SAO【白荊の騎士】   作:冬月雪乃

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白荊の剣

 昨日はアスナさんとガールズトークもどきをした。

 毎回ガールズトークに巻き込まれて思うのは、女の子の下ネタトークはかなり生々しい。

 一応告った相手とフった相手なのにガールズトークするのはどうかと思うけど、ボクも不思議と嫌じゃなかった。

 ……ん、あれ、なんか虚しい……。

 女の子としてしか見られてないんだね。あは。

 まぁ、いいや。そんな本気で告白した訳じゃないし、多分アレはキリトのことを多少意識してる。

 まぁ、まだ恋心まではいかないようだが。

 頑張れキリト。美少女が君を意識しているぞ! 多分!

 朝になってアスナさんとフレンド登録をしてから二層のフィールドをウロウロする。

 ーーあー、どっかに年上で黒髪で大人しそうで清楚で可愛らしい女の子落ちてないかなぁ……。

 などと間違いなくアホな事を考えていると、背後から急に話しかけられた。

 

「旅の方! もしやそれは白荊ノ外套ではありませんかな?」

「……そうだけど」

 

 美少女じゃなくてご老人。しかもNPCでしたとさ。

 

「ならば、この剣は欲しくありませんかな!?」

 

 ズイッ! と寄越したのは茨の装飾が柄や剣身を巻きつくようになされたかっこいい片手剣で、名前を《白荊ノ剣》といった。

 白荊ってシリーズ装備なのか……!

 

「欲しいけど……」

「ならば! 私の復讐をお手伝いくださいませ!」

 

 クエスト内容は〈荊棘〉もう名前からしてやな予感しかしない。

 荊棘って確か人を害そうとする気持ちのことを指したはずだ。

 まさかNPC殺害か……?

 NPC殺害でもオレンジになるのか……?

 いや、NPCは定義上は物だし、多分ならないだろ。

 

「……えっと、なにを……?」

「ここを通る商人を襲い、積荷の剣を奪ってほしいのです」

 

 オイオイ最早隠そうともしてないよこのNPC……。

 

「……悪いがーー」

「待ってください旅の方。積荷の剣は我が家の家宝……それをあの商人めがーー」

 

 つまりはこうだった。

 自分のミスで家宝の剣が商人に奪われた。

 妻子に逃げられた。

 不幸が続いた。

 全部あの商人が悪い!!

 

「うわぁ、うわぁ……」

 

 しかし、報酬が魅力だ。

 白荊ノ外套がかなり強かった。あの序盤でSTRにかなりの増幅効果だ。

 それを見ると、白荊ノ剣もスーパー強い武器なのでは。と思うのが普通だ。

 これから先、もっと敵も強くなる。

 武器が強いに越したことはない。

 

「まぁ、二層だしなぁ……」

 

 ま、商人ってもNPCで、どうせリポップするような存在だ。

 ちょっと抵抗はあるけど、いいか。

 

 #

 

 商人は普通に馬車に乗ってきた。

 背後から〈隠蔽〉スキルを使って馬車の中に忍び込む。

 ……山賊だなぁ、ボク。

 目的の剣にはアイコンが付いていて、一目でわかる。

 商人は眠っているし、このままなら……。

 忍び足で剣に寄って柄を掴む。

 ゆっくりと引き抜けば、僅かな音と共に剣を盗むことに成功する。

 ーーはぁ……ーーッ、やばい、なにこれすごいドキドキする……!

 そのまま後ろに忍び足で動き、馬車から降りる。

 何事もなく馬車はフィールドを進み、ポリゴンの欠片となって消え去った。

 そのまま家宝の剣を片手にNPCの元に行く。

 ウロウロと落ち着かない様子だったNPCはボクの顔を見るとぱあっと明るく笑顔でを浮かべて近寄ってきた。

 ーー美少女だったら良かったのに。

 

「おぉ、旅の方! それは家宝の剣ですな! 流石です!」

「……え、あ、うん」

 

 NPCに渡すと、いそいそと家宝の剣を仕舞って何事も無かったかのように背を向けて歩き出した。

 

「……えっ」

「……はて? どうしましたかな旅の方。あぁ、報酬を渡していませんでしたな」

 

 いきなり目の前に百コル袋とかいうアイテムが現れた。

 

「白荊ノ剣は?」

「……はて? なんのことか分かりませんな」

 

 ……もしかして、〈荊棘〉ってボクに向けられてる悪意の事……?

 無言で抜刀した。

 

「ひぃっ!? だ、誰か! 旅の方が御乱しーー」

「そぉれ!」

 

 頭スレスレに〈リニアー〉に似た動きで剣を振るう。

 へたり込むNPCに再び〈リニアー〉もどき。

 

「ひ、ぁ、うわぁあああ!」

「へっ!?」

 

 NPCが家宝の剣で切りかかってきた。

 反射的にカウンターして一撃を返すが、それがさらにNPCの狂乱を強くする。

 驚いて受けると、NPCにHPバーが二本現れる。

 名前こそNPCだが。

 

「倒せってことか!」

「うわぁああ!」

 

 まぁ、そんなに難しくはない。

 一撃加えればHPバーの四分の一が消え去るレベルだ。

 動きも特別な事はないし。

 だけど。

 ーー戦い辛いなぁ……。

 自分から仕掛けたし、この状況に文句は言えないけど、NPCが本気で生きるために抵抗しているようにしか見えない。

 そうプログラムされてるからなのかもしれないけど、だけど彼の狂乱の表情を見ると剣が鈍る。

 まるで死ぬ瞬間のプレイヤーの顔だ。

 あのデスゲームが始まった日、あちこちで死者が続出した。

 一度だけ間近で見たあの顔に、NPCの顔が重なる。

 紛れも無く死からどうにか逃れようとする人間の顔だ。

 思い知った。NPCだって、例えリポップしようと、例え魂の無いプログラムの塊でも、〈生きて〉いるんだ。

 それをボクはーーいや、多数のプレイヤーは物と定義した。

 物だから気に入らなければ苛立ちをぶつける事に躊躇わなかった。

 唐竹割りのような動きではNPCが切りかかってきたので、家宝の剣を弾き上げた。

 NPCの手を離れて回転して吹き飛んでいく家宝の剣を眺め、腰を抜かして尻餅をついたNPCを見る。

 

「ひぃっ、し、〈白荊ノ剣〉は渡します! 渡しますから許して下さい!」

 

 青白いエフェクトと一緒に、足元に白い茨を巻きつけたようなギザギザの片手剣が突き刺さる。

 柄を掴むと、クエストクリアの文字が現れてNPCは消えてしまった。

 家宝の剣は落ちたままだ。

 こちらは武器ではなく、ただのアイテム枠になるらしい。

 使うかどうかはともかく、このままでは何だし拾っておこう。

 自戒として。

 

「なんとも後味の良くないクエストだ……」

 

 盗みの真似事をして、詐欺られて、戦って、脅し取るように報酬を渡される。

 クエストプランナーの性格の悪さが滲み出ている。

 白荊の剣は結構強い剣ではあったが。

 色々疲れて気付いたら宿をとっていて寝ていた。

 

 #

 

 後日。

 ボクは一旦一層に戻る事にした。

 別に前線をひた走ることに意義を見出しているわけではないし、しばらくはのんびりしたい。

 〈荊棘〉で随分と精神的にダメージを貰ったボクは一層でちょっとのんびりする事にしたのだ。

 ーーそこで、ボクは恋を知ることになるのだが、まだそれは先の話。

 今はあの関西弁のドドリアさん似の彼の名前を……あぁ!

 

「キバオウ!」

「うひぃ!? ってなんや、あんさんかいな」

 

 背後にいたらしい。

 無意識に口に出したら背後で情けない声がした。

 

「で、なんや。わいになんか用なんかいな」

「いや、名前が出てこなかったから思い出してただけですが」

 

 中々出て来なくて喉に魚の小骨が刺さっていたような気分だった。

 

「なんや。……ん、あんさん、よく見たら可愛らしい顔立ちしと「ごめんなさい空気も読めない男性は去勢したくなるんです」ひぃっ!?」

 

 抜刀と共に言うとキバオウは取り巻きを残して走り去っていった。

 慌ててキバオウを追う取り巻き。

 圏内だからダメージは追わないんだけど、忘れてるのかねぇ。

 

「さて、小骨が取れたし、一層完全マッピングしとこうかな」

 

 さすがに攻略組とて、一層のマッピングを完全に終わらせているわけではない。

 この、いかにもマップがありそうな空白があるのが実に気に食わない。

 

「よぉし、行くぞ!」

 

 #

 

 ーー正直、舐めてました。

 結構残ってますマッピングしてない場所。

 超歩く。

 もう疲れた。やめよう。うん。ほら、マップデータとか情報を買えばいいし?

 ということで寝よう! そうしよう!


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