神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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想うが故に、わからない事もある。

大事にしたいが故に、話せない事がある。

優しいが故に、すれ違いも起きる……。


捕喰39 ~すれちがう2人~

「………ふぅ」

 

 アラガミの血がこびり付いた刀身を地面に刺し、私――アリサはため息をつきました。

 私の周りには、今回のミッションでチームを組んだタツミさんにカノンさん、ジーナさんが思い思いに休んでいます。

 今日も今日とて、アラガミ討伐に精を出す日々。

 それが私達の仕事、なんですが……。

 

「………はぁ」

 

 私は、もう一度ため息を出してしまいました。

 

「どうしたの? さっきからため息ばかりついているじゃない」

「ジーナさん……」

 

 何でもないです、そう答えたけど……ジーナさんには通用しませんでした。

 

「何でもないように見えないから訊いてるのよ、何か悩みを抱えてるみたいだけど……恋人さんと何かあった?」

「…………」

 

 す、鋭い……どうしてわかるんでしょうか。

 ジーナさんが鋭いのか、それとも私がわかりやすいだけなのか……。

 後者ではないと思いたいですね。

 

「何だ何だ、カズキと喧嘩でもしたのか?」

「そ、そうなんですか?」

 

 私達の会話が聞こえたのか、タツミさんとカノンさんまで会話に参加してきました。

 あの……カノンさんはともかく、タツミさんは完全にからかい半分で会話に参加してますよね?

 

「喧嘩なんかしてませんよ、それにカズキには良くしてもらってます」

「ケーッ、自慢かよチクショウ!!」

「僻まない僻まない、そんなだからいつもヒバリにフられるのよ」

「ガハァッ!!」

 

 あ、ジーナさんの言葉にタツミさんが吐血した。

 ジーナさん……事実かもしれませんけど、それはちょっと酷いと思います。

 

「カズキさんとアリサさんが、仲悪くなんてなるわけないですよ。

 でも、だとしたらどうしてそんなに元気がないんですか?」

「………その、笑わないでくれますか?」

「笑うような原因なの?」

「いえ、その……人によっては」

「笑わないですよ、絶対に」

 

 優しくそう言ってくれるカノンさん、それに安心した私は……ぽつりと呟くようにため息の原因を告げました。

 

「――最近、カズキとの時間が全然無くて寂しいなぁって」

 

『…………』

「……あの、そんなポカンとした顔を向けられると……」

 

 うぅ、やっぱり馬鹿みたいですよね、こんな理由で元気が無いなんて……。

 

「―――何て、可愛いのかしら」

「可愛いです……」

「えっ……?」

 

 ジーナさんとカノンさんが、私の頭を撫でてきました。

 えっと……私、馬鹿にされてる?

 

「アリサ、貴女の悩みは凄く重いわよ。ええとっても」

「笑うなんてとんでもないです、むしろ死活問題です!!」

 

 そんなに……?

 同意してくれるのは嬉しいんですけど、ちょっと大袈裟過ぎるような気もします。

 

「アリサ、貴女ちゃんと彼に甘えてる?」

「あ、甘えるって……」

 

 ピンク色の妄想が、瞬時に私の頭の中に浮かんでしまいました。

 ……違う違う、私の考えた甘えるは過激すぎだ。

 

「あ、甘えてると思いますよ」

「例えば?」

「……カズキの部屋で2人っきりで過ごしたり、彼と抱きしめ合ったりとか……」

「ふわぁ……」

 

 変な声を出して顔を真っ赤にさせるカノンさん。

 

「って、何言わせるんですか!!」

 

 あーもぅ、何ですかこの羞恥プレイは!!

 

「キスとかは?」

「し、した事あります……じゃなくて!!」

「ふむ……適度には甘えてるのね」

 

 無視ですか、無視なんですねジーナさん。

 

「営みは?」

『ぶっ!!?』

 

 ジーナさんの言葉に、私とカノンさんは同時に噴き出しました。

 ジーナさん、何訊いてるんですか!!

 

「別におかしい事はないでしょう? というより彼、溜まってるんじゃない色々と」

「溜まってるとか言わないでください」

「あら、けどこんな戦いばかりの日々じゃ何もおかしくなんかないわよ?

 貴女は15だし、彼だって19、年齢的にはどこも違和感ないし……」

「そ、それはまあ……そうなんですけど」

 

 とはいえ、そういう話はあまり堂々としてほしくないものである。

 まあ……私だって、一応はそういう状況になるのかなー、なんて考えた事もありますが……。

 

「結構上手く行ってるじゃない、適度に甘えてるし……欲求不満なの?」

「違いますから!!」

「違うんですか?」

「……もし本気で言ってるなら、私は全力でカノンさんを叱ります」

「す、すみません……」

 

「なら、なかなか会えなくて寂しいだけ?」

「………はい。実は、最近カズキってば支部長直々の極秘任務を受け持っていて……一緒に居るどころか任務も別々なんです」

 

 無論、私とて我が儘を言っているってわかっています。

 わかってはいるんですけど……感情と理性はまた別物でして。

 もっと彼の傍にいたい、けどそんな我が儘を言うわけにはいかない。

 そんな2つの感情が、私にストレスを与えていく。

 

「極秘任務……確かに、それじゃあなかなか会えないわね。

 けどそればかりはしょうがないんじゃない?」

「はい……わかってはいるんですけど……」

 

 はぁ……ダメだなぁ、私。

 こんなんじゃ、カズキの…その、恋人に相応しくないですよ……。

 

 

―――三日後。

 

 

「…………」

「……アリサの奴、すげぇ不機嫌だな」

「……話しかけない方がいい」

 

 エントランスロビーにあるソファーに座り、見るからにイラついているアリサを見つつ、コウタとソーマはこそこそと話す。

 不機嫌な理由、それはもちろんこの3日間カズキとまともに話してないからだ。

 たかが3日と言うなかれ、毎日顔を合わせ会話をしていたアリサにとっては、この3日という時間は長い部類に入る。

 そして――彼に会えないという苛立ちは、アリサに不安を与えてしまう。

 

(……カズキ、私とはもう一緒には居たくないのかな……)

 

 すれ違っても。

『ごめんね、今から任務だから』

 そう言って、すぐにアリサの傍から居なくなる。

 それはつまり、もう自分の事などなんとも思っていないのではないか?そう感じてしまうのだ。

 もちろん、そう考えるのは間違いだとアリサも思っている。

 

「……カズキのバカ」

 

 おもわず、悪態が口から出てしまう。

 

(……そんな事を言ってる自分が、一番バカみたいじゃない)

 

 はぁ、とまたため息が出てしまった。

 と、そんな中正面にあるエレベーターが機械音を響かせながら動き出す。

 誰か帰ってきたのか、ぼんやりとそんな事を考えつつ、アリサがエレベーターに視線を向けていると……。

 

「――――っ!!?」

 アリサは立ち上がり、そのまま驚愕の表情を浮かべ固まった。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 大きく息を乱しながら、エレベーターから降りてくる青年。

 額からは血を流し、右目は閉じられ、服の至る所に深い切り傷や刺し傷が刻まれている。

 

「っ、カズキ!!」

 

 ぐらりと、青年――カズキの身体が崩れる。

 それにより我に帰ったアリサは、すぐさまカズキの元へ駆け寄る。

 

「ぁ……アリサ、ちゃん……」

 

 血で右目が見えないのか、片目だけでカズキはアリサに視線を向け、弱々しい笑みを向ける。

 

「すぐに医務室に行きましょう!! 歩けますか?」

「はぁ、あ、あはは……ちょっと、厳しい、かな……」

「だったら医療班を呼べばいいだろ、馬鹿が!!」

「カズキ、大丈夫か!?」

 

 コウタとソーマもカズキの元へ駆け寄り、すぐさま肩を貸して立ち上がらせる。

 

「ご、ごめん……コウタ、ソーマ……」

「黙ってろ」

「すぐ連れてってやるから、待ってろよ!!」

 

 急ぎ、カズキを医務室へ連れていくコウタとソーマ。

 アリサも、そんな彼等と共に医務室へ。

 

 

―――移動中

 

 

「――すみません。ご迷惑を」

「気にしないの。それより他に傷はある?」

 

 大丈夫です、そう答えたカズキにサクヤは頷き彼の頭に包帯を巻いていく。

 

「サクヤさんが近くに居て助かったなー? ちょうど先生がいなくてヤバかったもん」

「……それにしても酷い怪我ね、カズキが手こずるなんてどんなアラガミだったの?」

「手こずったというか……ちょっと油断しちゃったんです。

 この3日間、支部長の特務をこなしてきたから」

「………まさか、ほとんど休んでないの?」

 

 疑惑の視線を向けるサクヤ、図星だったのかカズキは気まずそうに視線を逸らした。 

 この態度には、さすがのコウタも呆れてしまう。

 

「カズキー、頑張るのはわかるけどさ、ちゃんと休まないと身体壊すよ?

 大体、今回の怪我だって疲労が溜まって上手く身体が動かせなかったんだろ?」

「………あはは」

「笑い事じゃないわよカズキ、あなたは隊長なんだからそんな無茶をしたら示しがつかないわ。

 もっと肩の力を抜いて、ゆっくりとやっていきなさい」

「テメェ、人にはあれこれ言っておいて自分は無理すんのか?

 ――次やったら、もうテメェの指示はきかねえからな」

「………ごめんなさい」

 

 3人に言われ、小さくなるカズキ。

 

――その中で。

 

「……どうして、カズキはいつもいつも」

 アリサは、腕を震わせ怒りを必死に抑えながら呟きを漏らした。

 

「? アリサちゃん?」

 

 彼女の様子に気づき、カズキは彼女に触れようと右手を出して。―パシンッ、と弾かれてしまった。

 

「えっ……」

「――どうして、どうしていつもカズキはそうなんですか!!」

「アリサ……?」

 

 違う、今の彼女はどこか様子がおかしい。

 いつもカズキを見つめるアリサの瞳は、とても優しげなものだ。

 しかし今は――怒りに満ち溢れている。

 

「いつだって、あなたはそうやって1人で抱え込んで、無茶ばかりして………!!

 そんなに、私が頼りないですか?! そんなに私を信じられないんですか?!」

「アリサちゃん、何を……」

「自分が無茶すればみんなが楽できる? そんな考え方なんて単なる傲慢の塊です!!

 私は……私は、そんな事微塵も思った事なんかない!! あなたに無理されて、助かったなんて思った事なんかない!!」

 

「―――――」

「大体、あなたは何様のつもりなんですか?」

 

―――やめて。

 

「自分1人で何でもできるとでも、本気で考えているんですか?」

 

――――やめて。

 

「僕は、別にそんな風に思った事は――」

「いいえ、思ってます。そうじゃなかったらもっと私の事を頼っているはずです」

 

―――違う、こんな事を言いたいんじゃない。

 

―――ただ、私は。

 

「結局、カズキにとって私なんか……何の助けにも支えにもならない、どうでもいい存在なんですね」

 

―――違う違う違う!!

 

―――私はただ、カズキの助けになりたかっただけ!!

 

―――こんな酷い事、言いたくない!!

 

「違うよ、アリサちゃん僕は――」

「っ、寄らないでください!!」

 

 弁明するカズキの手を、アリサは拒絶する。

 

「――――」

「アリサ、お前……!」

「っ、ぁ……」

 

 コウタに怒鳴られ、そこでようやく……アリサは冷静さを取り戻した。

 ……だが、もう遅い。

 目の前には、傷ついた弱々しい表情を見せる、カズキの姿、が……。

 

「ぁ、わた、し……」

 

 自分は今、一体何を言っていたのだろう。

 彼に非はない、だが……カズキの傷だらけの姿、自分が守れなかった自己嫌悪、そして何よりも……寂しいという感情が、彼女から冷静さを失わさせていた。

 許せなかったのだ、このような傷を負っても気にしない彼が。

 自分達を心配させないように、わざと言っているというのはわかっていた。

 わかっていたのに……今まで蓄積されていた苛立ちが、おもわず爆発してしまった。

 それが……剣となって彼の心を傷つける。

 

「っ」

「アリサちゃん!!」

 

 いたたまれなくなって、これ以上カズキの顔を見る事ができなくて、アリサは医務室から飛び出していってしまう。

 

「カズキ、アリサなんかほっとけよ。いきなり何だよアイツ、カズキは怪我してんのに……」

「ありがとうコウタ、でも……アリサちゃんを放ってはおけないよ」

 

 たとえどう思われていたとしても、彼女は僕にとって……一番大切な人だから。

 はっきりとそう告げて、カズキは痛む身体に顔をしかめつつも、医務室を出ていく。

 

「お、おいカズキ!!」

「追うんじゃねえ」

 

 慌てて後を追おうとするコウタを、ソーマは手で制す。

 

「何でだよ?!」

「これはカズキとアリサの問題だ、俺達がいちいち口に出す権利はねぇ」

「けどさ、カズキの奴は怪我してんのに……」

「そうだろうと、カズキはアリサを追いかけるのは止めねえよ。

 だったら止めても無駄だ、俺達の出番はねえ」

「…………」

 

 その言葉に、コウタは何も言えず言葉を詰まらせる。

 

(………カズキ、お願いね)

 

 その中で、サクヤは1人心の中で彼等の事を心配しているのだった。

 

 

 

 

 

「……うっ…ぐすっ」

 

 ベッドに顔を埋め、アリサは声を押し殺しながら涙を流す。

 

「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい……」

 

 口から出る言葉は、カズキに対する謝罪のみ。

 あんな事を言うつもりなどなかった、それなのに……彼を傷つけてしまった。

 彼は悪くない、だというのに自分が子供なせいで、彼の心に傷が生まれた。

 悔やんでも悔やみきれない、アリサは自らの意志で彼を拒絶し……彼との絆を断ち切ったのだ。

 

「―――っ」

 

 扉がノックされ、アリサは顔を上げる。

 

「………アリサちゃん」

「っ」

 

 聞き慣れた声、無論それはカズキの声だ。

 

「………どう、したんですか?」

 

 怒鳴られる?それとも……別れ話?

 どちらにしろ最悪だ、しかし自分はそれだけの事をした。

 半分諦めたまま、アリサは彼の言葉を待つが……次に彼から放たれた言葉は、そのどちらでもなかった。

 

「―――ごめんね」

「…………えっ?」

 

 一瞬、何を言われたのかアリサにはわからなかった。

 だが、やがて謝罪されたというのがわかり……混乱する。

 何故?どうして自分に謝っている?

 

「アリサちゃんを信頼してなかったわけじゃないし、どうでもいい存在だと思ってたわけじゃない。

 ただ、できる事なら君に負担を掛けたくなかったんだ。

 君は優しいから、一度甘えてしまえばどこまでも頑張ってしまう、それに……僕は、できる事なら君に戦ってほしくないとさえ思ってる」

 

 それほどまでに、彼女はカズキにとって大切な人になりすぎた。

 だが彼女は自分と同じゴッドイーター、そのような願いが聞き入れられるわけがない。

 だからカズキは、自分の事で彼女に余計な負担を背負わせたくなかったのだ。

 

「けど……結局それで君を傷つけてしまったね、ごめん」

「………カズキ」

「許してほしいなんて言わない、でも……できる事なら、また―――」

 

 そこで、カズキの言葉が途切れた。

 

「アリサ…ちゃん」

 

 突然アリサの部屋の扉が開いたと思った瞬間。

 彼女が、カズキの胸に飛び込んできた。

 

「……バカ、ばかぁ……」

「…………」

「どうしてそんなに優しいんですか? 私…私はそんな優しさなんていらない。

 あなたと一緒に居られれば充分なの、どんなに苦しい事も辛い事も、あなたさえいれば……乗り越えられるから」

 

 大粒の涙を流し、アリサは必死に訴える。

 それを見て、カズキは強く彼女を抱きしめた。

 

「ごめん…ごめんね……」

「ごめんなさい…ごめんなさい……」

 

 互いに謝り、抱きしめ合いながら、2人は自分の浅はかさを悔やむ。

 共に優しすぎ、相手を想うが為にすれ違いを起こしてしまった。

 なんとも子供っぽく、中には呆れてしまう者も居るかもしれない。

 だがそれも、互いが互いの想いに気づかないが故。

 人として触れ合う上で、避ける事などできない試練なのかもしれない。

 

――やがて、どちらからともなく身体を離す。

 

 互いにそれを名残惜しみながら、見つめ合いそして。

 

「……んっ……」

 

 どちらからともなく、口づけを交わした。

 ただ貪欲に相手を求め、貪るように唇を合わせていく。

 いつまでもいつまでも……交わし続けていた。

 

 

 しかし、外でいつまでもイチャついていた為、その光景をしっかりとリンドウ達に見られていたのだが。

 からかいもせず、気を利かせて覗き見だけにしたのはまた別の話。

 

 

 

 

To Be Continued...


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