神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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いくつか同じリクエストがあったので、ハロウィンをテーマにしたお話です。

……ハロウィン関係ねえじゃんというツッコミはなしの方向で。


番外編8 ~ハロウィンの悪夢~

「――ハロウィン、ですか」

「そう、もうすぐアナグラでハロウィンパーティーが開かれるのよ」

 

 ある日のアナグラにて、アリサはサクヤから近々ハロウィンパーティーが開かれる事を聞いた。

 彼女の話ではその日、思い思いに仮装して楽しむらしく、初めてそのパーティーに参加するアリサとしては心躍るような内容であった。

 

「いいですね……けど、仮装しないといけないんですか?」

「ハロウィンだからね、まあ私は料理担当だからそれどころじゃないけど」

「手伝いましょうか?」

「そういう台詞は、ちゃんとカズキに真っ当なごはんを食べさせられるようになってから言いなさい」

「うぐ……」

 

 アリサ16歳、いまだに料理は「もう少し頑張りましょう」レベルであった。

 彼女とて努力をしていないわけではないのだが、努力と結果がかみ合わない訳で。

 

「とにかくアリサはパーティーを楽しむ事だけを考えない、こっちは大丈夫だから」

「……わかりました、ところでサクヤさんは仮装をしないんですか?」

「うーん……もう年齢的に躊躇いが生まれるというか、ちょっと厳しいじゃない?」

「そんな事ないと思いますけど……リンドウさんだって喜びますよきっと」

「まあ、ね……。でもリンドウったら前のパーティーで露出の多い服をやたら薦めてきたから……」

「…………どん引きですね」

 

 アリサの中でリンドウの評価がまた下がった。

 それはともかくサクヤの言う通りパーティーを楽しむ事にしようと思いながら……アリサはふと疑問に思った事を口にする。

 

「そういえばサクヤさん、仮装するのはいいとして衣装は誰が用意するんですか?」

「それなら裁縫が得意な人達が集まって作ってくれるそうよ。でも……今回はデザインにコウタが一枚噛んでるみたいだから気をつけてね」

「はあ……」

 

 コウタがデザインした衣装。

 そう思うと、なんだか不安になるアリサなのであった。

 

――そして、数日後。

 

 ハロウィンパーティーが開かれ、皆が思い思いに楽しんでいる。

 アリサもまた、ハロウィンらしく仮装をしてパーティーを楽しもうとしたのだが……現在、彼女は大変ご立腹であった。

 

「…………なんですか、これは」

 

 怒りから身体を震わせ、拳を作り、今にも暴れ出してしまいそうだ。

 そんな彼女を見ても少年――コウタは動じず、ニカッと見た目では爽やかな笑みを浮かべる。

 

「なんですかって、ハロウィン用の衣装だろ?」

「そんな事はわかってます! そうじゃなくて……なんですかこの露出の多さは!!」

 

 がーっと怒るアリサの今の格好は、いつもの服ではなく……ハロウィン用の衣装であった。

 しかし、ただの衣装でアリサがこんなにも憤慨するわけもなく。

 

「小悪魔をイメージしてみました♪」

 

 そう、コウタの言った通り今のアリサの格好はまるで男を誘う小悪魔のような官能的な姿であった。

 頭にはカチューシャのようにとりつけた2つの悪魔の翼のような形の角を身につけ、上半身は胸元を隠すだけで後は全て露出してしまっている。

 下に至ってはまるで下着そのものだ、アリサが怒るのも当たり前だと言えた。

 

 ……じゃあなんで着たんだよというツッコミがありそうだが、気にしたら負けである。

 普段から露出が多い服装なので、アリサ自身麻痺していたのかもしれないがそれはともかく。

 

「アリサ……エロいぜ!!」

「ぶっ飛ばしますよコウタ!!」

 

 素晴らしくムカつく笑みでサムズアップをしてくるコウタに、アリサは加減なしのパンチをお見舞いする。

 しかしあまり動いては服装が乱れるからか力が思ったように入らず、あっさりと避けられてしまった。

 

「いいじゃん、似合ってるし」

「そういう問題じゃありません。どうしてシオちゃん達みたいな衣装にしてくれなかったんですか!!」

 

 抗議しながら、アリサはシオとラウエルを指差す。

 

「――トリックオアトリートだぞー!!」

「とりっくおあとりーと!!」

 

 シオとラウエルがニコニコと微笑みながらトリックオアトリートという言葉を繰り返す。

 そんな2人の格好は黒を貴重とした魔女のような衣装、その可愛らしさと微笑ましさから周囲の者達の口元には笑みが浮かんでいた。

 

「だって、アリサの身体を考えると露出多い方がいいだろ?」

「なに真顔で言ってるんですか!!」

 

 羞恥からか先程からアリサの顔は真っ赤に染まっている。

 更に今の格好も相まって、とても扇情的に見えるのは言うまでもなく。

 彼女の姿を見て、多くの男性陣が歓喜の涙を流していたのはまったくの余談であった。

 

「アリサお姉ちゃん、凄い格好だね」

「聞いてくださいよローザ……って、何なんですかあなたのその格好は!?」

 

 再びアリサの口から絶叫のような声が放たれた。

 現れたローザの格好、それは一言で言うなら……バニーガールであった。

 頭にはウサギの耳、ピンクのレオタードに黒の編みタイツ。

 幼い顔立ちながらも成熟した肉体には完全にフィットしており、周りの男性達からは拍手喝采が巻き起こっていた。

 

「コウタお兄ちゃんがね、これ着たらお兄ちゃんが喜ぶって言うから着てみたの。似合う?」

「ちょ、いや、ローザに何を着せているんですか!?」

「ローザもスタイルいいし、今回はサクヤさんが参加しないって言うから……」

「サクヤさんに着てもらうつもりだったんですか!?」

 

 なんという無謀な事を考えていたのだろう、男性達の無駄な行動力にもはや呆れを通り越して一種の感心すら抱いてしまいそうになる。

 しかし自分と同じ顔を持つローザがこんな恥ずかしい格好をしていると余計に恥ずかしくなってくる、アリサは一刻も早くこの場から逃げ出したかった。

 

「こら、なに写真なんか撮ってるんですか!!」

「アリサ先輩、後生ですから見逃してください!!」

「先輩のこんな姿……ここを逃したら一生見れませんから!!」

「宝物にしたいんです、だから……妖艶なポーズをお願いします!!」

「超絶どん引きです。歯ぁ食いしばれえ!!!!」

 

 もう堪忍袋の緒が切れた、怒り狂ったアリサはパーティーなど関係なしに暴れ始める。

 一斉に逃げ惑う男達、しかし逃げながらもしっかりとカメラのシャッターを切っている辺り流石かもしれないが、反省の色は見られない。

 

 ちなみに、ローザは割と抵抗感がないのか写真を撮られても笑顔を返している。

 すぐさま彼女の写真会のようなものが始まってしまったが、それに気づいたアリサが全員を文字通り叩き潰した。

 

「はー……はー……コウタ、覚悟はできてるんでしょうねえええっ!!!」

(ヤバイ……アリサの目が血走ってる……)

 

 少しばかり調子に乗りすぎたのかもしれない、後悔がコウタを襲うが時既に遅し。

 わーわーぎゃーぎゃーと騒いでいる2人を少し離れた所から眺めつつ、大きなため息をついたのは……ソーマ。

 

 彼ももちろん仮装している、彼の衣装は……ドラキュラだ。

 背が高く褐色の肌にこの衣装を身につけている今の彼は威圧感がハンパではなく、周りの者は遠巻きに彼を見つめるのみ。

 彼としては静かに過ごせて好都合だ、そもそも今回のパーティーにも参加するつもりはなかったのだから。

 

「ソーマ、おっかないなー」

「……うるせえぞ」

 

 だが、シオはそんな彼にもまったく恐れずにいつも通りの口調で話しかける。

 悪態を吐くソーマではあるものの、その口調はあくまでも優しい。

 

「でもかっこいいぞー」

「あ? ……こんなんがか?」

「うん。いつもその格好で居ればいいのに」

「ふざけんな。こんな恥ずかしい格好なんか二度と御免だ」

「えー……かっこいいのになー、今回だけなんて勿体ないなー」

「…………テメエが見たい時は、言えば着てやらん事もない」

 

 褐色の頬を僅かに赤らめ、上記の言葉を口にするソーマ。

 するとシオは彼の優しさが嬉しかったのか、瞳を輝かせ満面の笑みを浮かべた。

 

「ソーマは今日もツンデレなのであった」

「おいコラ、聞こえてんぞリンドウ!!」

「『言えば着てやらん事もない(キリッ』だってよ、ソーマ君は本当にツンデレさんだなー」

「……リンドウ、どうやら死にてえようだな!!」

「やっべ、ソーマが怒った。逃げろー!!」

「ちょ、リンドウさんこっちに来ないでくださいよ。アリサに追いかけられてんのに!!」

『待てコラ!!』

『おたすけーーーーーっ!!!』

 

 怒り心頭のアリサとソーマに追いかけられるコウタとリンドウの子供コンビ。

 それを見てシオは指を指して大笑い、他の者もその光景を見て笑い、中には野次を飛ばす者も。

 

「……そういえば、お兄ちゃんは?」

「カズキなら緊急の任務よ、隊長だから仕方ないわね」

 

 ローザの呟きに、追加の料理を運んできたサクヤ答える。

 そしてコウタと共に追いかけられている自身の夫を見て、心底呆れ返ったようにため息をついた。

 

「まったくもう……一緒になって悪ふざけなんかするんだから……」

「リンドウさん、子供ですよねー」

 

 騒がしくも、楽しい一時が過ぎていく。

 ……だが、彼らはまだ気づいていなかった

 任務から帰ってきた“彼”の存在に、そして。

 

「――――君達、人の奥さんと妹に何を着せてるのかな?」

 

 恐ろしい程に冷たい声が、場に響く。

 さほど大きい声ではなかったが、その場に居た全員の耳がそれを拾い上げ……一気に静寂が訪れる。

 全員の視線が一点に注がれ、そこに居たのは……無表情のままこちらを見つめている、カズキの姿があった。

 

 ヤバイ、全員の脳裏にその一言が浮かぶ。

 今の彼は本気で怒っている、普段温厚なせいか彼が怒っている時は本当に恐ろしいのだ。

 しかも今回は妻であるアリサと妹であるローザまで巻き込んでしまっている、彼の怒りはいまだかつてないほどのものになっているのは言うまでもなく。

 

「誰かな、こんな事を考えたのは?」

 

 正直に言わないと生きて帰さん、そんな副音声が聞こえてきたような気がした。

 ちゃんと白状しなくては朝日を拝めなくなる、今の彼を見て全員がそう理解して。

 

『リンドウさんとコウタが発案者です!!!』

 

 あっさりと、仲間を売ってしまった。

 薄情と言うなかれ、誰だって命は惜しいのだ。

 というより、2人が元凶なのは間違いないので嘘は言っていない。

 

「ちょ、おま――!?」

「待て、お前らだって楽しんでたじゃねえか!!」

 

 抗議の声を上げる2人であったが、全員が彼等から視線を逸らす。

 先程も言ったが誰だって命は惜しいのだ、2人の犠牲は忘れないと心の中で合掌を送りながら……自分達の考えは甘いという事を思い知らされる。

 

「とりあえずリンドウさんとコウタは粛清するとしても……一緒になって楽しんでたみんなも同罪だから、全員ぶちのめす」

『ファッ!!?』

「恨むんなら自分達の愚かさを恨むんだね、十秒待ってあげるから逃げたきゃ逃げなよ。尤も――誰一人として逃がすつもりはないけど」

 

 あっけらかんと、まるで朝の挨拶を交わすかのような気軽さで恐ろしい事を言ってのけるカズキ。

 死の恐怖が自分の肩をポンポンと叩いているような気がして、全員がその場から一目散に逃げ出していく。

 そしてきっかり十秒後――カズキもその場から駆け処刑を開始した。

 

「…………」

 

 その場に残ったのは、アリサにローザ、ソーマにシオにサクヤにラウエル、そして悪ふざけをしていなかった者達のみ。

 ……すぐさま遠くから断末魔の叫びが聞こえ始める。

 

「あーあ、お兄ちゃんが本気で怒っちゃった……しーらない」

「……あいつは本当に怒らせん方がいいタイプだな」

「カズキ、ちょっと恐いなー……」

「……リンドウ、死ななければいいけど」

 

――こうして、ハロウィンパーティーは過ぎていく。

 

 ちなみに、カズキが全員をのした後、改めて残りのメンバーでパーティーを楽しんだようだ。

 悪ふざけが過ぎたメンバーは全員が恐怖というトラウマを植え付けられ、更に撮った写真も全て処分されたそうな。

 

「ところでお兄ちゃん、お姉ちゃんの格好を見て……どう思った?」

「…………正直、目のやり場に困りました」

「素直でよろしい」

 

 

 

 

To.Be.Continued...




もうすぐGE2が発売されますね。

でも番外編は発売された後でも続くと思います。

GE2をプレイしてどういうストーリーかを把握してから第三部へと移行する予定ですので。

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