神々に祝福されし者達【完結】   作:マイマイ

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選定の時が、やってきた。
世界は、彼等にどんな未来を与えるのか……。

――最期の選択が、迫られる。


最終捕喰 ~未来へ~

 黒い極光が、世界を染め上げていく。

 視界を潰すほどの強い光、感じ取れる力の奔流はデタラメの一言に尽きる。

 この光を受けて生き残れる生物は存在せず、けれどカズキは自らの意志で極光にその身を飛び込ませた。

 

「は……!?」

 

 その愚行、自滅としか言い様のない彼の行動に、アンノウンは驚愕する。

 彼はまだ勝負を諦めていなかった、あの瞳を見ればすぐにわかる。

 だというのに、何故自ら命を奪う極光の中に飛び込んでいったのか理解できない。

 

「……まあいいや。拍子抜けだけど、これで終わりよカズキ!!」

 

 砲撃は、まだ止まらない。

 数秒もしない内に彼の身体は黒い光に沈み、骨すら残さず灰燼と還るだろう。

 勝敗の天秤は決して揺らがない、アンノウンの勝利は変わらない。

 

 …………そう、結果は変わらない。

 カズキが、本当にこのまま極光の前に平伏すのならば、だ。

 

「ぎ、が…………!」

 

 極光の中を飛び込んだカズキは、すぐにその肉体を破損させていった。

 熱と衝撃は彼の皮膚を削り、臓器を傷つけ、その度に凄まじい速度で再生を繰り返していく。

 残り少ない体内のエネルギーを集中させて再生を試みるが、終わりが近いのは明らかであった。

 だが、このような愚行にも当然意味がある。

 全ては勝利の為、アンノウンという怪物に勝つにはこちらも生半可な覚悟と行動では決して届かない。

 

「ぐ、うぅぅぅ……!」

 

 神経が断裂する痛みと不快感を味わいながら、カズキは右上段に構えたままの“光の剣”を振り下ろした。

 黒い極光の中で発生する、白い極光。

 二つの光がせめぎ合い、けれどすぐさま白い極光は黒い極光に呑み込まれていく。

 

 今の彼に残された力は全開の十分の一以下、左腕は失われ片腕での“光の剣”ではアンノウンの全力の一撃に対抗できるわけがないのは初めから決まっていた事だ。

 彼がどう足掻こうとも結末は変わらず、アンノウンでなくても彼の行動は破れかぶれの愚行にしか見えないだろう。

 

「――――」

 

 しかし、この瞬間。

 僅かに、ほんの僅かであるが黒い極光がカズキに届かない時間が生まれた。

 一秒にも満たない一刹那。

 されどこの刹那の時は、両者の状況を覆る結果を生み出す事となり。

 

――彼は大きく口を開き、一歩前に進んで黒い極光を()()()()()()

 

「なっ――――!?」

 

 その光景に、アンノウンは完全に我を忘れる程の衝撃を受けた。

 目の前の光景が信じられない、考えすら浮かばなかった光景を見てどうして衝撃を受けないというのか。

 そうこうしている間にも、カズキは自身を滅しようとする黒い極光を喰らい続けていく。

 余波によって身体が削り取られる事も構わず、一心不乱に喰らい続けるその姿はアンノウンに明確な恐怖心を与えていった。

 

――オラクル細胞は、“捕喰”に特化した細胞である。

 

 故に喰らえぬものは存在せず、純粋なエネルギーすら捕喰する事が可能なのだ。

 しかし、理屈では理解しても実際に実行するアラガミなどこの世には存在しない。

 理由は簡単だ、エネルギーを喰らい尽くす前に自らの肉体がそのエネルギーによって肉体を滅ぼされるからである。

 今の状況とて同じだ、仮に他のアラガミが彼と同じ事を試した所で、捕喰が完了する前に極光の中で消え去るのみ。

 

「――――」

 

 しかし、彼はまだ生きていた。

 その身を消し飛ばされながら、捕喰と再生を繰り返し生き永らえている。

 ……これこそが、先程見せた彼の愚行の理由であり、勝利の天秤をこちら側に傾かせる一手であった。

 

「嘘、でしょ……?」

 

 掠れた声で、アンノウンはそんな呟きを零す。

 勝利を確信していた、彼がどんな手を使おうともその結果は覆らないと本気で思っていた。

 だがしかし、一体どうしてこのような手段を用いて逆転しようとしてくると思えるのか。

 

「ありえない……ありえない、ありえないありえない!!」

 

 喚く事しか出来ない、彼女は今の一撃で力の殆どを使い果たした。

 故に動く為には少なくとも数秒の時を有し、そして――その数秒こそが運命の分かれ目。

 

「お――――おおおおおおおおおっ!!!!」

 

 喰らう。

 喰らう。

 喰らい尽くす勢いで、カズキは黒き極光を捕喰していく。

 絶えず痛みと熱、そして再生する際に襲い掛かる衝撃が彼の自我を崩していった。

 神経が焼き切れそうな中、カズキはただ前に進みながら捕喰を繰り返す。

 

――そして、全てを呑み込む闇の中から流星の如し勢いで彼はアンノウンに向けて飛び出した。

 

 如何にアンノウンの砲撃を捕喰しエネルギーに変換したとはいえ、その間に受けたダメージを回復する事でその殆どを消費してしまった。

 満身創痍、もはや一欠片程度の力しか彼の身体にはエネルギーが残されていない。

 けれどその一欠片で充分、死に体であるのは相手とて同じなのだから。

 

「カズキ――カズキィィィィィィィィィィッ!!!!」

 

 向かってくる流星に抜けて、アンノウンは叫んだ。

 それを確かに聴きながら、カズキは再生した左手も用いた両手持ちで神機を右上段に構えながら吶喊する。

 刀身に宿るのは残り全ての力を込めた“光の剣”、既に臨界に達したそれは主の発動を今か今かと待ち続けていた。

 

 瞬間、両者の時間が止まった。

 交差する視線、見つめ合う瞳に映るのは互いの姿のみ。

 一方は勝利を確信しながらも敗者へと転落した狂いし神。

 もう一方は、最後の最後まで諦めずに勝利の道を駆け抜け続けた人間。

 決して相容れることの出来なかった両者は、最期にお互いの姿をその網膜に焼き付けて。

 

「――はああああああああああっ!!!!」

 

 白い極光の刃が、狂いし神の身体を両断し。

 長き因縁の果てへと、漸く辿り着いた――――

 

 

 

 

「…………」

「…………」

 

 神機を振り下ろしたまま、カズキは動かない。

 全ての力を振り絞った今の彼には、顔を上げる力すら残されていなかった。

 そんな彼を、アンノウンはどこか虚ろな表情で見つめている。

 

「……あーあ、負けちゃった」

 

 カズキの髪を優しく触れながら、アンノウンは静かに己の敗北を認める言葉を放つ。

 けれどその口調、その雰囲気はとても柔らかく静かなものであった。

 彼女は今自分でも驚く程に落ち着いている、既に肉体は崩壊を始めているのに死への恐怖や敗北の悔しさといったものは存在していない。

 

「まさか“殺生石”を捕喰するなんて思わなかったよ、っていうかなんでそんな事出来るの? あんなのチートじゃんチート」

 

 駄々をこねる子供のようにぼやくアンノウン。

 一頻り愚痴や文句を言い続けた彼女は、最後に指で彼の頬を優しくなぞってから。

 

「――――バイバイカズキ、愛してるよ」

 

 彼に愛を囁きつつ、そっと額に口付けを落とし。

 安らかな表情のまま、アンノウンは静かに消え去った――――

 

「…………」

 

 勝利したカズキは、動かない。

 アンノウンに勝ったという事実を自覚しつつも、その余韻に浸る事など今の彼にはできなかった。

 全てを出し切り、一欠片すら残さず消耗しきった彼の身体はとうに限界を超えており。

 

 そのまま、彼は地面に倒れ込み。

 沈むように、眠りに就いた。

 

 

 

 

「ッ!?」

 

 ブラッド達との死闘を繰り広げながら、異形の存在と化したラケルは“それ”に気づく。

 ……アンノウンとグリード、その2人の反応が消え去ったという信じ難い事実に。

 馬鹿な、敗れたというのか。あの2人が?

 アンノウンもグリードも、全てを出し切る為に細胞を極限まで進化させた。

 今の両者に適う神機使いなど存在する筈がない、たとえ最強のゴッドイーターと呼ばれるカズキや、ブラッド隊長であるフィアですら。

 

 だというのに、2人の反応は消え――フィアの気配が、急速に接近してきている。

 その認めがたい現実を理解し、ラケルの表情に確かな焦りが生まれ始めた。

 彼女は、カズキとフィアを脅威だと認めている。

 必ずあの2人は自分とジュリウスの邪魔になる存在だと認識しているからこそ、排除する役目をアンノウンとグリードに与えたのだ。

 だが結果はこちらの敗北、これでは支障を来しかねない。

 

「こんなろおおおおっ!!」

「やあああああああっ!!」

「――――!」

 

 焦りと驚愕の隙を突かれ、ラケルにロミオとナナの一撃が繰り出される。

 すんでのところで気づいたラケルは、四肢を用いて大きく後方へと跳躍し難を逃れた。

 ――これ以上、時間は掛けられない。

 もはや一刻の猶予も許されないと理解し、ラケルは体内のエネルギーを高圧縮させ、相手をしているブラッド隊全てを消し飛ばそうとして。

 

――銀光が奔り、ラケルの身体に裂傷を刻ませた。

 

「ギ――アアアアッ!!!?」

 

 衝撃と痛みで堪らず叫ぶ。

 一体何が起きたのか、ラケルは突然の奇襲を仕掛けた相手に視線を向け。

 

「フィア……!?」

「…………」

 

 強い命の光をその瞳に宿し自分に神機の刀身を向けるフィアを、視界に収めた。

 彼を見て、ラケルは改めてグリードが敗北したという事実を思い知らされる。

 そして――自分が追い詰められ始めているという事実も、理解した。

 

「フィア!!」

「ったく、遅いっての!!」

 

 フィアとシエルの無事を確認し、ブラッド達は喜びの声を上げる。

 その中で、フィアは仲間達に一瞥する事もせずにラケルだけに視線を向けていた。

 ……既に彼は、ブラッドレイジを再び発動させている。

 グリードとの戦いで、もうフィアに残された力は僅かだ。

 だからこそ全てを燃やす勢いで、彼は身体の負担など考えずにブラッドレイジを発動させた。

 

「――――」

 

 視界に、ノイズが走る。

 ブラッドレイジの連続発動は、容赦なく彼の身体を蝕み崩壊を招き始めていた。

 けれど止まらない、止まれない。

 もうすぐなのだ、手を伸ばせば届く距離にジュリウスは居る。

 今ここで全てを出し切らないでいつ出し切るのか、削れていく自分自身を無視しながらフィアは神機を構えた。

 

「…………サナイ」

「……?」

 

 何か、ラケルが呟いた。

 一瞬だけ、フィアがそちらに意識を向けた瞬間。

 

「――ジュリウスハ、渡サナイ!!!!」

 

 もはや、人の声と認識できない声を放ち。

 ラケルは、己が細胞を解放させた。

 

「――――!!!?」

「えっ――きゃあっ!?」

「うおおっ!?」

 

 ブラッド達から驚愕の声が放たれ、全員が地面から出現した棘に拘束される。

 必死でもがくが一向に抜け出す事ができず、その間にラケルは――ジュリウスの元へと這っていった。

 

「ぐ、あぁぁぁぁ……!」

 

 全力で拘束から逃れようとする。

 だが無意味、ラケルが持つほぼ全てのエネルギーと細胞で形成された呪いの棘は、ブラッドレイジ状態のフィアですら抜け出す事ができない。

 他の者達も同様であり、そして。

 

「サア、ジュリウス……私ト、ヒトツニナリマショウ?」

 

 ラケルは、ジュリウスを覆う繭を破壊し中に居る彼をそっと掴み上げた。

 何をする気なのか、など考えなくても判る。

 取り込むつもりなのだ、ラケルはジュリウスを。

 そうなれば全てが終わる、再生などしない破壊だけの終末捕喰が発動し世界は死の星へと変わるだろう。

 

「くっそおおおおおおおおっ!!!!」

「ダメ……やめてええええっ!!!!」

「このままじゃ……!」

 

 己の無力さを怨みながら、ブラッド達は尚も諦めずに脱出を試みる。

 

「――――」

 

 取り込まれる。

 ジュリウスが、ラケルに捕喰される。

 そうなれば全てが終わる、けれど今のフィアにとってそんな事はどうでもよかった。

 

――また、助けられないのか?

 

 あの時約束した、必ずジュリウスを連れて帰ると。

 その約束を果たそうとここまでやってきた、ジュリウスも「待っている」と言ってくれたではないか。

 彼は今だって待ってくれている、自分達が迎えに来てくれる事を。

 

「あ、あ――あああ……!」

 

 ならば、今こうして彼が取り込まれようとしているのを暢気に眺めている場合ではない。

 助けると誓った、迎えに行くと約束したのならば必ず果たさなければ。

 

――多くの命の踏み躙ってきた。

 

――多くのものを、見捨ててここまで来た。

 

 もう、あんな思いは二度としたくない。

 もう、あんな悲しみは二度と起こしたくない。

 

「ぎ、あ、あああ――あぁぁぁ――!」

 

 ならば行け、行って彼を助けろ。

 全てを振り絞って奇跡を起こしてみろ、それが出来ないなんて事は許されない。

 望んだ未来はこの手で掴む、その為にここまで来たのではなかったのか。

 

「あぁぁぁ……あ、ああああ!!」

 

 ギチリと、フィアの体内から軋んだ悲鳴が上がっていく。

 痛みで思考がどうにかなりそうになっても、フィアは強引に拘束から逃れようと力を込め続ける。

 たとえこの四肢を引き千切ってでも、彼を助ける。

 ただその一心だけで、フィアは更なる力を全身に込め。

 

「――――ジュリウスーーーーーーーーーーー!!!!」

 

 四肢を自らの意志で引き千切り、拘束から脱出した――!

 

「うおおおおおおおおああああっ!!」

 

 地面に落ちる、だがその前にフィアの四肢は一瞬で再生を完了させた。

 ありえない奇跡、それが彼の中で発生したがフィアにとってはどうでもいい事だ。

 今の彼にはジュリウスを救う以外の考えは浮かばない、獣のように地を蹴り一気にラケルの元へと向かっていった。

 

「ワタシノ、ジュリウス……渡サナイ!!」

 

 ジュリウスを自らに取り込みながら、ラケルは向かってくるフィアに向けて右手を翳す。

 そこから放たれるオラクルエネルギーの砲撃、彼を容易く呑み込む一撃を防ぐ手段はなかった。

 今の彼は丸腰だ、如何にブラッドレイジを発動したままでもこの砲撃を受ければ無事では済まない。

 ……それがどうした、真っ直ぐ向かっていく彼の瞳に迷いなど存在しない。

 

 どんな攻撃を受けようとも、彼はこの足を止めない。

 そして、砲撃が彼の身体を一瞬で呑み込んで。

 

「――――」

 

 視界が、真白に染め上がる瞬間。

 フィアは、自分を砲撃から守るように現れた女性の姿を、見た。

 

 マリアではない、ケイトでもないその女性は、フィアに対し女神のように美しく儚い笑みを見せている。

 ……知っている、彼はこの女性を知っていた。

 けれど浮かぶのは何故という疑問のみ、そんな彼の困惑は刹那の時の間で巡り続ける。

 

 時間が止まり、暫し見つめ合うフィアと女性であったが。

 

「――正しい心を育んでくれてありがとう、フィア」

 

 女性が、フィアを褒めるようにそう言って、そっと彼の頬に口付けを落とし。

 最後にもう一度微笑みながら光の中へと消えていき――フィアは現実に戻ると同時に、砲撃の中を抜け出した。

 

「――――!!!?」

「うおおおおおおおっ!!!!」

 

 ラケルの動きが、止まっている。

 その隙を逃さずフィアは跳躍し、取り込まれる寸前のジュリウスの右腕を掴み上げた。

 掴んだという自覚を抱く前に次の行動へと移り、フィアは一気にジュリウスをラケルの身体から取り上げ跳躍する。

 

「アアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

 

 まるで半身を抜き取られたかのような、悲痛な断末魔を上げながらラケルはその巨体を地面に沈ませる。

 その一秒後、ジュリウスを担ぎながら着地したフィアは倒れたラケルに視線を向ける。

 ……彼女はまだ生きている、しかしその命の灯火は酷く弱々しいものへと変わっていた。

 おそらく彼女の身体はほぼ完全にジュリウスを取り込んでいたのだろう、それなのに無理矢理彼を引き離した結果――彼女の生命力は著しく低下した。

 

「……ジュリ、ウス。ジュリ……ウ……ス」

 

 もう助からないと悟ったのか、それともまだ諦めていないのか。

 ラケルは、今にも崩壊しそうな身体を懸命に動かしながら、決して届かないジュリウスへと手を伸ばし続ける。

 そこから感じ取れるのは――彼に対する確かな“愛情”であった。

 息子を想う母のような愛情、それが堕ち続けた彼女の中から感じ取り……フィアはおもわず叫んでしまった。

 

「どうして……どうしてそんなにもジュリウスを愛していたのに、こんな道しか辿れなかったんだ!!」

 

 無意味な問いだ、アラガミとなったラケルにとってそんな問いなど愚問以外の何物でもない。

 それでも彼は問うた、最後に見せる彼女のジュリウスに対する愛情が本物だと理解したからこそ、問いかけずにはいられなかった。

 けれど彼女は答えない、否、答えられない。

 今のラケルに映るのはジュリウスのみ、うわ言のように彼の名を呼び続ける彼女は……ひどく悲しい生物に見えた。

 もしも彼女が、今見せているような純粋で大きな愛情だけをジュリウスに注いでいれば、違う未来もあったのではないかと思わずにはいられない。

 

 ……だがそんな考えなどそれこそ無意味だと、フィアは己自身に言い聞かせた。

 過去は変わらない、IFの世界など存在しない。

 ならばこの問いかけに意味はなく、それにもう彼女に答える力はなかった。

 

「……ワタシ、ノ……ジュリウ……ス……」

 

 ラケルの身体が崩れ落ちる。

 ……もう、二度と彼女が動く事はなかった。

 それを見て、フィアは既に息絶えた彼女に向かって。

 

「――さようなら、ラケル」

 

 救われるように願いを込めながら、そっと別れの言葉を送ってあげた――――

 

 

 

 

 螺旋の樹が揺れ動く。

 空は赤黒く変化し、今にも終末捕喰が始まろうとしていた。

 再生のない破壊だけの終末捕喰、その発動が刻一刻と迫る中。

 

「…………皆」

「ジュリウス!!」

「やった、ジュリウスが目を醒ましたぞ!!」

 

 あの時と変わらない瞳を見せながら、ジュリウスが目を開けた。

 その事実にブラッド達が喜びの声を上げ、一体何が起きたのか困惑するジュリウスにフィアが今までの経緯を説明する。

 

「……そうか。またみんなに迷惑を掛けてしまったようだな……すまない」

「ジュリウスが謝る事じゃないって!!」

「そうそう!!」

「……ありがとう、皆」

 

 微笑みを見せるジュリウス、その笑みはあの時と変わらない少し不器用そうに見えながらも優しい笑みであった。

 ――だが、今は再会を喜び合う状況ではない。

 揺れは激しさを増し、空は漆黒に包まれようとしている。

 

「……止められないの?」

「ラケル博士が、特異点のコアを破壊してしまったからでしょうか……?」

「おそらくは、な……」

 

 全員が、その場で立ち尽くし押し黙る。

 ジュリウスを救い出せた、しかし終末捕喰を食い止められなければ意味はない。

 そんな中、沈黙を破ったのは。

 

「――止めればいいさ。みんなで」

 

 まるで、朝の挨拶を交わすかのような軽い口調でそう告げた、フィアであった。

 その緊張感に欠けている口調に呆気に取られつつも、ブラッド達から絶望と不安が取り除かれていく。

 

「ロミオ、血の力を解放しながら神機を地面に突き刺して」

「あ、ああ」

 

 言われた通り、地面に神機の刀身を突き刺してロミオは血の力を解放させる。

 そして、フィアは彼の手にそっと自分の手を乗せ、皆も同じ事をするように指示を出す。

 重ね合うブラッド達の手、そして全員がある“願い”をロミオの神機へと注いでいく。

 

――世界が、消えませんように。

 

 まるで子供のような、けれど今この世界に生きる全ての者達の願い。

 その願いをカタチにする為に、彼等はただ純粋に祈り続ける。

 そしてフィアも同様に祈りながら、ブラッドレイジの力をロミオの神機へと注ぎ込んでいく。

 これで限定的とはいえ一時的に彼の血の力が増強される。

 

 ロミオの血の力、『対話』の力ならばきっと奇跡を起こしてくれる。

 そんな都合の良い事を考えながら、フィアと仲間達はただただ祈り続けて。

 

 

 

 全員が、極光の光に包まれる。

 その中でも、彼等は抱いた願いを決してその内から消さないまま。

 

 

 終末捕喰が、静かに発動を開始した――――

 

 

 

 

Next.Last.Episode...




次回、ラストとなります。
最後までお付き合いしてくださると嬉しいです。

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