神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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ドイツ支部で見つかった新型神機使い、アネット・ケーニッヒの教官を受け持つ事になったカズキ。

さて、今回の物語は……。


捕喰42 ~アネット~

「――アネット・ケーニッヒと申します。まだゴッドイーターになったばかりなので至らない点は多々あると思いますが、宜しくお願い致します!!」

 

 声高らかに自己紹介を告げ、頭を下げるアネットという少女。

 彼女こそドイツ支部で見つかった新型神機の適合者であり、今日から一週間カズキが面倒を見る少女である。

 

「おぅ、よろしくー。俺は雨宮リンドウ、一応はこの第一部隊の隊長だ」

「あなたがリンドウさんですか……お噂はかねがね!!」

「噂ねぇ……格好良くて頼りになるお兄さんとか?」

「お兄さん、って歳じゃないでしょリンドウ?」

「うへ……そりゃねえぜサクヤ」

 

 割と本気で凹むリンドウ、どうやら彼なりに年齢を気にしているらしい。

 

「私は橘サクヤよ、よろしくね?」

「は、はい。宜しくお願いします!!」

 

 サクヤの優しい笑みに、少し顔を赤くしながらも返事を返すアネット。

 

「オレは藤木コウタ、よろしく!!」

「宜しくお願いします、コウタ先輩!!」

「おいソーマ、聞いたか? オレのこと先輩だってよ!!」

「すぐに呼び捨てにされるだろうさ」

「ちょ、どういう意味だよそれ!?」

 

「……俺はソーマだ」

「は、はい……宜しくお願いします、ソーマ先輩」

「……先輩はやめろ、ソーマでいい」

「オレは無視か!?」

 

 大袈裟なリアクションをするコウタに、カズキ達は苦笑する。

 

「僕は抗神カズキ、リンドウさんと同じく第一部隊の隊長だよ。

 そして今日から一週間、君の教官をさせてもらうから」

「は、はい!! でも光栄です、抗神先輩に教官をやっていただけるなんて……」

 

 どこかキラキラしたような瞳を向けてくるアネット。

 

「……僕って、ドイツ支部でも有名なの?」

「はい! 新型神機使いとして凄まじいスピードで成長した、極東のエースと呼ばれてます!!」

「…………」

 

 嫌な二つ名だ、どうやら自分の噂には尾ひれが付着してしまっているらしい。

 

「いや、僕自身たいしたことないよ……」

「謙遜すんなよカズキ、アネットの言う通りお前はうちのエースなんだから」

「リンドウさん……」

「私もそう思ってるわよ? 若きエースさん♪」

「サクヤさんまで……からかわないでくださいよ」

 

 まったくもって居心地が悪い、カズキはため息をつくが……アネットの尊敬が込められた視線は消えない。

 とはいえ、第一部隊とは早速上手く溶け込めたようだ、その点はほっとすべき事である。

 

(………何か、忘れているような)

 カズキがソレに気づいた瞬間。

 

 

「――どうも、アリサ・イリーニチナ・アミエーラです」

 

 

『っ!!?』

 

 冷たい声が、場に響く。

 全員がそちらへと視線を向けると……当然ながら、そこに居たのはアリサ。

 アクアブルーの瞳が、今日はなんだか凄まじいまでに冷たい。

 明らかにアネットに対して、警戒心と敵対心を剥き出しにしている。

 

「よ、宜しく…お願いします」

 

 アネット完全にビビり中、震える手でアリサと握手を交わすが、なんだか今にも泣きそうだ。

 

「…………」

「……おいカズキ、なんとかしろよ」

 

 耳元でコウタが話しかけてくる。

 カズキとてなんとかしたい、だが……今のアリサを下手に刺激しない方がいいと本能が悟ってる。

 

「あぅ…あぅ……」

 

 アネットが涙目でこちらを見てる、当然ながら彼に助けを求めてきているその姿は見ていて痛々しい。

 

「――アネットちゃん、早速で悪いけど実戦に行くよ?」

「あ……は、はい! お願いします!!」

「―――チッ」

(舌打ちした……)

 

 アリサ、完全にやさぐれています。

 そんな自分の恋人に引きつった表情を浮かべながら、カズキはアネットと共にヒバリの元へと向かった。

 

「………おい、何やってんだお前」

「…………」

「アリサ……ちょっとアレは拙いんじゃない?」

「………わかってます」

 

 そう、自分の態度は良くないとわかっているのだ。

 わかっているが……どうしても警戒を緩める事ができない。

 

「子供ですね……私」

「そうだな。――あいてっ」

 

 余計な事を言うリンドウの頭を小突くサクヤ。

 

「アリサ、確かにちょっと誉められた態度じゃないけど……気持ちはわかるわ。

 ――結構、可愛い子だものね」

「はい……」

「でも大丈夫よ。カズキが好きなのは貴女なんだから、自信持ちなさい」

「…………はい」

 

 サクヤに言われ、アリサもようやく落ち着きを取り戻したようだ。

 

「……なあ、ソーマ」

「何だよ……」

「この一週間、色々な意味で大変だな……」

「………そうだな」

 

 アネットが悪いわけでも、カズキやアリサが悪いわけでもない。

 ない、が……それでも精神衛生上は宜しくない事態が続きそうだ。

 そう思うと、ため息をつかずにはいられないコウタとソーマなのであった。

 

 

 

 

 

「――じゃあ、準備はいい?」

「は、はい……」

 

 マグマが湧き上がる地下街エリアに、カズキとアネットは居た。

 討伐対象は火属性のヴァジュラテイルが二体。

 一通りの訓練を済ませ、ある程度のアラガミと戦った事があるとはいえ、アネットはまだ新人。

 まずは小型アラガミで実戦経験を積んでいった方がいい、カズキのそういった判断故だ。

 しかし……やはりアネットの手は小刻みに震えている。

 

「アネットちゃん、無理かもしれないけど落ち着いて?」

「は、はい……」

(……やっぱり無理か)

 

 当然だ、彼女はまだ新兵なのだから。

 とはいえ、このままでは実力を出し切れずに最悪死に繋がる。

 

「大丈夫。何かあったら僕が守るから、だからそんなに緊張しないで?」

「抗神先輩……」

「カズキでいいよ。それと先輩なんて呼ばなくてもいいから。――それより、どうやら来たみたいだよ」

「えっ……?」

 

 カズキの言葉に、アネットがキョトンとした瞬間。

 

「ギュァァァァッ!!」

 

 雄叫びが周囲に響き、アラガミが二体こちらに近づいてくる。

 その正体は討伐対象のヴァジュラテイル、カズキ達の姿を捉え突進してきていた。

 

「よ、よし……!」

 

 震える手で神機を握りしめ、ヴァジュラテイルに踏み込むアネット。

 

「かわせ!!」

「っ」

 

 カズキの怒声に身体が反応し、アネットは咄嗟に横に跳ぶ。

 刹那、アネットが先程まで居た場所にヴァジュラテイルが放った火炎弾が通り過ぎた。

 

「攻撃一辺倒になっちゃ駄目だ、敵の動きや間合いを把握して!!」

「は、はい!!」

 

 頷き、もう一度ヴァジュラテイルへと視線を向けるアネット。

 

「グゥゥウ……!」

 

 巨大な尻尾を振るい、幾つもの火炎弾をアネットへと放っていくヴァジュラテイル達。

 

「防御!!」

「くっ……!」

 

 回避しようとしたアネットだが、カズキの声を聞き装甲を展開。

 火炎弾が連続で叩き込まれるが、その全てがアネットの装甲の前に弾かれる。

 

「タワーシールドは防御力が高い、君は重い武装を使っているんだから、回避よりも防御を主体に戦うんだ。

 その方が安全だし、それに敵の動きが読みやすい」

「はい!!」

 

 返事を返しつつ、アネットは装甲を戻しヴァジュラテイルへと踏み込む。

 右足を大きく踏み出し、ぶるんっと両手を勢いよく横薙ぎに振るう。

 

――破裂音が響いた。

 

(うわ……)

 

 アネットのハンマーをまともに受け、ヴァジュラテイルの頭が文字通り()()()()()

 凄まじい破壊力に、おもわずカズキの顔が引き攣る。

 

「よいっ……しょっ!!」

 

 もう一度神機を振るうアネット。

 しかしヴァジュラテイルは後ろに跳び、アネットの攻撃は虚しく空を切る。

 

「あっ……!」

 

 完全に隙が生まれてしまい、ヴァジュラテイルが口を大きく開けて――

 

「――よく考えて攻撃するんだ、バスタータイプは破壊力が高いけど隙が大きい。

 敵の間合い、自分の攻撃速度、その経験をきちんと積んでもらうよ?」

「………カズキさん」

 

 アネットとヴァジュラテイルの間に立ち、装甲を展開するカズキ。

 そのまま押し出し、距離をとった。

 

「闇雲に攻撃するのは危険だよ、防御の重要性を知って、自分1人でも上手く立ち回れるようになるんだ」

「わ、わかりました!!」

 

 しっかりと頷きを返し、再びヴァジュラテイルと対峙するアネット。

 

(落ち着いて……敵との間合いを掴んで、戦わないと)

 

 自分の長所と短所を理解し、その上で神機を運用する。

 口で言うのは簡単だ、アネットとてすぐにできるとは思っていない。

 だが、考えて行えばそれは成長に繋がる。

 

「ガァァァッ!!!」

 

 ヴァジュラテイルが吼え、口を開き跳び上がった。

 そのまま、真っ直ぐアネットの元へと向かっていく。

 

「――――っ」

 

 回避はしない、しっかりとヴァジュラテイルを見据え――間合いに入った瞬間、装甲を展開する。

 

「ガッ!?」

 

 ガツンという堅く鈍い音が響き、ヴァジュラテイルはアネットの装甲に弾かれた。

 

「っ、そこ―――っ!!」

 

 それを見届ける前に装甲を戻し、大きく右足を一歩前へ。

 全体重と高い腕力で振るわれたハンマーが、ヴァジュラテイルの頭に吸い込まれるように命中。

 グシャッ、そんな音を響かせながら、ヴァジュラテイルの身体は横の壁へと埋まり、頭部は完全に粉砕されていた。

 

「やった、やりましたよカズキさん!!」

 

 自分の思った通りに動けたのか、アネットの声は明るい。

 しかし反面、カズキの表情は少し引きつっていた。

 

(……アネットちゃんが攻撃してる間は、近づかない方がいいな……)

 

 まともに受ければ、骨どころか身体が引き千切れてしまいそうで恐い。

 そう思いつつ、カズキはそっと息を吐いた。

 

 

 

 

 

「―――おかえりなさい、ご苦労様です」

「えっ、あ、は、はい……お疲れ様です」

「…………」

 

 任務から戻ってきたカズキとアネットを迎えたのは……非常に不機嫌な顔をしたアリサだった。

 

(はぁ……ヤキモチ妬かないって言ったのに……)

 

 色恋沙汰に鈍感なカズキでも、今のアリサの表情を見ればそれが嫉妬だとすぐにわかる。

 ……アネットが完全にビクビクしているのは、無理からぬ事かもしれない。

 

(まったくもう……)

 

 さすがにこれは行き過ぎだ、そう判断したカズキはため息をついた後。

 

「アリサちゃん」

「なんです――わわっ」

 

 アリサの名を呼び、彼女の返事を待つ事なく手を掴んだ。

 

「報告書は僕が書いておくから、アネットちゃんはゆっくり休んで。

 それと今日言った事は忘れないように、わかった?」

「あ、は、はい……」

「ちょ、ちょっとカズキ……」

「アリサちゃんは僕と一緒に来なさい、ちょっと叱らないといけないから」

 

 少し強い口調でそう返し、アリサの抗議を無視して自室へと歩いていった。

 自室に入り、カズキはようやくアリサの手を放す。

 

「カズキ、何を――ふにゃっ」

 

 早速抗議しようとしたアリサだが、すぐさま変な声を出してしまう。

 それもそのはず、何故ならカズキがいきなりアリサの頬を少し強めに引っ張ったからだ。

 しかも、普段の彼からは想像できない怒った表情を浮かべて。

 

「アリサちゃん、アネットちゃんに対してあの態度は何なのかな?」

「ら、らって……」

 

 頬を摘まれたままなので、間抜けな返事をしてしまう。

 

「ヤキモチ妬くのは嬉しいよ、けどだからってあんな態度はよくない。

 アネットちゃんはまだ新人なんだ、しかも激戦区の極東支部に来て緊張してる。

 先輩なら、その緊張を解さないといけないのに……恐がらせてどうするのさ〜〜」

「ふ、ふにゃぁぁぁ、ひ、ひっはらないで〜!」

 

 柔らかいアリサの頬が、伸びていく。

 必死に抵抗するが、力や身長差があり意味を成さない。

 

「反省した?」

「ひ、ひまひた。ひましたからやめぇぇぇっ!!」

「よろしい」

 

 そう言って、ようやく手を放すカズキ。

 

「うぅ……」

 

 痛くはない、痛くはないが……無性に恥ずかしかった。

 

「後でアネットちゃんに謝ってね?」

「…………」

「返事は〜〜〜?」

「ふにゃぁぁぁっ、わ、わはりまひた〜!!」

 

 再び頬を引っ張られるアリサ。

 

「うぅ〜……セクハラですよカズキ……」

「ほぅ、じゃあもっと凄い事してあげようか?」

「申し訳ございませんでした!!」

 

 ダメだ、今のカズキに逆らってはいけない。

 アリサは本能でそれを理解し、すぐさま自分の非を謝罪する。

 

「……やれやれ、アリサちゃんはヤキモチ妬きな女の子だね」

 

 苦笑しつつ、アリサの頭を帽子越しにわしゃわしゃと撫でるカズキ。

 

「わわっ、うぅ〜……撫で方が小さい子をあやしてるみたいです」

「ははっ、でも今のアリサちゃんは子供みたいだけどね」

「………むぅ」

 

 言い返せない、悔しいが今の自分はいつもより子供なのだ。

 

「――でも、やっぱり嬉しかったよ。アリサちゃんがヤキモチ妬いてくれたのはさ」

「………どうせヤキモチ妬きですよーだ」

「あらら……」

「…………」

 

 可愛くない態度を返してしまった。

 少し後悔したが、意地になっているのか謝る事ができない。

 

(もっと大人にならないと……)

 

 これではいつか、本当にカズキに呆れられてしまう。

 そんなの御免だ、アリサは心の中で危機感を覚えつつも……無言でカズキに抱きつく。

 

「………ふふっ」

 

 そんな彼女を、カズキは何も言わずに抱きしめ返した。

 

(……やっぱり子供だ、私)

 

 カズキの温もりを感じながら、アリサはそっとため息をつく。

 

――まだまだ、大人になるのは先かもしれない。

 

 

 

 

To Be Continued..


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