今回は短めです、それではお楽しみください。
「……んっ……?」
目を醒ましたアリサは、見慣れない白い天井を視界に捉えた。
一体ここはどこなのだろう、上半身だけを起き上がらせ自身の状態を確かめるアリサ。
いつもの服ではなく病院の患者が着るような簡素な衣服に身を包み、白いベッドに寝かされている。
「私……」
記憶を遡る、自分はどうして病院のベッドの上で眠っていたのか……。
ゆっくりと思い出していき……アリサは、あの記憶を再び思い起こさせた。
「――――、ぁ」
ぞわりと、全身が総毛立つ。
そうだ、自分は、決して忘れてはいけない記憶を蘇らせて……。
「あ、ああ、あ……」
あの光景がフラッシュバックする。
自分の目の前でアラガミに喰われていく大切な親友、オレーシャ。
助けられなかった、自分が弱かったから。
「は、は、あ……」
乱れた息を整えていく。
まずは落ち着かなくては、そう必死に自分へと言い聞かせていき……やがて、彼女の呼吸は正常なものに戻る。
「…………」
思い出した、完全に。
自分がまだオオグルマの傀儡であった頃、1人の少女に出会いぶつかり合いながらもやがて大切な親友となった少女が居た。
名をオレーシャ、自分を救ってくれた一人であるリディアの妹であり……守る事ができなかった仲間。
「オレーシャ……」
彼女の瞳に、涙が溜まっていく。
後悔しても既に遅い、彼女はこの世にはおらず守れなかったという事実も変わらない。
だがそれでも、アリサは罪悪感と自分自身への情けなさから涙を零す。
「……アリサ?」
「っ、あ……カズキ!?」
いつの間に部屋へ入ってきたのだろうか、入口付近に立っているカズキを見てアリサは慌てて瞳に溜まった涙を拭う。
「だ、ダメですよカズキ。ちゃんとノックしてから入らないと……」
「ノックはしたよ、けど返事が無かったから……それよりアリサ、一体どうしたの?」
「…………なんでもないですよ。いきなり倒れて心配をお掛けしました、でももう」
大丈夫です、そう言おうとして――アリサはカズキに抱きしめられた。
「――無理しなくていい、昔の仲間を目の前で失った時の事を思い出したんだろう?」
「えっ、どうしてそれを……」
「感応現象で見てしまったんだ、オレーシャ――君の恩人であるリディアさんの妹だって事、同じ神機使いとして仲が良かった事……みんな聞いた」
「…………」
「アリサはきっと自分のせいでオレーシャを死なせてしまったと思っているだろうけど、それは違う。だから自分を責めたりしないでくれ」
ぎゅっと強く、けれど優しくアリサを抱きしめるカズキ。
彼の暖かさに触れ、アリサの心に安心感が宿っていくが……彼女の表情は晴れない。
「でも、リディア先生は――」
「前みたいに、リディア“姉さん”って呼んでくれないの? アリサ」
「リ、リディア先生!」
病室へと入ってくるリディア、アリサはおもわず彼女から視線を逸らしてしまう。
それが気に入らなかったのか、リディアは僅かに不機嫌そうに顔を歪め無理矢理アリサの視界に入る。
「今の態度はいただけないわね?」
「あ……その、ごめんなさい……」
「ふふっ、冗談よ。別に怒ってるわけじゃないから」
「………………どうして、ですか?」
アリサには理解できない、リディアは自分を憎んでもおかしくはない筈だ。
自分のせいでオレーシャを失ったというのに、彼女の自分へ向ける視線に憎しみや怒りは微塵も感じ取れない。
困惑するアリサを見て、彼女の心中を理解したリディアは苦笑しながら口を開く。
「――オレーシャの事はアリサの責任じゃない、自分を責めるのはやめなさい」
「で、でも先生……!」
「オレーシャはあなたを生かすために命を懸けた、誰かに強制されたわけでもなく自分自身で決めた故の行動だった。精一杯自分らしくあの子は生きたのよ」
誇らしい最期だったと、リディアは今なら断言できる。
悲しみは飲み干せるのだ、永い年月が必要ではあるが……傷を受け入れ乗り越える事ができる強さを人間は持っている。
だからリディアはアリサを憎むことなどしない、むしろ幸せに生きることができて嬉しいとさえ思えた。
それは当然だ、何故ならリディアにとってアリサはもう1人の妹なのだから。
「リディア、先生……」
「先生じゃなくて、もう一度姉さんって呼んでくれない? 私は今だってあなたの事を大切な妹のように想っているんだから」
「…………姉、さん。リディア姉さん!!」
飛び込むようにリディアへと抱きつくアリサ、リディアもそんなアリサを優しい笑みを浮かべながら受け入れる。
その後暫く、アリサは甘えるように涙を流した。まるで枷が外れたかのように泣き続け……少しだけ目を腫らし、そそくさとリディアから離れる。
「あら、もっと甘えてもよかったのに」
「い、いえ……いつまでも子供みたいな事はできません。私は大人の女性になるんですから」
「そう言っている時点で、まだまだ背伸びしてる子供みたいだよアリサ」
「うっ……ど、どうしてそういう事を言うんですか! カズキの意地悪!!」
顔を赤らめ、ポカポカとカズキの胸を叩くアリサ。
ごめんごめんと苦笑しながら謝るカズキであったが、彼女の可愛らしい攻撃は止まらない。
仲睦まじい……というよりどう見てもバカップルな2人を見て、リディアはおもわず一言。
「……なに、これ……」
そう呟いてしまった。
しかし無理もない、第三者の目の前でイチャつかれれば誰だってこう思うだろう。
アリサがカズキと結婚して夫婦になっているという話は先程聞いたが、正直眉唾物であった。
だがこの光景を見れば信じざるおえない、しかもちょっと度が過ぎた夫婦であるというのも理解してしまった。
(まあ、幸せなのは本当に良い事だし私も嬉しいけど……)
あのアリサが周りを気にせずに男性に甘えるという光景は、暫く慣れそうにないとリディアは思った。
「――さて、と。それじゃあ僕は支部に戻るよ、アリサは念のために一応今日はここで過ごしてね?」
「えっ、カズキと一緒に寝たいのに……」
「倒れたんだから我慢しなさい。リディア先生、アリサの事をお願いします」
「ええ、任せて」
じゃあまた明日ね、アリサの頭を優しく撫でてからカズキは病室を出ていった。
残されたアリサはあからさまに不機嫌そうに頬を膨らませ、そんな彼女にリディアは苦笑する事しかできない。
「アリサは本当にカズキ君の事が好きなのね」
「旦那様ですから当然です。カズキは本当に立派な人なんですよ、この間なんか……」
(あ、もしかして私、余計な事を言ったかしら?)
――リディアの予想は当たってしまった。
その後、彼女は暫しアリサのカズキ自慢に付き合わされてしまう事になってしまうのだった。
如何にカズキが素晴らしく優しい旦那だ云々……聞いていて時弊してしまいそうだ。
ただそれでも――カズキの話をするアリサの表情が、本当に幸せそうだったのは……リディアには嬉しかった。
(ただアリサ、もうそろそろ仕事もあるから開放してくれない………?)
「リディア姉さん、聞いてますか?」
「ええはいはい、聞いてます聞いてます」
To.Be.Continued...
次の話と繋げるとキリがなかなかつかないので凄く短くなりました。もしかして3000切ったの初めてかな?
シリアスだと思った?ねえ、シリアスだと思った?
残念、バカップルだ!!
次回からはまた少し真剣な話になりそうですね、お楽しみに!!