でも短いです、GE2の発売が迫ってきましたね。
カズキとアリサのラブラブばっかりだったので、今回は他キャラに焦点を合わせてみました。
「なあなあ、アリサー」
「シオちゃん、どうしましたか?」
「アリサって、料理できるー?」
「…………えっ?」
シオの言葉を理解できないわけではなかったが、アリサは思わず間の抜けた声を出してしまう。
料理――それはアリサにとってアラガミを倒す事よりも難しい作業。
カズキの妻となって、愛すべき夫の為に手料理を作りたいと思っているのだが……いかんせん、彼女のスキルがついていかないのでそれは叶わなかった。
……いつまで経っても料理スキルが向上しない事を思い出し軽くショックを受けるアリサであったが、何故シオがそんな事を訊いてきたのか問いかける事に。
「シオちゃん、いきなりどうしたんですか?」
「んー……ソーマにな、お料理作りたいなーって」
「…………」
初めは驚き、すぐさまアリサは口元に笑みを浮かべ始める。
……シオがソーマの為に何かをしてあげたい、そう思っているのがわかったからだ。
彼女は彼に一番懐き好いている、けれどあくまでも仲の良い兄弟のような感覚だったのだろう。それは今でもそうかもしれない。
しかしシオがこんな事を言ったのは初めての事であり、それは彼女の中でソーマに対する意識が変わったという可能性が出てきているという事なのかもしれない。
これは是非とも協力してあげなくては、力強く誓うアリサであったが……自分に料理スキルが無いことを思い出し、軽く凹んだ。
自分1人ではこの難題を克服することはできない、なのでアリサは早速頼れる先輩の元にシオと共に向かった。
「―――というわけで、私達に料理をご教授願いたく参りました」
「参りました!!」
「……なんでそんな畏まった言い方なの?」
突然部屋へとやってきてそんな事を言ってきたアリサとシオにとりあえずツッコミをしてから、サクヤは事情を訊く事に。
「…………成る程、けどアリサはともかく……シオがねえ」
ソーマの為に料理を作りたいなど、確かに今までの彼女からは考えられない言葉だ。
彼女の心が成長してきている、それがなんだか嬉しくてサクヤも先程のアリサと同じように自然と表情を柔らかいものに変えていった。
「いいわ。けど食糧状勢も相変わらず良くないしあまり凝ったものは作れないわよ、そうねえ……じゃあ『玉子焼き』でも作ってみましょうか?」
「……サクヤさん、いくらなんでも簡単すぎませんか?」
「何言ってるのよ、そういう台詞はちゃんと作れるようになってから言いなさいアリサ。シオもそれでいいわね?」
「うん、でも……ソーマ、喜んでくれるかな?」
少しだけ不安そうに表情を曇らせるシオ。
その態度にアリサとサクヤは顔を見合わせてから、おもわず苦笑を浮かべてしまった。
「大丈夫ですよシオちゃん、ソーマなら絶対に喜んでくれますから!!」
「そうよ。ソーマってば無愛想で素直じゃないけど……シオが一生懸命作ったものを邪険にするような子じゃないわ」
「一生懸命……?」
「シオちゃんは、ソーマの為に何かしたいと思ったから、料理に挑戦しようとしてるんですよね?」
「……うん」
「その気持ちが大事なの。シオの心はきっとソーマに届くわよ」
「心……」
右手を自身の胸元に持っていくシオ。
……まだ彼女は成長しきれていない、知識はあってもまだまだ子供と同じなのだ。
けれど、その心は少しずつ……けれど確実に育っており、今もこうして進化の道を辿っている。
「頑張りましょうね?」
「…………そうだな! ソーマが喜んでくれたら、シオも嬉しい!!」
「じゃあ早速始めましょうか。アリサもしっかり勉強しなさいね?」
「うっ……はい」
「アリサも料理できないんだなー、奥さんなのにー」
「ぐはっ」
容赦のないシオの言葉に、アリサは精神的ダメージを負った。
しかも満面の笑みで言ってくるものだから、おもわず意識を失ってしまいそうになる。
「……シオ、そういう事ははっきり言うものじゃないのよ」
「???」
「ううっ……わ、私だって料理くらい…料理くらいできるんですから!!」
■
――数日後。
「ソーマーーーーーーー!!」
「あん?」
自分の名を呼びながらこちらに向かって走ってくるシオを見て、ソーマは顔をしかめる。
こういう時はいつも体当たりという名の抱きつき攻撃を受けると相場が決まっているのだ、鬱陶しいと思いながら身構えるソーマだったが……シオは彼の前で立ち止まった。
「ソーマ、これ食え!!」
「…………んん?」
笑顔でシオはソーマにあるものを差し出し、ソーマの視線がそれに向けられる。
シオが差し出したもの、それは小さめの皿の上に置かれた――玉子焼き。
形は歪、所々焦げており決して食欲をそそる様な見た目ではない事は確かだ。
変なものを食わせようとするな、そう言おうとしたソーマであったが……次に放たれたシオの言葉で、考えが一変する。
「シオが作ったんだー、ヘンな形だけど…まずくはないぞー」
「…………お前が、これを作ったのか?」
「うん。ソーマに……食べてほしいなーって思って、アリサとサクヤと一緒に作ったー!」
「……俺の、ためにか?」
「あー……うん、嫌だったかー?」
「…………」
何も言わず、ソーマはシオから皿を受け取る。
先程も記した通り、シオが作った玉子焼きは決して食欲をそそるようなものではない。
それにソーマは別に玉子焼きが好きというわけではない、けれど……彼は何も言わずにそれを口に含んで租借し始めた。
「あ……」
「…………」
「ソーマ、まずかったら捨てても……」
「………………ちょっと、甘いな」
「???」
「俺は甘い玉子焼きより……醤油味の方が、どちらかといえば好みだ」
と言いつつも、ソーマは玉子焼きを食べる手を止めようとしない。
ゆっくりゆっくり、少しずつ味わうかのように食していき……やがて、皿の上に乗っていた玉子焼きが全てソーマの胃の中へと収められた。
「……まあ、食えなくはないな」
「ソーマ……」
「その、なんだ……悪かったな、わざわざ……」
いつも通りのぶっきらぼうな口調。
しかしその中に確かな優しさの色が見えた事に、シオは気がついた。
暫く言葉を詰まらせ、だんだんと顔をしかめていくソーマであったが、やがて意を決したように一度深呼吸をしてから。
「――ありがとな、シオ。美味かったぞ」
今の彼ができる最大限の感謝を、シオに向けた。
「ソーマ!!!」
「うおっ!?」
喜んでくれた、自分が作ったものを美味しいと言ってくれた。
それが嬉しくて、シオは一目散にソーマへと飛び込むように抱きつく。
「……あらあら、今回のソーマは随分素直じゃない」
「シオちゃん限定ですけどね」
その光景を見ていたアリサとサクヤ、2人の光景を見て微笑ましそうな笑みを浮かべている。
「けど……色々と大変でしたね?」
「…………玉子焼きを作るのにあんな苦労する日が来るなんて思わなかったわ」
シオは料理の経験などない、だから当初は多く失敗するだろうとはサクヤとて思っていた。
だが彼女の失敗は普通の失敗とは明らかに規模が違っていた、なにせ当初はアラガミを料理の材料にしようとしたのだから。
「これを入れたらきっと美味しくなるぞー」と言って、どこからか持ってきたオウガテイルの肉を加えようとした時は、全力で阻止したのは言うまでもなく。
他にも色々とアラガミらしいといえばらしいような失敗を繰り返し……キッチンが地獄絵図になる所であった。
しかしどうにかこうにか成功したようだ、協力した甲斐があったとサクヤは改めて思う。
「そういえば、失敗作は処分したんですか?」
「ああ、それなら……ちょうどお腹を空かせたリンドウとコウタが居たから、毒見……味見役として処理してもらったわ」
「…………サクヤさん、それはさすがにどん引きです」
成る程、リンドウとコウタが突如として体調を崩して医務室の世話になっているのはそういうわけなのか。
あっけらかんと酷い事をしでかすサクヤに、アリサは言葉通り引いてしまった。
「そういうアリサはどうだったの? 一応なんとか食べられるレベルのものはできたみたいだけど……」
「…………」
無言で視線を逸らすアリサ、それを見てサクヤはすぐさま悟った。
ああ、これはダメだったのか……と。
「全部食べてくれました。でも……突然謎の痙攣と唾液を放った後、医務室へ直行してしまいました」
「…………ドン引きね」
味見をしなくてよかった、サクヤは心からそう思った。
「ソーマ、また作った時は…食べてくれるかー?」
「……食えるもんなら食ってやる」
「えへへー……♪」
幸せそうに笑うシオ。
それを見て、ソーマは密かに素直な感想を告げて良かったと安堵するのであった。
一方、医務室では。
「うーん……うーん……」
「ぐっ……腹いてえ……」
(……アラガミ化をしたのにこんなにダメージを受けるなんて、アリサの料理って一体……)
三人の男達が、数日間腹痛に悩まされていたのだった……。
To.Be.Continued...
男性陣は犠牲になったのだ……。