神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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最後の戦いが始まりを告げる。

再び家族と生きる道を得る為に。

愛すべき彼の願いを叶える為に。

2人のゴッドイーターは、“彼女の世界”へと足を踏み入れた………。


第2部捕喰70 ~かつての誓いを果たすために~

「…………?」

 

 意識が混濁する。

 視界が少しずつ開けていき……完全に戻った時には、アリサは見知らぬ場所に立っていた。

 右手には自身の神機、すぐ近くには自分と同じようにカズキが立っている。

 しかし……自分とカズキ以外の人物、第一部隊の面々やシオにラウエルなどの姿はない。

 

 それに、なんだか身体に不思議な浮遊感を覚える。

 現実でありながら現実ではないような……それに、自分はエイジスにてローザと戦っていたはず。

 それなのに何故――荒廃した建物が並ぶ道に、自分は立っているのだろうか。

 

「ここは……」

 

 落ち着け、まずは自分達が置かれている状況の整理をしなくては。

 

(私はカズキと一緒にローザのコアに彼女のオラクル細胞を流し込んで……)

 

 気が付いたらこの場所に居た、記憶を辿ると自分が一体何をしたのかを思い出せた。

 しかしここは一体何処なのか、何故自分とカズキはこんな場所に居るのか。

 当然の疑問を抱くアリサの耳に――カズキの声が入り込んできた。

 

「…………ここ、は」

「カズキ?」

 

 呟くように告げたその言葉に、確かな驚愕と動揺の色が見え、アリサはカズキへと視線を向ける。

 彼の表情は放った言葉と同じ驚愕に包まれており、また今自分達が居る場所を知っているかのようにも見えた。

 

「カズキ、ここが一体何処なのか知っているんですか?」

「…………ここは、アナグラの外部居住区の一角だよ。とはいっても“今”のではないけれど、ね」

「えっ?」

 

 いまいちよく理解できないカズキの言葉に、アリサは首を傾げる。

 そんな彼女の反応を予想していたのか、カズキは言葉を続けるが……。

 

「ここは―――僕とローザにとって運命の日となった場所、両親が殺され……離れ離れになった場所だ」

 

 次に放たれた言葉は、アリサにとって到底理解できない内容であった。

 

「…………えっ?」

 

 ちょっと待て、それは一体どういう意味なのか。

 

「カズキ、それって……」

「――ここは現実じゃない。僕達が流し込んだローザのオラクル細胞とコアが感応現象を引き起こした結果、きっとローザの過去の記憶の中に入り込んだんだと思う」

「過去の記憶……」

 

 それならば、アリサにも経験がある。

 かつてカズキと感応現象を引き起こして、互いの過去の記憶を読み合った。

 しかし……今の状況はあの時とはあきらかに違いすぎる、記憶の中に入り込むなど現実にあるのだろうか……。

 

「――正確には、みんなの意識が混ざり合った世界だよ、お兄ちゃん」

 

「っ」

「…………」

 

 背後から聞こえた声に、アリサはすぐに振り向き……カズキは一度間を置いてから、ゆっくりと振り返った。

 そこに居たのは……服装こそ違うものの、アリサそっくりの少女。

 

――否、彼女が誰かなど2人にはすぐに理解できる。

 

『――ローザ』

「うん……久しぶり、でいいのかな? お兄ちゃん、お姉ちゃん」

 

 少しだけ気恥ずかしそうにしながらも、ローザは2人に笑みを返しながらそう告げた。

 

「……やっぱり、まだあなたの意識は残っていたんですね」

「うん。だけど……お姉ちゃんも無茶な事を考えるよね、あのままローザを始末すれば良かったのに……」

「そんなわけにはいきませんよ、だってあなたは私の義理の妹になる子なんですから」

 

 ね? と、アリサはカズキへと視線を向ける。

 しかし彼は反応を返さずに……黙ってローザへと視線を向けていた。

 

「……お兄ちゃん」

「…………僕は、君を見殺しにしようとした」

「仕方ないよ、それにお兄ちゃんの選択は正しいと思う」

「……でも、そんな選択は選ばない。絶対に……助けてみせる」

 

 それこそが、カズキの真の願い。

 仲間達によってその道も開かれた、後は……彼の覚悟だけ。

 

「帰ろうローザ、そしてまた一緒に暮らそう。今度こそ……必ず守ってみせるから」

「お兄ちゃん……」

「そうですね。みんなで一緒に帰りましょう、その為に私達はここまで来たんですから」

「お姉ちゃん……」

 

 ローザの瞳に、涙が滲む。

 化け物になった自分を、最愛の義兄とその恋人が命懸けで救おうとしてくれている。

 自分を本当に愛してくれている、それが嬉しくて今にも泣いてしまいそうだ。

 そんな彼女を見て、2人は優しく微笑み……神機を強く握り締めた。

 

「僕達は、帰るんだ」

「ええ、必ず皆さんの所に帰るんです。ローザを連れて」

 

――だから。

 

――お前は、邪魔だ。

 

 同時にそう告げ、2人はある一角へと視線を向けた。

 視線の先には瓦礫の山が広がっており、その一番上には……あるアラガミがこの世界の絶対者のように君臨している。

 無論そのアラガミの正体はヴァルキリー、瓦礫の山から降り立ちカズキ達と対峙する。

 

「こいつを倒せば……全て終わる」

「カズキ、無茶だけはしないでくださいね?」

「アリサもね、ローザは下がっているんだ」

「う、うん……」

 

 カズキの指示に従い、ローザは少しずつカズキ達から離れていく。

 それを見届ける前に―――ヴァルキリーが動いた。

 一息でカズキ達と間合いを詰め、まずはアリサへと獲物の槍を放った。

 その攻撃が命中する前に、カズキの回し蹴りがヴァルキリーの身体を吹き飛ばし互いの距離が離れる。

 

「消えろ、もう」

 

 絶殺の意思を込めて、カズキは神機の切っ先をヴァルキリーに向ける。

 

――それが、始まり。

 

 絶対に負けられない、カズキとアリサの戦いの幕開けとなった――

 

 

 

 

 先に動いたのはアリサ、ほぼ同時にヴァルキリーも動く。

 上段から振るわれるアリサの斬撃、それを回避する前にヴァルキリーの槍が彼女の腹部を貫こうと放たれた。

 しかし甲高い音を響かせ、ヴァルキリーが放った一撃はカズキの神機によって防がれ。

 アリサの斬撃が、そのままヴァルキリーへと襲い掛かる。

 

 仕留めた――そう思ったアリサであったが、小さな手応えしか感じず僅かに顔をしかめた。

 彼女の一撃は確かにヴァルキリーへと届いたが、致命傷には程遠く僅かに右肩を掠めただけに終わる。

 回避した事でヴァルキリーとカズキ達との間合いが離されるが、逃がさぬとばかりにカズキが大きく踏み込んだ。

 

 下から振り上げる斬撃。

 空気を切り裂きながら放たれたそれは、けれどヴァルキリーの運動性能の前には空振りに終わる。

 

「チィ――――!」

 

 大きく舌打ちをしながらも、カズキは神機を銃形態へと可変させる。

 アリサも一歩遅れて銃形態へと移行、2人同時にヴァルキリーへと向けて銃弾を発射する。

 跳躍し空中に逃げていたヴァルキリーには回避できず、その身体に容赦なく銃弾が撃ち込まれていき……けれど、ダメージを受けながらも着地と同時に一気にカズキ達へと接近してきた。

 

『っ!?』

 

 速い、その動きに2人は急ぎ神機を剣形態へと戻そうとするが、その前にヴァルキリーが眼前に迫る。

 放たれる突き、当たれば身体に風穴が開くであろうそれを、カズキは神機で受ける事を諦め上体を横に逸らして回避。

 

「がっ……!!?」

 

 しかし回避した筈のカズキの口から、苦悶の声が漏れる。

 見ると、彼のわき腹にヴァルキリーの左足が深々と突き刺さっているのが見えた。

 初撃はフェイント、本命の回し蹴りをまともに受けカズキの肉体に悲鳴が上がる。

 骨は軋み、あまりの衝撃に体内の血液がポンプのように彼の口までせり上がり吐血した。

 そのまま吹き飛ばされ、近くの瓦礫の山に爆音を響かせながら埋まるカズキ。

 

「カズ――――っ!!?」

 

 おもわずカズキへと視線を向けてしまい、アリサの動きが一瞬止まってしまう。

 その隙を逃す事無く、ヴァルキリーは二撃目でアリサの腹部を貫いてしまった。

 

「う、ぎ……!!?」

 

 間一髪、どうにか反応して回避行動をとったアリサであったが……さすがに無傷とはいかず、右わき腹の肉を抉り取られてしまう。

 

(強い……!)

 

 2対1だというのに、ヴァルキリーは自分達と互角以上に戦えている。

 アラガミ化によって大幅なパワーアップを果たしているというのに――戦慄するアリサに、ヴァルキリーは容赦なく攻め立てる。

 

「し―――!」

 

 しかし、その前にカズキがアリサを守るようにヴァルキリーへと立ち塞がった。

 突きの一撃、今度はカズキの頭部を貫こうと放たれたそれを彼は神機を横薙ぎに振るって弾く。

 返す刀で上段から迫る槍の一撃、神機では受けられないと直感に告げられすかさず空いている左腕のオラクル細胞を働きかけ硬質化。

 

「っ、く……!?」

 

 見事ヴァルキリーの一撃を受け止める事に成功するが、直接槍を掴んでしまった結果――彼の左手に深々と槍の刀身が埋まり地面へと鮮血が落ちていく。

 

「ぐぁ……!?」

 

 一瞬動きを止めてしまったカズキに、ヴァルキリーは蹴りを放ち彼を吹き飛ばす。

 

――ヴァルキリーに迫るアリサ。

 

 上下左右、あらゆる角度からの斬撃がヴァルキリーを襲う。

 それを冷静に回避、または弾きいなし……ヴァルキリーにアリサの攻撃が届かない。

 

「っ、あぁ――!」

 

 抉られた傷口の痛みで顔をしかめながらも、アリサは裂帛の気合を込めて神機を振るった。

 今までで一番速く重い一撃だ、ヴァルキリーは初めて槍では受けずに左腕に埋め込まれた盾で防御を……。

 

「――――」

 

 ガッ、という鈍い音を辺りに響かせながら、ヴァルキリーの盾とアリサの神機がぶつかり合い―――そのまま、横一文字に左腕ごと切り裂いてしまった。

 相手の防御ごと破り、アリサは更に上段からの一撃でヴァルキリーの左肩から右わき腹までバッサリと切り裂く。

 鮮血が宙を舞い、それには構わずもう一撃繰り出そうとして―――アリサの身体に衝撃と激痛が走った。

 

「う、ぐ……!?」

 

 アリサの二撃目は確かにヴァルキリーに大きなダメージを与えた。

 しかしヴァルキリーとてただやられたわけではない、アリサの二撃目が放たれたと同時に槍を動かし――アリサの腹部を貫通するような一撃を叩きつけたのだ。

 口から吐血し、アリサの視界と思考が急激に霞んでいく。

 

 拙い、これはどう考えても致命傷だ。このままでは……死ぬ!!

 一刻も早く離脱しようとして、けれどヴァルキリーの槍が刺さった状態ではそれも叶わない。

 両手で槍を持ち直し、ヴァルキリーは力を込める。

 更に深く突き刺すつもりだ、止めようとするが今のアリサには満足な力は出せない。

 殺されるという未来がすぐそこまで迫り、負けるものかと歯を食いしばりながらアリサは現状を打開しようとして。

 

――ヴァルキリーの身体が、カズキの一撃によって大きく吹き飛んだ。

 

「――おおぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 激昂し、ヴァルキリーへと大きく踏み込むカズキ。

 今のヴァルキリーには獲物となる槍はない、まだアリサの腹部に刺さったままだからだ。

 

(この機は逃さない……このまま、決める!!!)

 

 これが最後のチャンス、そう思いながらカズキは無理矢理体内のオラクル細胞全てを活性化させた。

 

「――――っ」

 

 それに伴い、彼の全身に引き裂かれるような激痛が押し寄せる。

 歯を食いしばってそれを耐えながら、カズキは神機を振るう。

 空気を切り裂き、耳が痛くなるような風切り音を辺りに響かせながら――カズキの一撃は、ヴァルキリーの右腕を身体から分離させた。

 

「ア――アアァァァアァァァァァッ!!!」

 

 耳障りな奇声を発しながら、ヴァルキリーは大きく口を開く。

 すると、間髪入れずにカズキの右肩へと喰らいついた――!

 そのまま肉を引き千切ろうとするヴァルキリー、しかしそれには構わずカズキの神機がヴァルキリーの腹部を貫通させる。

 

「ガハッ!!!」

 

 たまらずカズキの肩から口を放すヴァルキリー、腹部から神機を抜いてからカズキは相手の左腕も斬り飛ばした。

 

「ぐっ……!」

 

 限界だ、止まれ、死ぬぞと自身の身体が限界を訴え続けている。

 それを猛りだけで蓋をして、カズキは尚も駆け続けた。

 

(帰るんだ……みんなで、3人で帰るんだ……!)

 

 望む願いはただそれだけ、当たり前のように得られる筈である幸せをこの手で掴む為に――彼は決して止まらない!!

 

「カズキ!!」

「お兄ちゃん!!」

「っ、うおおぉぉぉおぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 彼を呼ぶ2人の少女の声を耳に入れ、彼はいまだかつてない力を得た。

 何よりも彼が守りたい存在、大切な妹と……大切な恋人。

 必ず2人を守り、幸せにしていきたいと、カズキは決意をしたのだ。

 

 この願いは彼だけのものではない、彼の事を慕い信頼する仲間達の願いでもある。

 1人ではない、戦っているのも、この願いを抱いているのも自分だけではない。

 それがわかるだけで、彼の身体には幾らでも力が溢れてくる。

 

「僕は絶対に負けない、今までも……そして、これからも!!」

「オオオォォォォォォォォッ!!!」

 

 迫るヴァルキリー、それをしっかりと見据えながら。

 

「消えろ――――!!!」

 

 凄まじいという表現でも追いつかない程の握力で神機を掴み、自身の全てを解き放つような一撃で。

 

 ヴァルキリーの首を跳ね飛ばし。

 

 返す刀で、残った肉体を左右二つに切り裂いて。

 

 今度こそ―――彼が家族と誓った約束を、果たす事ができたのだった。

 

 

 

 

「…………」

 

 地面に倒れるヴァルキリー、そのままサラサラと砂となって消えていく。

 終わった――その場に居た誰もがそれを自覚した瞬間。

 

「は、ぁ……」

 

 力が抜け、カズキはその場に倒れるように座り込んだ。

 

「カズキ!!」

「お兄ちゃん!!」

 

 そんな彼に駆け寄るアリサとローザ、カズキは2人に手を挙げ大丈夫だと告げる。

 

「……終わりましたね」

「そうだね……」

「…………」

 

 カズキとローザの視線が、互いに向けられる。

 相変わらず優しい微笑みを向ける彼に、ローザは……瞳から涙を零しながら、彼へと飛び込むように抱きついた。

 何も言わずローザを抱きしめ返し、その頭を優しく撫でるカズキ。

 もう二度とできないと思っていた事、ささやかな願いが今この瞬間に叶えられたのだ。

 その光景を、少し離れた場所から見ていたアリサは、おもわず瞳に涙を溜めてしまう。

 

――と、3人の身体が少しずつ光に包まれていった。

 

「これは……!?」

「大丈夫だよ、アリサ」

「うん、きっと……現実に戻るだけだから」

 

 この現象に逆らわず、カズキとローザは互いに抱き合ったままどんどん光に包まれていく。

 

「…………むぅ」

 

 1人だけ蚊帳の外、それが気に入らないアリサはカズキの後ろに回り込み抱きついた。

 

「あっ、お姉ちゃんここはローザに譲ってよ!!」

「ダメです。私はカズキの恋人なんですから!!」

「ちょ、ちょっと2人とも……」

 

「今まで散々イチャイチャしてきたんだからいいじゃない!!」

「そういう問題じゃないんです!!」

「このヤキモチ妬き!!」

「なんですか、ブラコンさん!!」

 

「…………」

 

 自分を挟んで、双子だと錯覚してしまうほどに似通った容姿を持つ少女2人が口喧嘩。

 おもわず苦笑してしまうカズキであったが……不思議とこんな状態でも幸せだと感じてしまう。

 

(ありがとう、みんな。ありがとう……2人とも……)

 

 すぐそこまで迫っているカズキにとっての幸せな日常、それを齎してくれた仲間達に感謝しながら。

 カズキ、そしてアリサとローザの身体は……光の中へと消えていった。

 

 

 

 

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