神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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ゴッドイーター、抗神カズキ達の戦いは続く。

さて、今回の物語は……。


捕喰37 ~あたらしいふくだぞ~♪~

「やあ、またまた呼び出してすまないね」

「こんにちは、カズキ君」

 

 サカキに呼ばれ、今度はなんだろうと少し警戒しながら研究室に赴いたカズキ。

 すると、そこに居たのはサカキだけではなく……リッカの姿もあった。

 

「実はね、君にはアラガミの素材を集めてもらいたいんだ」

「アラガミの素材、ですか?」

「そうだよ。それでシオの服をリッカ君に作ってもらおうと思ったわけさ」

「えっ……?」

 

 ちょっと待て、今リッカの前で……。

 

「大丈夫。私も事情は聞いたから」

 カズキの心中を察したのか、リッカが付け足すようにそう告げる。

 

「もちろん誰にも話したりしないよ、口は堅い方だし……ね」

「……なら、いいけど」

「けどひどいなぁ、こんな楽しそうな事を秘密にしてるなんてさ。

 博士も、黙ってるなんてひどくありませんか?」

(いや、普通は話せないよ……)

 

 何せアラガミを匿っているのだ、おいそれと話せるわけがない。

 

「はい。というわけでコレ」

 

 そう言って、カズキにリストを手渡すサカキ。

 ……相変わらず、こちらに拒否権はないらしい。

 まあ、シオの服を作る為ならば拒否する必要はないのだが。

 

「わかりました。それじゃあ集めてきますので」

「頼むよ」

 

 リストを手に、研究室を後にする。

 

(けど……さすがに1人じゃちょっとキツいかもしれないな)

 

 ヴァジュラやクアドリガなど、大型のアラガミから手に入る素材ばかり、1人ではなかなかに骨が折れる。

 仕方ない、他のみんなに協力してもらおう、そう思ったカズキは……まずアリサの元へ。

 インターホンを鳴らす、するとすぐに彼女の声が聞こえてきた。

 

「はーい?」

「アリサちゃん、カズキだけど……」

「えっ!? あ、ちょ、ちょっと待っててください!!」

 

 ひどく慌てた様子でそう言うと、部屋の中からドタバタという音が聞こえてきた。

 ひゃあ〜、だの、わ〜、だの所々でアリサの悲鳴みたいな声も混じっている。

 

(もしかして、タイミングが悪かったかな……)

 

 苦笑いを浮かべつつ、カズキはその場でおとなしく待つ事に。

 

――五分後。

 

「はぁ…はぁ…す、すみません……おまたせしました」

 

 息を切らし、ひと仕事終えたように疲れた顔を見せるアリサに、入室の許可を貰う事ができた。

 

「……アリサちゃん、もしかして来ちゃ拙かった?」

「ち、違います。ただ部屋が汚かったので――」

 

 どうぞ、と言われたので、カズキはそれ以上何も言わずに彼女の部屋へ足を踏み入れる。

 

「…………」

 

 見た所、特にこれといって散らかっているわけではない。

 わけではないが……カズキは発見してしまった。

 クローゼットの隙間から、服の裾部分がはみ出している。

 ……十中八九、アリサは散らかった衣服をまとめてあのクローゼットに押し込んだのだろう。

 指摘したい衝動に駆られたが、彼女が傷つくと思いカズキは何も言わなかった。

 

「あっ、すみません。今お茶を……」

「ちょっと待ってアリサちゃん、髪」

「髪?」

「濡れてるよ。シャワー浴びてたんじゃないの?」

 

 見ると、アリサの白銀の髪からポタポタと水滴が垂れている。

 

「あっ、はい。出た瞬間にカズキが来たので……」

「もぅ、風邪引いちゃうよ? 別に急がなくてもよかったのに……」

「で、でも……カズキを待たせるわけにはいかなくて……」

 

 しゅんと落ち込んでしまうアリサに、カズキはため息混じりに近くにあったバスタオルを手に取った。

 そしてアリサを手招きし、素直にやってきた彼女の頭にバスタオルを落とす。

 

「拭いてあげるから、座って?」

「えっ、あ、いいですよ別に」

「ダーメ、ほらいいから」

「わわっ!?」

 

 少々強引にアリサの手を引っ張り、カズキ達は揃ってベッドに座り込む。

 ちょうどカズキの足に、アリサが彼に背中を向けて座るような形になった。

 

「……あの、これ結構恥ずかしいんですけど」

「そう? 僕は楽しいよ、それにアリサちゃんからいい匂いがするし」

「か、嗅がないでくださいよ!! セクハラです!!」

「意図的に嗅いではないよ、けど漂ってくるからさ」

「うぅ……」

 

 どうして、こうも恥ずかしげもなくそんな事を言ってくるのだろう、おとなしく髪を拭かれながらアリサは心の中でそう呟く。

 まあ尤も、恥ずかしいだけで嫌どころか嬉しいのだけれど。

 

「アリサちゃんの髪、綺麗だよね。それに前より伸びた?」

「ありがとうございます、それに伸びたと思いますよ、最近切っていませんから」

 

 今までは肩より少し下辺りで切り揃えていたが、今では背中の中頃まで伸びている。

 アリサも切ろうとは思っているのだが、最近は忙しくて手入れをするので精一杯なのだ。

 

「けど、これだけ長かったら色々な髪型にできそうだね」

「……カズキは、髪が長い方が好きですか?」

「うーん……特別好きってわけじゃないけど、どちらかと言えば長い方がいいかな」

「そうですか……」

 

 切るのは止めよう、カズキの答えを聞いてアリサは即座にそう決めた。

 

「髪もそうだけど、肌も白くて綺麗だね」

「……カズキ、セクハラですか?」

「えっ!? 違うよ、そう聞こえた!?」

「あ、いえ……」

 

 違う、褒められて嬉しかったのだが、恥ずかしくてついそう言ってしまっただけなのだ。

 慌ててそう説明すると、カズキはほっとしたように表情を緩めた。

 

「あの……もしかして、他の女の子にも言ってます?」

「い、言わないよ、アリサちゃんにだけ。そもそも恋人じゃないのにこんな肌を密着させる事なんてできないし……」

「…………」

 

 肌を密着。

 そういえば、今の自分は背中越しに抱きしめられているようなものではないか。

 そう思うと、せっかく冷めてきた顔の熱が再び上昇してきてしまう。

 

「――はい、終わり。後はドライヤーで乾かそう」

「あ、はい」

 

 言うやいなや、カズキはドライヤーでアリサの髪を乾かしていく。

 

「……なんだか、手慣れてますね?」

 

 随分と慣れた手つきだ、初めてやるとは思えない。

 

「うん。ローザによくやってたからね。

 あの子、いつも僕にやらせてたから、自然と慣れちゃったんだよ」

「ああ……」

「『お兄ちゃんにやってもらわなきゃやだ!』とか言って、無理矢理やらせてたっけ」

「ふふっ……」

 

 なる程、とアリサは納得してしまう。

 ようするに、ローザはカズキに甘えたかっただけなのだろう。

 その気持ちはよくわかる、自分も……彼に甘えたいと思っているから。

 

(見た目も似てるとは思いましたけど、そういう所も結構似てるかも)

 

 そう思うと、自然と笑みを浮かべてしまった。

 

「――はい、終わったよ」

「ありがとうございました」

「久しぶりにやったけど、結構楽しかったかも」

「じゃあ、またやってくれませんか?」

「いいよ、喜んで」

 

 2人して見つめ合い、笑みを浮かべる。

 

「………♪」

「……どうしたの?」

 

 急に身体を預けてきたアリサ、ふわりと優しい香りがカズキの鼻孔をくすぐった。

 

「その……せっかく2人っきりなので、甘えたいなぁと……」

 

 ダメですか?と少し不安げに瞳を揺らしながら、アリサが訊ねる。

 ……それを見て、カズキはアリサの身体を抱きしめた。

 

「ひゃっ!?」

「……アリサちゃん、それ反則……」

「えっ、えっ?」

 

 何の事かわからず、アリサは首を傾げてしまう。

 だが、抱きしめられたのは嬉しかったので、気にしない事にする。

 しかし……背中越しに抱きしめられていると、自分も抱きつけない事に気づいた。

 

「あの、一度放してくれませんか?」

「あ、うん」

 

 言われた通り、アリサの身体を放すカズキ。

 すると、彼女はカズキの正面に向かい合うように座り直し、そのまま彼の胸に飛び込んだ。

 

「…………」

「…………」

 

 優しく、けれど強く2人は抱きしめ合い、互いの温もりと鼓動を感じ合う。

 ほんの少しの気恥ずかしさと、それを遥かに上回る幸せを分け合い……2人は、どちらからともなく口づけを交わした。

 

「んっ…ふ…ちゅ……」

 

 まだキスに慣れないアリサは息苦しさを感じていたが、本能が続きを望んでいた。

 しかしさすがに限界だ、2人の唇は離れ名残惜しそうに銀の糸が伸びる。

 

(……ヤバい)

 

 息を荒げ、とろんとしたアクアブルーの瞳を向けてくるアリサに、カズキはおもわずゴクリと生唾を飲み込んだ。

 いつもは可憐と思える彼女も、今は男を誘うような表情を浮かべている。

 もちろんアリサは狙ってやっているわけではない、それはわかっているのだが……。

 カズキも男、アリサを“そういう”目で見た事がないと言えば嘘になる。

 

(って、いけないいけない……何を考えてるんだ僕は)

 

 己の劣情を振り払いつつ……ここにきてようやく、何しにアリサの元へ訪れたのかを思い出した。

 

「あ、あの……アリサちゃん」

「? ふぁい……なんれすか?」

 

 呂律の回ってない口調で、再び口づけをしようとカズキに迫るアリサ。

 拙い、何やら変なスイッチが彼女の中で入ってしまったようだ。

 このまま流されたら、間違いなく自分は欲望を我慢しきれなくなる。そう感じたカズキは半ば無理矢理アリサを引き剥がした。

 

「アリサちゃん、ちょっとお願いがあるんだ」

「……お願い、ですか?」

 

 頬を軽くペチペチと叩かれ、正気に戻ったアリサが首を傾げる。

 それにほっとしつつ――カズキはシオの服を作るために、アラガミの素材が必要なので手に入れるのを手伝ってほしいという主旨を告げた。

 

「なる程、シオちゃんの服ですか……わかりました、それじゃあ早速行きましょう!」

「ごめんね。シャワー浴びたのに」

「また浴びればいいだけですから、それより早く行きましょう。

 いつまでもあんな格好じゃ、シオちゃんも可哀想ですから」

「………うん」

 

 やる気を見せるアリサを見て、カズキも自然と笑顔を見せる。

 

(それにしても……危なかった)

 

 先程のアリサの様子は、ひどく官能的で我を忘れそうになった。

 まだ早い、そう己に言い聞かせながら……カズキはアリサと共に、部屋を後にした。

 

―――その後。

 

 

 運よく第一部隊の面々全員の協力を得る事ができ、素材集めは特に問題なく終了。

 素材をリッカに渡し、次の日……いよいよ御披露目となり、カズキ達は研究室へと足を運ぶ。

 どこかワクワクしながら待っていると。

 

「――じゃーん!!」

 

 楽しげなサクヤの声と共に……奥の部屋からシオが出てきた。

 無論、リッカ特製の服を着て。

 

「わぁー……! 可愛いじゃないですか!!」

 

 一番最初に感想を告げたのはアリサ、やはり女の子だからか反応が早い。

 

「へぇ……こりゃあまたすげえな」

 

 次はリンドウ、相変わらず軽い口調だがその中には確かな驚きの色が混じっている。

 

「すっげえ似合ってるじゃん! ソーマもそう思うよな?」

「……ああ、まあな」

 

 続いてはコウタ、褒めつつもからかう目的でソーマにふるが……彼からは思わぬ一言が飛び出した。

 

「おぉ……予想外のリアクション」

「……うるせえな」

「けど、本当によく似合ってるよシオちゃん」

「そうね。こうしてると女の子にしか見えないわね……」

 

 純白のドレスのような服に身を包んだ彼女は、その透き通るような白い肌も合わさって、さながら妖精のようだ。

 口々にシオを褒めるカズキ達に、シオはキョロキョロと視線を動かしながら……やがて、嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「えへへ……シオ、これきにいったー。これきてると、えらいな?」

 

 褒められたのがよほど嬉しいらしい、身体をくねくねと動かし全身で喜びを表現している。

 

「なんだか……とってもきぶんがいいな……」

 

 そう呟き、シオは目を瞑る。

 すると――シオは、ゆっくりと歌を歌い始めた。

 それに驚くメンバー達、けれど誰も邪魔をする者はおらず、シオの歌は静かな時間を生み出しながら続いていく。

 やがて歌が終わり……その場にいた全員が、おもわずほっと息を吐いた。

 

「綺麗な歌だね……いつ覚えたの?」

「んー? そーまとよくいっしょにきいてたうただよ」

「なっ、おいバカ!!」

 

 ソーマが慌ててシオの口を塞ごうとするが……もう遅い。

 

「あらー? あらあらあらあら?」

「おーおー、なんだいソーマ君。ずいぶんと仲良くなったじゃないの。

 おじさんにも、詳しく話を聞かせてほしいもんだね」

 

 真っ先にからかい出したのは、サクヤとリンドウ。

 

「っ、うるせぇ!!」

 がーっ、と怒鳴りつけるソーマだが、褐色の肌を真っ赤に染めていれば恐くはない。

 

「そーま、またいっしょにうたきこうなー?」

「聞きましたアリサさん、最近の若者は積極的ですなぁ」

「聞きましたよコウタさん、しかもソーマさんはまんざらでもない顔ですし」

 

 コウタとアリサも便乗し、ニヤニヤと笑いながらわざとらしい芝居を繰り広げる。

 怒りと羞恥がごちゃ混ぜになったソーマは、全身をプルプルと震わせ今にも暴れ出しそうだ。

 それを少し離れて見ているカズキは、ソーマに同情しつつも苦笑してしまう。

 

「ソーマもすっかりみんなに溶け込んだみたいだね、私としては嬉しいものだよ」

「博士……」

「活き活きとしてて良いじゃないか、やはり若者はこうでなくちゃね」

 

 そう告げるサカキの表情は、とても優しげなものだった。

 だが、急に真剣な……というより、困り顔になってしまう。

 

「博士、どうかしたんですか?」

「いや……ただ、もうすぐ支部長が帰ってくるからね、それが少し憂鬱なんだよ」

「…………」

 

 支部長が、帰ってくる。

 シオ達との生活ですっかり頭から抜けてしまっていたが、この状況と自分達の立場はかなり危ういバランスの上に立っているという事を思い出した。

 

「わかっているとは思うけど、支部長には内緒だよ?」

「……ええ、わかってますよ」

 

 こんな事、支部長でなくても他人に話せるわけがない。

 それに……カズキ自身、支部長に“だけ”は決してシオの事を。

 そして、アラガミ化した自分の事を知られてはならないと、本能が訴えかけてきている。

 

(これは……何だ? 僕は、支部長を警戒している……?)

 

 求める答えが出るはずもなく、カズキの中にしこりを残した。

 それが、後に正しい事だと彼は気づく事になる。

 

 

 

 

To Be Continued...


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