実は前にちっちゃくなったカズキの話をやった筈なのですが……そのデータが無いので前回とは少し矛盾点があるかもしれません。
申し訳ありませんが、ご了承ください。
「~~~~♪」
楽しそうに鼻歌を歌いながら、恋人の元へと向かうアリサ。
今日は非番、イチャイチャできるチャンスをこの少女が逃すわけがなかった。
(ちゃんとシャワーを浴びてきましたし、下着もお気に入りのを穿きました……完璧です!!)
一体何を企んでいるのか、ふふふ……と怪しい笑みを浮かべながら歩く彼女を見て、周りの者達はちょっと引いているのだがそれはさておき。
「カズキー、いますか?」
彼の自室の扉をノックするアリサ、すぐさま彼が扉を開ける……そう思い込んでいたのだが、いつまで経っても反応が返ってこない。
「…………あれ?」
おかしい、彼は自分と同じく非番であるはずだ、確認したのだから間違いない。
どこか外出しているのだろうか、彼に会えずアリサは困ったように眉を八の字に曲げながらテンションを落とした。
とはいえ外出しているのならば仕方ない、本当は不満ありありなのだが仕方ないと自分に言い聞かせて、彼女は彼の自室を後に……。
「アリサお姉ちゃん!!」
「ローザ?」
こちらに駆け寄ってくる自分とよく似た容姿の少女を見て、アリサは彼女の名を呼びながら首を傾げた。
「どうしたんですか? なにやら慌ててるように見えますけど……」
「う、うん……あのね……お兄ちゃんが……」
「っ、カズキがどうかしたんですか!?」
一瞬で険しい顔になり、ローザに詰め寄るアリサ。
それを落ち着いてと宥めながら……ローザは、よくわからない事を口にした。
「お兄ちゃんが、可愛くなっちゃった!!」
「……………………はい?」
■
「――かずき、ちっちゃい」
「らうえるも、ちっちゃい」
サカキ博士の研究室にて、小柄な少女と少年がじゃれ合っている。
少女の方はラウエル、サリエルの突然変異によって人間と同じように生きる道を選んだアラガミである。
そして少年の方は……。
「…………おい、どうすんだ?」
「どうするって……アリサに預ければいいんじゃね?」
「それはやめろ、カズキのヤツ軽いトラウマになりかねない」
(……否定できない)
集められた第一部隊の面々は(アリサと任務でいないリンドウは除く)、少年――カズキへと視線を向け、溜め息をついた。
既におわかりかもしれないが、カズキは今小さくなっている。
身体だけでなく精神も幼くなっており、その姿は大変愛らしい……失礼、話が逸れた。
そもそも前にもあったような気がする事態になっているのも、全てはいつも怪しい狐目の中年マッドサイエンティストのせいである。
中年――サカキ博士は、オラクル細胞の研究という名目でよくカズキに怪しい薬品やらの試飲をお願いしているのだが、今の彼の状態の原因もそれだ。
もちろん博士の研究は全てが遊びというわけではない、今回の薬だってオラクル細胞を自由に変革できる薬を作ったつもりだったのだが……それがおかしな効果を発揮して、彼の肉体が幼くなってしまったわけで。
幸いにも博士によれば一日もあれば治るという事なのだが、ただ黙って待っている訳にはいかないのだ。
何故なら、今のカズキを見れば間違いなくアリサが暴走するからである。
「……あのさ、誰かが一日預かるっていうのは?」
「そうしたいのは山々だけど……私、これからミッションなのよ」
「第二、第三部隊の面々も装甲壁の強化で出払ってるしな……ソーマ、カズキが元に戻るまで預かれない?」
「ふざけんな。というか言い出したテメエが預かれ」
「いや、俺だって任務があるしさ……」
「じゃあ、私が責任を持って――」
『却下』
サカキの言葉を遮って、全員が否定の意を示す。
元凶が責任を持つというのは当然だが、彼に預けたらカズキがどうなるかわかったものではない。
なんだか肩を落としているサカキに、カズキとラウエルは顔を見合わせ首を傾げていた。
「ローザに預けると……間違いなくアリサもセットでついてくるよな……」
「というより、アイツに預けたら事態を余計にややこしくするだろ」
辛辣な言葉を放つソーマ、しかし誰もがそれを否定する事はできなかった。
「そういえば、ローザはこの事を知ってるのかしら?」
「いや、ややこしくなるから教えてはいないよ」
「博士、GJ」
「……………………ん?」
ソーマの超人的な聴力が、外の音を聞き取る。
何やら、ドドド……という表現が似合いそうな音が、真っ直ぐこちらに向かって来ている。
「――――」
一体なんだ、ソーマは一瞬そう考え……その音の正体を理解した瞬間、跳び上がるように立ち上がってカズキを抱きかかえた。
「う……?」
「じっとしてろ」
「ソーマ、どうし――――たぁっ!!?」
彼の行動が理解できず、コウタは問いかけようとして……扉が勢いよく開いた音に驚いてしまう。
「来たか……!」
「げっ……!?」
まるでアラガミと対峙しているかのような緊張感が、場に訪れる。
入口の扉が開き、入ってきたのは……双子かと間違えられるような2人の少女。
「ほらお姉ちゃん、お兄ちゃんすっごく可愛くなってるよ!!」
「…………」
「あ……ありさー♪」
抱きかかえられながらも、アリサの姿を見て笑顔を浮かべるカズキ。
その笑みは幼さ故の無垢な可愛らしい笑みで、おもわず綻んでしまうようなものであった。
それを間近で、しかも自分に向けられているというのがわかってしまったら……アリサとしては、もう堪らないわけで。
「――カズキ、愛でさせてください!!!」
瞳にヤバイ感じの色を宿し、一直線にカズキへと向かっていった。
「チィ!!」
舌打ちをしながら、跳びかかってきたアリサを転がるように避け、ソーマはカズキを抱えたまま研究室から抜け出した。
「ありさー!!」
「黙ってろ、今のアイツに捕まったら泣きを見るのはお前だ!!!」
「まあぁぁぁぁてええぇぇぇぇぇっ!!!!」
「――――っ!!?」
ぞわりと、背筋が震え上がった。
地獄の底から響くような声を発しながら、ソーマを追いかけるアリサ。
その表情は恍惚に満ち溢れ、冷静沈着なソーマですら顔を引きつらせる程に怪しく恐ろしく映った。
これは本当にヤバイ、今のアリサにカズキを渡したら男としての何かが奪われる。
瞬時にそう本能的に理解したソーマは、全速力でエレベーターに乗り込みエントランスロビーへ。
(どうする……? オレの部屋に行っても感づかれる、かといって外に連れ出すわけにもいかねえ……!)
「うー……ありさ……」
(っ、人の苦労も知らずにこのバカップル共は……!)
見捨ててやろうか、割と本気でそう考えたソーマであったが、なんだかんだ言いつつもその選択肢を彼が選べるわけも無く。
「……ソーマ、その子供は誰だ?」
そんな彼に、ツバキが訝しげな表情を浮かべこちらへと近付いてきた。
「つばききょうかーん!!」
「…………」
「カズキが小さくなった。サカキのおっさんのせいだ、オレは関係ねえ」
「…………そ、そうか。この子はカズキだったのか」
「???」
どうしたのだろう、どことなくツバキの様子がおかしいように見える。
少しだけ目尻を下げ、普段の厳格な態度はなりを潜めているように見えるが……。
「カズキィィィィィィィッ!!!」
「うおっ……!?」
エレベーターから飛び出し、アリサが一直線にこちらへと向かってくる。
こうなれば実力行使でおとなしくさせる、そう思いソーマは身構え。
「――何をやっているか、アリサ!!!」
エントランス全体に響き渡るようなツバキの怒声が、アリサの暴走を止めてしまった。
「あ、ツバキ教官……?」
「ここは遊び場じゃないんだ、いくら非番だからといっても好き勝手暴れていい道理にはならん!!!」
「あ、いえ、その……」
ツバキの鋭い視線で睨まれ、あっという間に冷静さを取り戻していくアリサ。
「……ソーマ、カズキはどれくらいで元に戻れるのだ?」
「サカキのおっさんの話では一日で戻るだと」
「そうか……たったの一日か……」
「…………ツバキ教官?」
なんだろう、今の言葉にどこか落胆の色が見えたような……。
「……とにかくこの子は私が預かっておこう、アリサは罰として訓練室の清掃を命じる!!」
「えっ!?」
「文句があるのか?」
「…………いえ」
ならばいい、そう言ってからツバキはソーマからカズキを受け取り優しくだっこの態勢へと移行した。
「ではアリサ、くれぐれもサボらないように。それとソーマは博士に騒動を起こさないでくれと伝えておいてくれ」
「あー、ありさー……」
「カ、カズキ……カズキーーーーーーッ!!!」
手を伸ばし、まるで今生の別れのような悲痛な声を出すアリサ。
しかしツバキはそれを無視して、カズキを連れたままエレベーターへと乗っていってしまった。
(なんか知らんが助かった……)
おもわぬ助け舟を得て、ソーマは安堵するように溜め息を吐き出す。
「……ツバキ教官、この恨み……忘れません!!!」
「…………」
自業自得だろうが、とか、色々とツッコミを入れてやりたくなったが、面倒になったのでソーマは静かにその場を立ち去った。
――次の日。
博士の読み通り、カズキは元の姿に戻ったのだが。
「なんだか妙にツバキ教官の機嫌が良かった」と、語ったとかなんとか。
……それがどういった意味なのか、ツバキ以外知る者はいない。
「ふむ……今回の薬、博士に頼んでまた作ってもらうか」
如何でしたでしょうか?
……ツバキ教官の勝手なイメージが私の中で出来てしまいましたが、そこは広い心で許してください。