神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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カズキとローザ、2人の兄妹が激突する。

このまま、悲しい結末を迎えてしまうのか、それとも………。


第2部捕喰68 ~最後の一線~

「――――っ!!!?」

 

 “それ”に気が付いたアリサは、転がるかのような勢いで自室のベッドから抜け出し鍵も掛けずに部屋から飛び出した。

 

(なに……!? この感じは……)

 

――カズキの元に行かなくては。

 

 強迫観念にも似た何かによって突き動かされ、アリサは一直線に彼の部屋へ。

 

「カズキ、カズキ!!!!」

 

 ドアを叩く、しかし反応は無く……更に、中から気配を感じる事は無かった。

 

「っ」

 

 引き返し、今度はエントランスへ。

 

「ヒバリさん!!」

「えっ……アリサさん?」

 

 カウンターに身を乗り出す勢いで現れたアリサに、ヒバリはどうしたのかと混乱するばかり。

 

「カズキは、どこか任務に行っていますか!?」

「え、カズキさんですか……? いえ、今日はどの任務にも――」

 

 ヒバリが言い終わるより速く、アリサはその場から離れ再びエレベーターに乗っていた。

 

(この感じ……カズキがアナグラに居ない……?)

 

 アラガミになったアリサは、同じくアラガミであるカズキを感知する能力が備わっていた。

 それ故に、彼女はカズキがこのアナグラに居ないとわかり……それと同時に、言いようの無い不安に駆られていた。

 そんなはずはないと最悪の展開を予期しつつ――次に彼女が向かった先は、神機保管庫。

 

「リッカさん!!!」

「っ、アリサ……ちょうどいい所に来てくれたね」

「えっ……?」

 

 それは一体どういう意味なのか、アリサが訊ねるより早くリッカはアリサを神機保管庫の一角へと連れて行く。

 その一角とは――カズキの神機が保管されている場所。

 しかし今は、あるはずのカズキの神機が影も形も存在していなかった。

 

「これって……!」

「神機は適合者以外は決して扱えない、だから……カズキ君は自分の神機を勝手に持ち出したってことになる」

「…………っ」

 

 まさか、先程から抱いていた懸念がどんどん確信へと変わっていく。

 そして次の瞬間――アリサは自分の不安が当たってしまった事を、感じ取ってしまう。

 

「――――!!!?」

 

 全身が総毛立つ。

 アリサの中にあるアラガミが、ここから離れた場所で凄まじい力を持ったアラガミ同士が暴れ回っている事を察知した。

 しかもそのアラガミ達は――アリサがよく知っている存在!!

 

「リッカさん、私の神機を準備してください!!」

「えっ?」

「いいから早く!! このままじゃカズキとローザが――」

 

「何を騒いでいる?」

 

「っ、ツバキ教官……!?」

「アリサ、一体どうしたというんだ?」

「そ、それは………」

 

 事情を説明しなくては、そう思うと同時に早くカズキの元に向かわなければならないという焦りがアリサを襲う。

 

「ツバキ教官、カズキが……カズキが1人でローザの所に」

「…………」

 

 その言葉を聞いた瞬間、ツバキの表情が明らかに変わった。

 

「……そうか。やはりカズキはその選択を選んだのだな」

「えっ……?」

「アリサ、カズキはな……あのアラガミを殺すために1人で行ったのだろう」

「そ、それくらいはわかります!! でも……でもどうして“助ける”って選択を選ばないんですか!?」

 

 家族なのに、義理とはいえ妹なのに、何故助けようと思わないのか。

 アリサには理解できない、カズキならば絶対に諦める事はしないはずだというのに……。

 

「――ではアリサ、お前は自分の家族がアラガミになっていたとして、悠長に助ける方法を探すのか?」

「…………探します、私は諦めません!!」

「数千という人間を既に喰らっていたとしてもか?」

「え―――――」

 

「……これはカズキには言わなかったが、ヴァルキリーはエイジス島での死闘の後、急速にアラガミ化が進んだのか……フェンリルの保護を受けていない集落を幾つも襲い、罪なき人間達を喰らっているのだ。

 我々が見つけた時には既に人間を喰らった後だった、カズキはそれに気づいているのかもしれない。だからこそ……助けるという選択を捨てたのかもしれないんだ」

「で、でも……だからってそんな」

「仮に助けられたとしても、“人を喰らった”という咎が一生付き纏う事になる。生きた人間を元々人間だった存在が食糧として喰らう、それは……本来ならばあってはならないものだ」

 

 非常時ならば死んだ者の肉を喰らい生き永らえる、そんな選択を選んだ者は過去に何人も存在する。

 しかし生きた人間となれば……心に巣くう罪悪感はそれの比ではない。

 それを背負わせたくはない、そう思ったから……カズキは苦渋の選択を選んだのかもしれない。

 それが正しいとツバキは胸を張って言うつもりはない、どちらも正しく間違っているのだから。

 

「…………」

 

 アリサは反論できなかった。

 だがそれでも、納得できるものでもなかった。

 カズキが選んだ選択も、ツバキの言葉も頭では理解できる。

 しかし感情がそれを許さない、そんなの間違っていると叫んでいる。

 

「…………やっぱりダメです。そんなの」

「アリサ……」

「わかってます。アラガミから力なき人間を守るのが私達ゴッドイーターの役目、でも……私は最後の最後まで諦めるなんて事はできないんです!!」

 

 かつてカズキに教えられた、何があっても諦めてはならないと。

 小さな子供の我侭でしかないかもしれない、それでも……!

 

(それでも私は、ローザを救う事を諦めたりしない!!)

「…………」

「ツバキ教官、止めようと思っても無駄ですから」

「それが命令でもか?」

「はい」

 

 即答する、それほどまでにアリサの決意は確固たるものだ。

 自分はカズキに救われた、彼が居なければ今の自分はここにはいない。

だから今度は自分の番だ、己ができる全てを用いて彼の大切な存在を救ってみせる……!

 

 

 

 

「――アアアァァァァァァッ!!!」

「…………」

 

 エイジス島にて、カズキとヴァルキリー……否、ローザの死闘は続いていた。

 繰り出される突きや斬撃、銃撃によって辺りは崩壊し如何にこの戦いが熾烈を極めているのかがよくわかる光景になっていた。

 

(ローザ……)

 

 既に彼女は正気を失い、他のアラガミと変わりなく自身にとって食糧となるべき存在に襲い掛かる堕ちた神々と化している。

 助けてあげたい、カズキはそう思いながら必死で彼女をシオや自分と同じように生きられる方法を模索した。

 だが見つける事はできず……ヨハネスとの死闘が終わってから再会した時、カズキはローザが越えてはならない一線を越えていた事に気づいてしまっていた。

 

――人の血の臭いが、彼女の身体から発せられていたのだ。

 

 きっと死体を食べたのだ、最初はそうやって自分を誤魔化したが……同じアラガミ故にわかってしまうのか、そうではないと思い知らされた瞬間……彼は、無意識の内に覚悟を決めた。

 彼女を滅ぼす、せめて家族であった自分の手によって、と。

 

「うおおおっ!!!」

 

 裂帛の気合を込め、カズキは槍の一撃を掻い潜りながら間合いを詰める。

 下段から振り上げの一閃、虚しく空を切りけれどカズキは更に間合いを詰めた。

 

「し――――!」

 

 左腕を変形させ、剣状になった腕でローザの身体に突きを放つ。

 

「っ」

 

 鈍い金属音が響き、カズキの一撃は弾かれた。

 まるで鋼鉄のように堅い皮膚だ、数多のアラガミを喰らってローザは今までとは比べ物にならないほどにパワーアップを果たしている。

 攻撃を弾かれ隙が生じたカズキに対し、ローザは彼の心臓目掛けて槍による突きを放つ。

 空気を切り裂き、当たればどんなものでも貫く程の必殺の威力を誇るそれを。

 

「――そんなものじゃ、僕は殺せないぞ!!!」

 

 カズキは、硬質化させた左腕で受け止め、そのままローザの身体ごと真上に投げ放った。

 それと同時に跳躍、一瞬でローザの真上へと移動して。

 渾身の力を込めて神機を振り下ろし、彼女の腹部に深々と裂傷を刻み込みながら地面に叩きつける――!

 

「ガ――アアアァァァァッ!!!」

 

 血を吐きながらも、ローザは拳を振るいカズキを殴り飛ばした。

 受身をとり何事も無かったかのように身構えるカズキ。

 対するローザは、立ち上がるも先程のダメージが大きいのかその動きは遅く、完全に立ち上がった時にはもう一度口から血を吐き出し地面を赤く染め上げた。

 

「グ、グ……」

「…………」

 

 既にカズキには迷いはない。

 相手に一片の情も抱かず、余計な感情を取り去り、微塵の躊躇いもない今の彼は……ローザより強い。

 

「ウ、グ、グ……オニイ、チャン……」

「――ローザ、そんな事で僕の心を乱そうと思っても無駄だ」

 

 踏み込み、肩口からバッサリと切り裂く。

 

「ギィ――――!?」

「…………」

 

 更に斬撃を休む事無く繰り出していき、もはやローザの身体に無事な部分などどこにも存在していなかった。

 この容赦の無い光景を彼を良く知る人物が見れば、間違いなく自分達の目を疑う事だろう。

 それほどまでに今の彼はあまりにもいつもの彼とは違っている、アラガミを殺すだけの機械だと思われても仕方が無いほどだ。

 

――だが、彼は気づいていない。

 

 ポタリと地面に落ちる液体、しかしそれは血ではなく……。

 彼――抗神カズキの瞳から零れ落ちる、涙であった。

 

 感情を切り離しても、彼は自分自身を責めローザに謝罪を繰り返している。

 こんな事しかできない自分を心底恨み、自らの家族に刃を向ける現実に……彼は涙していた。

 それでも彼は止まらない、否、止まれない。

 止まるわけにはいかないと己に言い聞かせ続けながら、彼は戦い続けた……。

 

 

 

 

「…………」

「ア、ゥ……」

 

 血溜まりの中に沈むローザを、カズキは黙って見下ろしている。

 勝負はついた、後は……コアを抜き取るだけ。

 

「…………」

 

 神機を振り上げる、そのまま降ろせば……この戦いは終わりだ。

 

「――――は、ぁ」

 

 振り下ろせばそれで終わり、それで終わりなのに……。

 

「なんで……」

 

 カズキは、最後の最後で躊躇いを見せてしまった。

 

(ダメだ……何を躊躇う必要がある? 僕がここに来たのは家族としてこの子を止めるためだ、それなのに何で……)

 

 武器が降ろせないのか、こんなにも手が震えてしまうのか。

 だがそれは当たり前だ、どうして自らの手で家族を討てるというのだろうか。

 どんなに覚悟を決め己に言い聞かせ、感情を切り離して戦ったとしても……最後の一線を越える事など、人間だからこそできないのだ。

 

「ウ、ァ……」

「っ、くっ……動け、動けよ……!」

 

 振り下ろせば終わりなのに、それができない。

 

――それが、どれだけの間続いていたのか。

 

 呼吸を荒くさせ、カズキはどうにかして神機を振り下ろそうとして――

 

「――待って!!!」

 

 背後から、聞き慣れた少女の声が響き渡った……。

 

 

 

 

To.Be.Continued...


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