とはいっても長くはなりませんがね、二桁にはしないつもりです。
これは『アリサ・イン・アンダーワールド』のキャラクターもでてきます、アマゾンで買って事前に勉強しました!
それでは、スタートです。
「――というわけで、カズキには一ヶ月“ロシア支部”に行ってもらう」
「意義あり!!」
支部長室にて、カズキに伝達を伝えるツバキの声と、それに異を唱えるアリサの大声が響き渡る。
数秒の沈黙の後、ツバキの鋭い視線は当然ながらアリサへと向けられた。
「……アリサ、まず色々とツッコミを入れてやりたい所だが……まず、何故ここに居る? 私はカズキだけを呼んだはずだが?」
「私もツバキ教官に用があったからです、途中でカズキと合流して一緒に来ました」
まあそんな事はどうでもいいです、はっきりと言い放ってからアリサは言葉を続ける。
「どうしてカズキがロシア支部に行かないといけないのか、明確な理由を答えてください!」
「…………はぁ」
ツバキの口から大きなため息が吐き出される。
アリサが何故こんなにも不満そうなのか、その理由など考えなくてもわかるツバキであったが、それでも疲れるものは疲れる。
とは思いつつも、面倒なのでツバキはアリサとカズキに理由を説明した。
「ロシア支部はこの極東支部に比べ神機使いの数が少ない、それはロシア支部に居たアリサなら知っているだろう?」
「はい」
「それに前支部長であったヨハネスによって半ば掌握されていたから一時期は色々と立て込んでいてな、しかし最近になってようやく神機使いの数も増え“新型”も少数ながら配備された。
しかし先程も言ったようにロシア支部は最近まで立て込んでいた、それに……気になる報告もある」
「気になる報告?」
「新種のアラガミが発見されたという報告だ、なのでカズキにはロシア支部に赴いてその新種のアラガミの調査と向こうの新人達の育成を頼みたい」
「……あの、僕は教官の資格は持っていないのですが」
「そんな事は知っている、だがお前はアリサやアネットといった“新型”の育成経験もあるし、何より戦闘技術や座学も新人達にとって勉強になる。せっかくの“新型”をむざむざ失うわけにもいかん」
それにアリサやアネットの他にも、カズキによってその力を向上させた新人達はこの極東支部に何人も存在している。
あくまでも教官にできるのは基礎訓練と座学のみ、実戦訓練には戦闘経験が豊富な神機使いの傍で学ぶ方が何倍も効率的なのだ。
「極東支部最高の戦力であるお前を一ヶ月とはいえロシアに向かわせるのは好ましくないが、これも神機使いの数を増やすため。それに第一部隊には新たな人員も入ったので問題はないだろう」
「……ローザ、ですか?」
カズキの問いに、ツバキは頷きを返す。
基礎訓練を終え、ローザは本格的に神機使いとしてアラガミと戦う事になったのだが……既に彼女の力は新人のそれを大きく超えている。
ヴァルキリーであった頃の戦闘経験、それに兄に勝るとも劣らない神機との適合率の高さ。
そして何よりあの精神力の強靭さにより、既に第一線で戦える力は持っているとツバキは判断していた。
無論ソロでのミッションはまだまだ許可できないものの、新たに製作された武器である“チャージスピア”を振り回してアラガミを駆逐するその姿は、まさしく“戦乙女”と呼べるものであった。
ちなみにこれはまったくの余談であるが、その強さと成熟した身体には不釣合いな子供っぽい態度と雰囲気のギャップにやられた男達は数知れず、今では非公式のファンクラブまであるらしい。
「とにかくそういうわけだ、お前には慣れない土地で一ヶ月という長期任務になるが…任せたぞ?」
「意義あり!!」
「……アリサ、次に余計な事を言ったら懲罰房行きにするぞ?」
「納得できません、いつもいつもカズキにばっかり大変な任務を与えて……」
「本音は?」
「夫婦になったのに全然イチャイチャラブラブな事してないのに、一ヶ月も離れ離れになるなんて耐えられません!!」
「…………大変素直でよろしい」
もはや怒る気も起きない、一部からは鬼教官と呼ばれるツバキですら今のアリサの相手をするのは辛かった。
しかしアリサは不満を隠そうともしない、これにはカズキも口を挟む事に。
「アリサ、これは任務なんだから仕方ないよ?」
「うー……それはそうかもしれませんけど……」
「――じゃあ、アリサ君も一緒に行ったらどうかな?」
「…………博士」
場に響く第三者の声、全員が入口へと視線を向けるとそこにはサカキ博士がいつものように食えない笑みを浮かべていた。
「彼女もカズキ君に負けないくらいの強さを持った“新型”だ。きっと向こうの神機使い達にとって良い影響を与えてくれると私は思うけどね」
「しかし博士、アリサはカズキと同じく第一部隊の要です。さすがに2人も戦力を削ぐのは……」
「いいえ、私も行かせてください!!」
「だそうだ。それにアリサ君なら任務そっちのけで……なんて事はしない筈だよ、彼女はカズキ君と同じように真面目な良い子なのだから」
「ありがとうございますサカキ博士、初めて博士を尊敬できそうです!」
「……今まで私はどれだけ尊敬されなかったのかな?」
アリサの悪気のない言葉にしっかり心を傷つけるサカキ、しかし今のアリサにはそんな事どうだってよかった。
カズキと共に任務に赴ける、それに……行き先が故郷であるロシアならば尚更だ。
いずれカズキと共にロシアに行こうと思っていた、今は亡き両親に自分の大切な人を紹介したかったから……。
「……はぁ、博士が余計な事を言うから……」
「まあまあ、せっかく夫婦になったのにすぐさま離れ離れになるのは酷だと思うよ? それにカズキ君達ばかりに頼ってしまってはこの支部の神機使い達も成長しないだろうしね」
「――アリサ、わかってはいると思うがあくまで任務でロシア支部に行くんだ。決してそれを忘れるな?」
「はい、了解しました!!」
ギロリと睨まれ、アリサは力強く返事を返す。
それが信用に値したのか、それとも単純にこれ以上アリサ達の相手をするのは疲れるのか。
「では明日の早朝に出発しろ、いいな?」
それだけを言って、ツバキは2人を開放したのだった。
――失礼しました、2人はそう告げて支部長室を後にして、そのままカズキの自室(今では夫婦になったのでアリサと同居中である)へと赴く。
「…………アリサ」
「うっ……」
部屋に入り扉を閉めてから、カズキはアリサに少し呆れたような表情を向ける。
それを見て彼が少しだけ怒っている事に気づき、ばつが悪そうに視線を逸らすアリサ。
「旦那としては奥さんが一緒に居たいって思ってくれるのは嬉しいけど、これから先もこんな調子じゃ駄目だよ?」
「す、すみません……」
今思い返しても、随分と勝手なことを言ったと思う。むしろツバキに許可を貰えただけでもありがたいと思えるほどだ。
「わかってるなら構わないよ。それより明日の準備をしようか?」
「はい、そうですね」
「でもロシア支部に居たアリサがいるなら安心かな、色々と向こうの案内とかしてくれる?」
「…………」
「?」
どうしたのだろう、急にアリサの表情が困ったようなものに変わってしまった。
「アリサ?」
「すみませんカズキ、実は……向こうに居た時、ただアラガミを殺す事しか頭になくて……」
だから、あなたにロシアの案内はできないんです。そう言ってアリサは寂しく笑った。
そこでカズキはようやく気づき、そして己の浅はかさを悔やんだ。
そうだ、ロシア支部に居た時のアリサはあの男――オオグルマによって傀儡にされていたのだ。
「ごめん、アリサ……」
「気にしないでください、それに今はもう大丈夫です。あなたが……カズキが私を光の中に戻してくれたから」
だから大丈夫、アリサは微笑みながらカズキの身体を抱きしめる。
もう自分を道具にしていたあの男は居ない、そして自分をずっと苦しめてきた『両親を失った』記憶も正面から立ち向かって乗り越えることができた。
「――ゴーレ・ニェ・モーレ、ブイピエシ・ダ・ドゥナー」
「???」
「悲しみは海にあらず、すっかり飲み干せる――ある人が教えてくれたんです。その言葉の通り、私は悲しみを飲み干す事ができました」
オオグルマの呪縛から逃れても、アリサはずっと立ち止まったままだった。
でも今は違う、しっかりと前を向いてこの無慈悲な世界を生きようとしていると思う。
「……そっか」
「はい、だからカズキが気にする必要も心配することもないですから安心してください。それよりも……向こうに着いたら、両親のお墓参りに来てくださいませんか?」
「もちろん、挨拶もしたいと思ってるし」
「ありがとうございます。パパとママにずっとカズキの事を紹介したいと思っていましたから」
自分を救ってくれた人、自分を愛してくれる人を紹介する。
その喜びはただ大きく、アリサは視線と口元に笑みを浮かべてしまう。
そんな彼女の心中がわかってしまうカズキは、おもわず苦笑を浮かべてしまった。
一方で――先程ツバキに言われた『新種のアラガミ』について思考を巡らせる。
(何も起きなければいいけど……)
―――数日後。
「…………」
「…………」
ヘリのプロペラの音だけが、カズキの耳に入っている。
もうすぐロシア支部に着くだろう、しかし今の彼はそんな事より気になることがあった。
それは――ロシア支部に近づくにつれ、徐々に顔を強張らせていくアリサの存在である。
最初は他愛ない話をして過ごしたりしていたのだが、日を過ぎる度に彼女の口数が減っていき……今では殆ど話さない始末。
明らかに元気がない姿にカズキは『どうしたの?』といった問いかけをするのだが、アリサは決まって『なんでもありません、ごめんなさい』と返し、申し訳なさそうな顔を見せるのだ。
そんな顔を見せられてはカズキとしてもそれ以上は何も言えず、今ではなんとなく空気が重く気まずい。
――それから暫しして、ロシア支部が見えてきた。
ここも極東と変わらない、アラガミの脅威から逃れるために装甲で周りを囲んだ……悲しい箱庭だ。
いつか人類はこの箱庭から自由に飛び出せる日が来るのだろうか、そんな事を考えながらカズキは何気なしにロシア支部を見つめ。
「っ、あれは……!」
その人類の地を無慈悲に破壊しようとする存在を、視界の中に収めた。
「アリサ、アラガミがロシア支部に向かってる!」
「…………えっ?」
ボーっとしていたのか、抑揚のない返事を返すアリサであったが、やがてカズキの言葉の意味を理解し目を見開いた。
「ヘリはこのまま支部のヘリポートに向かってください、僕達はこのまま出撃します!!」
パイロットに告げ、カズキは急ぎ神機が収納された鞄を開き己の相棒を握り締める。
一息遅れてアリサも自分の神機を手に取り、他の乗員にヘリの扉を開いてもらい――十メートルはあろう高さから2人は飛び降りた。
急激な環境の変化によって荒野と砂漠が広がるロシアの地に降り立つカズキとアリサ、それを感じる暇もなく2人は地を蹴って走る。
「アリサ、わかってるとは思うけどアラガミ能力は使わないでね?」
「はい、人前で使うとどうなるかなんてわかっていますから!!」
そうこうしている内に、2人はロシア支部に向かっているアラガミの集団に追いついた。
(オウガテイルが、十…十五……十八に、ヴァジュラが二体か……!)
少々数が多い、それに悠長に一体ずつ相手をしていればアラガミが支部に侵入してしまうだろう。
とにかく数を減らさなければ、カズキは近くのオウガテイルに狙いを定め――たった一息で、二体の首を呆気なく斬り飛ばした。
それを確認する間もなく更に別のオウガテイルへと踏み込み、相手がこちらに気づく前に二体。
まさしく速攻、神速の如し速さでカズキは四体のオウガテイルの生命活動を停止させた。
「ガアアァァッ!!」
「グオオォォッ!!」
そこでようやく残りのオウガテイルとヴァジュラがカズキ達を捕喰対象だと認識して、大きく吼えた。
だが2人は悠長にそれを聞いているわけではない、まずアリサが大きく跳躍しながら神機を銃形態に変形させた。
僅か一秒にも満たない時間で変形を終了させ、銃口を地面に向けながら撃ち込んでいく。
無造作に見えながらも確実にアラガミへと当てていき、オウガテイル達の身体や顔に風穴を開けていった。
その隙にカズキが縫うように移動しつつ、まだ生きているオウガテイル達の息の根を止めていく。
確実に、けれど素早く無駄のない動きで2人はアラガミの命を奪っていき……奇襲に成功してから僅か二分、たった二分足らずで残るは二体のヴァジュラだけとなっていた。
「ギャガアアァァァッ!!」
「――――っ」
ヴァジュラの咆哮が鼓膜を刺激し、2人は装甲を展開。
次の瞬間に衝撃が襲い掛かり、僅かに顔をしかめながらもしっかりと足に力を込め、2人はヴァジュラ達が放った電撃を防御する。
しかし――今の電撃が通常のヴァジュラより威力が高く放つ速度も速い事に気づいた。
通常よりも強い固体のヴァジュラ種のようだ、だから――余計に無駄な時間をかけないようにしなくては。
「しっ!」
大きく踏み込み、一息でヴァジュラの懐へ。
それと同時にカズキは神機を捕喰形態へ、怪物の口がヴァジュラのマントを引き千切るように喰らった。
「うおお……!」
そのオラクル細胞を体内へと摂取、自らのオラクル細胞を活性化させバースト状態へと移行させる。
それで決まり、ヴァジュラ達の視界からカズキの姿が消え――次の瞬間には、彼の神機の刃がヴァジュラの巨大な首を文字通り粉砕していた。
おそらく自分が斬られたことも気づかなかっただろう、それほどまでに重く速い一撃であった。
そしてもう一体のヴァジュラも――アリサが放った斬撃によって大きく顔を抉られ、返す刀で放たれた二撃目によって首を抉られ地面に平伏した。
「…………」
「ゴ、ガ……!?」
まだ生きている、僅かに漏れるヴァジュラの声を聞き取ったアリサは、捕喰形態で今度こそヴァジュラの顔を喰らい沈黙させる。
「――よし、オウガテイルのコアを摘出して終わりだ」
「はい」
地面に横たわるオウガテイルの死骸を一つ一つ神機で喰らっていくカズキとアリサ。
その作業が終わった頃……近くのゲートが音を立てて開き、2人はそちらへと視線を向けた。
「えっ……アラガミがいなくなってる!?」
「なんで……って、あれ?」
出てきたのは三名の少年少女、歳はアリサとそう変わらないであろう。
神機を持つ辺り神機使いであるようだが、外の光景を見て目を丸くしていたが、やがてその中の1人がカズキ達に気づき駆け寄ってきた。
「…………あんた達、何者だ? 神機を持ってるってことはゴッドイーターみたいだけど」
赤髪の少年が訝しげな表情を隠す事のないままカズキへと問うた。
「フェンリル極東支部第一部隊第二隊長の抗神カズキ中尉です。ロシア支部に向かう途中にアラガミの群れを発見したので、ヘリから降り迎撃しました。あなた方はロシア支部の神機使いですか?」
「きょ、極東支部のた、隊長!? し、失礼しました! 俺…じゃなかった、自分はロシア支部第三部隊所属の“アーサー・クリフォード”であります!!」
「……同じく、ヘルマン・シュルツです」
「ダニエラ・バローニオです」
カズキが自分達よりも階級が上だと知るや、アーサーと名乗った赤髪の少年は慌てて姿勢を正す。
残り2人の少年少女もカズキに駆け寄り、自らの素性を明かした。
「第三部隊って事は防衛班か、なんだか仕事を横取りしたような感じになっちゃったね……」
「いえ、そんな……でも、あれだけの数をたった2人で倒すなんて……」
アーサーから向けられる尊敬の眼差しに、カズキは苦笑する。
「ああ、そういえばこの子の紹介をしてなかったね。僕と同じ第一部隊所属のアリサ・イリーニチナ・アミエーラ、前にこの支部に所属していたから知っているよね?」
「………………えっ?」
「……?」
アリサの名をカズキが紹介した瞬間、辺りの空気が明らかに変化した。
そこでようやくカズキは気づく、アリサが先程から無言でありアーサー達から露骨に視線を逸らしている事に。
「……アリサ、なのか……?」
「…………」
呟くようなアーサーの言葉に、アリサは無言で頷きを返すのみ。
一体どうしたのか、この空気にカズキはわけもわからず困惑する。
そんな妙な沈黙が数分間続き、沈黙を破ったのは――ダニエラと名乗った少女であった。
「……とにかく中に入りましょう。抗神中尉も支部長に挨拶をしなくてはいけないでしょうし」
「うん……そうだね……」
とにかくいつまでもここに居るわけにはいかない、とりあえずカズキは彼女の言葉に頷きを返しゲートへと向けて足を進めていく。
(……何なんだ、この空気は)
殺伐としたものではないが、互いに壁を作っているかのような息苦しさ。
アリサがロシア支部に居た時に何があったのかを、カズキは訊いたことはなかった。
それは彼女のトラウマを刺激してしまうという彼なりの配慮であったのだが……どうやら、訊かなければならない時がきたようだ。
(アリサ、一体このロシア支部で何があったんだ……?)
To.Be.Continued...
『アーサー・クリフォード』『ヘルマン・シュルツ』『ダニエラ・バローニオ』
この三名は『アリサ・イン・アンダーワールド』にてアリサと共に戦った神機使い達です。
読んでいない人の為にちょっとした説明を入れた方がいいのかな……もしもう少し詳しく知りたいと思った方はお手数ですがお知らせください。