それ故に、常識では考えられないアラガミも、確かに存在するのだ……。
――カズキの自室。
ベッドに座り、読書をしているカズキ。
と、入口の扉からノックの音が響き、顔を上げた。
「誰?」
「私です、アリサです」
どうぞ、と声を掛けると、アリサが何故か少し緊張した面持ちで部屋に入ってきた。
彼女の手には、手のひらサイズの円形のディスクが。
映像を記録するタイプのディスクのようだ、それを確認していたら彼女が口を開く。
「あの……今、お時間ありますか?」
「見ての通り、読書してたから暇だよ。それでどうしたの?」
「あ、その……もしよかったら、一緒に映画でも観ませんか?
前から観たかった映画が手に入って……」
そわそわと落ち着かない様子で、アリサはカズキにそう提案する。
映画を観たかったのは事実だが、カズキと2人で観たいと思い、勇気を出してみた結果……。
「いいよ。じゃあ用意するからちょっと待っててね」
「あ………!」
嬉しい、自分の誘いを承諾してくれた。
モニターを用意するカズキを見ながら、アリサは自分の口元が緩むのを止められない。
「できたよー……って、アリサちゃんどうしたの?」
「えっ、あ、いえ、なんでもありません!!」
「? そう……」
わたわたと慌てるアリサに首を傾げつつ、ディスクをモニターに付いている端末に差し込む。
「座る場所、ベッドの上でもいい?」
「べ、ベッド!?」
「……うん、どうかした?」
「い、いえ……すみません、変な想像をしてしまいました……」
「そう……。ところでジャンルは何なの?」
「あ、その……恋愛映画なんですけど」
「恋愛映画か……アリサちゃんもやっぱり女の子なんだね」
「むっ。なんだか含みがある言い方ですね、やっぱりって何ですかやっぱりって」
ジト目でカズキを睨むアリサ。
カズキも今のは失言だと理解したが、時既に遅し。ジト目のままアリサがズイッと迫ってきた。
「カズキは、私の事そんな風に見ていたんですね、どん引きです」
「そういうつもりじゃないよ……まいったな」
苦笑するが……ここで、彼女との顔の距離がかなり近い事に気が付いた。
アリサはカズキを睨む事に専念しているのか、気づいた様子はない。
(まいったな……)
このまま離れれば失礼な態度になるかもしれないし、かといってこのままというのも……カズキが耐えられない。
……最近の彼女は、いやにしおらしいのだ。
前みたいなプライドの高い彼女に戻れとは言わないが、これでは否が応でも女の子として意識してしまう。
ほのかにカズキの顔が赤くなる、そして端から見てると見つめ合っているようにしか見えない2人の前に、第三者が現れた。
「おーいカズキ、ツバキ教官が―――」
「…………あ」
ノックもせずに勢いよく無遠慮に入ってきたのは、コウタ。
ニカッと人懐っこい笑みを見せたまま、コウタの表情が固まった。
それもそうである、何故ならコウタの視点からカズキ達を見ると、今からキスをする所だったようにしか見えないからだ。
「あー……ごめん、お楽しみ中だったんだ……」
「違うよ……」
「何言って………」
そこまで言いかけ、アリサはようやく自分の体勢がどうなってるかに気づき、瞬時に顔を赤くさせる。
「何だよー、2人ってそういう関係だったのか、オレ全然知らなかったぜ」
「ちょ、な、何言ってるんですか!! べ、別にそういうわけじゃないですよ!!」
ニヤニヤとした笑みで、完全にからかおうとしているコウタに対し、アリサは顔を真っ赤にして否定する。
しかし、明らかに楽しんでいるコウタには意味を成さず、更におちょくっていく。
「いいよなー、新型同士のカップルなんてさ」
「で、ですから違うって言っているじゃありませんか!!」
「でもさ、鍵はかけておいた方がいいぜ? いつ誰が入ってくるかわからないからな」
「…………」
アリサの右手が握り拳になり、殺気が出始めた。
「あ、コウタ……」
これは拙い、そう判断したカズキがコウタを止めようとした瞬間。
「………コウタ」
「なに―――ぶほっ!!?」
「あ」
入った、ほれぼれするくらい見事な右ボディーブローが、コウタの鳩尾に。
完全に油断していたコウタにそれが避けられるはずもなく、そのまま地面に沈んだ。
「……用件は、何ですか?」
にっこりと、全然目が笑ってない笑みを浮かべ、倒れたコウタの髪を掴み上げ問いかけるアリサ。
コウタはそれで完全に萎縮してしまい、ズキズキと痛む鳩尾を押さえながら、震える声で口を開く。
「ツ、ツバキ教官が…第一部隊を、全員…エントランスロビーに、集合させろって……」
「そうですか、わかりました」
「ふげっ!?」
(うわぁ……)
そのままぱっと手を離し、コウタは再び地面と口付けを交わす羽目に。
それをどこか冷たい瞳で見下ろしてから、アリサはカズキに向かって先程とは打って変わった可憐な笑みを見せた。
「カズキ、ツバキ教官が呼んでいるみたいですから、映画は後で観る事にしましょうか」
「あ、あの……コウタは」
「行きましょうか」
ぐいぐいとカズキを引っ張り部屋を出るアリサ、途中で「ふぎゃ!?」という悲鳴が聞こえたが、アリサは気にせず歩を進めていく。
(……ごめん、コウタ)
心の中でコウタに対し謝罪するカズキ、しかし……彼にはアリサに逆らう度胸などは存在していなかった。
というより、今回は悪ノリが過ぎた彼が悪いのだが。
エントランスロビーに集合する第一部隊。
これから任務に向かう為の準備をするために、他の神機使いが端末を操作している光景をふと眺めていると――ツバキが現れた。
「全員……まったく、コウタがまた居ないようだな」
「い、いま〜す……」
鳩尾を押さえつつ、よろよろとやってきたコウタ。
「何を遊んでいたんだお前は」
「い、いえ……」
「ツ、ツバキ教官。ところで全員集合させるなんて、どうしたんですか?」
慌てて口を挟むカズキ、そのおかげかツバキはこれ以上コウタを問いただす事はなく、カズキ達へと視線を正した。
ジェスチャーで感謝の意を伝えるコウタに、カズキはなんともいえない表情を浮かべる。
こうなった元凶のアリサは、既に我関さずとばかりに無関心を装っていた。
すぐさまコウタは他の面々と同じように並び、ツバキの言葉を待つ事に。
すると、ツバキはカズキへと視線を向け。
「抗神カズキ、貴官を今回の任務を以て、フェンリル極東支部第一部隊の第二隊長に任命する」
よく耳に通る声で、そう告げた。
「えっ……?」
「第二隊長?」
「上層部からの指示でな、本来ならば同じ部隊に隊長が2人居るというのは不自然だ。
だがかといって新しい部隊を作る人員は居ないし、カズキの能力を正式に評価するための措置という事だ」
「………隊長」
すなわち、リーダーという意味だ。
まだ神機使いになって一年も経っていない、だというのに何故……。
「す、すげぇ……出世じゃん、大出世じゃん!!
こういうの何て言うんだっけ……下克上!?」
「……それ、裏切りですよ」
絶対零度の冷たい視線をコウタに向けるアリサ、他の面々も彼の間が抜けた発言に苦笑。
「今後はお前も隊長としてそれ相応の権限が与えられる、階級も少尉に昇進となるぞ。
そしてリンドウ、お前もそれに伴い階級が中尉に変わる、より隊長らしく振る舞い皆の模範になれよ?」
「うはぁ、給料が増えるのはいいけど、ますます肩に力を入れて頑張っていかないとなぁ」
「安心しろ。お前はもう少し気を張ったくらいがちょうどいいさ」
皮肉を込めたツバキの言葉に、リンドウは小さく唸り周りからは笑い声が。
「内容は以上だ、だが勘違いはするな。次の任務が終わってからだぞ?」
そう言って、ツバキはその場から去っていった。
「さて……カズキ、今回はサリエルの討伐だが、メンバーはどうする?
ここは、新しい隊長のお前に決めてもらう事にしようかね」
「リンドウ、丸投げするつもり?」
呆れたようにサクヤは言うが、リンドウは気にした様子もなく「頼むわ」と完全にカズキに今回の任務の指揮を任せるつもりらしい。
それに対しカズキも呆れを見せつつ、誰を連れていこうか思考を巡らせる。
考えること暫し、彼はメンバーを決め発表する。
「じゃあ……僕とソーマ、それとコウタにサクヤさんで」
「………チッ」
「ソーマ、何で今舌打ちしたんですか? まさかカズキの決定に不満があるだなんて言うつもりじゃありませんよね?」
「あーアリサ君、君がカズキを大事にしてるのはわかってるけど、いちいち突っかからないように」
「なっ、べ、別にそういうわけじゃありません!! わ、私はただ隊長になったカズキの言葉に不満そうな態度をとったから……」
(………面白い)
(アリサ、わかりやすくて可愛いわね)
わたわたと顔を赤くして否定するアリサだが、端から見ていて微笑ましい事この上ない。
生暖かい視線を向けている2人だが、あまりやるとアリサが本気で怒るので止める事にした。
「それじゃあリンドウさん、行ってきます」
「おう、気をつけろよカズキ」
「無茶はしないでくださいね? コウタ、カズキの足を引っ張らないでくださいよ?」
「なんでオレだけ名指しで言うんだよ!!」
「あはは……」
本当にアリサはコウタに対して容赦がない、苦笑いをしつつカズキは任務へと赴いたのだった。
―――サリエル。
人間の女性の身体に、蒼い蝶が融合したような人間に近いアラガミである。
額には巨大な第三の目が存在し、禍々しいながらもその姿は妖艶であり、アラガミでありながらその姿に魅了される者も少なくない。
しかし、不用意に近づこうものなら高熱を孕むレーザーや猛毒を含んだ毒粉により、瞬く間にあの世へと誘う。
まさしくそれは「死の天使」と呼ばれ恐れられる存在なのだが……それでも尚、魅せされるというのだから、サリエルが人間にはない美しさを持っているという事なのか、それとも人間が愚かなだけなのか……。
「――それでさ、帰ったらカズキの隊長就任パーティーでもやらね?」
鉄塔エリアに着き、目的のサリエルを探しながら、コウタはそう口にする。
「そうね……たまにはみんなで騒ぐのも悪くないかも。けど、今は任務に集中しなきゃダメよ?」
「うぃーす」
「じゃあ、ここからは別れて捜すよ。ザイゴートも居るらしいから油断しないようにね?」
カズキの言葉にソーマ以外は頷きを返し、それぞれ四方向に移動を開始する。
神機は剣形態のまま、カズキは周囲に気を張りつつ歩を進め……足を止めた。
「………これは」
地面に倒れる、二体の死骸。
それは、先程全員に気をつけるよう言い渡した存在――ザイゴートだった。
既に事切れたザイゴートの身体には、身体の半分はあるであろう大きな穴が開いている。
近づいて見てみると……貫通した穴は僅かに焼け焦げた跡が。
(サリエルのレーザーか……けど、捕喰した形跡がない……?)
アラガミは、他のアラガミを襲い捕喰する特徴がある。
だというのにこのザイゴートにはこの形跡はなく、これではただその命を奪っただけではないか。
〈だーれ?〉
「――――っ」
背後から聞こえた声に、振り返らずに離れるカズキ。
すぐさま神機を構え――おもわず動きを止めた。
「サリ…エル……?」
そう、カズキの前に現れたのは討伐対象であるサリエル。
しかし――小さい。
普通のサリエルは巨大なスカート等の部位がある為、ニメートル近くある体格だ。
だが、カズキの目の前に居るサリエルは一メートル程とまるで子供のように小さく、顔も彫刻のような整いすぎているものではなく、どこか幼さすら感じる。
それに……今の声、は。
〈わー、にんげんだ。はじめてみたー〉
「っ!!?」
耳ではなく、頭に響いた幼い少女の声。
「……君、は?」
おもわず、倒すのも忘れ問いかけてしまった。
警戒は全力で、しかしその場から動かずにその言葉を待つ。
すると。
〈すごーい、ラウエルのことばわかるのー?〉
くるるる、とサリエル独特の鳴き声を放ちながらも、再び頭の中に驚きを含んだ声が響いた。
……気のせいではない、このサリエルは人の言葉を発している。
〈ねーねー、あそぼーよ〉
ふわふわとカズキの周りに漂いながら、無邪気にそんな事を言ってくるサリエル。
その姿に微塵も敵意を感じられず、まるで子供のようだ。
「ち、ちょっと待って。君は……アラガミなんだろう?」
〈? あらがみって、なにー?〉
座り込み、ちょこんと首を傾げるサリエル。
「…………」
何だか、すっかり毒気を抜かれてしまった。
このサリエルは、どうも普通のアラガミではないようだ、捕喰対象であるはずの人間を前にしているというのに、先程からあそぼーあそぼーと無邪気に話しかけてくる。
アラガミには声帯が無いので、話すというよりはテレパシーに近いのかもしれないが。
「………はぁ」
どうかしてる、と自分でも思いながらも、カズキは敵であるアラガミの前で不用意に座り込み神機を地面に置く。
危険極まりないが、何故かこのサリエルに危険がないと感じたのだ。
〈ひなたぼっこするの? ラウエルもやるー!〉
カズキのすぐ隣に移動して、陽の光を浴び始めるサリエル。
「……ねぇ、自分の事をラウエルって言ってるけど、それは君の名前なの?」
〈そうだよ。自分でつけたんだー、えらい?〉
「ずっとここに住んでるの?」
〈んー……よくわかんない、ラウエルきづいたらここにいたから。ねーねー、それよりおなまえは?〉
「……カズキだよ。抗神カズキ」
〈かずき……かずきかぁ……〉
楽しそうにカズキの名前を連呼するサリエル……否、ラウエルにおもわず笑みを浮かべてしまう。
あきらかに普通ではないこの状況、疑問に思う事は多々あるが……今、それを考える余裕は無いようだ。
「――――っ」
遠くで僅かに聞こえた、何かの叫び声。
ゴッドイーターとして強化されている聴力で拾ったこの鳴き声は――ボルグ・カムラン!!
〈どうしたの?〉
どうやらラウエルにはこの声が聞こえないらしい、サリエル種は聴力があまり優れていないからだろう。
神機を持ち立ち上がり、カズキはすぐさま声が聞こえた方向へと駆け出した。
(調査隊は何をしてるんだ……この付近には、サリエルとザイゴートしか居ないって報告をしてたくせに)
言った所で今更だが、文句を言わずにはいられない。
他の仲間達が襲われている可能性がある以上、悠長にしている暇は――
〈そんなにいそいでどこいくのー?〉
「って、ついて来ちゃったの!?」
走るカズキの隣を飛行するラウエルに、おもわずそう叫ぶカズキ。
〈だってかずき、ラウエルをおいていっちゃうんだもん〉
不満の色を含んだ言葉に、おもわず脱力してしまいそうになる。
拙い、他の仲間の前にラウエルを見せれば間違いなく倒されてしまう。
そう思ったカズキは、すぐさまここから離れるように告げたのだが、ラウエルは聞く耳を持たずにカズキについていく。
そして――視界にボルグ・カムランを捉える場所まで来てしまった。
(二体も………!)
既に戦闘は始まっており、コウタ達が二体のボルグ・カムランと戦っている。
しかし、何故かアナグラに居るはずのアリサとリンドウまで居るのはどういう事か。
(今は加勢しないと……!)
思考を切り替え、駆け出そうと足に力を入れた瞬間。
〈じゃまー!!〉
くるる、と先程よりも大きく強い鳴き声を発しながら、ラウエルは額にある第三の目から四本のレーザーをボルグ・カムラン達へと撃ち放つ。
桃色の軌道を残しながら、それは迷わず命中する。
だが、威力が足りないのか堅い外皮の前に弾かれてしまった。
〈あれ?〉
「君は下がってて、僕達が倒すから!!」
〈がんばれかずきー!〉
ヒラヒラした両手を振って応援するラウエル。
それを背中越しで聞きながら、カズキは地を蹴り戦いの場へと赴いた。
それから程なくして。
さすがに6人がかりだったせいか、二体のボルグ・カムランを問題なく駆逐し、コアを摘出する。
そして―――
『カズキ、これは一体どういう事だ?』
カズキは、第一部隊の面々に揃って質問責めに遭っていた。
当たり前だ、目の前には呑気にふわふわと飛んでいるサリエルが居るのだから。
初めは全員がサリエル――ラウエルを倒そうとしたのだが、カズキが必死に止めたため事なきを得たものの、しっかりと説明を求められた。
「そ、そういえばリンドウさんとアリサちゃんはどうしてここに?」
「ボルグ・カムランが鉄塔エリアに近づいてるって情報が入ってな、応援に来たわけだ」
「というか、話を逸らさないでもらえますか?」
(別に逸らしたわけじゃないけど……)
とはいえ、早く説明しないと色々と問題がありそうだ。
特に、ソーマの視線がまるで射殺すように強い。
……とりあえず、カズキは簡潔に説明する。というか、彼自身このサリエルに対して疑問を抱いているのだ。
「……このサリエルの言葉が、わかる?」
「はい……」
「けど、オレ達はくるるるっていう鳴き声しか聞こえないけどなぁ……」
言いながら、じっとラウエルを見つめるコウタ、ラウエルも見慣れない人間が沢山居るからか、ちらちらと視線を忙しく動かしている。
「――けど、敵意がないのは本当みたいね。なんとなくだけどわたしにもわかるわ」
そう言って、サクヤは近づいてきたラウエルの頭を撫でると、嬉しそうにくるる、と鳴いた。
「不思議なもんだな、サカキのおっさんもオラクル細胞を持つアラガミは多岐多様な進化をすると言ってたが……これはちと特殊過ぎる」
報告したらおっさんも喜びそうだ、リンドウはどこか楽しげにそう言ってタバコを吹かす。
〈……くさい〉
煙を吸い込んだのか、しかめっ面になるラウエル。
「リンドウさん、この子が臭いって」
「ん? おお、悪い悪い」
すぐさまラウエルから離れタバコを吸うリンドウ。
「でも……この子、どうするんですか?」
アリサの言葉に、全員の視線がラウエルに向けられた。
「………おい」
そんな中、今まで沈黙していたソーマが、初めて口を開いた。
――神機を持ち、ラウエルに対し殺気を向けながら。
「……ソーマ、何をするつもりだ?」
「決まってるだろ、このアラガミを殺す」
「っ」
場の空気が鋭くなり、カズキはラウエルを守るようにソーマの前に立つ。
「テメェ、まさかそのアラガミを見逃すんじゃねえだろうな? 神機使いはアラガミを殺す為に存在しているんだ、それにそんな化け物を庇って何になる?」
「確かに、この子はアラガミだ。けど――」
「人は襲わない、そんなもの理由になるわけがないだろ。くだらねぇ甘さを、化け物に向けるんじゃねえ」
「ソーマ……」
彼の言葉に、カズキは何も反論する事ができなかった。
ソーマの言い分は正しい、神機使いはアラガミを討伐する為に存在している。
そしてアラガミは、人類にとって敵でしかない。
故に、ここでこのサリエルの命を奪う事は、間違いではないのだ。
――だが、それでも。
「――この子は、殺させない」
「っ、テメェ………!」
更に殺気立つソーマ、カズキも負けじと彼を睨み口を開く。
「この子は他のアラガミとは違う、ただ生きていたいだけなのに、殺される道理はないはずだ」
「………お前等も、このバカ野郎と同じ考えなのか?」
「それは……」
その問いには、上手く答えられない。
ソーマの言い分は正しい、だが……カズキの気持ちもわかる。
彼の優しさは汲み取ってあげたいし、それにこのアラガミは確かに普通のアラガミとは違う。
返答に困っているアリサ達だったが――
「ソーマ、お前の言い分はわかる。だが俺はカズキと同じ気持ちだぜ」
リンドウは、普段とは違う真剣な表情と口調で、そう言い放った。
「……テメェまで、このバカに同調すんのか?」
「バカじゃねえよカズキは。面白いじゃねえか、このアラガミは今までのアラガミとは違う。
生かしておいて、損はねえんじゃないか?」
「…………チッ」
憎しみすら込めた視線をカズキに向けた後、ソーマはその場から去っていった。
「…………」
〈? あのにんげん、すごくおこってた……〉
「……大丈夫だよ。それより……あまり人間の前に姿を現しちゃいけないよ。
僕達はゴッドイーター、アラガミを狩る側の人間だから、君が人間の前に姿を現せば別のゴッドイーターが君を討伐しようとやってくるからね」
〈う、うん……〉
カズキの言葉で少し恐くなったのか、身体を震わせるラウエル。
「とりあえず戻ろうぜ、な?」
いつもの飄々とした態度に戻ったリンドウは、顔を俯かせているカズキの肩に手を乗せ、言葉を掛ける。
「……ラウエル、ちゃんと約束守ってね?」
〈はーい、またねかずきー〉
ふわふわと飛行を始め、ラウエルは手を振りながら行ってしまった。
「何だか、不思議な体験をしたというか……」
「うん。まさかアラガミにあんなのが居るとは思わなかったな……」
「そうね。けど今は戻る事にしましょう、それとこの事はみんなには内緒よ?」
「というか、信じてくれないというか話せませんよ」
コウタの言葉に、それもそうねと苦笑混じりにサクヤは言葉を返す。
それじゃあ帰るとするか、リンドウの言葉に全員が頷きを返し、カズキ達は鉄塔エリアを後にする。
――そんな彼等を見つめる影に、気づかないまま。
To Be Continued...