神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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絆を深め、より大きな想いで結ばれるカズキとアリサ。

さて、今回の物語は……。


捕喰40 ~帝王の影~

「――はい、できたよ」

「へぇ……ポニーテールもいいですね」

「アリサちゃん、いつも髪を下ろしてるから、たまにはこういう髪型にするのも良い

と思うよ。

 うん、とってもよく似合ってる」

「じゃあ、次は三つ編みにしてくれませんか?」

 

 アリサの言葉にいいよ、と告げつつ再び彼女の髪に触れるカズキ。

 端から見ていれば仲睦まじい光景ではあるが……。

 

「……あのさ、お前等ここがどこかわかってる?」

「サカキ博士の研究室に決まってるじゃありませんか」

 

 コウタの問いに、しれっと答えるアリサ。

 

「で、お前等は何してんだ?」

「カズキに髪を整えてもらってます」

「アリサちゃんの髪型を変えてる」

「そうじゃねえよ!!」

 

 2人の問いに、コウタはバンッとテーブルを叩く。

 別に2人は恋人同士、故に仲良くするのはおかしい事ではない。

 が、先程アリサが言ったようにここはサカキの研究室、互いの自室ではないのだ。

 しかも周りには、第一部隊の面々が居る、だというのに周りの目も気にせずイチャイチャイチャイチャ……コウタにとっては、拷問にも等しい。

 

「まあいいじゃねえかコウタ、気にするだけ無駄だぜ?」

「そうよ、2人の仲の良さにいちいち目くじら立ててたらキリがないわ」

「2人には言われたくないですよ!!」

 

 リンドウとサクヤがコウタを宥めるが、はっきり言って逆効果でしかない。

 何故なら……2人も仲睦まじく肩を寄せ合っているからだ。

 

「なにカズキとアリサに感化されてんですか!!」

「いやー、まあいいじゃねえか」

 

 はっはっは、と呑気に笑うリンドウに、コウタの怒りゲージが上昇する。

 何なんだ、この第一部隊のカップル率は。

 

「ソーマ、オレとお前だけは独り身で頑張っていこうな!?」

「俺を巻き込むんじゃねえよ、この馬鹿!!」

「あべしっ!!」

 

 涙を流し抱きつこうとしてくるコウタを、割と本気で殴るソーマ。

 更に、コウタにとって追い討ちになる出来事が。

 

「そーま!!」

「おっ……」

 

 シオが、無邪気な笑みでソーマの身体に飛び込んだ。

 

「なっ!!?」

「おい、抱きついてくるんじゃねえよ」

「えー、いいじゃんよー」

「…………しょうがねえな」

 

 相変わらずぶっきらぼうな口調だが、どう見ても嫌がっている素振りは無い。

 あえて言おう、バカップルであると。

 

「うわぁぁぁぁっ!!! ソーマァァァァ、貴様はオレを裏切ったぁぁぁぁぁっ!!!」

「い、いきなり何言ってやがる」

「黙れぇぇぇっ!! いつの間にかシオとラブラブになりやがっててめぇぇぇぇぇっ!!!」

「ふ、ふざけんじゃねえ!! 誰がシオと……」

「そーま、らぶらぶってなにー?」

「……お前は知らなくていい」

「ちくしょぉぉぉ、どいつもこいつも春が来やがってぇぇぇっ!!!」

 

 この世の終わりのようにうずくまるコウタ、そんな彼を見ながらアリサは一言。

 

「―――どん引きです」

 

 慈悲も何もなく、冷たくそう言い放った。

 カズキはそれに苦笑を浮かべつつも……不意にクスリと優しい笑みを浮かべる。

 

「どうしたカズキ、なんか最高に幸せだって顔してるぜ?」

「……そう、ですね。僕は今幸せですよ」

「そりゃあそうか、なんといっても可愛い彼女ができたんだからな」

「それももちろんあります、でも……こうやって目の前には信頼できる仲間が居て、守りたい大切な人が居てくれる。

 こんな時代に生まれたけど、本当に幸せだなと思えるんです」

 

 家族を失って、ひとりぼっちになってしまったけれど。

 今は寂しくないと、カズキは胸を張って答える事ができる。

 

「カズキ……」

「……ああ、こんな理不尽しかねえ世界だが、そう思えるのは良いもんだ」

「ねえそーま、しあわせってなんだー?」

「……そうだな」

 

 純粋な眼差しのシオに、ソーマは柔らかい微笑を浮かべ。

 

「―――今みてえな、悪くない空気の事を、言うんだろうよ」

 シオの頭を優しく撫でて、そう答えを返した。

 

「んー? いまみたいな……」

 

 ソーマの答えに、暫しキョトンとした顔になるシオだったが……すぐにニッコリと微笑んで。

 

「――じゃあ、シオはいつもしあわせだなー!

 だって、みんななかよしでそーまとかずきといっしょにいるもん!!」

 

 “幸せそうに”そう言って、さっきよりも強くソーマに抱きついた。

 

「……ふん、おめでたい奴だな」

 とは言いつつも、ソーマの口調は優しいものだ。

 

「さてさて、そんな幸せな第一部隊に私から依頼だよー」

『嫌です/だ』

 

 カズキとシオ以外の全員の声が見事にハモる。

 

「酷いなぁ、シオが食べるアラガミのコアが足りなくなってきたから補充してほしいだけなのに」

「あっ、それならいいですよ」

「博士のお願いは嫌だけど、シオが困るなら協力しないとな!」

「……泣いてもいいかい?」

 

 アリサとコウタがあまりにもはっきりと言うものだから、サカキ涙目。

 それを苦笑しながら眺めつつ、カズキは立ち上がった。

 

「博士、どのアラガミでもいいんですか?」

「構わないよ。あっ、でもシユウ種はやめておいてくれ、彼女はあまり好きじゃないみたいだからね」

「了解です。それじゃあ……僕とアリサちゃん、リンドウさんとコウタの4人で」

「やった!」

「うーっす」

 

「えー……」

「コウタ、文句あるならいいですよ?」

「いえっ、滅相もない!!」

 

 ギロリと睨まれ、コウタは涙目になりつつ直立不動で何故か敬礼。

 

(……やっぱ、カズキ関連でアリサを怒らせるのは得策じゃねえな)

 

 矛先が自分に向かわなくて良かった、心底そう思うソーマなのであった。

 

 

 

 

 

「――にしてもよ、シオも大分成長したよな」

 

 カモフラージュの為にミッションを受け、廃寺エリアへとやってきたカズキ達。

 討伐対象を探しつつも.リンドウはシオの話題を口にする。

 

「そうですね、服装もそうですけど……言葉も色々覚えましたし」

「ソーマも、シオが成長してるのが嬉しいみたいだぜ?」

「へぇ……あのソーマがなぁ」

 

 こう言っては何だが、かなり驚く。

 前よりもとっつきにくい印象は無くなったが、それでもまだどこか距離を置いているような印象があるソーマ。

 だが、シオの成長を機に彼も変わってきているようだ。

 

「……守らないといけませんね、あの子を」

 

 カズキにとっても、シオは守りたい存在だ。

 と、カズキ達の会話が途切れた。

 

「さーて……お仕事に励みますかね」

 

 視界に討伐アラガミ――プリティヴィ・マータを捉え、カズキ達は神機を構える。

 

「にしても……最近こいつらの討伐ミッションばかりだよな」

「なんでも、最近プリティヴィ・マータが異常に活性化してるって話ですからね……」

「…………」

 

 プリティヴィ・マータの活性化。

 ここ最近、そんな話を調査隊から聞き、カズキ達も幾度となく討伐してきた。

 それが、何となくではあるが……薄気味悪いとカズキは思う。

 それに、プリティヴィ・マータの動きが妙に向上しているという点も、違和感が拭えない。

 

(何だ……この嫌な感じ……何か、来る?)

「よーし、じゃあさっさとぶっ殺すぞー」

「そうっすね、不意打ちでやっちゃいましょう」

「…………」

「? カズキ、どうしたんですか?」

 

 皆が神機を構える中、カズキだけが何もしないので、アリサは不思議に思いつつ声を掛ける。

 

(………声、それに何か大きいものが走る音……)

 

 アラガミ化により強化された聴力が、何か音を拾う。

 

(何か…何か来る……)

 

 言いようのない不安、無視できない何かが向かって来ている。

 それも、すぐ傍まで―――!

 

「跳べ!!」

「へ?」

「ん?」

「ひゃあ!!?」

 

 カズキの声に、コウタとリンドウは間の抜けた声を出し、アリサはカズキに抱えられ素っ頓狂な声を上げる。

 

「ちっ!!」

「か―――っ!!?」

 

 瞬間、リンドウはある存在を感じ取り跳躍、だが間に合わなかったコウタはくぐもった悲鳴を上げ壁に叩きつけられた。

 

「なっ、あれは……!?」

 

 カズキに抱えられたまま、アリサは驚きの声を上げる。

 

「いって〜、何なんだ……って、なっ!!?」

 

 攻撃された腹部を抑えつつ立ち上がるコウタだが……そのまま固まってしまった。

 

「おいおい……マジかよ」

 

 いつも飄々としているリンドウですら、目の前の光景に表情が固まる。

 

――五体。

 

不意打ちで倒そうとしていた個体を含め、都合五体のプリティヴィ・マータが、カズキ達の元に現れた。

 

「ち、ちょっと待てよ……任務には一体だけだって……」

「んな事言ってる場合じゃねえぞ……死にたくなかったら死ぬ気で戦え!!」

「アリサちゃん、いくよ!!」

「は、はい!!」

 

 のんびりと話している暇はない、既にプリティヴィ・マータ達はカズキ達を補喰対象にしているのだから―――!

 

 一斉に襲いかかるプリティヴィ・マータ。

 その巨体で朽ち果てた建造物を破壊していくが……その中にカズキ達の姿は含まれない。

 

「特別手当貰わねえと割合わねえぞ!!」

 

 叫びながら着地し、地を蹴るリンドウ。

 

(駄目だ……出し惜しみはしていられない!!)

 

 数の上でも、純粋な戦力でもこちらが不利。

 跳躍して着地するまで約二秒弱、その間に思考を巡らせたカズキは、すかさず左腕に意識を集中させる。

 

「っ、ぁ……だぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 左腕を神機に変形、地を蹴り自分に対して背を向けた一体に狙いを定め。

 

「ギャアァァァッ!!」

 

 側面から撃たれる氷柱が、カズキを狙う。

 だが無駄だ、カズキは地面を滑り氷柱を回避しながら進み――二刀を振り払いプリティヴィ・マータの後ろ右脚を切断。

 それを見届ける事なく立ち上がり、そのまま跳び上がって切断したプリティヴィ・マータの背中に神機を叩き込む。

 

「カ、ッ……!?」

 神機だけでなくカズキの腕まで埋め込まれ、痙攣するプリティヴィ・マータ。

 

「―――もらうよ」

 

 神機を抜き取り、傷ついたプリティヴィ・マータの背中の肉を喰い千切る。

 

(このまま続ければ……保たせられる……)

 

 トドメとばかりに二刀による斬撃で首を跳ね、一体目を撃破。

 見ると、アリサ達も必死で残りのプリティヴィ・マータと戦っている。

 加勢する為に、カズキはすぐさま地を蹴り残りのプリティヴィ・マータへと向かったのだった。

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

「……カズキ、後頼むわ」

 

 激戦は続き――コウタは全身傷だらけにしながらその場に座り込み。

 リンドウもまた、左腕をだらんと下げながら膝をつく。

 無理もない、彼だけでプリティヴィ・マータを二体倒したのだ、ダメージにより左腕は動かず、更に額からは血が流れている。

 コウタもリンドウ程ではないにしろ、ダメージは大きく銃撃に使用するオラクル細胞も尽きた。

 残りは一体となったものの……戦えるカズキとアリサにも、大きなダメージが。

 

「くっ…はぁ…はぁ……」

「アリサちゃん、後は僕が……」

「だ、大丈夫です……それに、こんな所で負けるわけにはいきませんから……」

 

 そう答えるアリサだが、左足と右腕からは血が流れ、いつもの帽子は地面に落ち白銀の髪の一部は血で塗れている。

 カズキはアリサほどではないが傷を負い、既に左腕は人間の手に戻している。

 

「ガァァァァアッ!!」

「くっ!!」

 

 連続で撃ち出される氷柱を、左右に跳んで回避するカズキとアリサ。

 プリティヴィ・マータが次に狙いを定めたのは……アリサ!!

 

「アリサちゃん!!」

「っ!!」

 

 カズキの言葉で顔を上げるアリサ、既に彼女の眼前にプリティヴィ・マータが迫っており――

 

「うっ――きゃぁぁぁぁっ!!?」

 

 避けられないと判断するや、アリサは装甲を展開するが……防ぎきれず、地面に滑っていく。

 

「ぐ、ぅ……!?」

 

 壁に叩きつけられ苦悶の声を上げるアリサ、すかさずマータは彼女へと狙いを定める。

 

「させるかぁぁぁぁっ!!!」

 

 叫び、神機を振るうカズキ。

 

「っ、固―――っ!!?」

 

 ガンッという鈍い音が響き、神機が弾かれる。

 

(こいつ、他の四体より強い……!?)

「グルガァァァァッ!!」

「っ、ぐ―――ぁ!?」

 

 ぶんっ、と振るわれる前脚による爪撃。

 咄嗟に回避するカズキだが、避けきれず三条の傷がカズキの身体に刻まれる。

 

「ぅ、ぁ、ぎ―――!」

 

 痛い、その激痛で一瞬思考が停止するが、マータは待ってはくれず再び前脚を振るった。

 

「ぅ、あ―――!」

 

 二度も当たれない、今度こそカズキは後ろに跳躍し難を逃れるが、着地した瞬間激痛により膝を付いてしまう。

 

「――やあああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 裂帛の気合いを込め、アリサの斬撃が上段から振るわれマータの肩口に叩き込まれた。

 しかし、刃は無情にも弾かれてしまう。

 

「く、なら―――!」

 

 神機を銃形態に変形、炎属性の弾丸を連続で叩き込む。

 流石に効いたのか、マータが小さな呻き声を上げて仰け反った。

 

(今――――!)

 

 このチャンスは逃せない、そう判断したカズキは一気に走る。

 そして――再び左腕を変形させた。

 

「――――」

 

 がくんと、カズキの身体から力が失われていく。

 如何に戦闘中オラクル細胞を摂取しながら戦ったとはいえ、やはり残りの力は少ないようだ。

 

「(もう少しだけ保って……!)がああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 どこか獣じみた雄叫びを上げながら、マータに向かっていくカズキ。

 

「ギャアァァァッ!!」

 

 氷柱が、カズキ目掛けて放たれる。

 

「っ、ガァッ!!」

 

 それを、迷うことなく一刀の元に粉々にして。

 

「――消エロォォォォォォッ!!!」

 左腕を、渾身の力を込めてマータの顔へと突き刺した―――!

 

「ガァゥッ!!」

「ギャァァァァァァッ!!?」

 

 マータの口から、絶叫が叫ばれる。

 それには構わず、カズキは左腕を突き刺したまま、マータの身体を喰らっていった。

 だんだんと小さくなっていくマータの悲鳴。

 それに比例するように、マータの身体が文字通り減っていった……。

 

「………ふぅ、は、あ……」

 

 左腕を戻し、神機を地面に突き刺しながら座り込むカズキ。

 

「っ、ぐ、っ……?!」

「カズキ!?」

 

 急に頭を抱えるカズキに、アリサは驚きつつも駆け寄る。

 

「(な、何だ、これ……!?)ぐ、ぅ……ぁ」

 

 身体が熱い、鼓動も煩いくらいに鳴っている。

 それに――体内のオラクル細胞が暴れ、て……。

 

「っ、はあっ!!」

「カズキ、どうしたんですか!?」

「は、ぁ……大丈、夫……もう収まった……」

「収まったって……どうしたんですか?」

「……わからない、突然オラクル細胞が……」

 

 とはいえ、これでこの戦いは終わりだ、そう思うと安心感が湧いてくる。

 

「……死ぬかと思った」

「ん……よし、骨は折れてないな」

「さて、それじゃあコアを摘出しましょう」

 

 今回はハードすぎた、やれやれとため息をつきながら、カズキはマータのコアを摘出し。

 

――背後で、神機が地面に落ちる音が聞こえた。

 

「………?」

 首を傾げつつ、カズキは後ろへと振り向く。

 

「…………ぁ」

「………ウソ、だろ」

 

 カタカタと震え、ぺたんと座り込むアリサ。

 リンドウもまた、いつもの余裕など微塵もなく。

 2人して、上を見上げていた。

 

「――――」

 

 視線を、2人と同じ方向に視線を向ける。

 そこに居たのは……“黒い”ヴァジュラ。

 

「なんだ、よ…あれ……」

 

 コウタも、上空を見上げながら掠れた声で呟きを漏らす。

 ヴァジュラの巨体を、更に巨大にした漆黒の身体。

 顔の部分は、獣と違い人間の男性のようなものになっており、大きな髭のような触覚が生えている。

 

(新手……!? 拙い、こんな状況で……)

 

 相手は一体、しかしこちらは満身創痍の状態だ。

 まともに戦って、勝てる相手ではない。

 だが、黒いヴァジュラは何もせずにカズキ達の元から去っていった。

 

「…………」

 

 助かった、その事実に安堵してカズキはゆっくりと息を吐き出した。

 危なかった、このまま戦えば間違いなく全滅していた。

 ……しかし、気になる点が一つ。

 アリサとリンドウのあの慌てよう……あのアラガミを知っているのだろうか?

 

「2人とも、あのアラガミを知ってるの?」

「ああ、前に戦った事があるだけさ」

「…………」

「アリサちゃん?」

 

「…………忘れた時なんて、ありませんでした」

「え――――っ」

 

 そこで、カズキあのアラガミの正体に気が付いた。

 そうだ、あのアラガミは前に―――

 

 

「――あのアラガミは、私の両親を殺したアラガミと同じ種のアラガミです」

 

 

 

 

To Be Continued...


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