神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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ゴッドイーターとして、戦いの中に身を投じるカズキ。


家族との「生き残る」という約束を守る為に、彼は今日もアラガミと対峙する……。


捕喰4 ~防衛班~

「リッカちゃん、ちょっといいかな?」

 

 ここは極東支部の神機保管庫、そこで働く整備班の楠リッカに用があり、カズキは足を運んだ。

 と、そこには先客が。

 

「あっ……たしか、新型さんですよね?」

 

 先客の少女が、少し躊躇いがちに話しかけてきた。

 ピンク色の髪を短く揃えた、可愛らしい少女だ。

 

「えっと……確か、台場カノン先輩ですよね?」

 

 まだ極東支部全員の名前を覚えていないので、尋ねるように名前を口にするカズキ。

 

「は、はい。覚えてくれて嬉しいです!」

 

 どうやら合っていたようだ、カズキは内心ほっとするが……随分腰が低いとも思った。

 確か年齢は自分と同じ19歳だったはずだ、更に彼女は神機使いとして自分より先輩である、だというのに何故敬語でしかもこんなに腰が低いのだろうか?

 

「そ、それに先輩と呼んでくれるなんて……」

「? カノン先輩は僕より先輩なんですから、当たり前じゃないんですか?」

「………うぅ」

 

 何故か、感動したように瞳を輝かせるカノン。

 ……不思議な人だ。そう思っていたら……カズキが会いたかった人物がやってきた。

 

「あれ、カズキ君……」

「リッカちゃん、こんにちは」

「こんにちは。それでどうしたの?」

「うん。この間頼んでた刀身パーツ……できてるかなって」

 

 カズキの問いに「ああ……」とリッカは呟きつつ、カズキを手招きした。

 ついていくカズキ、すると神機の武装が沢山立て掛けられた場所へと移動する。

 

「とりあえず各タイプを強化しておいたよ、それとヴァジュラとの戦いで使い物にならなくなったバックラーは破棄して、新しい盾を作っておいたから」

「ありがとう、リッカちゃん」

「それにしても、君は色々な装備を付け替えるんだね。みんなは武装を固定させるのに」

「少しでも有利な状況で立ち回りたいから、でもその分リッカちゃんの負担が増すなら……」

「ああ、別にそういう意味で言ったわけじゃないよ。それに新型の君はそうやって臨機応変に戦うのが良いと思うし」

「……うん。ありがとう」

 

 でも、無茶をしていいわけじゃないからね。そう言ってポンッとカズキの胸を軽く叩くリッカ。

 と、保管庫の扉が開き、1人の男性が入ってきた。

 

「おいカノン、何やってんだお前!!」

「あっ、タツミさん」

「『あっ、タツミさん』じゃねえよ! お前これから任務なのに何油売ってんだ!!」

「うぅ……そんなつもりじゃないのに……」

 

 怒られ、しょんぼりとするカノン。そんなやりとりを何気なく見ていたら……タツミと呼ばれた男性の視線がカズキに向けられる。

 

「おっ、お前ってたしか新型の……」

「抗神カズキです」

「俺は大森タツミ、防衛班の班長をやってんだ。

 けど別に偉い訳じゃないから、気兼ねなく話していいからな?」

「はい、タツミ先輩」

 

 先輩じゃなくていいっての、そう言いながらタツミはカズキの肩を叩く。

 気さくで優しそうな人物だ、彼の屈託のない笑顔を見ていればそれがすぐにわかる。

 

「カノン、いくぞー」

「は、はい。それじゃあリッカさん、カズキさん、また……」

「……任務って言ってましたけど、アラガミ討伐ですか?」

 

「ああ、俺達第二部隊は外部居住区の防衛が主な任務でな。

 今回は外部居住区からさほど離れていない荒野で、コンゴウを見たって情報が入ったから俺とカノンで討伐しに行くんだ」

「…………」

 

 コンゴウ、確か中型に位置するアラガミだ。

 この間のヴァジュラのような存在ほどではないが、それでもオウガテイルのような小型アラガミよりも強力なのは間違いない。

 ……多少荷が重いが、試してみる価値はあるかもしれない。

 

「あの……タツミさん」

「ん?」

「……僕も、そのミッションに連れて行ってくれませんか?」

「えっ……」

 

 カズキの言葉に、その場にいた全員の表情が変わる。

 

「うーん……お前さんの気持ちは嬉しいが、まだ新入りのお前には早いんじゃないか? それに、リンドウさんの許可がないとな……」

「じゃあ、許可が降りたら連れて行ってくれますか?」

「うむむ……」

 

 おもわず、うなり声に似たような声を出してしまうタツミ。

 おそらく彼は早く実戦に慣れたいという気持ちがあるのだろう、その向上心は素晴らしいと思うが……やはり、まだ早いという気持ちが強い。

 しかし、リンドウの許可が降りたら、連れて行くしかないだろう。

 

「………わかった。じゃあリンドウさんに連絡してみるからちょっと待ってな?」

 

 ちょっとため息が出てしまった。まいったなと思いつつ、タツミはリンドウへと連絡を入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

――外の世界は、死が溢れている。

 

 辺り一面に広がる荒野。背後にはアナグラ、前方には――アラガミによって駆逐されたかつての都市群が並び。

 そして――カズキ、タツミ、カノンの3人の視界の先には、討伐対象であるコンゴウが座り込み捕喰行動を行っていた。

 

(はぁ……まさかリンドウさんが許可するとはなぁ……)

 

 コンゴウを視界に捉えつつ、タツミは内心ため息をつく。

 コンゴウは確かに中型アラガミの中では弱い部類に入る、かくいう自分が初めて倒した中型アラガミもコンゴウだ。

 しかしまだカズキは新人、ミッションも複数程度しかこなしておらず今までの相手は全て小型アラガミだけだ。

 尤も、この間はヴァジュラとやりあったようだが、あれはたまたま生き残れただけなのでカウントには入らない。

 とにかく、タツミにはまだカズキがコンゴウを相手にするのは早いというのが正直な気持ちであるが……第一部隊の隊長であるリンドウが。

 

『ちょうどいい。連れてけ』

 

 そう軽々しく言われたので、タツミとしては不本意だが結局連れて行く事にしたわけだ。

 

「カズキ、わかってはいるだろうが前には出るなよ? お前は後方で支援だ、わかったか?」

「はい。でも状況に応じて変えさせて貰います」

「……それができるならな」

 

 さて、そろそろ目の前の敵に意識しなくては拙そうだ。コンゴウはカズキ達を捉えこちらに走ってきている。

 すかさずカズキは神機を銃形態へと変形、照準をコンゴウの顔に合わせ、すぐさま撃ち放つ。

 連続で放たれる雷属性の弾丸は、迷うことなくコンゴウの顔面に当たり、目に入ったのか身体を怯ませた。

 

「よし―――!」

 

 その隙にタツミは剣を構え踏み込み、その無防備な身体に連続攻撃を加えようとして――吹っ飛ばされた。

 

「ごは―――!?」

 

 アラガミからの攻撃か、一瞬そう思い……ああまたかと地面を転がりながら理解する。

 

「――射線上に入るなって、私言わなかったっけ?」

 

 タツミを吹き飛ばした張本人――カノンは、冷たい口調でそう言い放つ。

 彼女の変化に、さすがのカズキもキョトンとしてしまった。

 先程の少しオドオドしたような様子はなく、まるでゴミを見るかのように冷たい色を瞳に宿している。

 というか、一言もそんな事言っていないし、そもそも謝罪もなしに何を言っているんだろうこの人は。

 

「ヴォォォッ!!」

「っ、タツミさん!!」

 

 コンゴウの視線が倒れたタツミに注がれ、カズキは地を蹴り間合いを詰めながら剣形態に変形。

 背後に回り込み、コンゴウの背中にあるパイプに一撃を加えようと新たな武器――放電チェーンソーを振り上げ。

 

「が―――っ!!?」

 

 何か、横腹に衝撃が走りタツミと同じように吹き飛ばされたが――すぐさま体勢を立て直し跳躍。

 

「はぁぁぁっ!!」

 裂帛の気合いを込め、剣をコンゴウの背中に振り下ろす―――!

 

 刃はパイプに食い込み、鮮血がカズキの顔を赤く汚していった。

 暴れるコンゴウ、もっと深く突き刺そうと力を込めるカズキ。

 しかし、カズキは身の危険を感じ咄嗟に刀身を抜き取りコンゴウから離れる。

 瞬間、あのまま背中に張り付いたままなら間違いなく巻き込まれたであろう規模の爆発が、コンゴウにぶち当たっていた。

 

「そらっ、そらっ!!」

 どこか楽しそうに、カノンはひたすらコンゴウに砲撃を加えていく。

 

「…………」

「……カズキ、大丈夫か?」

「大丈夫ですけど……あれは一体何ですか?」

 

 恐ろしくて近寄れない、というか近づきたくない。

 未だにコンゴウへ情け容赦なく攻撃を続けているカノンを見て、タツミは額に手を置きながら説明した。

 

「あいつはな……この極東支部で一番味方に対する誤射率が高いんだ。

 偏食因子の適合率は凄まじく高いから、潜在能力はあるんだが……」

「…………」

「おまけに、何故かアラガミと戦ってると性格まで変わっちまって、二重人格なんじゃないかって俺は思ってる」

「ああ……」

 

 つまり、先程の冷たい言葉はそういう事だったのか。

 ある意味納得できたカズキは……なんともいえない表情を浮かべている。

 

「俺はもう何度もあいつの誤射に当たってるから慣れてるけど……お前は大丈夫か?」

「ええ、まあ……」

「っ、こんな時に弾切れなんて……クソッ」

 

 カノンの砲身から、砲撃が出なくなる。

 

「あの……クソッって言いましたよ今、女の子なのに……」

「んな事言ってる場合か、カノンは今攻撃できないんだぞ!!」

 

 走るタツミ、コンゴウはダメージが大きいがまだ動ける。そうなれば……当然、カノンが狙われてしまった。

 

「ひぇ………!」

「っ」

 

 銃形態に変形、再び雷属性の弾丸でコンゴウを連べ打ちに。

 弾が出ないとわかった瞬間、今度は剣形態に変形させコンゴウの真ん前に。

 

「ふ―――っ!!」

 

 体勢を低くしながら横薙ぎに振るい、刀身がコンゴウの脚に突き刺さる。

 

「ヴォォッ!!?」

 

 怯むコンゴウ、そこへタツミによる追い討ちとなる上段斬りが見事パイプ部分を切断。

 おもわず動きを止めるコンゴウ、そこへカズキは捕喰形態を用いて喰らいついた。

 体内のオラクル細胞を用いてアラガミバレットを生成、すかさず――それをカノンに手渡す。

 

「えっ……?」

「カノン先輩、お願いします!!」

 

 濃縮アラガミバレットが完成し、カノンは驚きを隠さないまま……銃口をコンゴウに向け。

 

「肉片にしてあげるね!!」

 

 物騒な台詞を放ちつつ、必殺の砲撃を放つカノン。風の衝撃波が暴力的なまでにコンゴウへと襲いかかり、爆音と突風がカズキ達の方まで押し寄せた。

 

「ぐっ………!」

「うぉ……す、すげえ威力だ……あんなの誤射されたらマジで肉片になっちまいそうだな……」

 

 割と本気の口調で呟きつつ、タツミは冷や汗をかく。

 そして、砲撃の直撃を受けたコンゴウは右脚と左腕を失いながらも、まだ生きていた。

 

「しぶといな、まだ――」

 

 まだ生きてたのか、そうタツミが呟いた瞬間――カズキは地を蹴り、コンゴウへと向かい。

 

「―――終わり」

 

 つまらなげにそう呟き、チェーンソーの刃を深々とコンゴウの頭部へと食い込ませた。

 短く掠れた悲鳴を上げ、倒れるコンゴウ。

 それを暫し冷たく見下ろしてから、カズキは神機を捕喰形態へ変形させコンゴウのコアを抜き取った。

 

「………タツミさん、カノン先輩、終わりました」

「おぅ、お疲れさん」

「あ、あの……カズキさん、タツミさん、大丈夫でしたか……」

「ああ、いつもの事だから大丈夫だ」

「あぅ……」

 

 少し皮肉を込めたタツミの言葉に、しょぼんと俯くカノン。

 

「カノン先輩、僕は大丈夫ですから気にしないでください」

「カズキさん……。私の事、まだ先輩って呼んでくれるんですか……?」

「だって、カノン先輩は先輩ですから、そんなの当たり前だと思いますけど……」

 

 何故そんな事を訊くのだろう、不思議そうに首を傾げていると。

 

「うぅ……」

 

 カノンは、また涙目になって感動していた。

 

「……カノン先輩?」

「す、すみません……私、いつも誤射が多くて初めは先輩って呼ばれてても、すぐにみんな呼び捨てで呼んだりするから……嬉しくて」

「…………」

 

 だからって泣くことないのに、そう思ったが黙っておく事にした。

 

「だから、嬉しくて……ありがとうございます」

「は、はあ……」

 

 頭を下げ感謝の言葉を口にするカノン、カズキとしては感謝される事はしてないつもりなので、困ってしまう。

 

「おーい、そろそろ帰るぞー」

「わかりました」

「は、はい!」

 

 タツミの言葉に頷きを返し、帰投するカズキとカノン。

 その途中――タツミは内心驚いていた。

 

(3人がかりとはいえ、こんなに早くコンゴウを倒せるとはな……)

 

 たいした奴だ、そう思いながらカズキを見やる。

 カノンの話に耳を傾け、優しく微笑みつつ相槌を打っている。

 それを見てタツミは口元に笑みを浮かべた。

 

(本当にたいした奴だな……)

 

 期待の新人が入ってきた、そう思わざるおえない。

 これから楽ができるかもしれないな、心の中でそう思いながらタツミはカズキ達と共にアナグラへと帰還するのだった。

 

 

 

 

To.Be.Continued...


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