神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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心を閉ざした少年は、いつも1人だった。

しかし、そんな彼を仲間だと思うものは必ずいる。

彼がそれに気づいた時、新たに強い絆が生まれる………。


捕喰24 ~カズキとソーマ~

「――それでさ、カズキこの間のバガラリー録画してくれたか?」

「したけど……食べ物を口に入れたまま喋らないでよコウタ」

「汚いですね……」

「あはは……」

 

 ここは極東支部の食堂、朝食を食べながらカズキ、アリサ、コウタ、カノンは会話を楽しんでいた。

 

「今日は非番だし、撮り溜めしたバガラリー観ないと!! カズキ、一緒に観ようぜ?」

「うーん、そうだね……」

 

 確かに今日は非番で任務は無い、しかし他にやらなければいけない事だってある。

 ゴッドイーターに終わりはない、戦い以外にもやる事はあるのだから。

 と、食堂の一部分が騒がしくなる。

 

「何でしょう?」

 

 小首を傾げながら、カノンは空になった食器を戻す為に立ち上がる。

 カズキ達も食べ終わり、食器を戻す傍ら気になって騒がしくなった場所へと赴く。

 

「ソ、ソーマ!?」

 

 そこに居たのは、ソーマと……尻餅を付いているカレルが。

 それに、彼の近くには他の神機使いの姿もあった。

 

「ソーマ、何してるんだ!?」

 

 ソーマの元へ駆け寄るカズキ、そして……おもわず足を止めた。

 ――ソーマの瞳が、恐ろしいまでに冷たい。

 元々いつも不機嫌そうにしているが、今回はどこか様子が違っていた。

 悪鬼の如し恐ろしさのまま、ソーマはようやくカズキの存在に気づいたのか、視線を彼に向ける。

 

「――――テメェか」

「……ソーマ、何してるんだ?」

 

 射殺すような視線を受けおもわず後退りそうになるが、踏みとどまり問いかける。

 しかし、ソーマはあからさまにカズキに対し迷惑そうな表情を浮かべ。

 

「……俺に、その目を向けるんじゃねえ」

「えっ……?」

 

 大きな舌打ちをして、周りを押しのけ去っていった。

 

「ソーマ………!」

「おい、新型!!」

 

 ソーマを追いかけようとしたカズキの肩を、カレルが掴む。

 

「てめぇ、部下の手綱も引けねえのかよ!!」

「なっ、無茶苦茶言わないでくださいよ! 大体あなた達がソーマを怒らせるような事を言ったんじゃないんですか!?」

 

 アリサの言葉に、カレルを含めた周囲の神機使い達が視線を逸らす。

 ……どうやら、彼女の言葉は図星らしい。

 これにはカズキ達も呆れるばかり、自業自得ではないか。

 

「呆れますね、勝手に怒らせて責任をカズキになすりつけるなんて……もう少し大人になった方がいいですよ。

 そんなんだから、後から入ったカズキに抜かされるんですよ」

「何だと!!」

「アリサちゃん、喧嘩腰になっちゃダメだよ。それに今はこんな人達の事よりソーマだ」

「…………」

「……カズキ、お前結構さらりと酷い事言うよな」

 

 天然なのか、それとも意図的なのか……。

 

「……友達を悪く言う人には、これくらいでも足りないよ」

「…………」

 

 おっそろしく冷たい声で、カズキは告げる。

 いつもの優しい彼とは違う、冷たい声。

 これには、カレルも他の神機使いも押し黙ってしまう。

 

「……カズキは、怒らせない方がいいですね」

「だな……」

 

 聞こえないように話しつつ、食堂を後にするカズキに付いていくアリサとコウタ。

 

「ソーマ!!」

「…………」

 

 エレベーターに乗る所で、ようやく彼に追いつきカズキは声を荒げる。

 

「……ソーマ、気にしない方がいいよ。何言われたのかは知らないけど……」

「―――うぜぇ」

「え…………っ!!?」

 

 憎しみすら込められたような、ソーマの呟きが聞こえたと思った瞬間。

 

「ぐっ―――!?」

 

 風切り音を鳴らし、ソーマがカズキの頭部へと回し蹴りを放った。

 咄嗟に反応し、自分の両腕を用いてその一撃を防ぐが、ガード越しでもビリビリと衝撃が彼を襲う。

 

「ちょ――何してるんですかソーマ!?」

「お前………!」

「――俺に近づくんじゃねえ、俺みたいな化け物に……そんな直視できない瞳を向けるな」

「えっ………?」

 

 今のは、一体どういう意味だ?

 カズキがそう問いかける前に、ソーマはエレベーターに乗って行ってしまった。

 

「な、何なんだよあいつ!!」

「カズキ、大丈夫ですか!?」

「大丈夫。ちゃんとガードできたから」

 

 とはいえ、まともに受けた左腕はまだ痺れ感覚が無い。

 凄まじいまでの威力だ、ゴッドイーターとしての能力を超えているのではないかとすら思える。

 

――そんな中、カズキの通信機が鳴り響く。

  すぐさま取り、内容を確認した後……カズキはコウタ達に対して口を開いた。

 

「ごめん2人とも、支部長が呼んでるみたいだから行かないと」

「あ、ああ……わかったよ」

「カズキ、お話が終わったら念の為医務室に行った方がいいですよ?」

「アリサちゃんは心配性だなぁ、でもちゃんと行くから安心して」

 

 カズキのその言葉を受けて、アリサも一応納得はしてくれたのか頷きを返す。

 それじゃあ、2人にそう告げカズキもエレベーターに乗り込み、支部長室へと向かったのだった。

 

 

 

 

 

「―――クソが」

 

 ベテラン区画でエレベーターから降り、ソーマは1人悪態を吐く。

 ……原因は、やたらと自分に構おうとする抗神カズキのせいだ。

 優しげな雰囲気、暖かい言葉。

 当然ながら彼を慕う者は多く、リンドウとアリサは彼に救われたと言っても過言ではない恩を受けた。

 

 ソーマ自身も、別段彼を嫌っているわけではない。

 だが――カズキのあの瞳が気に入らなかった。

 しかし、前はそれほど彼が気に入らないと思っていたわけではない。

 きっかけは、前にカズキが助けた不思議なサリエル。

 自分と同じ化け物であるアラガミを、必死に守った時から……ソーマは、カズキが気に入らなくなっていた。

 

 

 

――ソーマは、特殊な生まれ方をした人間である。

 

 

 

 かつて、彼の両親――父であるヨハネス、そして母であるアイーシャ・ゴーシュは、フェンリルの前身となる企業によって設立された「アラガミ総合研究所」にて、とあるプロジェクトを遂行させた。

 その名は「マーナガルム計画」

 偏食因子を生化学的に応用利用する為に計画されたこのプロジェクトは、いわば現在の神機使い達を生み出す前身的なものだった。

 アラガミに捕喰されない人体を獲得するという目的のそれは、概ね順調な進み具合で確実に成功への道を歩んでいた。

 

 動物実験は成功、しかし人体への直接投与は失敗に終わったものの……胎児段階であれば、母体を介した投与により組み込みがほぼ間違いなく成功する事が確認された。

 尤も、それでも母体への影響が不明な段階でもあり、それ以上先に進む事ができないでいた。

 アラガミによって1日に十万人近い人間が犠牲になっていた頃だったせいもあり、アイーシャは決断する。

 それは自分の子――まだ胎児であったソーマに偏食因子「P73偏食因子」を投与するというもの。

 滅びゆく世界を見せたくはない、その願いを込めて……アイーシャはヨハネスと共に、「偏食因子転写実験」を行った。

 

――だが、縋るべき神が居ない世界は、非情な現実しか与えない。

 

 実験は失敗、実験参加者全てを巻き込んだ暴発捕喰事故により、アイーシャは死亡した。

 生存者は僅か二名、強行な実験に反対していた当時のペイラー・榊によって作られた、対アラガミ装甲の基礎になる物質が入った安産の御守りを所持していたヨハネスと。

 その息子であり、被験者の子であるソーマだけであった。

 

 結果、研究所は閉鎖され計画も永久凍結。

 しかし、ソーマから得られた「P73偏食因子」による身体能力の著しい向上、偏食因子への拒絶反応の減少。

 それらの研究成果によって、後の「P53偏食因子」の発見に繋がり、神機の開発やゴッドイーターの誕生に大きく貢献した。

 

 それ故に、ソーマは腕輪が無くとも偏食因子を生産する事が可能であり、構造上はアラガミに近い。

 だからこそ、ソーマの実力はあのリンドウと同等かそれ以上と言える程抜きん出ているのだが……。

 彼は、そんな自分自身が憎くて憎くて仕方なかった。

 母を殺し、アラガミと何ら変わらない自分の身体。

 小さい頃から化け物じみた能力により、迫害を受けてきた。

 だが、18年という年月があっても、彼を理解してくれる者は現れず……こうして、今のソーマという少年が出来上がってしまった。

 

――しかし、そんな彼もある青年に出会った。

 

 それが抗神カズキ、化け物であると思っている彼に、やたらと接触を試みる青年。

 ソーマにとって、カズキは理解不能な生き物に思えた。

 今まで彼に近付いてきた輩は、すぐさま恐れを成して彼に対し陰口を叩くか、彼の能力を利用する者しか居なかった。

 無論リンドウやサクヤなどの存在も居たが、彼等ですら必要以上に踏み込んでは来なかった。

 

 だが――彼は違った。

 まるで友のように接し、いつも彼に対して心配そうな表情を向け労いの言葉を掛けてくる。

 そこに打算的な色はなく、だからこそ……ソーマにはわからなかった。

 今まで彼には、同年代で自分にここまで構うような者が居なかったせいか、どう反応していいのかわからず、いつも以上にカズキに対し辛く接してしまう。

 

 しかし、それでもカズキはソーマに踏み込み、それが……ソーマには苦痛だった。

 放っておいてほしかった、近付いてほしくなかった。

 彼の瞳は、眩しすぎる。

 化け物として生まれた自分とは違う、まるで真逆の存在だ。

 だから、彼が構う度に……自分が如何に闇の存在であるかを思い知らされる。

 

「クソったれ………!」

 

 ガンッと、自販機の傍にあるゴミ箱が変形してしまう程強く蹴り込む。

 カズキが憎い、嫌いではないが……憎かった。

 ……だが、それでも。

 同時に、もっと彼と共に話がしたいと――友達になりたいと、思ってる自分が居た。

 

「――――っっっ」

 

 思考はぐちゃぐちゃ、形容できない苛立ちが発散される事もなく、ソーマを蝕んでいく。

 そんな時に――厄介な者達が現れた。

 

「おい……ソーマだ」

「行こうぜ、あんな化け物見てたら気分が悪くなる」

 

 それは休憩中であった神機使い達、ソーマを見た瞬間あからさまに嫌そうな表情を向けそそくさと立ち去ろうとする。

 彼等は、聞こえないように彼に対して陰口を叩いたのだろうが……ソーマの聴力は並の人間を大きく上回っており。

 

――それが、引き金となってしまった。

 

「―――――」

 

 どうして、お前達は俺を蔑む?

 俺が何をした?

 お前達に迷惑を掛けたつもりなんかない、好きで化け物になったわけじやない。

 

 やり場のない怒りと、彼等の心無い言葉が……ソーマを、完全に追い詰めた。

 そして――ソーマは立ち去ろうとした神機使い達の首根っこを掴み。

 拳を握りしめ、その拳を彼等に叩き込み始めてしまった―――

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

 支部長室に入るカズキ。

 

「やあ、待っていたよ」

 

 そんな彼に声を掛けたのは、支部長であるヨハネス。

 姿勢を正し、カズキはヨハネスの前に立った。

 

「まずは祝辞を述べさせてもらおう、リーダー就任おめでとう」

「ありがとうございます」

「君ならば既に理解しているとは思うが……リーダーになったという事は、それ相応の権限が与えられると同時に……我々フェンリルに信頼されているという証にもなる。

 願わくば、その期待と信頼を裏切らないでもらいたいものだ」

 

 尤も、君ならば大丈夫だと思うがね。そう言ってヨハネスは整った顔立ちの笑みを見せる。

 

「君にはこれからリーダー専用の個室が与えられる、そこにあるターミナルで情報を更新するように。

 そうすれば、今まで見れなかった資料等が閲覧できるようになるはずだ」

「はい」

「それと……君にはこれから通常の任務の他に、特務を受けてもらう」

「特務?」

「詳しい内容は追って知らせよう、まだ君はリーダーになったばかりだ。焦って全てを教える必要はない、とりあえず今まで通りに任務に励んでくれたまえ」

 

 下がっていい、そう言われたのでカズキは部屋を後にしようとするが。

 

「……そういえば、君はソーマと仲良くしてくれているそうだね」

 ヨハネスにそう言われ、再び彼に視線を向けた。

 

「感謝しているよ。あの子は孤立しがちでね……支部長として、私情を挟んではいけないとわかっているんだが……」

 

 なんともいえない苦笑いを浮かべるヨハネスに、カズキは首を横に振る。

 

「親は、子を無条件で愛する存在です。だから私情を挟んでも何らおかしくないと思います」

「……そうか。そう言ってくれると私も助かるよ」

 

 柔らかい笑み。

 この笑みを見ればわかる、ヨハネスはソーマを息子として大事にしていると。

 ……それを、羨ましいと思う自分が居る事に、カズキは嫌悪感を覚えた。

 

「見ての通りあの子はあんな性格だが……これからも仲良くしてやってくれ」

「はい、わかりました」

 

 そして今度こそ、カズキは支部長室を後にする。

 

(……仲良く、か)

 

 カズキとて、仲良くはしたいのだが……問題の彼自身がこちらを嫌っている。

 どうしたものかと考えていたら――通信機が鳴り響いた。

 すぐさまそれを取り――カズキの表情が、驚愕に包まれた。

 

「ソーマが……暴れてる!?」

 

 通信機から送られた内容、それは――ソーマが他の神機使いに暴行を働いているというものだった。

 すぐさま走り、エレベーターに乗ってベテラン区画に向かうカズキ。

 そこには既に、数人の野次馬が遠巻きに現場を見つめていた。

 それらを掻き分け、ソーマの名を呼ぼうとしたカズキだったが……。

 

「――やめろ、ソーマ!!」

 完全に気を失っている神機使いを、尚も殴ろうとするソーマを視界に捉え、カズキは走りソーマの右腕を掴む。

 

「ソーマ、何を――」

 

 瞬間、カズキの頬に衝撃と痛みが走る。

 殴られた、それを理解するより早く――今度は腹部に先程よりも強い衝撃が襲いかかった。

 

「が、っ、げほ―――!」

 おもわずその場で膝を折り、腹部を押さえながらうずくまるカズキ。

 

「カズキ!!」

 そこに到着したのは、他の第一部隊の面々。

 

「カズキ……! ソーマ、あなたカズキに何をしたんですか!!」

 

 うずくまるカズキを見て、アリサの表情が怒りに満ち溢れる。

 

「……ソーマ、またこの人達に何か言われたのか……?」

 

 しかし、カズキは今にもソーマに飛びかかりそうなアリサを手で制し、起き上がりソーマに問いかけた。

 

「…………」

 

 また、あの瞳。

 優しく暖かで……自分とは違う瞳。

 それが、ますますソーマを苛立たせる。

 

「……もう、俺に構うんじゃねえ!!」

「ソーマ……?」

「俺みたいな化け物に、お前みたいな奴が構うな!! これ以上俺を苛立たせるな……俺を、惨めにさせるな!!」

「――――」

 

 カズキだけでなく、その場に居た全員の表情が固まる。

 初めて見る、彼の激情。

 感情を面に出す事がないソーマが、年相応の少年のように叫んでいる。

 

「……僕が、君を苛立たせているのか?」

「そうだ。テメェは化け物の俺に……どうしてそこまで構うんだ!! 俺は、俺は……」

「…………」

 

――バキッという、乾いた音が辺りに響く。

 

「――――」

 

 ソーマの頬に、激痛が走った。

 それもそのはず、何故なら……カズキがいきなりソーマを殴ったからだ、それも手加減などせずに。

 

「テ、テメェ……」

 

 凄まじい一撃だった、常人を遥かに上回る身体能力を持つソーマでも避けられず、尚且つ一撃で足に来る程の衝撃だ。

 

「……僕が、どうして君を殴ったかわかるか?」

「な、何……?」

「君が、自分の事を化け物と言ったからだ!!

 君は化け物なんかじゃない、それなのにどうしてそんなくだらない事を勝手に肯定するんだ!!」

「っ、何も知らねえ奴が……好き勝手言ってるんじゃねえ!!」

 

 踏み込み、カズキを殴るソーマ。

 しかし同時に、カズキもソーマを殴り倒す。

 

「が、は―――!?」

「何も知らない? そんなの当たり前だ、君は僕に自分の事を話してくれないじゃないか。

 僕はねソーマ、たとえ君が僕を嫌っていたとしても……僕は、君を友達だと思ってる。

 だから知りたい、君がどうして頑なに自分を化け物扱いするのか。そして……そんな事は止めさせたいんだ!!」

「…………」

 

 友達だと思ってる。

 その言葉が、まるで矢のようにソーマの心に突き刺さった。

 嘘を言っている目じゃない、彼は……本気だ。

 

「それでも尚イライラするなら――おもいっきりぶつかってこい!!

 僕は第一部隊の隊長だ、部下である君を受け止めてやる!!」

「…………」

「どうしたソーマ!! 君の辛さを……憎しみを、僕にぶつけてみろ!!

 それくらい受け入れてやる!! だから……来い!!」

 

(………こいつ、は)

 

 どうして、そこまでして自分を受け入れようとするのだろう。ソーマにはわからなかった。

 けれど……彼の言葉に偽りはなく、本気で……ソーマを想ってくれているのが理解できて。

 

――気が付いたら、ソーマの褐色の肌に涙が伝っていた。

 

「ソーマ……」

「………馬鹿が」

 

 ああ、ようやくわかった。

 自分はただ、受け入れてほしかっただけなのだ。

 彼のように、全力でぶつかってくれる相手がほしかっただけなのだと、ソーマはようやく気が付く事ができた。

 

「―――だったら、受け止めてみせろよ?」

 

 拳を握りしめ、構えるソーマ。

 それを見て、カズキは口元に笑みを浮かべ同じように身構える。

 

「言っておくが、俺をそこらの奴と一緒にすんなよ?」

「その台詞、そっくりそのまま返してあげるよ」

「………フッ」

 

 口元に僅かな笑みを見せるソーマ。

 しかしそれは、いつもの彼とは違う……どこか、優しげなものだった。

 そして――どちらからともなく踏み込み。

 

「―――りゃあ!!」

「―――しっ!!」

 

 全くの同時に、拳を突き出し殴り合いを始めてしまった。

 

「ちょ、止めなくていいのかよ!?」

「いいじゃねえか。たまにはこうやって遠慮なく喧嘩したって罰は当たらねえよ」

 

 慌てるコウタ達を尻目に、どこか楽しげにリンドウは言う。

 

「……ソーマがあんなに自分を出したのは初めてなんだ、心行くまでやらせてやろうや」

 

 それに、無闇に入ったらとばっちりを受けるしな。

 そう言って笑うリンドウに、全員が顔を引きつらせる。

 こうして、2人の感情に任せた殴り合いは暫し続き。

 

 結局、ツバキが現れるまで、2人の喧嘩が止まる事はなかった……。

 

 

 

 

 

「――今日、だよな?」

「ええ、そうですね」

 

――カズキとソーマの喧嘩から三日後。

 

 ツバキから懲罰房行きを命じられた2人が、原隊復帰する日となったのだが……アリサとコウタは、どこか緊張した面持ちで朝食を食べていた。

 あんな壮絶な喧嘩は初めて見た、いや……喧嘩というよりもはや殺し合いだったのではないかと思える程だ。

 

「心配すんなって、きっと仲良くなってるさ」

 

 そんな中、リンドウは気にした様子もなく食事をしており、サクヤもまたリンドウと同じく普段通りだ。

 

「リンドウさんもサクヤさんも、よく落ち着いていられますね」

「当たり前じゃない。慌てる必要も緊張する事もないんだから」

「け、けど……」

「青春の喧嘩ってヤツだ、男同士で殴り合って友情を深めてた時期もあったらしいしな」

「それ、相当昔の話ですよね……」

 

 ……やはり、リンドウはおっさんだった。

 と、そんな彼女達に噂の2人がやってくる。

 

「おはようございます」

「…………」

「カズキ!!」

「お疲れさん、懲罰房の中どうだった?」

「狭いし暗いしいい所なんて何もなかったよ」

「……当たり前だろうが、懲罰房なんだからよ」

 

 呆れたようにそうツッコミを入れたのは……コウタでもリンドウでもなく、ソーマだった。

 これには、カズキ以外の面々は目を丸くする。

 

「……ソーマ、お前……随分物腰が柔らかくなったな」

 

 少し驚きの表情を見せつつ、リンドウは嬉しそうにそう口にした。

 

「……フン、どっかの馬鹿があまりにしつこいからな」

 

 そう言ってそっぽを向くソーマ、だが……褐色の肌が僅かに赤く染まっている事を、第一部隊の全員が見逃すはずもなく。

 

「なんだよソーマ、照れてるのか?」

 案の定、コウタがからかいの言葉をソーマに掛ける。

 

「っ、そ、そんなわけねえだろうが!!」

「仲良くなったよ、色々と……自分の事を話してくれたし」

「な、仲良くねえ!!」

「おーおー、可愛げのあるガキになったじゃないの」

「リンドウ、テメェまで……!」

「あらー? あらあらあら」

 

「うるせえぞサクヤ!! っ、ああクソ、元はといえばカズキ、テメェのせいだぞ!!」

「どうして僕に怒るのさ?」

「うるせぇ!!」

 

 わーわーぎゃーぎゃーと、騒ぎ立てる第一部隊の面々。

 それはそれは微笑ましく、そして仲睦まじく映ったとか何とか……。

 

 

 

「仲良くねえ!!」

「ソーマ、僕の事嫌い?」

「……………嫌い、じゃねえ」

 

「やっぱツンデレじゃん」

「コウタ、テメェは今すぐ息の根を止めてやる!!」

 

 

 

 

To Be Continued...


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