から水が漏れ出していたそうだ。……即ち、放置をしてあのまま前進をしていれば、取り返しのつかないことになったかもしれない危険性があったのだ。

 最悪、生徒が死亡するようなことがあれば、私は戦車道を続けることが出来なかっただろう。決して周りの冷たい視線が気になるからではない、単純に私個人の心が耐えられなくなりそうだからであった。

 ――だからこそ、みほは勝利よりも救助を優先したのだろう。たとえ責任を取らされて戦車道を止めることになっても、私に戦車道を続けて欲しくてあの子はあの時動いたのだ。

 故に私は誓う……いつ如何なる時もみほの味方であり続けることを。そして、成し遂げたかったであろう理想を私の手によって形にして見せることを。

 

 

 

「その暁にはみほとより激しい、フフフ………○ックス!」

 

 やめないか、と誰かのツッコミのような叫び声が聞こえるが知ったことではない。

 私は本気でみほを愛しているのだ。邪魔立てするようならば何人たりとも逃がしはしない、というか絶対に許さない。……直々に、西住時空の餌食にしてくれようぞ。ふははははははっ!!!

 

 

 

『お姉ちゃん大好き!お姉ちゃん大好き!お姉ちゃん大好き!』

 

 

 

 ――と、ポーカーフェイスの内側でほくそ笑んでいたら、本日の至福の時間が訪れていた。

 急いで携帯のメールを開けば、そこには生きがいの一つであるみほの自撮り写真が添付されており、何と今回は大胆にも猫をイメージした可愛らしくもセクシーな下着を彼女は身に付けていた。

 反射的に鼻血を噴き出し、暫くベッドの上で悶絶することを強いられると、うっかり止血を忘れて着ていた服を盛大に汚してしまったことに気がつく。

 

「――何じゃこりゃああああああ!!!」

 

 程なくして落ち着きを取り戻した私は、写真のバックアップを何重にも用意し永久保存すると、感謝のメールを送り付けてからある事を思いついた。

 

 

「そうだ、エリカにも転送してやるか」

 

 

 みほがチームから抜けて以降、精神的にかなりおかしくなりながらもエリカは副隊長としての役目を果たそうと死に物狂いで頑張ってくれている。

 ならば、ここらで褒美を与えても何の問題もないはずだ(本当は、そろそろ何か与えないと私より酷い禁断症状を起こしそうだからだがな)。……ということで、可愛い後輩に難しいことを考えず、はい送信っと。

 ――そうして数分後、案の定発狂した悲鳴が聞こえて来たかと思えば、すぐに蹴り破られる勢いで部屋のドアが激しく叩かれ始めた。……正直怖いが、呼び寄せたのは他ならない自分なので観念してロックを解除してやると、エリカは私に覆い被さるようにして部屋の中へと飛び込んできた。

 

 

 

「に、にし、にすずみみみ……たたた、たいちょちょちょちょ!!!うひゃひゃはははははははははっ!!!!!」

 

「……落ち着けエリカ、興奮が抑えられないのは私とて同じなんだ。とりあえず、アレを見たお前個人の感想を聞こうか」

 

「――生きててよかったと思いましたッ!!!」

 

「そこまでか!?」

 

「はいッ!!」

 

 涙ながら拳を震わせて肯定をしたエリカは、「ありがとうございますっ!ありがとうございますっ!」とそれはもう何度も頭を下げたのだった。これで少しは彼女の精神も持ちこたえるだろうか。

 ……ところで先程から気になっているのだが、エリカが離さず手に持っている紙袋は何なのだろう。指摘をしてみると、彼女は重要な事を思い出したかのような表情になり、短い言葉で内容を私に的確に伝えてみせた。

 

 

「隊長、入手してありますっ!」

 

「……でかした!」

 

 

 瞬時に意味を理解した私は紙袋の中身を強奪気味に受け取り、光の速さで着ている服を脱いで代わりにそれを装着すると、鏡の前に立って堂々とポーズを決めた。

 

「素晴らしい……これでみほとお揃いだ。感涙モノだぞ」

 

「それだけで満足はさせませんよ、隊長! さぁ、ベットの上でポーズヲトルノデス……」

 

「なっ!? ま、まさかお前――――」

 

 促されるままに構図に拘った姿勢を取らされ何枚か写真を撮られたかと思えば、エリカはダッシュで自室に戻ってノートPCを抱えてくるなり画像編集ソフトを立ち上げた。

 そして、目で追うのが困難であるくらい尋常じゃないスピードでマウスを動かして彼女は作業を行い、気づけば加工に加工を重ねて一つの作品を完成させていた。

 

「……こ、これは」

 

「不自然さがないように細部にまで編集を凝らしました。どうです、まるでその場にいて一緒に撮ったみたいでしょう?」

 

 エリカが見せてきたのはごく自然にお揃いのペアルックの下着を着込んだ姉妹の姿であり、まさに天国を表現したかのような美しい光景であった。

 幾つかバリエーションが有るようで、なかには背後から私がみほを抱きしめている感じにしたモノも存在していた。

 

「嬉しくて死にそうだ……いや、死んでもいい――こはっ……!!」

 

「――隊長、鼻血鼻血っ!!」

 

 ティッシュで止血してもらいながら親指を立てた私は、さり気なくみほにエリカに作ってもらった画像を送信すると、起きたばかりだというのに再び床に伏すこととなった。

 ――学校?……ああ、この日は勿論休んだよ。当たり前じゃないか、HAHAHA。 

 

 

 

 

「――えっ、隊長がお休み? もしかして風邪ですか?」

 

「最近流行ってるらしいからねー、気をつけないと」

 

「いや、ミホニウムの過剰摂取で熱を出しただけよ。危うく私も休むところだったわ……」

 

「なん……だと……? まさか新作が来たのか!?」

 

「お見舞いに行くついでに共有してもらわなきゃっ!!!」

 

 

 

 その日の放課後、理解のあるチームメイトに押しかけられて看病されると同時に、例の画像は黒森峰全体に拡散されたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、サンダース大学付属高校ですか。いきなり強いのと当たっちゃいましたね~」

 

 聖グロリアーナとの親善試合より数日後。

 必要な補給を済ませた学園艦が大洗の港を去ることになる最終日の日に、大洗女子学園の戦車道の隊長チームであるあんこうチームの面々は、とある用事を済ますために海のない本土の……埼玉県にあるさいたまスーパーアリーナへと足を運んでいた。

 ……語るまでもないがその用事とは、ダージリンが口にしていた戦車道の公式戦――つまりは、戦車道全国高校生大会にエントリーをすることであり、みほ達は簡単な手続きを済ませてエントリー自体は特に問題なく無事に完了させていた。

 だが、直後に行われたトーナメント表を作成するための抽選会にて、彼女らは初っ端から聖グロリアーナと並び立つほどの強豪校であるサンダース大学付属高校と対決することになり、非常に頭を悩ませる状態へと陥ってしまった。……というのも、相手であるサンダースは全国一の戦車の車輌数を誇っており、投入するチームも1軍から3軍まで存在しているというのだ。

 よって、数ある戦車の中からどのような車輌が選ばれるのか、はたまたは何軍を初戦で投入してくるのかがわからないことには対策を立てることは不可能であり、このままだと試合当日に土壇場で作戦を立案し実行に移すしか方法は残されていないと言えた。しかしそれでは困るために、みほ達は会場から場所を移し戦車喫茶ルクレールのテーブル席に腰を降ろすと甘い物をとりあえず食べながら協力して知恵を絞り合うことにした。

 

「昨年と変わりがないようだったら、基本的にM4中戦車系列……シャーマン辺りをメインに編成を組んでくると思うけど、変わっているとしたら厄介かなぁ」

 

「年ごとにコロコロと変わるのが戦車道では普通なのですか?」

 

「場所によってはそうらしいですよ。サンダースは特にお金が有り余っているそうですからねー、毎年のように戦車購入の申請を出しては新しい車輌を導入しているって噂です」

 

「じゃあ、どうやって戦えばいいのそんなリッチな相手に~!! あれなの、お金のあるなしで勝ち負けも決まっちゃうってことなのやっぱ!?」

 

 沙織がパニックのあまり、「なら、こっちも急いで稼がないとー!」とのたまうが、短い期間で戦車が購入できるほどの稼ぎ口が早々あるわけがなかった。

 仕方がないので、現実的な方法を練ることにする一同であったが、公式戦に出れるという興奮の熱がまだ冷めていないようで珍妙な意見ばかりが口から飛び出した。

 

「……ハニートラップでも仕掛けるしかないかなぁ」

 

「おい待て、というか出来るのか……西住さん」

 

「うん、これでも実績あるけれど……今回はターゲットが多すぎて迷っちゃうかなー」

 

「そういう問題かっ!」

 

「――では、相手の学園艦に潜入して破壊工作を行なうというのはどうでしょう?」

 

「物騒すぎるっ!」

 

「……偵察目的の潜入は認められてますが、戦車を破壊したり危害を加えるのは駄目みたいですね」

 

 つまり、C4爆弾などを設置してスタコラサッサでドカーンは出来ないということである。

 勿論、無断で回収もとい強奪とかも原則としては禁止である。

 

「だったら、会場に来ているサンダースの生徒を拉致するとかはどう!?」

 

「普通に考えて犯罪だろ」

 

「逆に潜入してきた生徒ってことで捕虜扱いにすれば問題ないですよ?」

 

「マジかよ」

 

 補足だが、捕虜は試合直前まで解放しなくともいいルールは事実存在していたりする。もっとも、拷問とかは厳禁なのは言わずもがなだが。

 

「――よし、そうと決まれば早速締め上げて来ましょうか」

 

「うむわかった、お姉ちゃんに任せろ。行くぞエリカ」

 

「……はいっ!」

 

「いやいや、というかアンタら誰だよ」

 

 怒涛のメンバーのボケ発言連発に疲れていた矢先に、麻子は自然と会話に入ってくる部外者の存在に気づく。制服は大洗女子のモノを着ているが、どう見ても見たことのない顔であった。

 もしや、対策を講じている最中からの刺客かと身構える彼女であったが、同じく存在に気づいたみほの言葉によってすぐに意気消沈することとなった。

 

「あ、お姉ちゃん。それにエリカちゃんっ!!」

 

「……知り合いっ!? しかも、片方は家族かよっ!?」

 

「みほの姉にして夫のまほです。こっちが、みほの友達で愛人の逸見エリカだ」

 

「最悪の自己紹介だなぁおい!?」

 

「そうなんですか……ああ、申し遅れました。私、みほさんの大洗での愛人見習いの秋山優花里ですっ、不束者ですがよろしくお願いします!」

 

 立ち上がった優花里が敬礼を行い挨拶すれば、二人もまた同じように返して笑みを浮かべた。

 

「――ああ、君がみほの話していた子か。……聞いていた通り、めちゃくちゃモフりたい髪型をしているな」

 

「私とは違ったワンコ属性か……やるわね」

 

「でしょ? ――ところで、お姉ちゃん達も抽選会に行ってきた帰り?」

 

 ああそうだ、と頷いたまほは自分達の分も自腹で追加注文すると、黒森峰はかつて練習試合で手こずらされた相手である継続高校と恐らくは当たりそうだと話題を振ってみせた。

 

「継続高校っていうのはどんな学校なの、みぽりん?」

 

「んーと、隊長さんの指揮が的確でね、何というかトリッキーな、奇襲に特化しているの」

 

「主に寒冷地や湖沼地帯での戦いを得意としていてな、隊員の練度が皆高いんだ。……ある意味、みほ達のお手本とすべき戦車道かもしれないな」

 

「……そうだね」

 

 多国籍の戦車を運用しており、資金に乏しいなどという点においては確かに大洗女子学園と継続高校は共通していると言えるだろう。

 心優しい姉のアドバイスに納得がいったみほは、自らが纏めた覚えのある資料を引っ張りだしてみると述べてから素直にありがとうと伝えた。

 ……そして、頼んでいたケーキが届けられると、まほは姉としてライバルの一人としての言葉を残す。

 

「――みほ、折角の機会を無駄にするなよ。お前は『お前の戦車道』で決勝戦まで勝ち残って来い」

 

「うん、わかってるよ。必ず決勝戦まで辿り着いてお姉ちゃんと戦ってみせる」

 

「無事に勝ち進んだ暁には大事な話があるからな、今はまだ話せないが……兎にも角にも、また会える日を私は楽しみにしている」

 

 ペロリと注文した物を平らげた彼女はエリカ共々立ち上がり、その場を後にしようとする。

 ……が、そうしようとしかけたところでまほは忘れてたと手をポンと叩いてアクションを取り、振り向きざまに大事なことをみほに告げた。

 

「あ、そういえばだが、お母さんの出産日な……秋ぐらいになるそうだ」

 

「じゃあ、具体的な日付が分かり次第連絡頂戴ね、お姉ちゃん」

 

「――ああ、その時はエリカを迎えに寄越すから安心しろ、記念すべき三女の誕生の瞬間だからな」

 

「フルスロットルでかっ飛ばすわ、任せておきなさい!」

 

 そう言って今度こそ去っていくのを見届けたみほはあんこうチームに向き直ると、唖然とした表情で向かい入れられた。

 

「……って、みぽりん、妹が生まれるの!?」

 

「あれ、言ってなかったっけ……」

 

「初耳ですよ~! というか、年の離れた妹ってことになりますねぇ!」

 

「生まれたら観に行ってもよろしいですか?」

 

「うん、いいよー。りほ(仮)もきっと喜ぶからー」

 

「――もう名前まで決めてあるのかよっ!」

 

 

 ――結局、気になるサンダース対策であるが、学園艦へ戻る途中に優花里が潜入して情報を入手してくると意気込んだので無難に考えて彼女に全てを任せる形となった。




なんだって!?バレンタインのポストカードが配布決定だって!?
しかも隊長陣が勢揃いってまさか――――


まほお姉ちゃんいたあああああああああああああああああああ!!!


こうしちゃいられねえ!3回めの映画行くぞ!

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