神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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今回は少し短めになりました。


番外編6-② ~飲み干す悲しみ~2

「――では頼むよ。一ヶ月という短い期間ではあるが存分に後輩達を鍛えてあげてほしい」

「はい、失礼します」

 

 ロシア支部の支部長との挨拶を終え、カズキは支部長室を後にする。

 部屋を出て支部長室を離れながら……彼は険しい表情を浮かべていた。

 

(緘口令、か………)

 

 カズキはここの支部長と話す際に、アリサとここの神機使いとの間に壁が作られていた事を話した。

 すると――支部長から上記の言葉が飛び出したのだ。

 

 当時、このロシア支部はヨハネスによって半ば私物化された支部だったらしい。

 全てはアリサという『新型』のデータを手に入れるために、彼は上層部と結託していたそうだ。

 その時アリサはオオグルマの傀儡と化しており、彼女を感情のいらない兵器として運用しようとしていた。

 緘口令を敷いてアリサとここの神機使いを疎遠状態にさせたのも、彼女に余計な感情を芽生えさせないための措置だったのかもしれない。

 

(オオグルマ……死して尚まだアリサを苦しめるか)

 

 ギリッと歯を鳴らし、温厚な彼の顔は憤怒の表情に満ち溢れる。

 しかし今の支部長はロシア支部の神機使いに対して緘口令を解除したと言っていた、これならばいずれはまた前のように仲良くなれるだろう。

 だからそこに関しての心配事はない、ただ……カズキには気になる事があった。

 

 緘口令はアリサがこのロシア支部に所属になった直後から敷かれていたわけではなく、彼女が極東支部に来る少し前に発令されたらしい。

 それではおかしいのだ、何故初めからではなくそんなギリギリになった突然緘口令などを発令したのか。

 

(まだ、何かあるな……)

 

 残念ながら現ロシア支部支部長は詳しい事情を知らないと言っていた、それが嘘か誠かは判断できないが……少なくともそれ以上の情報は得られないだろう。

 何かあったのだ、それもアリサにとって決定的なまでの何かが。

 それを探るには僅かに躊躇いも生まれたものの、アリサの夫として知らなければならないと自分に言い聞かせた。

 

「…………」

 

 エントランスロビーに赴く、するとカズキはあらゆる方向から視線を感じた。

 その正体はこのロシア支部の神機使いからのもの、まるで値踏みするような視線にカズキの表情が僅かに曇った。

 しかしそれも無理はない、少しずつ増えているとはいえカズキのような『新型』は珍しい。

 無論視線の正体はそれだけではない、カズキに対してあからさまなやっかみや敵意も存在している。

 違う支部の神機使いがしゃしゃり出るなと言っているようだ、縄張り意識が強い者はどこにでも居ると思いながら、カズキはそんな視線を完全に無視してアリサを捜す。

 

 捜すこと暫し、ロビーの一角に見慣れた銀髪が見えカズキはそのまま近寄っていく。

 しかしそこに居たのはアリサだけではない、先程少しだけ会話を交わした三人の神機使いの姿もあった。

 

「あ、カズキ!」

「抗神中尉……」

 

 カズキの姿を見て、アリサの表情が自然と綻んだ。

 他の神機使いはそれとは対照的に、カズキの姿を見て顔に緊張の色を出す。

 

「そんな緊張しなくてもいいよ、っと言ってもそんな事できないか……とりあえず僕の事は普通にカズキって呼んでくれて構わないから」

「……では、カズキさんで」

「うん、よろしくね? えっと……ヘルマン上等兵だったよね?」

「……ヘルマンで結構です」

「わたしはダニエラで結構です、カズキさん」

「俺もアーサーでお願いします!!」

 

 改めて自己紹介を交わしていき、周囲の雰囲気が柔らかくなっていく。

 そんな中、カズキはちょっとした違和感を覚え全員に問いかける。

 

「あのさ、ちょっと訊きたい事があるんだけど……」

「なんすか?」

「支部長から緘口令があったからアリサと疎遠になっていたって聞いたけど……なんだかもう仲良くなってるなって」

 

 端から見ていて気づいたのだが、カズキが声を掛ける前…アリサ達は楽しそうに会話をしていたのだ。

 もちろん仲良くなるのは大いに構わないのだが、先程とはまるで違う雰囲気だったので面食らってしまったわけで。

 

「……初めはもちろん気まずい空気でした、でも彼女の雰囲気がとても優しくなっていたので」

「そ、そうそう。なんていうか別人みたいに思えて……」

「こちらとしては一時期それなりに仲良くしていましたからね、また打ち解けるのも早かっただけですよ」

「……そっか」

 

 よかったと、カズキは心の中で安堵する。

 このロシア支部にも、彼女の事を『仲間』だと思ってくれている者達が今でも残っていた。

 それはカズキにとって喜ばしい事実であり、これからこのロシア支部で上手くやっていけそうだと思えたのだった。

 

「でもアリサもすっかり普通になったよな。最初の頃なんか高圧的で『旧型』の俺達を小馬鹿にしてたし」

「あ、あれは……その、申し訳ないと思っていますから……」

「あ、いや、別に気にしなくていいっていうか……」

 

 しまったといった表情を浮かべるアーサー、自分の発言で彼女に不快な思いをさせてしまったと思っているのだろう。

 

「でも極東支部に来た時も、そんな感じだったよね?」

「うぅ……カズキまでやめてくださいよ。あれは私にとって黒歴史なんですからね!」

「でも背伸びしてるみたいで結構微笑ましかったけど」

「もうっ、またそうやって私を子供扱いして!」

 

 頬を膨らませ、ポカポカとカズキの胸を叩くアリサ。

 ごめんごめんと謝るカズキであったが、彼女の今の姿が微笑ましくてつい口元が緩んでしまう。

 その光景を見て、アーサーはポカンとし他の2人も不思議そうに眺めている。

 

「……お2人は、一体どのような関係なのですか?」

「おい、ヘルマン!?」

「えっ、それは……その……」

「ああ、そういえば言ってなかったけど……この間、僕とアリサは結婚して夫婦になったんだ」

 

『……………………はい?』

 

 周囲の空気が変わる。

 カズキの言葉に3人の表情は固まり、アリサは顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 

「け、結婚……?」

「うん。僕は19だしアリサはこの間16になったばかりだけど、夫婦になれる年齢には達してるでしょ?」

「え、ええ……まあ……」

「だから僕から彼女にプロポーズをして、極東で式を挙げたんだ」

「あ、あの、カズキ……あまり大っぴらにされると恥ずかしいです……」

「そうなの? 僕は別に気にしないけど……アリサがそう言うなら不用意に話すのはやめるよ」

『…………』

 

 随分と仲が良いとは思っていた。

 端から見れば本当にそう思えるほどだが、よもや夫婦になっているなどと誰が思おうか。

 少しの間とはいえ彼女とは共に任務に赴いた仲間であったのだから、その驚きは余計に大きい。

 

「……………」

「……残念だったなアーサー」

 

 ぽつりと、カズキには聞こえないように隣に座るアーサーへと話しかけるヘルマン。

 彼とアリサが夫婦になったと聞いて、アーサーの表情が険しいものに変わったのに気づいたのだ。

 

「……別に、なんとも思ってねーよ」

 

 返ってきた返事はヘルマンの予想通りのものであったが、この口調には隠し切れない落胆の色が見えていた。

 アーサーはアリサを憎からず想っていた、それが恋だったのかは彼自身にもわからない。

 ただ、アーサーが今の言葉を聞いてショックを受けているのは間違いなかった。

 

「じゃあ、今のアリサは『抗神アリサ』? それとも『アリサ・アミエーラ・抗神』かしら?」

「えっと、『抗神アリサ』です。ま、まだちょっと慣れませんけど……」

「……幸せそうね、なんだかこっちまでその惚けが移ってしまいそうだわ」

「あぅ……」

「――じゃあ僕はそろそろ行くよ。アリサはゆっくりしていて構わないから」

 

 そう言って立ち上がるカズキ。

 これから『新型』の訓練を見なくてはならないのだ、アリサも連れて行こうと思ったが…昔の仲間との会話を楽しんでいるようだし、どうしてもというわけでもないので1人で行く事に。

 

「じゃあアリサ、また後でね?」

「はい、お気をつけて」

 

 交わす言葉はただそれだけ、だがそれだけでも2人の間を結ぶ信頼の糸が強固だというのがわかる。

 それを見て、アーサーの表情がますます強張っていったのだが、それに気づいたのは隣に座るヘルマンだけであった……。

 

 

―――数時間後。

 

 

「――ふぅ」

 

 新人との訓練を終え、カズキは廊下を歩きながら一息つく。

 まだまだ発足してからさほど月日が経っていないロシア支部ではあるものの、少しずつではあるが神機使いの数も増えてきたという。

 だがアラガミ相手に生き残れるのは、その中でも限られてくるだろう。

 だからこそカズキは少しでも生存率を増やすために新人達を鍛えねばならないと心に誓う。

 

(リンドウさんも、今の僕と同じ心境で僕達を育ててくれたんだろうな……)

 

 そう思うと、ここまで歩みを進めてきたという実感が湧いた。

 しかしまだまだ自分は強くなどない、もっと高みへと昇り積め……力なき者達を守れる存在にならなくては。

 

(――その為にも、戦わないと)

 

 立ち止まる、そしてそのまま踵を返しカズキは神機保管庫へと足を運んだ。

 その表情は険しいものに変わっており、何故彼がそんな表情を浮かべそのまま神機保管庫へと向かっているのか――それは、アラガミがこの支部に近づいている事を知らせるサイレンによって意味へと繋がる。

 

『Cエリア第二十二地区装甲壁付近にアラガミが多数出現、防衛班はただちに出撃せよ!!』

 

 アナウンスが支部に響く、アラガミ探知能力によっていち早くそれに気づいたカズキの行動は速かった。

 

(数は……三、いや五体……新人も出撃させるか)

 

 アラガミが放出している偏食場の大きさからして、小型アラガミであるのは間違いない。

 こういう機会でもなければ新人に実地訓練をさせるのは困難だろう、教官達は新人達を出撃させると踏んだカズキはでしゃばらない様にしようと心に決めた。

 とはいえ――新人達に対処できない事態になっているのならば、動くつもりではあるが。

 

(誰も死なせないぞ……!)

 

 

 

 

To.Be.Continued...




次回はアラガミとの戦いになりますね。

その後は……アリサにとってある意味肉親と言える存在が登場するかもしれません。


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