時系列は基本第2部エピローグ後になりますが、違う場合は前書きに書いていきます。
早速原作と時系列が違いますが、細かい事は気にしないでください。
番外編1 ~初恋ジュース~
「ん……?」
ある日のアナグラ。
自室で休んでいたカズキは、メールが届いている事に気づき開いてみた。
「……サカキ博士から?」
珍しい人物からのメールだ、内容は……節電にご協力ををお願いしますという内容であった。
「何をするつもりなんだろう……?」
あの博士が何かをしようとしている。
それだけで何だか嫌な予感がするカズキであったが、特に気にする事無くメールの通り節電を心がけようと思いながら、読みかけの読書を始めたのだった。
――それから、数日後。
「ソーマ、いる?」
カズキはソーマの自室に足を運んでいた。
彼から借りていた音楽ディスクを返すためだ、インターホンを鳴らすが……応答が無い。
(おかしいな、気配はするから居るとは思うんだけど……)
もしかして寝ているのかもしれない、だとしたら起こすのは可哀想だ。
また時間を改めるとしよう、そう思い踵を返そうとした瞬間――ガスの抜けたような音と共に部屋のドアが開いた。
「ソーマ、もしかして寝て……た?」
振り返り、申し訳なさそうな口調で言いかけて、カズキはキョトンとした表情を浮かべてしまう。
「…………寝てねえよ」
「ソーマ……?」
一体どうしたのだろう、彼を見た瞬間カズキはすぐさまソーマの様子がいつもと違うことに気づく。
普段から不機嫌そうな表情を浮かべているソーマだが、今はいつも以上に機嫌が悪そう……というより、明らかに機嫌が悪い。
それに褐色の肌が少し青い、体調を崩しているようにも見えカズキは彼へと歩み寄る。
「ソーマ、もしかして具合が悪い?」
「………………まあな」
チッ、と舌打ちをしながら気だるげに答えるソーマ。
「一体どうしたの? 医務室に行く?」
「いや、いい。……コウタとシオのヤツ、次に会ったら絶対にぶっ飛ばす」
「……コウタにシオちゃん?」
いまいち状況がわからないが、ソーマの不調にあの2人が関与しているらしい。
「ソーマ、あの2人が何かしたの?」
「……その様子だと、まだあのふざけた飲み物の被害には遭ってないようだな」
「飲み物?」
「博士が作った『初恋ジュース』とかいう名前も中身もクソッタレな代物の事だ」
「サカキ博士が……」
彼の名前が出た瞬間、カズキはなんとなくろくでもない事が起きていることを理解する。
「つまり……ソーマはそのジュースを飲んで体調を崩してるってこと?」
「ああ。……あんなモンは飲料じゃねえ」
げんなりとするソーマ、彼がここまでの反応をするという事は相当不味いのだろう。
「話の流れからコウタとシオちゃんに無理矢理飲まされた感じだけど……断ればよかったんじゃない?」
「…………シオが、飲まないと残念そうな顔をしたから」
「…………」
何も言わず、ポンポンとソーマの肩を叩くカズキ。
目の前の彼は間違いなく男だ、というかシオも無邪気そうに見えて結構あざとい事をするものだ。
まあ十中八九コウタが吹き込んだのだろう、カズキはおもわず溜め息をつく。
「とりあえず今日は休んでた方がいいよ、幸いにも緊急の任務は無いようだし」
「そうさせてもらう。……サカキのおっさんに言っておけ、あんなモンを二度と作るなって」
「うん、言っておくよ……」
割と本気の殺気を込めた口調で言われ、カズキは反射的に頷きを返してから、ソーマに音楽ディスクを渡し部屋を後にする。
「――――おええ」
「う、うぐ……美しくないよ………」
「タツミさんに、エリックさん?」
エレベーター前にある自販機の傍で、タツミとエリックが俯き顔を青くしている。
そんな彼等の傍にはピンク色の缶が転がっており、透明な液体が床へと零れていた。
「あの、大丈夫ですか?」
「お、おう……カズキか……」
「や、やあカズキくん……うっぷ……」
「……もしかして、例のジュースを飲んだんですか?」
カズキの問いに、2人は声を出さずに頷きだけを返す。
かなりのダメージを負っているようだ、普通の神機使いより強靭なソーマですら気分を悪くしているのだから、この2人の状態はある意味当然とも言える。
(普通の人が飲んだら、死んじゃうんじゃないか?)
「コ、コウタに騙された……何が初恋の味だよ。甘ったるくてしょっぱくて苦くて酸っぱくて……こんなの初恋の味じゃねえ!」
「ぐふっ……さ、先に飲んでいて正解だった……」
「タツミさんはコウタに言われて飲んだみたいですけど、エリックさんはどうしてこんな怪しい飲み物を飲んだんですか?」
「い、いやね……エリナが飲んでみたいと言っていたのを聞いて、何だか嫌な予感がしたからボクが先に飲んで安全かどうか確かめようと……」
「……同じ妹を持つ者として、エリックさんを心から尊敬します」
いやマジで、いつも華麗だなんだとキザな一面が目立つエリックであるが、妹思いの良いお兄ちゃんである。
ただ……その代償は大きかったようだが。
「カズキ、絶対飲むなよ? フリじゃないからな?」
「ボクからも忠告しておくよ、これは絶対にオススメできないね……」
「今の2人の姿を見たら、頼まれたって飲みませんよ」
「と、とにかく医務室に行こう……」
「そ、そうだね……そ、それじゃあカズキくん……ボク達は失礼するよ」
ヨロヨロとした足取りで、医務室があるエリア行きのエレベーターへと乗り込んでいくタツミとエリック。
アカン、戻しそうだとか、華麗なボクはこんな事じゃくじけないとか、そんな声が聞こえた気がしたがカズキは聞き流してエントランスロビーへのエレベーターへと乗り込んだ。
(うん、このままじゃアナグラの神機使い達が全滅する)
かなりアホな展開ではあるが、まったく否定できない以上この状態を放っておくわけにはいかない。
とにかく今は初恋ジュースを無駄に広めているコウタとシオを止めて、サカキ博士に文句を言わなければ。
「うわ、本当に美味しいですねこれ!!」
「でしょう!? お兄ちゃんにも飲ませてあげないと!!」
「…………えぇ~?」
エントランスロビーに着いた瞬間、カズキはおもわず今のような間の抜けた声を出してしまう。
だってそうだろう、周りから酷評されている初恋ジュースを美味しそうに飲んでいる女の子が2人居るのだから。
しかもそれがアリサとローザなのだから、驚きも倍増なのは言うまでも無い。
「あ、あれ~?」
美味しそうにジュースを飲む彼女達の反応に面食らったのは、カズキだけではない。
彼女達に初恋ジュースを勧めたコウタも、予想外の反応に間の抜けた声を出していた。
「コウタもたまには役に立ちますね」
「こんなに美味しいジュース飲んだの初めて! コウタお兄ちゃん、ありがとう!」
「え、や、あ、喜んでもらえて何よりです……」
(…………何で?)
ソーマに飲料なんかじゃないと断言された代物だというのに、どうしてそんな物体Xが美味しいと彼女達は申しているのか。
ポカンとしているカズキに気づき、アリサとローザはとてとてと彼に駆け寄る。
「カズキ、これ飲んでみてください!!」
「とっても美味しいよ!!」
「うっ……」
満面の笑みで初恋ジュースを差し出してくるアリサとローザ。
……別に2人を疑うつもりはない、しかしあの惨状を見た後ではどうしてもこれが美味しいものだとは思えなかった。
(だ、だけど……こんな笑顔を浮かべている2人の厚意を無碍にするのは……)
アリサの恋人として、ローザの兄としてそれは許されない。
何よりカズキは人が良いのだ、他者の厚意を無碍にする事などできるわけもなく。
「…………ありがとう、2人とも」
自分でもわかるくらい引きつった笑みで、2人から初恋ジュースを受け取って……そのまま一気に飲み干した。
「―――――――あれ?」
違和感。
それに気づくのに一秒、その後に感じたのは――美味しいという味についての感想。
(凄い美味しい……今まで飲んできた飲み物で、一番美味しいや……)
驚き半分、違和感半分。
「美味しいですよね? 博士もたまには凄いものを発明しますよね」
「ローザ、博士の事少し見直したよ!」
「…………」
確かに美味しい、それは紛れも無い事実である。
それに関しては別に構わない、むしろ美味だったのはカズキとしても嬉しい。
けれど――わかってしまった。
どうして自分とアリサとローザには美味しいと思えて、他のみんなは悶絶するほどに不味いと思えたのか。
自分達と他の者達との違い、それは――アラガミ化である。
どんな成分を使っているのかはわからないしわかりたくもないが、このジュースにはアラガミが好む味なのだろう。
だから自分達にはこのジュースが美味しいと思え、他のみんなとは反応が真逆なのだ。
確証は無いが、きっとシオやラウエルもこのジュースを美味しいと思うだろう。
何よりこのジュース、美味しいが味の説明ができない。
アラガミを食べている時と同じだ、カズキは疲れたように溜め息をついた。
(博士、この初恋ジュースは僕達が処分しますから……もう二度と、こんなものを作らないでください!!)
――結局、初恋ジュースを飲んだ神機使い達は全員その日はダウン。
残ったジュースはカズキ達アラガミ組が美味しくいただき、後日――ソーマ達が協力してコウタに初恋ジュースを浴びせるように飲ましたとか。
「さーて、次は何を作ろうかな♪」
「お願いですから、もうやめてください」
私の中では初恋ジュースってアラガミが好む味だと思うんですよね。
原作でもカノンさんが任務先でアラガミが寄ってきたような…と言っていたし、リンドウの神機だったレンも大絶賛していましたから。